『腐食の海、若葉の迷路』

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/3 📚 シリーズ: 『LUNARIS RE:CODE』 シーズン1 📝 3,571文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

星導国家ルナリスは、突如現れた「黒蝕の徒」とその総帥クロウリーによる奇襲を受け、一夜にして王都の機能を喪失する。 第一王女のエリカは、王城の崩落から逃れ、戦斧を振るう放浪の巨漢ガハハ・ナイト、王室直属騎士ナイトゥ、宮廷魔導師セリアと共に、黒蝕の軍勢を打倒する為の行軍を開始する。(現在編:2026年) それから5年後。黒蝕の瘴気に覆い尽くされたルナリスは、太陽の光が届かない灰色の廃墟と化していた。 右目と多くの仲間を失った22歳のエリカは、獣人の生き残りである狙撃手フェンリルと共に、反逆戦線アストライアのリーダーとして、無限に増殖する無人兵器や異形との終わりのない抗争を続けていた。(未来編:2031年)

本文

Aパート:2031年(5年後)

粘り気のある雨が、赤茶色に染まった大地を絶え間なく叩いていた。かつて、豊かな植物が独自の生態系を築いていた場所。現在、そこは「腐食の廃樹海」と呼ばれている。黒蝕の軍勢が建造した巨大な兵器工場群から、濾過されていない廃液と化学性の煙が流れ込み続けた結果だった。樹皮は剥がれ落ち、幹は炭のように黒ずんで石化している。大地を覆い尽くしているのは、稼働を停止した無人兵器の残骸や、巨大な歯車、折れ曲がった鉄骨の山だった。酸を含む雨滴がそれらに触れるたび、微かな音と共に白煙が上がる。防毒マスクを口元に装着したエリカは、泥に足を取られながら歩みを進めていた。彼女のブーツが水たまりを踏むたび、黒く濁った水が跳ねる。視界を遮るほどの濃い霧の中、彼女は左目だけで周囲の瓦礫をスキャンし続けていた。

「この区画の動力炉は、すべて沈黙している」

数メートル後ろを歩くフェンリルが、手元の小型端末の画面から目を離さずに言った。彼の狼の耳は、雨音以外の音を拾うために常に微かに動いている。

「使える駆動部品も見当たらない。黒蝕の回収部隊が、あらかた持ち去った後だ」

エリカはフェンリルの言葉に返答せず、歩みを止めた。彼女の視線の先、黒い泥の沼に、何かが半分だけ埋もれていた。エリカはゆっくりとしゃがみ込み、泥の中に右手を突っ込む。引き抜かれたそれは、本来の形状を失うほどに歪み、赤錆に覆い尽くされた『盾』だった。かつては表面にルナリス王家の紋章が刻まれていたはずだが、今は無数の傷と激しい腐食により、ただの重い鉄の塊にしか見えない。エリカはその盾の表面を、親指で静かになぞった。雨粒が盾に当たり、彼女の指先を伝って泥の中へ落ちていく。エリカの瞬きの回数が極端に減り、彼女の視線は数秒間、その鉄の塊に固定された。

「……長居は無用だ、姫」

フェンリルが二丁の銃のうちの一つのセーフティを外す、硬質な金属音を響かせた。

「その鉄屑に用があるなら、さっさと背嚢に括り付けろ。何かが来る」

フェンリルの言葉と同時だった。足元の大地が小刻みに揺れ始め、沼から大きな泡が浮き上がった。数十メートル先の鉄屑の山が、内側から弾け飛ぶ。立ち上がったのは、廃棄された重機のキャタピラと、黒く枯れた巨大な樹木の根が複雑に絡み合った異形――廃棄鉄獣スクラップ・コングだった。機体の一部から火花を散らしながら、赤い単眼の光をエリカたちへ向ける。

『……標的……排除……』

機械の不調を示す耳障りな音声が響き、巨獣が鋼鉄の腕を振り上げた。フェンリルが即座に両腕を交差させ、引き金を引いた。青白い魔力弾が五発、正確に怪物の頭部センサーへ向かって飛ぶ。しかし、魔力弾は分厚い鋼鉄と硬質化した樹皮に弾かれ、高い金属音を立てて霧の中へ消えた。

「装甲が厚すぎる。俺のブラスターじゃ貫通しない」

フェンリルがバックステップで距離を取る。エリカは、手にしていた錆びた盾を背中のベルトに無言で固定した。腰の鞘から、刃こぼれした長剣を抜き放つ。巨獣の振り下ろした巨大な腕が、エリカの立っていた場所の地面を粉砕した。泥と鉄片が雨の中を飛び散る。エリカは、その腕を足場にして跳躍していた。灰色の空を背に、彼女は剣を上段に構え、巨大な赤い単眼を見下ろした。眼帯のない左目だけが、氷のように冷たい光を放っていた。

Bパート:2026年(現在)

――世界は、眩しいほどの鮮やかな緑に覆われていた。

木漏れ日が、幾重にも重なる葉の隙間から細い光の束となって降り注いでいる。苔むした巨木の根が地表を這い、足元には未見の色彩を持つ花々が咲き乱れていた。

「あかん。また同じ景色に戻ってきたで」

エリカは長剣の柄で、傍らの巨木の幹を軽く叩いた。そこには、数十分前に彼女自身が刻んだ×印の傷がはっきりと残っている。

「……計算上は、北西へ直進していれば隣国の街道に出るはずなのですが。コンパスの針が定まらず、周囲の地形自体が変化しているように見受けられます」

ナイトゥが、手元の地図とコンパスを交互に見比べながら言った。彼の額からは汗が流れ落ちており、地図を持つ手が小刻みに揺れている。

「磁場の乱れと、魔力による空間の歪みです」

ナイトゥの背後から、セリアが分厚い魔導書のページをめくりながら言った。彼女の丸い眼鏡のレンズが、木漏れ日を反射して光る。

「この迷宮林『静寂の緑海』は、独自の生態系と魔法陣が組み合わさって迷宮の結界を構築しています。地図と方位磁針に頼る物理的アプローチは、現在十中八九、無意味です」

「……で、どうすればええの」

エリカが尋ねると、セリアは眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。

「現在、魔導書第十三巻の空間解析呪式を逆算中です。あと二時間ほど時間をいただければ、正解のルートを導き出せるかと」

「二時間もここで待つんか……」

「ガハハハハ!」

エリカの呟きを遮るように、空気を震わせる大声が響いた。ガハハ・ナイトだ。彼は、紫色の斑点がある不気味な形をした木の実を片手に持ち、そのまま皮ごと口に放り込んで咀嚼した。

「迷った時は、太陽の昇る方へ真っ直ぐ走ればいいんじゃ! 細かいことは気にするな若造!」

「だから、木が茂りすぎて太陽の位置がわからへん言うとるやろ」

エリカが即座に言葉を返す。

「あと、その木の実、どう見ても体に悪い色しとるで。セリア、あれ大丈夫なん?」

「……文献によれば、幻覚作用と内臓の激痛を引き起こす『マダラドクグミ』の特徴と完全に一致していますね」

セリアが本から目を離さずに答える。

「腹に入れば皆同じじゃ!」

ガハハ・ナイトは腹をさすり、もう一つの木の実をもぎ取った。その時、周囲の樹木が大きく揺れた。葉が擦れ合う音が大きくなり、地響きが足元を伝わってくる。

「エリカ様、セリア殿、私の後ろへ」

ナイトゥが地図を懐にしまい、腰の剣を抜き放った。彼の左腕には、王城の武具庫から持ち出したばかりの、銀色に輝く『月光の紋章盾』が構えられている。木々の奥から姿を現したのは、体高が三メートルを超える植物の巨獣『バル・ゴラス』だった。全身が太い蔦と苔で覆われ、頭頂部には巨大な赤い花を咲かせている。巨獣は二本の太い腕で自身の胸を激しく叩き、低い音を森に響かせた。

「森の主クラスの個体です。ここは私が食い止めます。エリカ様たちは後方へ」

ナイトゥは、一点の曇りもない銀の盾を正面に突き出し、右足を踏み出した。その瞬間。ナイトゥの足先が、苔に隠れていた極太の木の根に、完璧な角度で引っかかった。

「……ぶべっ」

ナイトゥの身体は前方のめりになり、そのままの勢いで顔面から泥のぬかるみへと突っ込んだ。カシャーン、と鈍い金属音が鳴り、彼が構えていた銀の盾が、泥水を勢いよく跳ね上げた。エリカの動きが止まる。セリアは魔導書のページをめくる手を止め、眼鏡の位置を直した。ガハハ・ナイトは木の実を咀嚼したまま静止した。突進の態勢に入っていたバル・ゴラスも、その場で動きを止めた。巨獣は、顔面を泥に突っ込んだまま痙攣しているナイトゥを見下ろし、頭部を傾けた。数秒の静寂の後。バル・ゴラスは、自らの腹部を両腕で抱え込み、地面を激しく転がり始めた。その口角は限界まで吊り上がり、喉の奥から空気が漏れるような、断続的な音を発し続けている。巨獣はひとしきり地面を叩きながら転げ回った後、エリカたちに背を向け、元来た森の奥へと歩き去っていった。

「……ガハハハハハハ! 素晴らしい転倒じゃ! 芸術点が高いぞ若造!」

ガハハ・ナイトが大声を出す。

「……勝てば、よかろうなのです」

ナイトゥが、泥まみれの顔を上げて立ち上がった。彼の両耳の先端が、はっきりと赤く染まっている。エリカは長剣を鞘に納め、歩み寄り、自身のポケットから白い布を取り出してナイトゥに差し出した。

「ナイトゥはほんまにドジやなぁ」

エリカの口角が上がる。

「でも、あんたが前に出てくれたから助かったわ。その盾がある限り、ウチは前を向ける」

ナイトゥは布を受け取らず、泥だらけになった銀の盾を、自身の袖で力強く磨き始めた。泥が落ち、再び銀色の表面が木漏れ日を反射する。

「はい。この盾に誓って、エリカ様をお守りします」

ナイトゥは、磨き上げた盾を胸の前に掲げた。彼らのやり取りを、高い樹上から見下ろす影が一つあった。薄汚れ、ひどく痩せ細った獣人族の少年。十一歳のフェンリルだ。彼は、黒蝕の徒から逃れてこの森に隠れ住んでいた。少年は音もなく木の枝に身を潜め、手にした粗末な短剣の柄を握りしめながら、輝く盾と銀髪の少女の姿を、その琥珀色の瞳に焼き付けていた。5年後、その輝く盾が赤錆に覆われ、絶望の象徴として彼女の手に渡ることになるなど、少年に知る由もない。ただ、木漏れ日の下で銀色の盾は眩しいほどの光を放っていた。

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爆裂疲れてる

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