第6章 見に行く
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
突如発表された「首都機能の出雲移転」。 日本中が混乱する中、それは遠いニュースのはずだった——地方の小さな町に暮らす遥にとっては。 しかし、カフェで働く日常の中に、少しずつ“変化”が入り込む。 移転関係者が現れ、人が動き出し、町の空気が変わっていく。 「選べる」という言葉に揺さぶられながらも、遥はまだ決断できずにいた。 やがて、周囲の人々が次々と出雲へ向かい、ついには店の店主・真琴までもが何も告げず去る。 残された遥は、初めて自分の意思で「行く」ことを選ぶ。 出雲で待っていたのは、“何もない場所”と、過酷な現実。 未完成の国家プロジェクトの最前線で、遥は肉体を削りながら現場に立つことになる。 そこで出会ったのは、過去の災害によってすべてを失い、「形に残すこと」に執着する現場責任者・真白。 彼女の背中に導かれるように、遥は“作る側”へと変わっていく。 しかしある日、現場事故が発生。 真白は他人を救い、その代わりに命を落とす。 悲劇の直後、それでも現場は止まらない。 「止めればすべてが止まる」という現実の中で、遥は問いを突きつけられる——逃げるのか、続けるのか。 そして遥は、再び立ち上がる。 真白の意志を引き継ぎ、自らが現場を回す側へと変わっていく。 一方その頃、東京でも静かに人材流出が進み、国家の重心そのものが移り始めていた。 これは、国家の転換点の物語であると同時に、 「選ばなかった人生」から「自分で選ぶ人生」へと踏み出す、一人の人間の物語である。
本文
※本作はAI生成を含みます。
朝は、少し早かった。まだ人も少ない時間。空気が冷たい。遥は、駅前に立っていた。自分でも、少し驚いている。来るつもりは、はっきり決めていなかった。気づいたら来ていた。
掲示板。あの貼り紙。昨日と同じ場所。同じ内容。
「出雲移転プロジェクト 人材募集」
変わらない。自分の見え方が違う。昨日より、現実に近い。
「……見るだけ」小さく言い聞かせる。決めるわけじゃない。応募するわけでもない。ただ、話を聞くだけ——それならいい。
少し先に、臨時の受付ができている。簡易な机。スタッフが数人。スーツ。忙しそうだ。すでに、数人並んでいる。意外と多い。
遥は少しだけ戸惑う。「……やめるか」一瞬よぎる。足は動かない。ここまで来た——それだけで、もう十分変わっている。
列に並ぶ。待つ。前の人たちの会話が少し聞こえる。「とりあえず話だけ」「条件次第かな」「面白そうだから」——理由は様々だ。共通している点がある。まだ決めていない。その状態。遥も同じだった。
順番が来る。「どうぞ」スタッフの声。遥は席に座る。少しだけ緊張する。
「ご関心ありがとうございます。簡単にご説明します」資料が出される。シンプルな紙。内容は具体的だ。「現地での開発補助、運営サポート。期間は未定ですが、長期を想定しています。住居支援あり。未経験可」
昨日見た言葉が、現実の説明になる。
「正直に言うと」スタッフが少しだけ声を落とす。「整っていない部分が多いです。かなり大変です」正直だった。飾らない。それが、逆に信頼できる。
「ただ——立ち上げに関われます。普通では経験できません」
遥は黙って聞く。現実。大変さ。未知。そして、少しの興味。
「ご質問はありますか」遥は少し考えてから言う。「……迷ってる人って、多いですか」少しズレた質問。本音だった。
スタッフは少しだけ笑う。「ほとんどです。決めて来てる人の方が少ないです」
胸の奥で、何かが緩んだ。迷っているのは、自分だけじゃない。
「ありがとうございます」それだけ言う。席を立つ。応募はしない。まだ。
外に出る。朝の空気が、少しだけ暖かくなっている。人も増えている。
遥はゆっくり歩く。足取りは、来た時より軽い。何かが決まったわけではない。一つだけ違う——〝関係ない話〟ではなくなった。自分の中で。それが、大きかった。
空を見る。同じ空。選択肢がある分だけ、少しだけ広く見える。