第7章 先に行く人
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
突如発表された「首都機能の出雲移転」。 日本中が混乱する中、それは遠いニュースのはずだった——地方の小さな町に暮らす遥にとっては。 しかし、カフェで働く日常の中に、少しずつ“変化”が入り込む。 移転関係者が現れ、人が動き出し、町の空気が変わっていく。 「選べる」という言葉に揺さぶられながらも、遥はまだ決断できずにいた。 やがて、周囲の人々が次々と出雲へ向かい、ついには店の店主・真琴までもが何も告げず去る。 残された遥は、初めて自分の意思で「行く」ことを選ぶ。 出雲で待っていたのは、“何もない場所”と、過酷な現実。 未完成の国家プロジェクトの最前線で、遥は肉体を削りながら現場に立つことになる。 そこで出会ったのは、過去の災害によってすべてを失い、「形に残すこと」に執着する現場責任者・真白。 彼女の背中に導かれるように、遥は“作る側”へと変わっていく。 しかしある日、現場事故が発生。 真白は他人を救い、その代わりに命を落とす。 悲劇の直後、それでも現場は止まらない。 「止めればすべてが止まる」という現実の中で、遥は問いを突きつけられる——逃げるのか、続けるのか。 そして遥は、再び立ち上がる。 真白の意志を引き継ぎ、自らが現場を回す側へと変わっていく。 一方その頃、東京でも静かに人材流出が進み、国家の重心そのものが移り始めていた。 これは、国家の転換点の物語であると同時に、 「選ばなかった人生」から「自分で選ぶ人生」へと踏み出す、一人の人間の物語である。
本文
※本作はAI生成を含みます。
昼過ぎ。カフェ《灯》。いつもの時間。席に、見慣れた顔がいる。常連の男。駅前の貼り紙の前で話したことがある人だ。
「こんにちは」遥が声をかける。男は顔を上げる。「ああ、この前の」覚えている。それだけで、少し距離が縮まる。
「コーヒー、お願いします」「はい」
準備をする。湯を沸かす。静かな音。男は、どこか落ち着かない様子だ。スマートフォンを見て、閉じて、また見る。
「どうかしました?」遥が聞く。男は少しだけ笑う。「いや」一拍。「決めました」
短い言葉。遥は一瞬止まる。「……出雲ですか」男は頷く。「行きます」迷いはない。その言い方だった。
コーヒーを淹れる手が、少しだけ遅れる。「すごいですね」遥が言う。本音だった。
男は首を振る。「勢いですよ。正直、怖いです」隠さない。「行かない方が後悔しそうで」
その言葉が、静かに刺さった。後悔——まだ起きていない未来。それでも、想像できる。
「なんで、そこまで」遥が聞く。男は少し考えてから言う。「変わるところにいたいんです。見てるだけじゃなくて、中にいたい」
真っ直ぐな言葉だった。遥は何も言えない。同じ言葉を、別の人からも聞いた——少し形を変えて。本質は同じだ。
「……いいですね」やっと出た言葉。男は少しだけ笑う。「分かりませんよ。失敗するかもしれないし」現実的だ。それでも行く。それが、決断だった。
コーヒーを受け取る。一口飲む。少しだけ、ほっとした顔。「これ、しばらく飲めなくなりますね」冗談のように言う。少し本気だ。
遥は軽く笑う。「向こうでも飲めますよ」「どうですかね」男は笑う。その笑いの奥に、少しだけ寂しさがある。ここを離れるということ——切り離すことでもある。
「いつ行くんですか」「来週です」
早い。想像より。「そんなにすぐ」
男は頷く。「もう始まってるんで」その言葉、重い。もう始まっている。ここでも。あちらでも。
「……頑張ってください」ありきたりな言葉。今はそれしかない。男は軽く頭を下げる。「ありがとうございます」
会計を済ませる。扉の前で、少しだけ止まる。振り返る。「もし来るなら——早い方がいいですよ。後になるほど、大変になる」
現実的な助言。経験ではない。予感だ。説得力がある。
「……考えます」遥が答える。男は頷く。出ていく。——チリン
音が鳴る。静けさが戻る。先に行く人——それを、目の前で見た。ただの話ではない。現実として。
「……行くのか」声に出た言葉は、自分に向けたものだった。もう、他人事ではない。ここから先は、自分の話だ。