エピローグ:静かな日常の底で
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
衛星でも解析不能な“霧”に覆われたジャングル。 その中心に眠る未確認ピラミッドには、古代ヌーラナ文明の“知識の起源”が封印されているという。 高校生にして言語解析の天才・アレンは、護衛の女性エージェント・セリナ、調査員ミラと共に、文明の謎を解き明かすため危険な調査に挑む。 だが、彼らを待ち受けていたのは、霧に潜む知的試練と、知識を奪おうとするライバルたちの影だった。 「霧は、知識を持たぬ者を拒む」 ――封印レリーフに刻まれた言葉の真意とは? 文明の核心に触れたとき、アレンの推理が世界の常識を覆す。 神秘と知性が交錯する、知的冒険ファンタジー開幕!
本文
放課後の校庭には、春の風が吹いていた。
部活動の掛け声、ボールの弾む音、笑い声。
どれもアレンにとっては懐かしく、そして少しだけ遠いものに感じられた。
「アレン、帰るわよ」
校門の前でセリナが待っていた。
制服姿の生徒たちの中に、彼女の存在は明らかに浮いている。
だが、誰も気に留めない。
彼女は“そういう人”として、すでに学校の周囲に馴染んでいた。
アレンは鞄を肩にかけ、セリナの隣に立った。
「うん。行こう」
二人は並んで歩き出す。
夕暮れの光が街を赤く染め、影が長く伸びていく。
信号待ちの間、アレンは鞄の中から石板を取り出した。
裏面の紋章が、街灯の光を受けて淡く浮かび上がる。
波紋のような模様。
海を思わせる曲線。
しかし、意味は依然としてわからない。
セリナがちらりと視線を向ける。
「また見てるのね」
「うん。……気になるんだ」
セリナはそれ以上何も言わなかった。
ただ、アレンの横顔を一瞬だけ見つめ、再び前を向いた。
家に着くと、アレンは自室に入り、机の上に石板を置いた。
窓から差し込む夕陽が、石板の表面を照らす。
アレンは椅子に座り、しばらくその紋章を見つめていた。
――ここは入口。
地下遺構で聞いた声が、ふと脳裏に蘇る。
あの装置は眠っただけ。
そして、あの言葉は確かにアレンに向けられていた。
スマホが震えた。
ミラからのメールだ。
――解析、まだ進まない。
――裏面の紋章、どうしても意味が掴めない。
――ただ……“水”に関係している可能性は高いと思う。
――また何かわかったら連絡する。
アレンはメールを読み終え、ゆっくりと息を吐いた。
「……水、か」
石板の紋章を指でなぞる。
波紋のような模様は、まるで何かを呼んでいるように見えた。
そのとき、窓の外から風が吹き込み、机の上のノートがぱらりとめくれた。
アレンは何気なくそのページを押さえたが――
ふと、胸の奥に小さなざわつきが生まれた。
霧のジャングルで感じた“入口”の気配。
装置が示した“続き”の存在。
レオンの残した沈黙。
ミラの言葉。
そして、この紋章。
すべてが、まだ終わっていないことを告げている。
アレンは立ち上がり、窓を開けた。
夕暮れの空は群青へと変わり、遠くで街の灯りが瞬いている。
「……また、何かが始まる」
その呟きは、夜風に溶けていった。