高皇産霊神外伝、外縁戦記 ZERO -YAMATO-

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📅 公開日: 2026/5/6 📚 シリーズ: 高皇産霊神外伝、外縁戦記 ZERO -YAMATO- 📝 8,338文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

高皇産霊神スピンオフ作品。 外縁独立機動部隊を支える大城雪夏が、『ヤマト』となるまでの成長譚。

本文

外縁戦記 ZERO -YAMATO-

「理想の士官候補生」

空は、灰色だった。

第三次世界大戦終結から半世紀。

世界は平和を取り戻したのではない。

ただ、戦争の形を変えただけだった。

放射能に汚染された旧地表を捨て、人類は上空数千メートルに新たな地上を築いた。

巨大な人工階層都市。上層は富裕層と中枢機関、下層は労働者と兵士。

そして最下層には、国家が目を背ける現実が沈んでいた。

貧困。犯罪。飢え。徴兵。

その全てを支えるために、軍があった。

日本本土北軍士官学校。

冷たい朝の訓練場に、号令が響く。

「全員、整列!」

百名を超える候補生たちが一斉に姿勢を正す。

その列の中央、ひときわ背筋の伸びた女がいた。

白髪のボブカット。

透き通るような肌。

赤い瞳。

大城雪夏、二十二歳。

後に“ヤマト”と呼ばれる女である。

「本日の模擬指揮演習、指揮官役は大城候補生」

教官の声に、周囲がざわつく。

「またかよ……」

「成績トップだからって贔屓だろ」

「女に指揮されるとか勘弁してくれ」

小声で漏れる嫉妬と侮蔑。

雪夏は一度も振り返らなかった。

ただ一歩前に出て、短く敬礼する。

「了解しました」

演習内容は単純だった。

敵部隊に包囲された輸送車両を救出し、制限時間内に拠点まで護衛する。

候補生たちは三個分隊に分かれ、模擬機動兵器へ搭乗する。

旧式訓練機八雲。

装甲は薄く、出力も低い。

だが操縦の基礎を叩き込むには十分だった。

雪夏は搭乗前、機体の脚部装甲を叩きながら整備兵へ尋ねる。

「右脚アクチュエータ、昨日異音がしていたな」

整備兵が目を丸くする。

「……気づいてたのか?」

「気づく。直ってるか?」

「応急処置だ。無茶はさせるな」

「了解した」

周囲の候補生たちは、そんな細かい確認などしない。

だが雪夏にとって、兵器とは“数字”ではなく“命を預ける相棒”だった。

演習開始。

雪夏の八雲が先頭へ出る。

「第一分隊、左高所へ。第二分隊、輸送車両を囲め。第三分隊は私と前進」

通信回線に戸惑いが走る。

「え、待て、教本では中央突破だろ?」

「教本通りなら敵も教本通り動く」

雪夏の声は冷静だった。

「敵役教官は性格が悪い。高所から撃ってくる」

数秒後。

丘陵上から模擬弾が雨のように降り注いだ。

「うわっ!」

「な、なんで分かった!?」

「黙って伏せろ!」

雪夏の八雲が盾代わりに前へ出る。

装甲へ弾着が続く。

「第一分隊、今だ。高所制圧」

「りょ、了解!」

候補生たちが慌てて動く。

わずか三分。

高所制圧、輸送車両確保、進路確保。

教本の倍以上の速度だった。

指揮所テント。

教官たちは無言だった。

一人が苦々しく呟く。

「……あの女、また最短解を選びやがった」

「惜しいのは性格だな。上官受けしない」

「従順さが足りん」

演習終了後。

候補生たちが汗まみれで機体から降りる中、雪夏だけは真っ先に輸送車両役のトラックへ向かった。

「運転手、怪我は?」

年配の軍属が苦笑する。

「演習だぞ」

「事故は演習でも起きる」

軍属は少し黙り、やがて笑った。

「……お前さん、本当に士官学校の人間か?」

「そう見えませんか」

「いや。珍しく“兵隊の目”をしてる」

その夜。

士官学校食堂。

候補生たちは酒保で買った安酒を回し飲みしながら騒いでいた。

「大城、今日もトップ様のお通りだ」

「赤目の化け物」

「その体で出世する気か?」

嘲笑。

女であること。

強すぎること。

媚びないこと。

理由はいくらでもあった。

雪夏は盆を持ったまま立ち止まり、男たちを見た。

「言いたいことはそれだけか」

「なんだと?」

「なら席を空けろ。飯が冷める」

一瞬の沈黙。

次の瞬間、椅子が飛んだ。

雪夏は半歩ずれて避ける。

相手の腕を取り、床へ叩きつける。

鈍い音。

二人目が殴りかかる。

肘で顎を打ち抜き、三人目の腹へ膝を入れる。

十秒もかからなかった。

食堂全体が静まり返る。

雪夏は乱れた制服を直し、盆を持ち直す。

「次は順番に来い。食事中に騒ぐな」

翌朝。

校長室。

重厚な机の向こうで、将官が葉巻をくゆらせていた。

「大城候補生。成績優秀、戦術眼も高い。だが問題も多い」

「承知しています」

「上官を立てろ。同期と馴染め。軍とは組織だ」

雪夏は黙って聞いていた。

将官は書類をめくる。

「このままなら中央参謀本部への推薦もあり得る」

それは士官候補生にとって最高の出世コースだった。

だが雪夏は、即答しなかった。

窓の外を見る。

下層居住区の煙。

配給列。

補修もされぬ住宅群。

そして徴兵募集の看板。

「質問してよろしいですか」

「許可する」

「軍は、誰のためにあるのですか」

将官の顔から笑みが消えた。

「……国家のためだ」

「国家とは、誰ですか」

沈黙。

室内の空気が凍る。

その日。

大城雪夏の名は、士官学校全体に広まった。

優秀だが危険。

使えるが、従わない。

そして数日後。

彼女の人生を変える辞令が届く。

北方沿岸部隊、実戦配属。

訓練校を飛び越えた、異例の前線送りだった。

雪夏は紙一枚を見つめ、静かに笑った。

「……ようやく、本物か」

その目には、恐れではなく。

燃えるような期待があった。

ーーー

「腐った軍」

海は黒かった。

油膜と煤煙に濁り、波間には錆びたコンテナと流木が浮かぶ。

かつて青かった海を、雪夏は知らない。

輸送艇の甲板に立ち、潮風を受けながら前方を見つめていた。

北方沿岸防衛基地――第七码頭守備隊。

本土北軍の外れに置かれた、補給線の中継基地。

公式には“要衝”。

現場では“墓場”と呼ばれていた。

「初任地がここたぁ、運がねえな」

隣で煙草を咥えた軍曹が笑う。

顔には古い裂傷。

義手の右腕。

疲れた目。

「志願兵か、候補生上がりか?」

「士官学校より配属です」

「……ああ、上から嫌われた口か」

軍曹は即答した。

雪夏は否定しなかった。

基地へ着くと、最初に鼻を突いたのは臭いだった。

油。汗。腐った食料。排水。

コンクリート壁はひび割れ、砲台の半数はシートが被せられたまま。

格納庫のシャッターは斜めに歪み、整備兵たちが蹴って開けていた。

「これが……要衝」

思わず漏れた声に、軍曹が肩をすくめる。

「報告書の中ではな」

着任手続きのため司令部棟へ入る。

室内だけは別世界だった。

空調。磨かれた床。香水の匂い。

将校たちは白い制服に勲章を並べ、分厚い肉を昼食に切り分けている。

外では兵士が乾パンを分け合っている時間だった。

受付士官が書類を一瞥する。

「大城雪夏少尉候補生……臨時少尉待遇。現場小隊指揮補佐」

「了解しました」

「君の宿舎は第三兵舎だ」

「兵員区画ですか?」

「当然だ。女将校用区画は満室だ」

後ろで笑い声が上がる。

雪夏は表情を変えない。

「理解しました」

第三兵舎。

薄暗い鉄骨造り。

二段ベッドが隙間なく並び、湿気と体臭がこもっている。

兵士たちは新入りの白い制服を見るなり顔をしかめた。

「またお飾りか」

「士官学校様が来たぞ」

「現場三日で泣いて帰る」

雪夏は荷物を置き、空いていたベッドに腰掛ける。

きしんだ。

「……耐荷重不足だな」

「は?」

「補強材が抜かれている。誰か売ったか」

兵士たちが黙る。

その沈黙だけで答えは十分だった。

翌日。

巡回任務。

雪夏は小隊に同行し、沿岸監視線を回った。

配備機は旧式機動兵器雷鳴三機。

本来なら四機編成のはずだった。

「一機足りない」

雪夏が言うと、小隊長が鼻で笑った。

「帳簿上は四機ある」

「実機は?」

「部品取りで死んだ」

「補充申請は」

「五回出した。返答は“現有戦力で対処せよ”」

小隊長の声には怒りすらなかった。

諦めだけが残っていた。

監視塔へ登る。

海の向こう、霞んだ水平線。

その先には他国の漁業船団、私掠船、武装商船。

いつ戦端が開いてもおかしくない海域だった。

雪夏は双眼鏡を下ろす。

「この戦力で守っているのか」

「守ってるんじゃない」

小隊長が言う。

「見捨てられてるだけだ」

夜。

兵舎食堂。

配給は薄いスープと硬いパン。

雪夏が席に着くと、向かいの若い兵士が囁いた。

「少尉殿、見ない方がいい」

「何をだ」

兵士の視線の先。

補給倉庫の裏口から、木箱が運び出されていた。

箱には弾薬と医療物資の印。

民間トラックへ積まれ、基地外へ消えていく。

「横流しか」

「声を出すな。消えるぞ」

兵士の手が震えていた。

その夜、雪夏は一人で倉庫へ向かった。

月明かりの中、帳簿室の窓をこじ開ける。

中へ侵入。

紙の匂い。埃。古い端末。

棚の記録簿を開く。

医療品、燃料、予備弾倉、脚部アクチュエータ。

受領済み。

だが現場には無い。

次々と数字が並ぶ。

差額。欠品。改ざん印。

「……露骨だな」

背後で銃声が鳴った。

窓ガラスが砕け散る。

雪夏は即座に伏せ、机を蹴って遮蔽を作る。

「誰だ!」

外から怒鳴り声。

「侵入者だ!撃て!」

二発、三発。

雪夏は机の脚を掴み、横倒しにして転がす。

その陰から窓際へ滑り込んだ。

外には警備兵が二人。

本来なら味方の制服。

だが照準は彼女へ向いていた。

雪夏は窓枠を蹴って飛び出す。

一人の銃身を逸らし、肘で喉を打つ。

もう一人の膝を蹴り抜き、銃を奪って地面へ叩きつけた。

十秒。

二人は沈黙した。

「何の騒ぎだ!」

増援が来る。

雪夏は逃げなかった。

記録簿を抱えたまま、堂々と立つ。

「ちょうどいい」

血のついた制服を整え、司令部棟を見上げる。

「上に話がある」

司令室。

守備隊司令、戸倉大佐。

肥えた体。金縁眼鏡。

指には高価な指輪。

雪夏を見るなり眉をひそめた。

「夜中に騒動とは何事だ、大城少尉」

雪夏は記録簿を机へ置いた。

「補給横流し、帳簿改ざん、兵站妨害。説明を」

室内が凍る。

副官が青ざめる。

戸倉は数秒黙り、やがて笑った。

「若いな」

「質問に答えていただきたい」

「現場を知らん」

大佐は椅子にもたれた。

「戦うには金がいる。金を回すには融通がいる。多少抜かなければ基地は回らん」

「兵士が飢えている」

「死んでいない」

「機体が足りない」

「まだ撃てる」

「医療品が無い」

「選別すればいい」

雪夏の赤い瞳が、初めて怒りに染まった。

「それを軍と呼ぶのですか」

戸倉の笑みが消える。

「貴様」

「兵を数字でしか見ない者に、指揮官を名乗る資格はない」

副官が叫ぶ。

「不敬だ!」

「黙れ」

戸倉が手を上げた。

しばし雪夏を見つめ、低く言う。

「……優秀だと聞いた。惜しい」

机上端末を操作する。

「明朝より、お前の小隊を外洋哨戒へ出す」

副官が目を見開く。

「しかしあの海域は——」

「海賊が出る。敵性船もいる。若い理想家には良い実地訓練だ」

雪夏は理解した。

処分だ。

死地への左遷。

だが彼女は一歩も引かなかった。

「了解しました」

「怖くないのか」

「怖いです」

雪夏は答える。

「だが、腐るよりはましだ」

翌朝。

波止場。

三機の旧式雷鳴が並ぶ。

錆び、傷だらけの装甲。

予備弾数も少ない。

小隊長が吐き捨てる。

「やってくれたな、少尉」

「申し訳ない」

「……いや」

男は苦笑した。

「久しぶりに見たよ。上官に正面から喧嘩売る馬鹿を」

搭乗ハッチが開く。

「死ぬなよ」

「そちらこそ」

海へ出る輸送艦の甲板で、雪夏は遠ざかる基地を見た。

壁の上では、戸倉大佐が双眼鏡でこちらを見下ろしていた。

雪夏は視線を返し、胸中で誓う。

(いつか必ず、ああいう連中を軍から叩き出す)

その時、警報が鳴った。

《敵性不明機影三、接近中》

全員が顔を上げる。

水平線の彼方に、黒い点が三つ。

哨戒任務は、始まったばかりだった。

ーーー

「最初の実戦」

海は、静かすぎた。

風が止み、波も低い。

それは嵐の前触れではない。

狩りの前の静寂だった。

《敵性不明機影三、接近中》

艦橋からの通報が通信回線を震わせる。

雪夏は《雷鳴》のコクピットで目を細めた。

モニターに映るのは三つの赤点。

速度、異常。

「……速いな」

通常の武装商船や海賊改造機の速度ではない。

「小隊、散開。三角陣形を取る」

雪夏の声が静かに響く。

「正面からは受けるな。敵は高機動機だ」

小隊長の声が返る。

「……見えたぞ」

水平線の向こう。

海面を滑るように接近してくる三機の影。

低く、鋭く、無駄がない。

旧式機ではない。

明らかに戦闘用に最適化された機体だった。

「敵機識別……」

センサー担当が息を呑む。

「識別不能……いや、違う、これは——」

通信が途切れた。

次の瞬間。

一機が消えた。

「来るぞ!」

雪夏が叫ぶ。

ほぼ同時に、

――ズンッ!!

衝撃。

小隊の三番機が吹き飛ぶ。

装甲が抉れ、火花が散る。

「うわあああ!!」

「被弾、右腕消失!操縦不能!」

見えなかった。

一瞬で接近し、撃ち、離脱。

それが何を意味するか、雪夏は即座に理解した。

「ブースター突撃型……近接奇襲機か」

つまり、速度で圧殺するタイプ。

「隊形維持!固まるな!」

だが恐怖は伝播する。

三番機が制御不能のまま旋回し、海面へ落ちていく。

――ドボンッ!!

水柱。

「一機ロスト……」

小隊長の声が低く沈む。

敵は、待たなかった。

二機目が再び加速する。

「来る——!」

雪夏はスロットルを全開にした。

《雷鳴》の古い駆動音が悲鳴を上げる。

推力が足りない。

だが、

「読める」

敵の動きは直線的だ。

速すぎるが故に、軌道は単純になる。

視界の端で、空気が歪む。

そこにいる。

雪夏は機体を半歩ずらす。

――ドンッ!!

衝撃がかすめる。

装甲が削れ、警告灯が点灯。

だが直撃は避けた。

「そこだ!」

反射的にトリガーを引く。

旧式機関砲が火を噴く。

弾道は荒い。

精度は低い。

だが敵機の離脱軌道に、偶然ではない“予測”が重なる。

一発。

命中。

敵機の左脚部から火花が散る。

「当たった……!?」

「やるじゃねえか、少尉!」

小隊長の声が少しだけ明るくなる。

だが敵は止まらない。

むしろ動きが変わった。

「……学習している?」

次の瞬間。

二機同時に加速。

左右から挟み込む軌道。

「来るぞ、二方向!」

「無理だ、防げねえ!」

雪夏の脳内で、時間が引き延ばされる。

ゾーンではない。

だが、思考が極端に研ぎ澄まされる。

敵は速い。

だがこちらは三機。

いや、二機。

だがまだ“面”を作れる。

「小隊長、私の後ろに入れ」

「は?」

「今すぐだ!」

一瞬の迷い。

だが小隊長は従った。

雪夏の《雷鳴》の後方へ滑り込む。

敵二機、同時突入。

雪夏はその瞬間、機体を停止させた。

ブレーキ。

逆噴射。

あり得ない挙動。

旧式機では致命的な判断。

だが敵は止まれない。

加速しすぎている。

一機が雪夏の横をかすめ、

もう一機が背後の小隊長機へ突っ込む。

その瞬間。

小隊長が撃つ。

ゼロ距離。

散弾が敵機のコクピットを叩き潰す。

「当たれええええ!!」

――バンッ!!

敵機、爆散。

残る一機。

それが、一瞬だけ止まった。

仲間の死を認識したのか。

それとも——

雪夏は迷わなかった。

「今だ、押し切る!」

スロットル全開。

旧式機の限界を超える振動。

脚部アクチュエータが軋む。

だが止まらない。

敵機が後退を選ぶ。

その瞬間。

雪夏は最後の弾を撃った。

一発。

それだけだった。

敵機の背部ブースターに命中。

推力が暴走する。

機体が制御を失い、海面へ突っ込む。

爆発。

炎と水柱が空を染める。

静寂。

再び海が戻る。

「……終わったのか」

小隊長の声が震える。

雪夏はゆっくりと呼吸を整えた。

「二機撃破、一機撃退……いや」

モニターを見る。

「全滅だ」

通信が入る。

《こちら輸送艦。敵機の反応消失を確認》

《……生きてるのか、お前ら》

小隊長が笑った。

疲れきった声で。

「少尉……お前、何者だ」

雪夏は答えなかった。

ただ、遠くの海を見つめる。

(これが、戦場)

教本にはない。

理屈だけでもない。

命と命がぶつかる場所。

そして理解する。

この戦いは、偶然勝っただけだと。

(次は、もっと来る)

帰投後。

格納庫。

整備兵たちが驚いた顔で迎える。

「……帰ってきたのか」

「しかも二機で」

「敵三機相手に?」

小隊長が肩をすくめる。

「こいつのおかげだ」

雪夏を見る。

整備兵たちの視線が変わる。

侮りから、評価へ。

だがその奥で、

一人の将校が冷たい目で見ていた。

副官。

戸倉の側近。

「……生き残ったか」

小さく呟く。

その目は、

次の手を考えている者の目だった。

雪夏は気づいていた。

この戦いは終わっていない。

敵は外だけではない。

ーーー

「見捨てられた部隊」

雨だった。

重く、冷たい雨が、基地全体を叩いていた。

錆びた鉄板に当たる音が、やけに大きく響く。

格納庫の中では、損傷した《雷鳴》の修理が続いていた。

焼け焦げた装甲。歪んだフレーム。

継ぎはぎのように貼られた補修材。

「……よく帰ってきたもんだ」

整備兵が溶接トーチを動かしながら呟く。

雪夏は無言でそれを見ていた。

(これで、また戦うのか)

修理とは名ばかり。

本来なら廃棄されるべき機体だ。

だがここでは、壊れても使うしかない。

その時、警報が鳴った。

《緊急通信、前線観測基地アルファより》

通信士の声が震える。

「……救援要請です」

司令室。

戸倉大佐は椅子に深く座り、報告を聞いていた。

「敵機動兵器、推定十機以上。防衛線突破、基地直撃の恐れあり」

副官が続ける。

「アルファ基地は軽装備。持ちこたえられても十五分です」

室内に沈黙が落ちる。

雪夏は一歩前に出た。

「出撃許可を」

戸倉は視線すら向けない。

「現戦力では無理だ」

「ですが——」

「聞こえなかったか?」

大佐はゆっくりと顔を上げた。

「無理だと言った」

雪夏の拳が、わずかに震える。

「アルファには何人いるのですか」

「二個小隊」

「三十名です」

「……そうだな」

戸倉は淡々と答える。

「だが、ここを空にするわけにはいかん」

「なら私の小隊だけでも——」

「許可しない」

即答だった。

「見捨てるのですか」

その一言で、空気が変わった。

副官が怒鳴る。

「言葉を選べ、少尉!」

だが雪夏は目を逸らさない。

「見捨てるのかと聞いています」

戸倉は数秒、雪夏を見つめた。

そして静かに言う。

「戦場ではな、全てを救うことはできん」

「……」

「どこを切り捨てるか、それが指揮官の仕事だ」

雪夏の中で、何かが決定的に折れた。

いや、折れたのではない。

切り替わった。

「……了解しました」

一礼する。

だがその声は、先ほどまでとは違っていた。

司令室を出ると、雨が強くなっていた。

格納庫へ向かう。

整備兵が顔を上げる。

「どうだった」

「出撃は許可されなかった」

沈黙。

小隊長が壁にもたれていた。

煙草を消しながら言う。

「そうだろうな」

「だが行く」

雪夏は即座に言った。

空気が止まる。

「……命令違反だぞ」

「承知している」

「軍法会議行きだ」

「それでも行く」

小隊長はしばらく黙っていた。

やがて、短く笑う。

「馬鹿だな、お前」

「よく言われます」

「……何機で行く」

雪夏は振り返る。

「二機で十分だ」

整備兵が叫ぶ。

「やめとけ!あっちは十機以上だぞ!」

「勝ちに行くわけではない」

雪夏は答える。

「時間を稼ぐ」

小隊長が立ち上がる。

「……俺も行く」

「命令ではない」

「知るか。勝手に乗る」

格納庫に動きが生まれる。

誰も止めない。

止められない。

《雷鳴》二機。

雨の中、起動。

エンジンが唸る。

通信が入る。

《こちらアルファ基地……持たない……繰り返す、持たない——》

ノイズ。

爆発音。

悲鳴。

「間に合うか」

小隊長が呟く。

雪夏はスロットルを握る。

「間に合わせる」

出撃。

雨を切り裂き、二機が飛ぶ。

前方。

火の柱。

アルファ基地が燃えている。

「敵影確認……八、九、いや十以上!」

敵機が基地を囲んでいた。

旧式機、混成。

だが数が多い。

「行くぞ!」

雪夏は迷わず突っ込んだ。

最初の敵機へ接近。

射撃。

命中。

一機撃破。

だがすぐに囲まれる。

「数が多い!」

「分かってる!」

敵弾が装甲を叩く。

警告灯が点滅。

アクチュエータが悲鳴を上げる。

その時。

基地の奥から信号弾が上がる。

赤。

「まだ生きてる!」

雪夏の声が鋭くなる。

「救出ルートを作る!」

二機で敵群へ突入。

無謀。

だが——

「うおおおおお!!」

小隊長が叫び、至近距離で敵機を撃ち抜く。

雪夏はその隙に突破。

基地中央へ。

生き残りの兵士たちが見える。

負傷者を引きずりながら、最後の抵抗をしていた。

「こちら救援!退路を確保する!」

雪夏が叫ぶ。

兵士たちの顔に、信じられないという表情が浮かぶ。

「本当に来たのか……?」

「黙って動け!走れ!」

脱出開始。

だが敵は止まらない。

背後から追撃。

「俺が抑える!」

小隊長が機体を反転させる。

「先に行け!」

「何を——」

「いいから行け!!」

一瞬の逡巡。

だが雪夏は決断する。

「……必ず戻る」

輸送トラックへ兵士を乗せる。

撤退開始。

背後で爆発音が連続する。

小隊長の機体が、敵群の中で戦っている。

通信。

ノイズ混じり。

《……悪くねえ戦いだった》

「生きて戻れ!」

《それは無理だな》

沈黙。

振り返る。

炎の中で、最後の一機が突撃する。

敵機を巻き込み、爆発。

雨が、全てを洗い流す。

撤退完了。

救出成功。

だが——

帰投後。

格納庫。

雪夏は無言で機体を降りた。

整備兵が何も言えずに立ち尽くす。

雪夏はただ一言、呟いた。

「……遅かった」

その目は、もう以前のものではなかった。

司令室。

報告を受けた戸倉は、静かに言った。

「……命令違反だな」

副官が笑う。

「処分できます」

戸倉は窓の外を見る。

雨の中、帰還した機体。

「いや」

その目が細くなる。

「使える駒は、簡単に捨てるものではない」

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作者について

紫陽花工房

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家事や仕事の間にAIに物語を書いてもらってます。 好きな花は紫陽花。 座右の銘、チャンスをもたらしてくれるものは冒険である 夢うつつな時に閃くものがネタだったりします(笑)

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