高皇産霊神外伝、外縁戦記 ZERO -YAMATO- 4
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あらすじ
「分岐点」空は、澄んでいた。皮肉なほどに。
本文
「分岐点」
空は、澄んでいた。
皮肉なほどに。
戦いの前ほど、世界は静かになる。
司令区画。
モニターに映るのは、新たな戦域。
沖縄外縁ライン、そのさらに外側。
「敵、三方向から侵入」
オペレーターが報告する。
赤い点が三つに分かれている。
「第一群、重装。正面突破型」
「第二群、高機動。側面展開」
「第三群……」
一瞬の間。
「補給部隊。後方に配置」
雪夏はその配置を見る。
(露骨だな)
だが——
(だからこそ、厄介だ)
ヤマトが腕を組んで立っている。
「どう見る」
短い問い。
雪夏は答える。
「三択に見せかけた罠です」
ヤマトの目がわずかに細くなる。
「続けろ」
「正面を叩けば側面に崩される」
「側面を抑えれば中央に押し切られる」
「補給を狙えば——」
少しだけ間を置く。
「全体に挟まれる」
沈黙。
鵺が楽しそうに笑う。
「いいじゃない」
ヤマトは頷く。
「その通りだ」
そして問う。
「どうする」
雪夏は、すぐには答えない。
モニターを見つめる。
三つの敵群。
それぞれに意味がある。
(全部守ることはできない)
それは、もう分かっている。
(なら——)
「切り捨てる」
静かに言う。
「どれを」
ヤマトの声。
雪夏は、迷わない。
「補給部隊」
空気が変わる。
鵺がわずかに目を細める。
「理由は」
「優先度が低い」
即答。
「戦場に直接影響しない」
「今この瞬間の勝敗には関係ない」
ヤマトは黙って聞いている。
「正面重装部隊を迎撃」
「同時に高機動部隊を誘導し、分断」
「二つを処理してから補給を叩く」
沈黙。
数秒。
ヤマトが口を開く。
「リスクは」
「補給部隊の離脱」
「または増援合流」
「その場合は」
「戦況が長引く」
ヤマトは、わずかに笑った。
「いい」
その一言で決まる。
「作戦はそれでいく」
雪夏は息を吐く。
だが、それは終わりではない。
「全機に通達」
声が、はっきりと変わっていた。
「今回は“守らない”」
通信の向こうで、わずかなざわめき。
「優先は敵戦力の破壊」
「補給部隊は後回し」
沈黙。
だが、誰も反論しない。
それが外縁だった。
出撃。
六機。
空へ。
敵が見える。
三方向。
「第一、正面接触」
「第二、側面誘導」
「第三、待機」
戦闘開始。
重装部隊が突っ込んでくる。
鈍重だが、火力が高い。
「来るぞ!」
砲撃。
空が揺れる。
雪夏は回避しながら、指示を飛ばす。
「側面、引きつけろ」
「深追いするな」
高機動部隊が動く。
予想通り、食いついてくる。
「いい……そのまま」
距離が開く。
敵が分断される。
(崩れる)
その瞬間。
「全機、中央へ!」
一気に収束。
孤立した重装部隊へ集中攻撃。
撃破。
一機、また一機と落ちる。
「次!」
振り返る。
高機動部隊。
だが——
「……?」
動きが違う。
逃げない。
むしろ——
「戻ってくる……?」
嫌な予感。
その時。
《後方より敵接近!》
通信。
「補給部隊が前進!」
雪夏の目が開かれる。
(囮……!)
最初から、補給部隊ではなかった。
“第三の戦力”だった。
挟まれる。
前後から。
(選択が、裏目に出た)
だが——
(ここで崩れるわけにはいかない)
「全機、再編!」
声が鋭くなる。
「正面を突破する!」
ヤマトの言葉がよぎる。
(決めたなら、迷うな)
「行くぞ!!」
六機が一方向へ集まる。
敵の火線。
突っ込む。
被弾。
警告音。
だが止まらない。
「抜ける!」
一点突破。
敵陣を突き抜ける。
包囲から脱出。
そのまま距離を取る。
敵は追ってこない。
戦線が切れる。
静寂。
「……生きてるか」
雪夏が確認する。
《全機、健在》
小さく息を吐く。
(失わなかった)
だが——
(勝ってはいない)
帰投。
格納庫。
ヤマトが待っている。
「報告は」
雪夏は答える。
「敵の意図を見誤りました」
「補給部隊は囮ではなく、主戦力の一部でした」
沈黙。
ヤマトは頷く。
「そうだな」
「だが」
一歩近づく。
「全滅はしなかった」
その評価は、変わらない。
「……次は」
雪夏は言う。
「見誤らない」
ヤマトはわずかに笑った。
「いい顔だ」
その一言が、静かに響く。
雪夏は空を見上げる。
澄んだ空。
だがその向こうにあるのは、終わらない戦場。
(分岐点は、越えた)
もう戻れない。
ただ、進むだけだ。
ーーー
「指揮官」
戦いは、途切れない。
沖縄外縁ライン。
その空は、もはや静寂を知らなかった。
三日連続の出撃。
補給は最低限。
整備は応急処置。
休息は数時間。
それでも——
部隊は動き続ける。
司令区画。
雪夏はモニターの前に立っていた。
(疲労……蓄積している)
各機の稼働率。
パイロットの反応速度。
整備の遅延。
すべてが、限界に近づいている。
「次の敵接近まで、推定四十分」
オペレーターの報告。
短い。
(回復には足りない)
ヤマトは壁際に立っている。
何も言わない。
(任せている)
それが分かる。
雪夏は決断する。
「全機、休息命令」
通信が開く。
「三十分間、強制休息」
ざわめき。
「その後、即応体制に移行」
鵺が小さく笑う。
「思い切ったわね」
「今戦えば、判断が鈍る」
雪夏は淡々と言う。
「それなら、一度止める」
ヤマトは何も言わない。
それが肯定だった。
時間が流れる。
三十分。
短い休息。
だが、確実に違う。
兵たちの目に、わずかな余裕が戻る。
(これも、指揮)
やがて——
《敵接近》
再び戦場へ。
出撃。
今回は、少数。
だが動きが違う。
「高機動……」
洗練されている。
(精鋭)
「全機、警戒」
戦闘開始。
敵は無駄がない。
連携。
誘導。
こちらの動きを読んでくる。
「厄介だな……」
雪夏はマップを見る。
(正面では削られる)
なら——
「分散するな」
指示を出す。
「密集陣形維持」
通常とは逆。
だが理由は明確。
(連携を崩す)
敵は“個別撃破”を狙っている。
ならば——
「まとまって動く」
敵が迷う。
予想外の動き。
そこに隙が生まれる。
「今だ」
一斉攻撃。
敵の一機が崩れる。
連携が乱れる。
「押せ!」
戦況が傾く。
だが——
一機が突出する。
「待て!」
間に合わない。
敵の反撃。
被弾。
「直撃——!」
機体が落ちる。
沈黙。
(また、失った)
だが、止まらない。
「残り、続けろ」
声が揺れない。
戦闘続行。
敵を撃破。
勝利。
だが——
完全ではない。
帰投。
格納庫。
沈んだ空気。
一人分の空白。
雪夏はそれを見る。
(避けられたか)
考える。
(別の指示なら)
だが——
「やめろ」
背後から声。
ヤマト。
「……」
「今のお前は、間違っていない」
その言葉に、わずかに驚く。
「だが」
一歩近づく。
「まだ“迷い”が残っている」
雪夏は目を閉じる。
(迷い……)
確かにある。
失うことへの恐れ。
それが判断に影響する。
「指揮官はな」
ヤマトの声が静かに響く。
「感情を捨てる必要はない」
「だが」
「引きずるな」
沈黙。
その言葉が、深く沈む。
雪夏はゆっくりと目を開ける。
(引きずらない)
(次に進む)
それが——
「指揮官」
口に出す。
ヤマトがわずかに笑う。
「そうだ」
鵺が横で呟く。
「なってきたわね」
雪夏は何も言わない。
ただ、前を見る。
戦場を。
仲間を。
そして——
自分の役割を。
(私は、戦うだけじゃない)
(勝たせる)
ーーー
「ヤマト」
夜だった。
だがその静けさは、戦場のそれではない。
嵐の前でも、戦闘の合間でもない——
“区切り”の静けさだった。
沖縄外縁機動部隊・司令区画。
照明は落とされ、モニターの光だけが浮かんでいる。
雪夏は一人、そこに立っていた。
(ここまで来た)
初めてここに立った日のことを思い出す。
迷い。
怒り。
違和感。
そして——
(選択)
その積み重ねが、今ここにある。
「来たか」
背後から声。
振り返る。
ヤマトが立っていた。
白髪。赤眼。
変わらない姿。
だが——
(違って見える)
「話がある」
短く言う。
雪夏は頷く。
「座れ」
向かい合う。
数秒の沈黙。
ヤマトが口を開く。
「お前は、もう“兵”ではない」
その言葉は、確認だった。
雪夏は何も言わない。
否定しない。
「指揮もできる」
「判断も早い」
「迷いも、制御できるようになってきた」
一つ一つ、淡々と並べる。
「だから——」
わずかな間。
「次に進む」
空気が変わる。
雪夏は静かに問う。
「何を、させる」
ヤマトは、まっすぐに見る。
「“役割”を与える」
その言葉の意味は、重い。
「この部隊はな」
ヤマトがゆっくりと立ち上がる。
「一人の人間で動いていない」
「象徴で動いている」
歩きながら続ける。
「恐怖でもなく、規律でもなく——」
「“信じるもの”で動いている」
雪夏は理解する。
(それが……ヤマト)
ヤマトという存在。
個人ではなく、概念。
「そしてそれは、一人では足りない」
振り返る。
「継ぐ者が必要だ」
沈黙。
雪夏の鼓動が、わずかに強くなる。
「……私に、それをやれと?」
ヤマトは即答する。
「そうだ」
その一言で、すべてが決まる。
だが——
「断る理由はあるか」
雪夏は考える。
短い時間。
(あるか)
責任。
重圧。
喪失。
すべて分かっている。
それでも。
「ない」
即答だった。
ヤマトは小さく笑う。
「いい」
その瞬間。
「今日からお前は——」
一歩、近づく。
「“ヤマト”だ」
時間が止まる。
その言葉が、静かに落ちる。
雪夏は動かない。
だが、拒絶もしない。
(ヤマト)
その名の重み。
その意味。
すべて、理解している。
「名前はただの記号だ」
ヤマトが言う。
「だが」
「意味を持たせれば、力になる」
「それを、お前がやる」
沈黙。
雪夏はゆっくりと息を吐く。
そして——
「了解した」
その声に、迷いはなかった。
その時。
「やっとね」
鵺が壁にもたれていた。
最初からいたかのように。
「長かったわね」
雪夏を見る。
「でも、まだ始まりよ」
雪夏は小さく頷く。
「分かっている」
ヤマト——旧ヤマトが振り返る。
「これでいい」
その言葉は、どこか軽かった。
役目を終えたように。
「後は任せる」
その一言。
だが、その重さは計り知れない。
雪夏は前に出る。
司令卓の中央へ。
モニターの光が、顔を照らす。
そこにいるのは、もう“個人”ではない。
「全機、待機状態を維持」
通信を開く。
声が、変わっていた。
「次の戦闘に備えろ」
その声を聞いた瞬間。
部隊全体が、わずかに反応する。
違和感ではない。
**“認識”**だった。
(これが……)
(ヤマト)
雪夏は空を見る。
夜が明け始めていた。
新しい一日。
新しい役割。
そして——
新しい自分。
(私は、ヤマトだ)
その確信が、完全に定まった。
その意思が、初めて完全に定まった。
ーーー
「継承」
夜明け前。
世界が最も静かになる時間。
沖縄外縁機動部隊——司令区画。
すべてのモニターが点灯している。
戦域情報、部隊配置、補給状況。
その中心に——
雪夏が立っていた。
もう迷いはない。
(私は、ヤマトだ)
その自覚が、完全に根付いている。
「全機、状況報告」
声が響く。
《第一小隊、異常なし》
《第二小隊、整備完了》
《第三小隊、出撃可能》
統制は完璧だった。
その時。
《敵大規模部隊接近》
オペレーターの声。
モニターに映る赤い点。
多い。
(最後の試験か)
雪夏は冷静に分析する。
重装部隊。
高機動部隊。
そして——
(指揮機が明確)
今までとは違う。
「全機、戦闘準備」
ヤマト——前任者は、後方に立っている。
何も言わない。
(完全に、任された)
雪夏は作戦を描く。
「正面迎撃は行わない」
「敵を引き込む」
モニターにラインが引かれる。
「山岳地帯へ誘導」
沖縄の地形。
高低差。
視界制限。
機動制限。
「そこで分断する」
鵺が静かに笑う。
「いいわね」
雪夏は続ける。
「第一小隊、陽動」
「第二小隊、迂回」
「第三小隊——」
一瞬の間。
「私が率いる」
誰も驚かない。
それが自然だった。
出撃。
空へ。
敵が迫る。
数は多い。
だが——
(問題ない)
「陽動、開始」
第一小隊が接触。
敵が動く。
「そのまま引け」
誘導。
山岳へ。
敵が追う。
(かかった)
「第二、展開」
側面から侵入。
敵の隊列が歪む。
「今だ」
第三小隊、突入。
雪夏が先頭。
谷間へ。
視界が狭まる。
敵が分断される。
「各個撃破」
戦闘が始まる。
至近距離。
機動戦。
撃つ。
当てる。
一機、撃破。
次。
連携が噛み合う。
部隊が一つの意思で動く。
(これが——)
(ヤマト)
敵が崩れる。
逃げ場がない。
次々と落ちる。
そして——
最後に残る一機。
指揮機。
雪夏はそれを見る。
(終わりだ)
照準。
引き金。
発射。
直撃。
爆発。
戦闘終了。
静寂。
帰投。
格納庫。
歓声はない。
だが——
全員が理解している。
「勝った」
それだけで十分だった。
雪夏は機体を降りる。
ヤマトが前に立っている。
しばらく無言。
そして——
「見事だ」
短く言う。
雪夏は答える。
「当然です」
その言葉に、ヤマトは笑う。
「そうか」
鵺が近づく。
「もう完全ね」
雪夏は何も言わない。
ただ、前を見る。
ヤマトは振り返る。
「これで終わりだ」
その言葉は、終わりを意味していなかった。
「ここからは——」
一瞬の間。
「お前の戦いだ」
沈黙。
雪夏は頷く。
「了解」
それだけだった。
ヤマトは去る。
もう振り返らない。
鵺もまた、静かに笑って背を向ける。
一人残る。
雪夏は空を見る。
朝日が昇っていた。
(終わりじゃない)
(始まりだ)
通信を開く。
「全機へ」
その声は、完全に変わっていた。
「次の任務を通達する」
それは——
新しい“ヤマト”の声だった。
外縁戦記 ZERO -YAMATO- 完結
そして物語は、本編へ——