第1話「音がバラバラな出会い」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
放課後の音楽室。まだ机の上には、ミオが使ったマイクが置かれたままだった。「……なんで逃げなかったんだろ」
本文
放課後の音楽室。
まだ机の上には、ミオが使ったマイクが置かれたままだった。
「……なんで逃げなかったんだろ」
天音ユウは、ドアの前で立ち尽くしていた。
普通なら関わらない。 関わる理由もない。
なのに――あの声が、頭から離れない。
『届けぇぇぇぇっ!!』
(……うるさかったのに)
心臓の奥が、少しだけ騒がしい。
そのとき。
ガラッ。
「おおー! ここが音楽室ですか!」
後ろから元気な声。
振り向くと、そこには朝比奈ミオが立っていた。
「えっ!? さっきの子!?」 「……」 「やっぱり見てたよね!? 絶対見てたよね!?」 「……別に」
ユウは視線を逸らす。
ミオは一瞬固まったあと、ぱぁっと笑った。
「ふーん! じゃあ運命だね!」 「……は?」
その瞬間、別の声。
「騒がしいな」
低く冷たい声。
教室の入口に、黒崎レイが立っていた。 ベースケースを肩にかけ、面倒そうにため息をつく。
「また変なの増えたのか」 「変なのってひどくない!?」 ミオが即ツッコミを入れる。
さらに――
「わぁ……ここが“バンドの部室”なんですね……!」
ふわっとした声とともに、白雪カノンが現れる。 お嬢様みたいな雰囲気で、目を輝かせている。
「ろっく……本物のロック……尊いです……」
「いや、まだバンドじゃない」 レイが即否定。
最後に――
ドタドタドタッ!
「すみません!! 遅れましたぁぁ!!」
勢いよく飛び込んできたのは夏川ソラ。 ドラムスティックを両手に持ち、汗だく。
「ここ、軽音部ですよね!? え!? もう始まってます!?」 「いや始まってない」
レイの声が冷たい。
ユウはその光景を、ただ見ていた。
(……なんだこれ)
バラバラ。
うるさい。
まとまりがない。
なのに。
なぜか――音が、聞こえる気がした。
「ねえ!」
ミオが手を叩いた。
「全員そろったしさ! バンドやろうよ!」 「は?」 「は?」 「え?」 「ええ!?」
一斉に声が重なる。
ユウだけが、小さく呟いた。
「……無理だろ」
ミオは真っ直ぐユウを見る。
「なんで?」 「……バラバラだ」 「うん、知ってる!」 「知ってるのかよ」 「でもさ!」
ミオは笑った。
「バラバラでも、音楽はできるよ!」
その言葉に。
一瞬だけ、音楽室が静かになった。
外では風が吹いて、桜の花びらが窓をかすめる。
レイが小さく舌打ちする。
「……くだらない」 「でも」 カノンがぽつりと言う。
「ちょっと、わくわくします」
ソラが手を挙げる。
「私、ドラムなら叩けます! 多分!」 「多分ってなんだよ」
ユウはギターケースを見た。
(また、始まるのか)
昔の記憶が、一瞬だけよぎる。
でも今は――
ミオが言った。
「ね、1回だけ合わせてみよ?」
沈黙。
そして――
ユウはゆっくりと、ギターケースに手をかけた。
「……1回だけだ」
その瞬間。
Shine Starsの“音”が、初めて動き出した。