第2話 「初めての“合わない音”」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/10 📚 シリーズ: 『Shine Stars』 📝 1,719文字 ✅ 全年齢

あらすじ

音楽室の空気は、まだ少しだけぎこちないままだった。窓の外では、夕方の光がじわじわと教室に沈んでいく。机の影が伸びて、楽器の輪郭だけが妙にくっきりしていた。「じゃあ……やるの?」

本文

音楽室の空気は、まだ少しだけぎこちないままだった。

窓の外では、夕方の光がじわじわと教室に沈んでいく。 机の影が伸びて、楽器の輪郭だけが妙にくっきりしていた。

「じゃあ……やるの?」

朝比奈ミオが、少しだけ声のトーンを落とす。 さっきまでの勢いが、ほんのわずかに弱まっていた。

「……1回だけだって言った」

天音ユウはギターケースを開ける。

金属の匂い。 弦の冷たい光。

その瞬間だけは、誰とも目を合わせない。

黒崎レイが壁にもたれたまま腕を組む。

「どうせ形にもならないだろ」 「最初からそんなこと言うなって!」

ミオが即座に反応する。

白雪カノンはキーボードの前で、そわそわしていた。

「ろ、ロックのセッション……初めてです……手が震えます……」 「震えてるのはいつもだろ」 レイのツッコミは容赦ない。

「えっと!! 私ドラムいきます!!」 夏川ソラがスティックを構える。

「カウントいきますよ!? いきますよ!?」 「早い早い」

ミオが笑いながら止める。

ユウは小さくため息をついた。

(……本当にできるのか、これ)

ミオが深呼吸する。

「じゃあ……いくよ!」

――トンッ。

軽いキーボードの音。

カノンの指が鍵盤を押す。

その直後。

ドンッ!!

ソラのドラムが入る。

「うわっ!? 音でかっ!?」

レイが思わず顔をしかめる。

そして――

ユウがギターを鳴らした。

ジャァァン。

一瞬だけ、空気が変わった。

(……)

ユウの指が止まりかける。

ズレている。

リズムが合っていない。

ミオの歌も、まだ探り探りだ。

「♪〜届けたいこの気持ちを〜」

音が、バラバラにぶつかる。

ドラムが走る。 キーボードが遅れる。 ベースはまだ入っていない。 ギターは迷っている。

「ちょ、ちょっと待って!!」 ソラが慌てて止まる。

「今どこ叩いてる!?私!!」 「知らないよ!!」 ミオも笑いながら叫ぶ。

「いやいやいや、全部ズレてる」 レイが冷静に言う。

「うぅ……ロックって難しいです……」 カノンが涙目になる。

音楽室に沈黙が落ちた。

ユウはギターを下ろす。

「……だから言っただろ」

ミオが唇を結ぶ。

でも、すぐに顔を上げた。

「でもさ!」

「まだ1回目じゃん!」

その声は、さっきよりも強かった。

「最初から上手くいくバンドなんてないって!」

レイが鼻で笑う。

「理想論だな」 「理想でもいいじゃん!」

ミオはレイをまっすぐ見る。

「やってみなきゃ分かんないでしょ!」

一瞬、空気が止まる。

ユウはそのやり取りを見ていた。

(……うるさい)

でも。

(……嫌じゃない)

そのとき。

カノンがぽつりと言った。

「でも……さっき一瞬だけ、合った気がしました」

「え?」 ミオが振り向く。

「ほんの一瞬だけ……音が重なった瞬間があって……」

ソラも頷く。

「私も! なんか“今の気持ちいい!”って思いました!」

レイは小さく舌打ちする。

「偶然だろ」 「偶然でもいいじゃん!」

ミオが即答する。

ユウはその会話を聞きながら、無意識にギターの弦に触れた。

(偶然、か)

でも――

さっきの一瞬だけは。

確かに、何かが揃った気がした。

ミオが手を叩く。

「じゃあさ! 作戦変更!」

「作戦?」 レイが眉をひそめる。

「そう!」

ミオは笑った。

「今日は“合わせる練習”じゃなくて――」

一拍置いて、言った。

「“バラバラのまま音を出す練習”にしよう!」

「意味が分からん」 レイが即答。

「分かんなくていいの!」

ミオはギターの方を向く。

「ユウちゃんも、好きに弾いていいよ」 「……は?」

「合わせなくていいから」

その言葉に、ユウは少しだけ固まる。

(合わせなくていい?)

今までずっと。

“合わせられない自分”を否定されてきた。

なのにこの子は。

「好きに弾いていい」って言った。

ユウはギターを見つめる。

沈黙。

そして――

小さく息を吐いた。

「……1回だけだぞ」

ミオがニッと笑う。

「うん!」

レイがため息をつきながらもベースを構える。

「どうなっても知らないからな」

カノンが鍵盤に手を置く。

ソラがスティックを握り直す。

「いきます!! 次は絶対ズレないように……!」

「それは無理だろ」 「ひどい!!」

ミオが大きく息を吸う。

「じゃあ――いくよ!!」

そして。

バラバラのまま。

もう一度、音が鳴り始めた。

でも今度は。

さっきより少しだけ。

“怖くなかった”。

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