平和を望むなら戦いに備えよ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔法文明と機械文明が両立する世界観になります。エーテルパンクというジャンルはあるそうですが、(資料が無かったので)不勉強なため、大いに作者の解釈で書いています。
本文
=1=
巨大な円形闘技場。
観客の歓声が空気を絶え間なく揺らすように轟いている。
空中に浮かぶ数値表示。
同期率:100%
出力制限:均等化
外部干渉:遮断済み
合成音声のアナウンスがコロシアムに響く。
「――本試合は完全公平環境下で行われます」
武舞台の上空に浮かぶ、観客席に座る全ての目に見えるサイズの巨大なモニター。
大写しになっているのは無表情の美青年と不敵な笑みを浮かべる無骨な男。
「東ゲート!『黒鋼の巨人』ハンザ選手——重量級の暴風が吹き荒れます!」
巨大な鉄塊が地鳴りと共に姿を現す。装甲板の継ぎ目からは青白いエーテル光が漏れ、全身に刻まれた回路模様が妖しく脈打っている。
「西ゲート!『影狩り』サイバ選手——軽量級の疾風が駆け抜けます」
対照的に細身の青年が軽やかに飛び出した。漆黒の義体スーツが月明かりのように鈍く輝き、右腕だけが純白の高密度エーテル装甲に覆われている。観客席から上がる女性ファンの黄色い悲鳴を無視し、サイバは無表情で対戦相手を見上げた。
『ファイト!!』
ゴングが爆音で打ち鳴らされた刹那――
ズドォン!!
ハンザの拳が轟音と共に武舞台を砕く。回避したサイバの残像さえ粉塵で消えた。観衆が息を呑む間間もなく、青年の影が巨躯の脇腹へ滑り込む。
「遅い」
鋭い蹴りが炸裂する――はずだった。
キン! 金属同士が噛み合う甲高い衝突音。
「機械の癖に、よく反応したな」
サイバが淡々と評価する。
ハンザは巨体を器用に回転させながら反撃。掌底が直撃――が、青年の身体は波紋のように歪み、衝撃が分散される。
「生体防壁……なるほど厄介だ。だが、どのくらい保つかな〜?」
ハンザの合成音声が唸った。
大振りだが一撃必殺のハンザと、回避優先の技巧派サイバ。火花が散り、武舞台が次々と抉れていく。均衡が崩れたのは第三ラウンド――
「ッ!?」
サイバの右膝が異音を立てて停止。左足一本で跳躍するも空中で捕捉され、背中から叩きつけられる。
ギシギシ……と機械骨格が悲鳴をあげた。観客席からどよめきが広がる。
「終いだ」ハンザの拳が降り注ごうとした瞬間――
―秘術行使(アペリオ)
サイバの瞳が蒼く閃光を放つ。
『回帰流動術式(レペア・ウェイブ)起動』
壊れた膝関節部に淡緑色の魔法陣が展開。亀裂が逆再生ビデオのように閉じていく。ハンザが困惑の悲鳴を上げた。
「!? f∇@¿¶! エーテル漬けの小細工師め……!」
続けてハンザは憤怒で顔を歪ませ、エーテル派を愚弄するFワードを叫ぶ。
叫び切る前に治癒は完了し、サイバの身体が跳ねると、逆手刀がロボットの冷却排気口を寸分違わず貫いた。
「終わりだ」
バシュッ!!過負荷で中枢センサーが焼け落ち、火花が散り遅れて黒煙を噴き出す。審判が勝負アリのサインを点灯させた。
『K.O! 勝者……サイバ選手!』
歓声の中、浮遊ドローンに載せられた、動かなくなった巨体が去っていく。武舞台から退場する敗者を背に、勝者を称えるどよめきが聞こえないかのように、静かに控え室への通路を歩き始めるサイバ。通路の壁際には深紅のローブのフードを目深に被った人物が壁を背にして立っていた。
「おつかれさまです。とても……冷徹な戦いぶりでした」
若々しく柔らかな声に機械特有の微振動が混じる。サイバは歩調を変えずに答えた。
「褒められた気がしないな」
フードの下で微笑んだのか、くすりと笑う気配。
「またいずれ。元老院のお偉方は、貴方をタイソウ持ち上げてらっしゃいます。ゆめゆめ油断なさらぬよう」
「フン……」
控え室の扉を開けると正面のソファに、少女人形のように愛らしい女性が座ってこちらに微笑みを投げかけていた。サイバの嗅覚センサは、テルペノイド類の有機化合物を検知する。控え室の空気は彼女の漂わせる花の香りに染めかえられていた。
「お帰りなさい、わたしのヒーロー」
「キュイ」
彼女と並んで行儀良く座っていた青い鱗の小竜が、彼女の発言に合わせて一鳴きした。生憎、人外の言語を翻訳する機能はサイバの聴覚には備わっていない。
「まさか例の『ムシノシラセ』とかいうやつか?」
招かれざる客人の不意の来訪を訝しみながら、テーブルの上のアイテムコンテナから小さな結晶瓶を取り出し、無造作に飲み干す。琥珀色の液体が喉を滑り落ち、微弱なプラズマが内部循環系を駆け巡る。
「そんなこと。純粋に素晴らしい試合を見せてくれたあなたを称賛しに来たのよ」
「しかしあんたの顔を見る時はいつも何かがある」
「網様体賦活系の誤作動よ。完全にランダムにピックアップすれば、誤差の範囲に収まると思うわ」
「どうだか」
気の置けない相手との他愛も無い会話が一区切りつくかつかないかという瞬間、
『緊急警報。西部第七区画に“因果異常体”出現。対処チーム速やかに召集せよ』
サイバの瞳孔が瞬時に拡張、連絡端末が緊急指令を受信した。義体が臨戦形態へ移行する。
「行くぞ」
「了解」
セレナがペンダント型の転送石を掲げる。青白い光の紋様が降りてくる。
「座標は——第七区画B地点!」
「キュィッ!」
ドラコが二人の肩に乗った瞬間、青白い光の柱が控え室を満たす。転送陣が彼らを吸い込み、そして消えた。
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