平和を望むなら戦いに備えよ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔法文明と機械文明が両立する世界観になります。エーテルパンクというジャンルはあるそうですが、(資料が無かったので)不勉強なため、大いに作者の解釈で書いています。
本文
=2=
「……認めたくはないが」
整備士・フォグが、運動中枢を修理されて動くようになった右腕の調子を見るように手のひらを裏返したり戻したりしながら語り出したハンザの顔を覗き見る。
「何をです?」
「あの若造が使った魔法だ。機械だけでは追いつかない速度で自己修復。我々の演算能力を超えていた」
フォグの腕が音もなく割れて、ハンザの腹部装甲を外すための工具が伸びる。
「まさか魔法至上主義に宗旨替えですか?」
「馬鹿を言うな!」
ハンザの関節から蒸気漏れの音。
「認めただけだ」
―
コロシアムの武舞台では次の試合が始まっていた。
合成音声のアナウンスが観客席を煽る。
「次の試合——ルーキー“レグリス”選手VS“未確認生物”!」
「未確認だと? 野生モンスター枠か」
「ひ、ひいいえ……!?」
―
金属の擦れる音が響く。溶接の火花が散り、焦げた匂いが嗅覚センサを擽る。フレキシブルアームが修理の終わった露出した回路群に特殊塗布材を噴射していく。
「やはりおかしい……」
巨人の低音が整備ルームの空気を震わせる。
手持ち無沙汰になったハンザは修理ベッドの上でセイバとの試合映像を見返していたのだ。
「ここだ。あいつの動きが『読めた』のに、カウンターが届かなかった」
フォグがケーブルを挿し直しながら応じる。
「センサー記録によれば、試合中、微弱なエーテル乱流が発生しているようです」
「乱流? そんなモノを操る技術は聞いたことがないぞ」
「それがおかしいんですよ」
フォグは三本目と四本目の腕で精密な単純作業を熟しながら首を捻ってみせた。
「空間自体が歪んでいました。まるで——」
―
白く霞がかった照明の中、一見16歳ほどの少年のように見える華奢なシルエットがリングに上がった。レグリスだ。
「負けないでよ……!」
観客席のレグリスそっくりの少女が祈るように両手を組み合わせ呟いた。
―
ハンザの修理はほとんど終わっていた。フォグは語り始める。
「“見えない敵”がいるらしいんです」
フォグの声には緊迫感が含まれた。
「先週、北部練兵場で訓練中の歩兵隊が突然消失。遺留品は武器と制服のみ。生存者によれば『人型の影』が軍服を着ていたそうです」
「影が……服を?」
ハンザの目が疑問符を浮かべる。そのとき、コンディショニングルームの外部スピーカーから放送が割り込んできた。
―
武舞台中央に滲むように現れたのは“黒い輪郭”だった。観客席がどよめく。
「なんだあれは?」
「見えない……のに威圧感だけある」
「おい、みんな何が見えているんだ!?」
リング上のレグリスだけが震えながら叫んだ。
「ウオオオッ!!」
空気が引き裂かれ、黒い影が鞭のように伸びた。
―
「何が起こった!?」
館内警報は緊急事態発生とだけ繰り返し喚いて要領を得ない。
「リングみたいです。兎に角急ぎましょう」
コロシアムの中央、武舞台の上では、レグリスが戦っていた。
何者かと。
ハンザは自分の視覚センサを疑った。光学。赤外線。電磁波。フェイズドアレイ。量子センサ。試しにソナーも打ってみるが、武舞台にいるのはレグリス一人というのがハンザの感覚が導き出す回答だった。
フォグが端末画面を向ける。そこには「調査中:生体属性不一致/エーテル濃度異常」と赤字が踊っていた。
「わからない……。でも、何か、居ます……!」
ハンザにも、空中で何かを蹴って蜻蛉返りするレグリスが、独り相撲を演じているとは思えない。そして、レグリスの様子を見るに、ヤツは劣勢らしい。武舞台の、レグリスの視線が睨む先、中心から丁度レグリスの距離と反対の位置で、武舞台の砂煙が舞い踊った。
戦士のカンで見当をつけ、右腕の電磁加速砲(リニアカノン)を展開する。
「何が起こるか」
砲門から眩い光芒が発射。
紫電を纏った弾体が黒影の“胸部”と思しき位置に命中?破裂音と共に影が千切れ飛び、周囲の空間が泡のように波立つ。
レグリスが気合と共に影の中心へ飛び込んだ。
「しゃあッ!」
レグリスの剣先から小さな火球が迸る。それが黒影に触れた瞬間——
炎と雷が共鳴し、影を構成する“虚”が剥がれた。露わになったのは、人型なのに明らかに内臓が逆さに配置された異形。観客から悲鳴が上がる。口から泡を吹いて気絶する者、狂乱して暴れる者もいる。
「何故……効いた?」
ハンザは感じられた手応えに釈然としない。
「オレは敵の形さえ知らなかったのに」
レグリスが喘ぎながら答える。
「魔法じゃなく……構造を否定する攻撃。あなたは空間を殴った」
「なるほど……『否定』か」
巨人は舌舐めずりして不敵に嗤い、両腕を十字に構える。
「ならば徹底的に否定してやる!!」
大地が轟き、コロシアム全体が震えた。次の瞬間——異形の胴体を巨拳が穿つ。霧散していく影の代わりに残ったのは、細かい“灰”だった。
《勝利!! ハンザ&レグリスコンビに特別表彰を贈ります!》
拍手喝采の中、ハンザは床に散らばった灰を拾い上げる。それは手の中でサラサラと溶け、最後に一枚の「歯車の欠片」が残った。
「整備士……これを解析してくれ」
フォグが深刻そうに頷く。
「やってみましょう。でもどうも——」
「なんだ……」
「この異形、“私たちに近い”感じがしませんか?」
沈黙。レグリスが遠くの空を睨みつけている。その瞳に映る疑念は、先程の影よりも濃い色をしていた。
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