7話(完) 偽りの天才ピアニストの身代わりはもうやめます。~私を暗闇から救い出したのは、至高のサックス奏者の執着愛でした~
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
従姉妹イザベラの「影」として、地下の防音室でピアノを弾き続けるエレーナ。 才能を搾取され、幽霊のように生きる彼女を見つけ出したのは、冷酷な天才サックス奏者、ギルバートだった。 嘘にまみれた華やかなステージ。その裏で、ギルバートはエレーナの指と魂を執拗に暴いていく。 今夜、偽りのミューズが堕ち、地下の幽霊が真実の愛に鳴り響く――。
本文
スポットライトが、扉から現れた一人の少女を捉えた。
何度も洗濯されて色あせたワンピースを着た、痩せっぽちのエレーナ。彼女は、あまりの光の眩しさに立ち尽くしていた。
「エレーナ、おいで」
ギルバートが、これ以上ないほど甘く、確かな響きで彼女を呼ぶ。
彼は、呆然自失として床に座り込んでいるイザベラなど見向きもせず、エレーナの元へ歩み寄り、その震える手を力強く握った。
「君を、本当の居場所へ。……世界で最も美しい音が、生まれるべき場所へ」
彼はエレーナを抱き上げるようにして、ステージ中央のスタインウェイへと導いた。
最初の一音。
――それは、先ほどの雑音をすべて洗い流すような、透明で、深い、祈りのようなブルー・ノートだった。
エレーナの指が舞う。
地下の三畳間で、たった一人のために磨き続けた才能。
搾取され、虐げられてきた苦しみさえも、彼女は今、至高の芸術へと昇華させていく。
ギルバートがサックスを構えた。
今度は隠れる必要も、遠慮する必要もない。
二人の音が、公衆の面前で激しく、そして情熱的に愛し合う。
演奏が終わったとき、会場には一瞬の沈黙の後、地鳴りのような喝采が巻き起こった。
ギルバートは、ピアノの前に座るエレーナを背後から抱きしめ、その項に深く顔を埋めた。
「聴いたか、エレーナ。……これが、君の力だ。もう誰の影になる必要もない」
「ギルバート、様……。私、生きていていいんですね。自分の音で……」
「生きるのではない。君はこれから、私の世界を支配するんだ」
ギルバートは彼女の指を一本一本、慈しむように噛み、そして囁いた。
「君を縛っていた負債も、親族も、すべて片付けた。……君の才能も、その指先の一振るいまでも、これからは私が独占する。……断る権利はないよ?」
エレーナは、涙に濡れた顔で微笑んだ。
それは、檻から放たれた小鳥が、より深く、より甘い「愛」という名の鳥籠を自ら選んだ瞬間だった。
青いライトに照らされたステージの上。
二人の共鳴は、夜の帳をどこまでも深く、美しく塗り替えていった。
作品統計
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