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第二十八話 星屑の部屋とおしゃべりな種

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📅 公開日: 2026/6/11 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 6,367文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。 そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。 アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第二十八話 星屑の部屋とおしゃべりな種

 その日、ノアは朝から少し忙しそうだった。

 いつもなら朝食のあと、紅茶を飲みながら新聞のようなものに目を通し、「今日の天気は少し反抗期だね」などと意味の分からないことを言うのに、その日は食事を終えるとすぐに白い上着を羽織った。

 胸元には、蔦と薔薇の金刺繍。

 髪はいつもよりきちんと整えられていて、白い兎耳もぴんと立っている。

 ハートの女王の側近としての、白兎の顔だった。

「今日は一日、外で仕事があるんだ」

 ノアは玄関先でそう言った。

「アリスは家で過ごしていて」

「はい」

 アリスが頷くと、ノアは少し言葉を止めた。

 それから、いつもより柔らかい声で付け足す。

「でも、家の周りなら自由に出ていいよ。畑でも庭でも。ただ、森の奥へは行かないこと。知らない扉も開けないこと。喋るキノコには返事をしないこと」

「最後のは何故ですか?」

「調子に乗るから」

 ノアは真面目な顔で言った。

 アリスは思わず笑ってしまう。

 以前なら、ノアはもっと曖昧にアリスを家へ閉じ込めていた。

 けれど今は違う。

 ノアは、アリスを信じようとしている。

 その変化が、アリスには分かった。

「分かりました。森の奥には行きません。知らない扉も開けません。喋るキノコにも返事をしません」

「良い子だね」

「また子ども扱い」

ノアは当たり前みたいに、ぽんとアリスの頭を撫でた。

「若い子は、用心しすぎるくらいがちょうどいいんだよ」

「ノアは時々、おじい様よりおじい様です…」

「それは光栄だ」

 ノアはいつものように、砂糖を溶かしたような笑顔を浮かべる。

 けれど出かける直前、ほんの少しだけアリスを見つめた。

 心配している目だった。

 アリスは胸元の薔薇のペンダントに触れ、微笑んでみせる。

「大丈夫です。ちゃんと待っています」

 ノアの表情が、少しだけほどけた。

「うん。行ってくる」

「いってらっしゃい」

 扉が閉まる。

 白い背中が小道の向こうへ消えていくまで、アリスは窓辺から見送っていた。

 ノアの姿が見えなくなると、家の中は急に静かになった。

 さっきまでそこにいた人の気配が、薄い紅茶の香りみたいに、まだ部屋のあちこちに残っている。

 椅子の背にかけられた布。

 少しだけずれたカップの位置。

 玄関先に落ちた、白い兎耳の影の名残。

 それを見ていると、胸の奥が小さく疼いた。

 アリスはそっと、自分の胸に手を当てる。

 前までなら、きっとこんなふうには思わなかった。

 ノアがいないと静かだ。

 ノアがいないと広い。

 ノアがいないと、少しだけ寂しい。

 それは、ただ守ってくれる人がそばにいない心細さとは違っていた。

 目が合うと胸が跳ねる。

 優しくされると嬉しい。

 けれど、子どもみたいに頭を撫でられると、胸が痛い。

 もう、はっきり気づいてしまった。

 アリスは、ノアが好きなのだ。

 そう思うだけで、胸の奥に小さな灯りがともる。

 けれど同時に、ノアの綺麗な笑顔も思い出してしまう。

 ここから先には来てはいけないと、優しさで線を引くような笑顔。

 アリスは窓の外を見つめたまま、小さく息を吐いた。

「……おじい様よりおじい様、なんて言わなければよかったかな」

 呟いてから、自分で少しだけ困ったように笑う。

 けれど、きっとそういうことではないのだ。

 ノアにとっての自分は、六歳のアリスのまま。

 ひとりの女性として、同じ高さで見ているわけではない。

 そう思うと胸の奥が痛んだ。

 でも、納得もしてしまう。

 ノアは、不思議の国の住人〈白兎〉

 アリスは、別世界から来た〈薔薇の鍵〉

 勘違いさせないように、ノアが一線を引くのは、きっと当然なのだと思う。

 分かっている。

 分かっている、けど…。

 好きだと気づいたばかりの気持ちは、どこにも行けずに、胸の奥で小さく疼いていた。

 アリスは袖をまくった。

 くよくよしてもキリがない。

 まずは掃除しよう。

 床を掃き、食器を片づけ、窓辺の埃を払う。

 ノアの家は不思議なものでいっぱいだけれど、暮らす家としてはきちんと整っている。

 棚の上には小さな兎の置物が並び、食器棚の中の皿は色ごとに揃えられていた。

 少し几帳面すぎるくらいだ。

 アリスは布巾で食卓を拭きながら、ふと笑った。

 ノアは飄々としているのに、こういうところは妙にまじめだ。

 洗濯物を干し終える頃には、空は淡い水色に晴れていた。

 ワンダラーの風は、普通の風より少し甘い。

 花の匂いと、焼き菓子の匂いと、雨上がりの石畳の匂いが混ざっている。

 アリスは籠を片づけると、外へ出た。

 小さな畑には、ムラサキねむりかぶが丸い葉を揺らしていた。

 アリスが近づくと、一斉にふぁ、と欠伸をする。

「つられませんからね」

 アリスが言うと、かぶたちは少し不満そうに葉を揺らした。

 家の裏へ回る。

 そこには、かつて花たちが咲いていた場所があった。

 赤い花。

 黄色い花。

 青い花。

 うるさくて、お喋りで、噂好きで、ノアのことを腹黒うさぎと呼んでいた花たち。

 今そこにあるのは、ただの土だった。

 柔らかくならされた、黒い土。

 花は一本もない。

 あれほど騒がしかった場所が、息をひそめたみたいに静まり返っている。

 アリスはその場にしゃがみ込んだ。

 指先で土に触れる。

 少し湿っている。

 ちゃんと手入れされている土だった。

 それが、かえってノアらしかった。

 消してしまったように見えても、放っておくことはしない。

 遠ざける。

 隠す。

 でも、見えないところで手入れはする。

 まるで、アリスに対するノアみたいだと思った。

 大切にしてくれる。

 けれど、いちばん近い場所には触れさせてくれない。

 アリスは土の上に置いた指先を、少しだけ丸めた。

 もしも、あの笑顔の奥へ踏み込んだら、ノアは一体どんな顔をするのかな…。

 アリスは立ち上がり、家へ戻った。

 すると、珍しく廊下の奥の扉が少し開いていることに気づいた。

 ノアの部屋だった。

 普段、その扉は閉まっている。

 鍵がかかっているわけではない。

 けれど、アリスも勝手に入ろうとはしなかった。

 今日は、扉が細く開いている。

 隙間から、淡い青い光が漏れていた。

「……ノア?」

 もちろん返事はない。

 アリスは少し迷った。

 勝手に入ってはいけない。

 そう思って踵を返そうとした時、床の上に小さなものが落ちているのが見えた。

 丸い粒。

 種のようだった。

 ひとつ。

 その少し先に、もうひとつ。

 さらに奥へ、ぽつりぽつりと続いている。

 アリスはしゃがみ、最初の種を拾った。

 その瞬間。

「ちょっと! やっと気づいたのね!」

「遅いわよ!」

「早く拾ってちょうだい!」

「花ネズミが来てしまう前に!」

 種が喋った。

 聞き覚えのある声だった。

 赤い花。

 黄色い花。

 青い花。

 あの騒がしい花たちの声だ。

「あなたたち……!」

 アリスは思わず声を上げた。

「種になっていたの?」

「見れば分かるでしょ!」

「乙女がこんな丸裸の姿にされているのよ!」

「種だけどね!」

「早く拾って!」

「花ネズミが来るわ!」

「花ネズミ?」

 アリスが聞き返した瞬間、ノアの部屋の奥から、ガサガサッと音がした。

 アリスの背筋が伸びる。

 何かがいる。

 種たちが一斉に叫んだ。

「来た!」

「来たわ!」

「早く!」

 アリスは慌てて床に落ちた種を拾い集めた。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 エプロンのポケットへ入れていくたび、種たちは口々に文句を言う。

「もっと丁寧に!」

「押さないで!」

「今、私を下にしたでしょう!」

「種にも品格ってものがあるのよ!」

「静かにしてください、見つかります!」

「もう見つかってるわよ!」

 その言葉と同時に、ノアの部屋の中から、またガサガサガサッと大きな音がした。

 アリスは恐る恐る、扉を押し開けた。

 そして息を呑んだ。

 ノアの部屋は、家の他のどの部屋とも違っていた。

 まるで、夜空をそのまま閉じ込めたような部屋だった。

 壁は深い紺色。

 けれど暗いわけではない。

 壁のあちこちに、クリスタルのような石がはめ込まれていて、淡い青や銀の光を受けてきらきらと輝いている。

 小さな星屑が、壁の中で瞬いているみたいだった。

 天井には、細い銀の線で星座のような模様が描かれている。

 よく見ると、それは普通の星座ではなく、扉や鍵、兎、薔薇の形をしていた。

 窓辺には薄い月色のカーテン。

 ベッドは透明なクリスタルでできていて、光を受けるたびに水面のように揺らめいて見える。

 そこに掛けられた布団は、絹のように柔らかな白。

 枕元には、小さな銀色の灯りが置かれていた。

 おしゃれで、静かで、美しい。

 台所のにんじん柄エプロンのノアとは、まるで別人の部屋だった。

 けれど考えてみれば、これもノアなのかもしれない。

 甘くて、柔らかくて、少し年寄りくさくて、でも本当は夜と星と扉を抱えている白兎。

 アリスは一瞬、見惚れてしまった。

 その時、ベッドの下から何か黒いものが飛び出してきた。

「きゃっ!」

 小さな生き物だった。

 ネズミにも見えるし、リスにも見える。

 身体は丸く、黒い毛はつやつやしている。

 耳は花びらのように薄く、尻尾はふさふさ。

 目は小さな黒曜石みたいにきらりと光っていた。

 その生き物は、口いっぱいに種を詰め込んでいた。

 頬袋がぱんぱんに膨らんでいる。

「花ネズミ!」

 エプロンのポケットの中で、種たちが悲鳴を上げた。

「大変!」

「種を溜め込んでるわ!」

「私の妹がいる!」

「私の従姉妹も!」

「家系図が崩れる!」

「それは大変なの……?」

 アリスが思わず返すより早く、花ネズミは床を走り出した。

 素早い。

 予想以上に素早い。

 ベッドの下を抜け、棚の影へ入り、カーテンを駆け上がり、そこから机へ飛び移る。

 頬袋をぱんぱんにしたまま、ふんふんと得意げに鼻を鳴らしていた。

「待って!」

 アリスは追いかけた。

 花ネズミは机の上を走り回り、ペン立てを倒しそうになる。

「だめ、それノアのもの!」

 アリスが手を伸ばすと、花ネズミはぴょんと跳ねて戸棚の上へ逃げた。

 戸棚がぐらりと揺れ、中から小瓶がいくつか転がり落ちそうになる。

「危ない!」

 アリスは慌てて受け止めた。

 その隙に、花ネズミはまたベッドの方へ走る。

 エプロンのポケットの中から、種たちが指示を飛ばす。

「右よ!」

「違う、左!」

「下から回り込んで!」

「甘いわ! 花ネズミは斜めに逃げるのよ!」

「斜めってどこですか!」

 アリスは息を切らしながら問い返した。

 部屋は美しいのに、今や小さな大騒ぎの舞台だった。

 クリスタルのベッドの周りをぐるぐる回り、星屑の壁の前を駆け抜け、月色のカーテンがばさばさ揺れる。

 花ネズミは最後に、ベッドの下へ潜り込もうとした。

 その瞬間、アリスは布団をふわりと持ち上げ、逃げ道を塞いだ。

「今!」

 種たちが叫ぶ。

 アリスは両手を伸ばし、花ネズミをそっと捕まえた。

「つかまえた……!」

 花ネズミはバタバタ暴れた。

 けれど小さい。

 アリスはできるだけ優しく、でも逃がさないように抱え込む。

「ごめんね。種を返して」

 花ネズミは頬をぱんぱんにしたまま、ぷいっと横を向いた。

「返しなさい!」

「種泥棒!」

「頬袋の中で窒息するわ!」

「種だから窒息しないわよ!」

「でも気分が悪いの!」

 アリスは困りながら、花ネズミの鼻先を指でそっと撫でた。

「返してくれたら、あとでムラサキねむりかぶの葉をあげます」

 花ネズミの耳がぴくりと動いた。

「ふぁあ、って上品にあくびをする」

 さらにぴくり。

「新鮮なものを」

 花ネズミは少し考えたあと、口を開けた。

 ぽろぽろぽろ。

 大量の種がアリスの手のひらにこぼれ落ちる。

 思ったより多い。

 いったいどれだけ溜め込んでいたのだろう。

「私!」

「私も!」

「生きてる!」

「頬袋くさかった!」

「失礼なネズミね!」

 種たちは一斉に騒ぎ出した。

 アリスはほっと息を吐いた。

「みんな、無事でよかった……」

「感動してる場合じゃないわ!」

「早く瓶へ!」

「じゃなきゃ別の花ネズミが寄ってくる!」

「花ネズミは一匹見たら十二匹いると思いなさい!」

 アリスは慌てて床へ視線を走らせた。

 床に、小さなガラス瓶が転がっていた。

 蓋は外れている。

 きっとこの中に、花たちの種が入っていたのだ。

 アリスは急いで種たちを瓶の中へ戻した。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 騒がしい声が瓶の中へ入っていく。

「丁寧に!」

「押さないで!」

「私を上にして!」

「赤が上よ!」

「黄色が太陽に近いべきよ!」

「瓶の中で身分争いしないでください!」

 アリスは思わずそう注意した。

 すべての種を入れ終えると、アリスは急いで蓋を閉めた。

 きゅっと音がする。

 その瞬間、部屋の中のざわざわした気配が少し落ち着いた。

 花ネズミは興味をなくしたように鼻を鳴らし、アリスの手からぴょんと飛び降りた。

 そして開いていた窓の隙間から外へ飛び出していく。

「あ、約束の葉っぱ……!」

 アリスが声をかけると、花ネズミは窓枠の上で一度振り向き、ふん、と鼻を鳴らした。

 まるで「後で取りに来る」と言っているようだった。

 そのまま、黒い小さな影は庭の方へ消えていった。

 アリスは床に座り込んだ。

 疲れた。

 とても疲れた。

 ノアの部屋の中は、少しだけ乱れている。

 ペン立ては倒れ、カーテンは曲がり、布団もずれていた。

 あとで直さなければ。

 そう思いながら、アリスは瓶を両手で包んだ。

 瓶の中から、花たちの声がくぐもって聞こえる。

「もう、ひどい目に遭ったわ」

「でも助かったわね」

「アリス、少しはやるじゃない」

「少しどころか、だいぶ助けたと思うのですが」

 アリスが少し不満そうに答えると、瓶の中で花たちが一斉に騒いだ。

「褒めてるのよ!」

「分かりにくいです」

 アリスは小さく笑った。

 嬉しかった。

 花たちは生きていた。

 ノアは、花たちを消してしまったわけではなかった。

 あの時、アリスの居場所がばれないように。

 アリスがアリスだと知っている花たちが、誰かに話してしまわないように。

 きっと、こうして種に戻したのだ。

 勝手な方法だ。

 花たちからしたら迷惑極まりないだろう。

 でも、消してはいなかった。

 隠していた。

 守ろうとしていた。

 ノアらしい。

 どうしようもなく、怖くて、不器用で、優しい。

 アリスは瓶を胸に抱いた。

「よかった……」

 心の中に落ちていた影が、少しだけ薄くなる。

 ノアの知らなかったことをひとつ知るたび、怖さの奥に隠れていた理由が見えてくる。

 星屑のように輝くノアの部屋で、アリスは瓶を抱えたまま静かに座っていた。

 夜を詰め込んだような美しい部屋。

 その中に隠されていた、おしゃべりな種たち。

 アリスは思った。

 この部屋は、ノアの心に少し似ている。

 美しくて、静かで、奥にたくさんの秘密がある。

 外から見えるのは、整えられた机や、星屑みたいな壁や、月色のカーテンだけ。

 甘く笑って、何でもないふりをする白兎の顔と同じだ。

 けれど、その奥には、こんなにも騒がしくて、放っておけなくて、どうしようもなく生きているものが隠れている。

「……ノア」

 気付くと口から名前が溢れていた。

 好きになったから、全部を知りたいわけではない。

 好きになったから、何もかも許せるわけでもない。

 でも、好きになってしまったからこそ、ノアがひとりで抱えているものに、どうしようもないほど触れたいと思ってしまう。

 瓶の中で、種たちが小さく騒いだ。

「ちょっと、抱きしめすぎよ!」

「息苦しいわ!」

「種だから息はしないでしょう!」

「気分の問題よ!」

 アリスははっとして、慌てて腕の力を緩めた。

「ご、ごめんなさい」

 種たちの文句に、思わず笑みがこぼれる。

 泣きたいような気持ちの中に、少しだけ温かいものが戻ってきた。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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