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第三十話 秘密のもくもくケーキ

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📅 公開日: 2026/6/13 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 7,566文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。可憐で不穏な、童話ファンタジー。白兎は、私を救いに来たの?それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第三十話 もくもくケーキ

 アリスはベッドの上で丸くなっていた。

 ノアの部屋で見た写真が頭から離れない。

 窓の外では、昼の光が少しずつ傾き始めている。ワンダラーの午後は、眠たげな蜂蜜みたいに、とろりと部屋の中へ流れ込んでいた。

 けれど、アリスの胸の奥だけは、ちっとも甘くならなかった。

 布団をぎゅっと抱きしめた、そのとき――。

 玄関のベルが静かな部屋に響いた。

 ちりんちりん。

 銀の鈴を、転がしたような音。

 アリスはびくりと肩を揺らす。

 ノアだろうか。

 そう思ったけれど、ノアならベルを鳴らさずに入ってくるはずだ。

 アリスは布団から顔を出した。

 ベルがもう一度鳴る。

 ちりんちりん。

 それから、外から聞き覚えのある声がした。

「おーい! いるんだろ!」

 ロビンの声だった。

 そのすぐあとに、もっと小さくて柔らかい声が続く。

「お姉ちゃん、いる?」

 ネムリだ。

 アリスは慌ててベッドから起き上がった。

 髪を手で整え、顔を軽く押さえる。

 泣いてはいないはずだけれど、きっと少しひどい顔をしている。

 それでも、二人を外に待たせておくわけにはいかなかった。

 アリスは階段を下り、玄関へ向かう。

 扉の覗き窓から外を見ると、そこには茶色の兎耳をぴんと立てたロビンと、ロビンの袖をぎゅっと握ったネムリが立っていた。

 アリスはほっと息をつき、扉を開ける。

「遅かったじゃねえか」

 開けた瞬間、ロビンが不満そうに言った。

「いるなら早く出ろよ」

「ご、ごめんなさい」

「ロビン、だめだよ。お姉ちゃん、びっくりしちゃうよ」

 ネムリはそう言うなり、ぱたぱたと駆け寄ってきて、アリスの腰にぎゅっと抱きついた。

「お姉ちゃん!」

 小さな身体が、安心したようにくっついてくる。

 アリスは、そっとネムリの頭を撫でた。

「ネムリくん。来てくれたんですね」

「うん。あのね、あのね、今日はロビンと一緒に来たの」

「見りゃ分かるだろ」

 ロビンは片手に持った箱を掲げた。

 白い箱には、水色のリボンがふんわりとかかっている。結び目には、小さな雲の形をした飾りがぷかぷか揺れている。

「こないだのお詫び。ケーキ買ってきたから、一緒に食おうぜ」

「お詫び……?」

「樹海の件だよ。あと、チェシャ猫の件も少し。俺が全部悪いわけじゃねえけど、まあ、少しは悪かったし」

 アリスの頭の中に、樹海で迷ったことや、樹海狼、チェシャ猫に飲み込まれた時のことがよみがえる。

「少し…ですかね…」

「うるせえな。だからケーキ持ってきたんだろ」

 ロビンはそう言うと、返事も待たずにドカドカと家の中へ入ってきた。

「あっ…!」

「いいだろ。どうせ白兎いねえんだろ?」

「どうして分かるんですか?」

「いたら、玄関開けた瞬間に俺を睨んでる」

 たしかに。

 アリスは少しだけ納得してしまった。

 ネムリは嬉しそうに紙箱を指さす。

「あのね、あのね。新作のもくもくケーキなの!」

「もくもくケーキ?」

「うん! 食べるとね、すごく美味しくてね、あと秘密なんだけどね……うれしくなっちゃうの!」

「秘密……うれしくなっちゃう……?」

 なんだか少し不安な言い方だった。

 けれどネムリのきらきらした瞳で見つめられて、アリスは笑って頷いた。

「では、お茶を淹れますね」

 ロビンはすでに台所の方へ向かっていた。

「おーい、ティーセットどこだ?」

「あ、待ってください!」

 アリスが止めようとした時には、もう遅かった。

 ロビンは迷いなく戸棚を開けた。

 次の瞬間。

「イテー!!」

 大きな悲鳴が、キッチンに響いた。

 アリスが駆け寄ると、ロビンの手に白い皿が噛みついていた。

 皿の縁には、小さな歯のような模様が並んでいる。模様だと思っていたものが、今はしっかりロビンの指を挟んでいた。

「何だこれ! 皿が噛むなんて聞いてねえぞ!」

「その戸棚の食器たち、凶暴なんです」

「はぁ!? 躾してねえのかよ!」

「自由な子たちで……だからそこを開ける時には、まず子守唄で眠らせてから開けないといけなくて……」

「早く言えよ!」

「言う前に勝手に開けてたんです」

 アリスがそう言うと、ネムリもこくこく頷いた。

「そうだよ、ロビン。人の家の戸棚を勝手に開けるのはいけないんだよ」

「ネムリ、お前まで……!」

 ロビンは涙目になりながら皿を振った。

 アリスは慌てて戸棚の前に立ち、ノアに教わった通り、小さな声で子守唄を歌った。

 ~眠れ、眠れ、白い皿。

 ~銀の匙も、青いカップも。

 ~お茶の時間まで夢を見て。

 ~静かに、静かに、棚の中。

 歌声に合わせて、食器たちはひとつ、またひとつと眠たげに身を寄せ合った。

 ロビンの手に噛みついていた皿が、ふにゃりと力を抜く。

 かちゃん、と床に落ちる前に、アリスが受け止める。

「ふう……よかった」

「よくねえよ。痛えよ」

 ロビンは手をぶんぶん振った。

 けれど、それ以上文句は言わずに静かに椅子へ座る。

「……じゃ、お茶頼む」

「はい」

 アリスは少し笑いそうになりながら、眠った食器たちの中からティーカップを取り出した。

 ポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。

 ふわりと紅茶の香りが広がった。

 湯気の中に、小さな花の影が一瞬だけ浮かび、すぐにほどけて消える。

 ネムリは椅子にちょこんと座り、両手を膝の上に置いている。

 ロビンはキッチンを見回して、鼻で笑った。

「いつ見ても悪趣味な家だな。フリルだの、花柄だの、落ち着かねえ」

「そう?」

 ネムリが首を傾げる。

「僕はとってもかわいいと思うな~。白兎のあの白いふわふわの耳ともピッタリ」

「はあ。お前、騙されてるな」

 ロビンは椅子の背にもたれた。

「あいつは普段、あんな甘ったるい顔で笑ってるけど、腹ん中は真っ黒な焦げ砂糖うさぎだぞ」

「焦げ砂糖うさぎ……」

 アリスは思わず復唱してしまった。

 たしかに、少し分かるような、分からないような。

 甘いのに、苦い。

 ぴったりなような気もして、アリスは少しだけ笑ってしまった。

「まあ、それよりケーキだ。早く食おうぜ」

 箱を開けると、白い霧が、もくもくと箱の中からあふれ出した。

「わ……!」

 そこには、小さな雲型のケーキが並んでいた。

 水色とピンクの渦巻き模様。

 ふわふわのクリームが雲のように盛り上がり、所々に銀色の小さな粒が光っている。

 そのクリームから、白い霧がほわほわと立ち上り、小さなひつじ雲になって、ケーキの上をふわふわ漂う。

「わぁ、これが……もくもくケーキ……?」

「すげーだろ。なかなか買えない人気商品なんだぞ!」

「そんな貴重なもの、いいんですか?」

「いいの、いいの」

 ネムリがにこにこ笑った。

「だって、お姉ちゃんはチェシャ猫から僕を助けてくれたでしょ?」

 ネムリは真剣な顔で言った。

「僕、うれしかったよ」

 アリスは何も言えなくなった。

 代わりに、そっと微笑む。

「……ネムリくん」

 ロビンは少し照れたように鼻を鳴らした。

「そういえば、お前、アリスなんだろ?」

 アリスの手が止まった。

 紅茶を注いでいたポットの先から、最後の一滴が落ちる。

 ぽちゃん、と小さな音がした。

 その音だけが、急に大きく聞こえた。

「……えっと、何のこと」

「今さら隠すな。あの時、マッドがあんだけ堂々と呼んでたし、白兎も否定しなかっただろ」

 ロビンはじろじろとアリスを見る。

 それから、信じられないという顔で首を傾げた。

「けど、俺の目からはどう見ても、ちんちくりんの子ぶた娘にしか見えねえんだけどな」

「ちん……」

「ロビン!」

 ネムリがぷくっと頬を膨らませた。

「お姉ちゃんに失礼だよ」

「事実を言っただけだろ」

「僕は、子ぶたのお姉ちゃんもかわいいと思うよ」

 ネムリはアリスを見上げて、にこっと笑った。

「けど本当のお姉ちゃんも、もちろんかわいいけど」

「ネムリくん……なんで?」

「えっ、チェシャ猫のお腹の中で会った時は、本当のお姉ちゃんの姿だったよ」

 アリスは驚いて、そっと自分の髪に触れた。

 夢と記憶の狭間では、本当の姿だった。

 そのことに、なぜか少しだけホッとした。

「まあ、今さら誰かに言いふらしたりしねーから安心しろよ!」

 ロビンはケーキ皿をみんなの前に置いた。

「早く、食おうぜ!」

「わーい! ケーキ、ケーキ!」

 その二人の軽さに、アリスは救われ気持ちになった。

 フォークを手に取り、小さく切ったケーキを口に運ぶ。

 瞬間。

「……!」

 思わず、目を見開いた。

 口に入れた瞬間、ふわりと雲がほどけるみたいにクリームが溶ける。

 水色の部分は冷たい朝の空の味がして、ピンクの部分は花畑で深呼吸した時みたいにやわらかい。

 胸の奥に詰まっていた重たいものが、少しずつ軽くなっていく。

 もくもく。

 ふわふわ。

 甘くて、やさしくて、少しだけくすぐったい。

「美味しい……」

 アリスは思わず声を上げた。

 ネムリが嬉しそうに笑う。

「でしょ!」

 ロビンは得意げに鼻を鳴らした。

「だから言っただろ。うまいって!」

 アリスはもう一口、ケーキを食べた。

「うん。すごく、美味しいです!」

 その時、ネムリがテーブルの上を漂うひつじ雲を指さした。

「お姉ちゃん、次はひつじさんに息を吹きかけてみて」

「ひつじさんに?」

「うん。ふーって」

 アリスは言われた通り、テーブルの上を歩いている小さなひつじ雲に、そっと息を吹きかけた。

 ふう。

 白いひつじ雲がくるりと回る。

 そして、ぴょん、と跳ねた。

 ひつじだった霧は、白兎の形になった。

 長い耳。

 ふわふわのしっぽ。

 小さな白兎が、ケーキの上をぴょんぴょん跳ねている。

 アリスは目を瞬かせた。

「白兎……」

「へえ」

 ロビンがにやりと笑う。

「ずいぶん白兎に懐いてるな」

「ち、違います!」

「何が違うんだよ。夢ひつじは、食べたやつが見たいものに変わるんだぞ」

「夢ひつじ……?」

 アリスが聞き返すと、ネムリが得意そうに言った。

「もくもくケーキのもうひとつの秘密なの。食べた人の見たいものを、ちょっとだけ見せてくれる夢ひつじがついてるんだよ」

「それを先に言ってください!」

「だって、秘密だもん」

 ネムリは悪気なく笑った。

 ロビンは白兎雲を指差して、さらににやにやする。

「で? 見たいものが白兎ねえ」

「だから、違います。これは、その……ノアの家に、白兎の形をした物が多いから、たまたま」

「たまたまねえ」

「たまたまです」

 アリスは頬が熱くなるのを感じながら、慌てて紅茶を飲んだ。

 その時だった。

 白兎雲がふわりと背を伸ばした。

 小さな兎の形がほどけ、白い霧が人の形へ変わっていく。

 白銀の髪。

 長い白兎の耳。

 赤い瞳。

 それは、小さな霧でできたノアだった。

 アリスは息を止めた。

 霧のノアは、テーブルの上で静かに立っている。

 それだけで、胸の奥が跳ねた。

「うわ」

 ロビンが半眼になる。

「白兎そのものになったぞ」

「お姉ちゃん、すごいね」

「すごくありません!」

 アリスは必死に否定した。

 けれど、霧のノアはふわりと微笑んだ。

 その笑顔が、いつもの砂糖菓子みたいな笑顔に似ていて。

 アリスは、ますます何も言えなくなる。

 すると今度は、周りに漂っていたひつじ雲たちが一か所に集まり始めた。

 もこもこ。

 ふわふわ。

 白い霧が少しずつ形を作る。

 そこに浮かび上がったのは、ひとりの少女だった。

 淡いブラウンの髪。

 やわらかな頬。

 新緑のような瞳。

 アリス本来の姿だった。

「誰だ?」

 ロビンが眉を寄せる。

「お姉ちゃんだよ!」

 ネムリは自信満々に答えた。

「これが、お姉ちゃんの本当の姿」

 ロビンは霧の少女と、目の前のアリスを見比べた。

「……へえ。子ぶたじゃねえんだな」

「当たり前です!」

 アリスは思わず言い返した。

 けれどその直後、言葉を失った。

 霧でできたノアと、本当の姿のアリスが、向かい合っていた。

 二人は見つめ合っている。

 近づく。

 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 白い霧のノアが、アリスの頬へ手を伸ばす。

 霧のアリスが、逃げずにその手を受け入れる。

 そして、二つの顔が近づいて――。

「わああああああ!」

 アリスは真っ赤になって、両手で霧を払った。

 白いひつじ雲たちは、ぽふん、と音を立てて散らばる。

 テーブルの上に、甘い雲の匂いだけが残った。

「見ました……?」

 涙目で尋ねると、ロビンとネムリは、そろってこくりと頷いた。

「見た」

「見たよ」

 アリスは両手で顔を覆った。

「忘れてください……」

「無理だろ、今のは」

「お姉ちゃんのうれしいは、白兎さんと仲良くなることなんだね!」

 ネムリが無邪気に言った。

 アリスはさらに赤くなる。

「な、仲良くっていうか、その……」

「いや、これは仲良くなりたいってより、もっと特別な感じ――」

「ロビンさん!」

 アリスが涙目で叫ぶと、ロビンはさすがに口を閉じた。

 少しだけ気まずそうに頬をかく。

「……悪かったよ。からかいすぎた」

 その言い方が思ったより優しかったので、アリスはますます俯いてしまった。

 ロビンはケーキを一口食べてから、ふんと鼻を鳴らす。

「まあ、でも。白兎をどうにかしたいなら、泣いてるだけじゃ無理だぞ」

「どうにか……?」

「お前、白兎に子ども扱いされてんだろ」

 図星だった。

 アリスは何も言えなくなる。

 ロビンは得意げに腕を組んだ。

「なら、あいつをドキッとさせりゃいいんだよ」

「ドキッと……」

「そうだ。白兎をドキドキさせる大作戦だ」

 ネムリがぱっと顔を輝かせる。

「作戦! 楽しそう!」

「そうだな~、まずは手料理だな!」

 ロビンは自信満々に言った。

「手料理……」

「ああ。白兎が帰ってきた時、お前が料理作って待ってたら、さすがに少しは見る目変わるだろ」

「でも、私、まだ料理はあまり得意では……」

「大丈夫だ。俺もできねえ」

「そっ、そうですか…」

「僕もできないよ」

「そうなんだね……」

 アリスは、困ったように笑った。

 けれど、ネムリはすでに椅子から降りていた。

「でも、三人ならできるよ!」

 その言葉に、アリスは少しだけ迷った。

 ノアをドキドキさせる。

 その響きは恥ずかしくて、聞いているだけで耳まで熱くなる。

 けれど、ただ子ども扱いされるだけの自分から、少しでも変わりたい。

 その気持ちは確かにあった。

 アリスは小さく頷いた。

「……やってみます」

「よし!」

 ロビンが立ち上がる。

「じゃあ、作るぞ。白兎を驚かせる、すげえ料理を」

「何を作るんですか?」

「オムライス」

「すげえ料理、なんですか?」

「卵で包むんだぞ。すげえだろ」

 ロビンは真顔だった。

 そうして三人は、キッチンに立った。

 けれど、作戦は最初から難航した。

 まず、ロビンが人参と喧嘩。

「おい、じっとしてろ!」

 まな板の上で、人参がじたばた暴れる。

「ロビンさん、野菜に怒鳴らないでください!」

「こいつが逃げるんだよ!」

 その横では、ネムリがムラサキねむりかぶのあくびにつられて、こくりと眠ってしまった。

「ネムリくん!?」

「寝たぞ!」

「名前通りすぎます!」

 一方、アリスは卵を割ろうとして、つるりと逃げられていた。

「待って!」

 卵はころころ転がり、テーブルの下へ逃げる。

 ロビンは人参を押さえ、ネムリは眠り、アリスは卵を追いかける。

 キッチンは、あっという間に大騒ぎになった。

「白兎ん家の食材、性格悪すぎだろ!」

「ロビンさんが乱暴だからです!」

「卵に逃げられてるやつに言われたくねえ!」

「卵が素早いんです!」

「お姉ちゃん……がんばって……」

「ネムリくん、寝ながら応援してる!?」

 何とか野菜を刻み、卵を捕まえ、ご飯を炒める頃には、外の光は夕方に傾いていた。

 出来上がったオムライスは、少し不格好だった。

 卵はところどころ焦げて、形も少し歪んでいる。

 それでも、皿の上にはちゃんと黄色いオムライスがのっていた。

 アリスはそれを見て、小さく息を吐いた。

「できた……」

「まあ、食えるだろ」

 ロビンが腕を組んで頷く。

「うん。きっと、白兎さん喜ぶよ」

 ネムリもにこにこ笑った。

 その言葉に、アリスの胸が少しだけ温かくなる。

 ロビンは窓の外を見た。

「やべ。もう夕方だ。俺たち帰るわ」

「え、もう?」

「マッドに怒られる。いや、怒るっていうか、静かに見てくる。あれが怖い」

 ロビンは箱の残りを片づけ、ネムリの手を引いた。

「じゃあな。白兎がどんな顔したか、あとで教えろよ」

「…えっ」

「言えよ、協力しただろ」

「……はい」

 ネムリがアリスにぎゅっと抱きつく。

「お姉ちゃん、またね」

 アリスもそっと抱き返した。

「来てくれてありがとう、ネムリくん」

「うん。またロビンと遊びに来るね」

「はい。……でも、戸棚は勝手に開けないでくださいね」

「しつこいな!」

 ロビンは耳をぴんと立てながら、ネムリを連れて帰っていった。

 扉が閉まる。

 家の中は、急に静かになった。

 さっきまで笑い声で膨らんでいた部屋が、しぼんだ風船みたいに、すうっと静まり返る。

 アリスは食卓に戻り、不格好なオムライスを見つめた。

 ノアが帰ってきたら、何と言うだろう。

 驚くだろうか。

 笑うだろうか。

 それとも、また「良い子だね」と頭を撫でるのだろうか。

 アリスはケチャップを手に取った。

 せっかくなら、何かメッセージを書こう。

 そう思って、オムライスの上にケチャップの先を近づけた。

 ノアへ。

 ありがとう。

 おかえりなさい。

 どれがいいだろう。

 迷っていると、部屋の隅に残っていたひつじ雲が、ふわふわとテーブルへ登ってきた。

「あ……まだいたの?」

 ひつじ雲は答えず、オムライスの上でくるりと回った。

 そして、白い霧になって形を変えていく。

 アリスは息を止めた。

 現れたのは、ノアだった。

 けれど、いつものノアではない。

 甘い笑顔でも、白兎の側近の顔でもない。

 写真立ての中で見た、あのノアだった。

 少し幼くて、自然で、安心しきったような柔らかな顔。

 アリスが、まだ向けられたことのない笑顔。

 ケチャップを持つ手が止まった。

 胸の奥に、また細い棘が刺さる。

 さっきまでロビンとネムリが明るくしてくれた部屋の空気が、急に遠くなる。

 夕方の光まで、少しだけ冷たくなった気がした。

 夢ひつじのノアは、テーブルの上で静かに微笑んでいた。

 誰に向けている笑顔なのか。

 考えたくないのに、分かってしまう。

 アリスはケチャップをそっと置いた。

 オムライスの上には、まだ何も書かれていない。

 何も書けなかった。

「……ごめんなさい」

 誰に謝ったのか、自分でも分からなかった。

 アリスは食卓から離れた。

 階段を上がり、自分の部屋へ戻る。

 扉を閉める直前、もう一度だけ食卓を振り返った。

 不格好なオムライス。

 その上に立つ、白い霧のノア。

 見たことのない笑顔。

 アリスは胸元の薔薇のペンダントを握りしめ、静かに扉を閉めた。

 かちり。

 小さな音が、やけに大きく響いた。

ジャンル・タグ

ファンタジー, 異世界ファンタジー, 恋愛, 童話, ChatGPT, AI本文利用

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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