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四階に用がある⑦

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/19 📚 シリーズ: 四階に用がある 📝 3,317文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「俺は四階に用がある。何の用だったかは思い出せない」 不条理文学。実験作。問題作。エンディングテーマ曲あり。一部ボイスあり。ヘッドフォン推奨。 ボイス:音読さん ©ondoku3.com エンディングテーマ曲:SUNO AI

本文

--audio-start:{"audioId":"audio_1781349972331_azydj5i4s","audioType":"ambient","title":"裏表_0","url":"https://pub-7da1aad0507b426ab7d774c64067bff3.r2.dev/audio/2026/06/68fe041f4cc950c2ddb1ab3a/4b4978f2-212a-4c0b-ab7c-89f4415ba92e.opus","duration":4,"settings":{"volume":80,"fadeIn":0,"fadeOut":0,"loop":true}}--七

「裏表をひっくり返す」

くそ。声が上手く出ない。

唇が痺れ、舌が分厚い肉の塊のように喉の奥に落ち込んでいる。息が詰まる。でも、この呪文を唱えられなくなったら俺は終わりだ。あの灰色に飲み込まれて、消える。記憶からも、存在からも。

意識ははっきりしている。俺は正気だ。少なくとも、自分がここにいて、何をしているかは分かっている。なのに、唇が、舌が、声帯が、俺の命令に従わない。まるで別の生物が口の中に巣食っているようだ。

「裏表をひっくり返す」

今度は少しマシか。でも、まだだ。詠唱のリズムが狂いかけている。心拍と同期していない。鼓動が速すぎて、言葉が追いつかない。

その時、視界の端で何かが動いた。

最初は蛍光灯の点滅の残像かと思った。白と闇の切り替わりが激しくなり、光の筋が空中に残る。でも、違う。それは光の筋ではない。波だ。音波の波形のようなものが、部屋の一角に浮かび、ゆっくりと動いている。

奇妙なビジュアル。山と谷が規則正しく並び、それがまるで生き物のようにうねる。色はない。半透明で、光を微妙に屈折させている。その動きは、俺の詠唱のリズムに――いや、俺の心拍に、完全に同期している。

ドクン。山が一つ膨らむ。

ドクン。谷が深くなる。

俺は直感した。

この部屋の主は、部屋の法則を変えようとしている!

閃きが、脳天を貫く。根拠はない。でも、絶対的な確信があった。

何の法則だ? 時間か? 空間か? それとも、俺がここにいられる条件そのものか? わからない。ただ、あの波形が動くたびに、空気の質感が変わる。重さが増し、湿り気が増し、光の屈折が歪む。すべてが、俺の詠唱と心拍に縛られながら、少しずつ別の何かへと移行しようとしている。

「裏表をひっくり返す」

早く。もっと正確に。リズムを合わせろ。でも、できない。頭痛が再び襲ってくる。こめかみが脈打ち、眼球が押し出されそうだ。視界の中心で波形が蠢く。それがだんだん、はっきりとした形を取ってくる。

波形が平面に広がり、縦三十センチ、横五十センチほどの板になった。厚みは数ミリしかないように見える。その表面には、まだ微細な波紋が走っている。俺の心音が、直接そこに刻まれているようだ。

波形はゆっくりと、しかし確実に、俺の方へ向きを変えた。

逃げろ。

本能が叫ぶ。でも、体が動かない。足は鉛のように重い。いや、違う。今の重さは別だ。物理的な重さではない。意志を奪う、精神的な圧迫だ。板から目を離すことができない。視線が釘付けにされる。瞳孔が開き、瞼が痺れて閉じられない。

波形が移動を始めた。空中を漂うように、ゆっくりと近づいてくる。速度は遅い。でも、確実に距離を縮めている。五メートル。四メートル半。四メートル。

(三浦さん……助けてくれ……)

声にならない悲鳴が、喉の奥で滾る。依存でも何でもいい。誰か、どうにかする方法を教えてくれ。この波形が何なのか、どう対処すればいいのか。俺はただ、床を黄色く塗り、呪文を唱えることしか知らない。それ以外の危機に対処する術を持たない。

/ɯɾa õ̜o̜θe̞ o̞ çikːɯɹika̠e̞sɯ/!

くそ! 声が上手く出ない!

思わず、詠唱が変質した。舌が変な位置に巻き付き、喉の奥で振動する。でも、意味は通じる。少なくとも、俺には通じる。この発音が、正しい詠唱なのか?

波形が微かに震えた。表面の波紋が乱れ、複雑な模様を描く。そして、速度がほんの少し上がった。

--audio-end:{"audioId":"audio_1781349972331_azydj5i4s","audioType":"ambient","title":"裏表_0"}----audio-start:{"audioId":"6a2d42221593c1dd76f96a00","audioType":"ambient","title":"裏表_2","url":"https://pub-7da1aad0507b426ab7d774c64067bff3.r2.dev/audio/2026/06/68fe041f4cc950c2ddb1ab3a/8d96941f-838f-44e9-85d9-93191e3e4f4d.opus","duration":4.019,"settings":{"volume":80,"fadeIn":2,"fadeOut":2,"loop":true}}-- くそ。逆効果だったのか? いや、違う。波形が反応した。こちらの詠唱に何らかの影響を受けている。ならば、続けるしかない。

/ɯɾa õ̜o̜θe̞ o̞ çixːɯɹika̠e̞sɯ/!!

今度はさらに歪む。舌先が歯茎に強く当たり、息が擦れる音が混じる。発声するたびに、喉が痛む。声帯が無理な振動を強いられている。

波形がまた震える。今度はより激しく。半透明の表面に、細かい亀裂のような光の筋が走る。速度はさらに上がった。 近い。あまりに近い。板の存在感が、皮膚に直接圧力をかけてくる。冷たいのか熱いのかわからない、ただ「異質」な温度。空気が淀み、呼吸が浅くなる。胸が締め付けられる。

波形の端が、俺の左耳の高さまで来た。まっすぐ、耳たぶに向かって進んでいる。掠めるのか、貫くのか。触れたらどうなる? 消えるのか、同化するのか、それとも何か別の変化が起きるのか?

想像が恐怖を膨らませる。背筋が凍りつく。全身の毛が逆立ち、皮膚が鳥肌だらけになる。高所の縁に立たされた時のような、足の力の抜ける感覚。膝が震え、歯がガチガチ鳴る。でも、動けない。視線を外せない。

--audio-end:{"audioId":"6a2d42221593c1dd76f96a00","audioType":"ambient","title":"裏表_2"}----audio-start:{"audioId":"6a2d3a3b1593c1dd76ed4036","audioType":"bgm","title":"Mots à l’envers 22kHz","url":"https://pub-7da1aad0507b426ab7d774c64067bff3.r2.dev/audio/2026/06/68fe041f4cc950c2ddb1ab3a/ce1917f2-073f-47fc-8d55-60a92a930526.opus","duration":195.0065,"settings":{"volume":80,"fadeIn":0,"fadeOut":2,"loop":false}}--舌がまったく別の動きをし、唇が思い通りに閉じない。唾が喉に詰まり、むせそうになる。息苦しい。酸素が足りない。頭がくらくらする。

波形が、耳に触れた。

次の瞬間、全身を電気が走る。ゾッとする寒気が、脊髄を駆け上がり、首筋を伝って頭頂まで達する。鼓動が一瞬止まり、また狂ったように暴れ出す。

絶望が、胃の底から這い上がり、喉元までせり上がってくる。吐き気。目の前が再び暗くなる。倒れる。床に膝をつく。

詠唱ができなければ、俺は終わりだ。確信がある。声を失ったら、ここで消える。

どうすればいい。

/ɯa õ̜o̜xe̞ o̞ xixːɯɹixa̠e̞xɯ/!!!

くそ! 声が上手く出ない!

(了)

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冥界焔つむぎ

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