スイッチは二択じゃない

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/19 📚 シリーズ: ちゃんと戻る、っていう希望 📝 2,285文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

主人公の「俺」と同居恋人の千紗が、毎日のモヤモヤや刺さった気持ちを、合言葉と小さな合図で、暗くならないようにほどいていく連作です。 仕事の失敗、待たされる焦れ、二択の迷い、理不尽、家族の距離、言えない「好き」みたいな“よくあるけど地味に重い”出来事を、会話と行動でちょっとずつ整えて、最後はちゃんと前に進める形にしていく、生活系の短編つながり。

本文

僕は、スイッチが苦手だ。

オンかオフか、どっちかに寄せると、反動で逆に飛ぶ。

頑張る日が続くと、突然ぷつんと切れて何もしなくなる。

そして何もしない自分を見て、「冗談じゃない」と自分に言いそうになる。

最悪だ。自分に刃物を向けるやつ。

朝、千紗が冷蔵庫の扉に貼り紙を追加した。

「switch=段付きスイッチ

0/100は禁止

20/50/80で持つ

チッ→凹凸→一手

最後にシャク」

「段付きスイッチってなに」

僕が白湯を飲みながら言うと、千紗はマグを二つ並べて頷いた。

「調光。明るさを三段階にするやつ」

「部屋の照明か」

「あなたの心の照明」

千紗は真顔で言う。

「あなた、オンにすると全点灯で、オフにすると真っ暗。だから目がやられる」

「目がやられる、現実通りすぎる」

「現実通りに直す」

アンが椅子の上で丸くなって、しっぽの先だけ動かした。椅子。第三の動き。

猫のスイッチは滑らかだ。眠い→起きる→食べる→眠い、の調光。0と100がない。

「今日、切り替えが必要な用事ある?」

千紗が聞く。

僕はスマホを開き、予定を見た。

午前は片付け。

午後は友人の集まり。

夜は、僕の企画の中火タイム。

そして“家の時間”もある。

全部が一枚の板に乗ると、僕のスイッチは壊れる。

胸の奥で「チッ」が鳴る。

ブザー。

チッ=ブザー→凹凸→一手。

「来た?」

千紗が言う。

「来た。予定見ただけで鳴った」

「凹凸」

「凹凸」

合言葉で手すりを出して、僕は一手を探す。

一手は、“段を決める”。

オンオフじゃなく、20/50/80。

「じゃ、今の段どれ?」

千紗がペンを持って、僕の方を向いた。

ペンがあると、僕は答えやすい。道具にすると強い。

「……今、20」

「理由」

「朝だし。まだ目が開ききってない」

「いい。錨にしよ」

千紗が言って、鍵の鈴をちん、と鳴らす。

「錨:20」

「理由:目と心を守る」

「固定。はい、次」

千紗は紙に、四つの枠を描いた。

1)家(朝)

2)片付け(午前)

3)人(午後)

4)自分(夜)

「それぞれの段を決める」

「段って、決められるの?」

「決められる。決められないと、勝手に100になって壊れる」

「……現実通り」

1)家(朝)

僕は言った。

「20のまま。白湯と、アンと、静かに」

千紗が頷く。

「朝は調光が正義」

2)片付け(午前)

僕は一瞬、100にしたくなった。

片付けを一気に終わらせたい。

終わらせたらスッキリして、その勢いで午後も行けそう。

その“勢いで”が危ない。

胸の奥で「チッ」。

ブザー。

凹凸。

一手。

一手は、スリット。線。椅子。第三の動き。

片付けを“全部”じゃなく“線で割る”。

「……50」

僕が言う。

「全部じゃなくて、キッチンだけ」

「最高」

千紗が笑う。

「スイッチが壊れない片付け」

3)人(午後)

友人と会うのは好きだ。

好きだけど、好きだからこそ100にしてしまう。

盛り上げ役をやって、帰ってから倒れる。

倒れると自分に刃物を向ける。

ダメだ。

「……80」

僕が言う。

「盛り上がるけど、帰りの余力を残す」

「80の運用、具体」

千紗が言う。

「何をする?」

「滞在は2時間。帰りは寄り道しない。帰ったらシャク」

「いい。最後にシャクは、80を80で終わらせる」

4)自分(夜)

ここは中火の情熱。

強火は10分だけ。

その後は中火。

段は……50くらいがいい。

「夜は50」

僕が言う。

「企画は中火。焦がさない」

「完璧」

千紗が言って、でもすぐ言い換えた。

「現実通り」

紙に段が並ぶだけで、僕の中の“切り替え怖い”が薄くなる。

スイッチは押すものじゃなく、つまみを回すものになる。

受信機のつまみと同じだ。僕が握る。

午前。

僕は50でキッチンだけ片付けた。

皿を洗って、シンクを磨いて、床は磨かない。

床は罰ゲーム化するから禁止。

線を引く。

止める笛。

CALLED GAME。

途中で「もっとやれそう」が来た。

胸の奥で「チッ」。

でも今日は、貼り紙がある。

0/100は禁止。

段を守る。

僕は椅子に座った。第三の動き。

白湯を飲んで、息を吐いた。

吐くのが先。

そして千紗に言った。

「ここで笛」

「うん。笛は勇気」

千紗が鈴をちん、と鳴らした。

「さぁ。午後へ切り替え。80」

午後。

友人たちと会った。

笑った。喋った。

僕は自分が100に行きそうになるのを、何度か感じた。

そのたびに、心の中で“段”を触る。

80。80。

そこから上げない。

上げないのが、楽しいのを続けるコツだ。

帰り道、コンビニの前でふと立ち止まった。

甘いものを買って、気分を上げたくなる。

でも上げると100になる。

だから椅子。第三の動き。

僕は買わずに帰った。

代わりに、帰ってシャクをする。

後で割る。

家に着くと、アンが玄関で待っていた。

猫はいつも通り。

いつも通りは刃物じゃなく、手すりになれる。

“誰のいつも通りか”を間違えなければ。

「おかえり。段、守れた?」

千紗が聞く。

「守れた。80で帰ってこれた」

「最高」

「最高って言うと、また100にしたくなる」

「じゃあ言い方変える」

千紗が笑って言う。

「ピース」

夜。

僕は50で、自分の企画を少し進めた。

強火は10分だけ。タイマーで。

ピピピが鳴ったら中火。

その運用が、なんだかゲームのルールみたいで楽しい。

でも勝ち負けのゲームじゃない。

生活の続くゲーム。呼ばれたら止める笛が鳴るやつ。

最後に、りんご。

シャク。

音が、今日の段の切り替えを全部“よし”にしてくれる。

「スイッチってさ」

僕が言う。

「オンオフじゃなく、調光なんだね」

「うん」

千紗が鈴をちん、と鳴らした。

「さぁ。明日も20から始めよ」

アンが椅子の上で丸くなって、目を細めた。

猫のスイッチは、いつも滑らかだ。

僕もそれを、真似していく。

暗く沈まないために。

そして、ちゃんと続くために。

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