走り手ネットワーク小暴走

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/4 📚 シリーズ: 泣かせない係のおねぇちゃん、世界を盛りすぎる 📝 3,604文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

真昼山の山頂に、ひとりの子どもが降り立った。 名はハル。泣きそうなほど眩しい朝日を見上げたその瞬間、世界は“きれいすぎる”方向へ盛られてしまう。音は響きすぎ、匂いは良すぎ、善意は増えすぎる。 原因は神界の「泣かせない係」。 生活感のあるお役所みたいな職員室で、主犯神アマネが今日も宣言する。 「おねぇちゃんに、まかせて!」 涙ゼロを目指すあまり、世界を盛りすぎて大パニック。ゆれりんが鳴れば朝礼集合、盛っては直して反省会。なおし係まで巻き込まれ、業務はいつも過多になる。 一方、地上では麓の共同保護の家「結び家」が、飯と湯と順番で今日も回る。 パニックは去らない。だけど生活に編み込めば、笑って眠れる。 泣かせないおねぇちゃんと、泣く暇のない日常が出会う、ドタバタほのぼのハイファンタジー。

本文

朝市は、匂いが先に来る。

声はその後。小銭は最後。

その順番が崩れると、だいたい“混ざる”が来る。

今日は、混ざりが「足」から始まった。

こん。

一発だけ。

効きすぎないはずの音。

でも、音は音だ。音は“早い顔”を呼ぶ。

「今の、合図?」

「合図なら朝市?」

「じゃあ急ぐ?」

急ぐって言うな。胸の中で急ぐ。

急ぐ胸が増えると、足が増える。足が増えると、走り手が増える。

結び家の戸口で、レンカが息を吸って口を押さえた。えらい。

「……匂い、まだ」

「言うな」

ユリネが即座に刺す。

「……胸の中で、まだ」

「胸の中なら勝手にしろ」

タケルは真顔で通りの先を見た。

人の流れが、朝市へ寄っている。

寄り方が、買う前の寄り方だ。買う前の寄り方は危ない。

買う前の寄り方は、情報に飢えている顔だからだ。

情報に飢えるって言うな。胸の中で飢える。

飢えた顔は、すぐ“走り手”を見る。

朝市へ向かう角で、走り手の子が立っていた。

足が早いのに、止まれる子。

止まれる子なのに、今日は止まれない空気を吸っている。

「ねえ、どこ開いてる!?」

「粉のとこ、もう出てるって!」

「豆が早いって聞いた!」

聞いた、が増える。

聞いたが増えると、確定っぽいが増える。

確定っぽいが増えると、走り手は善意で走る。善意は危ない。走る善意は、伝言を太らせるからだ。

タケルが一歩だけ前へ出た。

一歩だけ。

一歩だけなら、場が詰まらない。詰まらないけど、目は集まる。

「見る」

タケルが短く言った。

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で見る」

「胸の中なら勝手にしろ」

タケルは走り手の子へ、三言を渡そうとして、止めた。

三言は三回だ。三回は増える。

増えると、また昨日と同じになる。

タケルは一言にした。

「板」

走り手の子が目を丸くする。丸い目は危ない。丸い目は“分かったつもり”を呼ぶ。

でも子は止まれる子だ。頷く。

「板!」

復唱して、走る。

走るな。胸の中で走る。

走るのに、声が先に走ってしまう日がある。今日はその日だ。

「板見ろー!」

走り手の子が通りの真ん中で一回叫んだ。

一回。

一回なのに、耳は勝手に続きを足す。

板見ろー!

=開いてるぞー!

=急げー!

=今のうちー!

今のうちは言ってない。

言ってないのに、今のうちが生まれる。

生まれると、足が増える。

足が増えると、朝市の入口が入口じゃなくなる。

朝市の入口は、すでに背中が斜めだった。

線が無い列。

列が無いのに列っぽい。

列っぽいのがいちばん厄介だ。列っぽいと、譲り合い無限も割り込みも両方起きる。

「開いてるって!」

「まだ準備中って!」

「板ってどこの板!?」

「板が増えてるってこと!?」

板が増えてるって言うな。胸の中で増えてる。

増えてるのは板じゃない。口だ。

露店の端で、売り子が袋の口を結んでいる。

汗がない。まだ戦ってない顔。

その前に、木札が一枚。

準備中

短い。

短いのに、見えない。

見えないから、近づく。

近づくから、見えない。

最悪の循環だ。

「近い」

誰かが言った。

「近いって言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で近い」

「胸の中なら勝手にしろ」

コトが入口の端でしゃがんで、地面にさらさら、と一本線を引いた。

説明はしない。線だけ。

線は人を静かにする。

「線より前に行くな」

ユリネが短く言った。

短いから刺さらない。刺さらないのに、足が半歩引く。

半歩引くと、準備中が見える。見えると口が減る。減ったって言うな。胸の中で減る。

……減りかけたところへ、走り手ネットワークが二本目を投げ込む。

別の走り手の子が、別の方向から来た。

息が切れてない。切れてないのが怖い。息が切れてない走りは、まだ走れる走りだ。増える。

「粉、出てる!」

「出てるって言うな」

ユリネが反射で刺す。

「……胸の中で出てる」

「胸の中でも言うな」

粉屋は、確かに袋を出していた。

でも袋を出す=開店じゃない。

準備の袋だ。

準備の袋を“出てる”と呼ぶと、朝市が前倒しになる。

前倒しになると、洗い籠の人が混ざる。

混ざると、また道が死ぬ。

死ぬって言うな。止まる。

案の定、通りの角で洗い籠がぶつかった。

朝市の籠と洗い籠が肩で挨拶する。

挨拶が強いと、袋が揺れる。

揺れると、豆が転がる。

ころん。

「拾う!」

ミナギが言いかけて、

「拾うな」

ユリネが刺す。

「えっ、でも豆!」

「本人が拾え。周りは動くな」

タケルが真顔で、豆の逃げ道だけ足で止めた。

手を出さない。足だけ。足は偉い。

落とした人がしゃがんで拾う。

拾ったら終わり。終わると増えない。

終わる前に、もう一つ落ちる。

今度は言葉だ。

「走り手が言ってた! 今日は早いって!」

今日は早い。

今日は早いは、便利な断定に見える。

断定に見えると、反発も生まれる。反発が生まれると声が増える。

「早いって何が早いの!」

「全部!」

「全部って言うな!」

誰かが叫んで、誰かが笑いそうになって飲み込んだ。飲み込めるなら勝ち。

タケルの真顔が、ひとつだけ曇った。

曇るのは反省だ。反省は暗くしない。

暗くしない反省は、一回で終わるのがいい。

「俺が、雑に投げた」

タケルが言いかけて、

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で、雑」

「胸の中なら勝手にしろ」

今は謝罪で止める場面じゃない。

止めるのは手順だ。

手順は短く置く。

コトが、走り手の子へ目線だけで合図した。

声じゃない合図。増えない。

走り手の子が寄ってくる。寄り方が止まれる寄り方。えらい。

「伝えるのは一言だけにしよう」

コトが言う。

「一言」

走り手の子が復唱する。復唱は作法になる。

「一言はこれ」

コトが指で、露店前の札を示す。

準備中。

「これを見せる。言うのは“見る”だけ」

見るだけ。

それなら増えない。

増えないから、走り手が走っても太らない。

タケルが真顔で重ねる。

「叫ぶな。指で示せ」

「指」

走り手の子が復唱して、口を押さえた。止まれるなら勝ち。

走り手の子は、通りの中央へ行かない。

通りの端へ行く。

端で、指だけで鐘楼の根元を示す。

声を出さずに、板を見る動きをする。

手で目の前を指して、最後に口を押さえる。

動きだけ。動きは増えない。

その動きが、意外と効いた。

見る人が増えた。

見る人が増えると、叫ぶ人が減る。

相乗は結果一行でいい。今日はそれだ。

露店の売り子が、準備中の札をくるりと裏返した。

開けます。

一語。

一語で足りる。足りるって言うな。胸の中で足りる。

開けますが見えた瞬間、背中が動きかける。

動きかけた背中に、線が効く。

線より前へ出ない。

出ないと、背中が一本になる。

一本になると、売り子が息を吐ける。

息を吐けると、匂いが立つ。

匂いが立つと、朝市が朝市に戻る。

粉屋の方でも、袋の口が結ばれて、最初の一杯が升へ落ちた。

さら。

匂いが立つ。

匂いは増えていい。増える匂いは生活の匂いだ。

「開いてるって言わなくても、分かるね」

誰かが言いかけて、口を押さえた。えらい。

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で分かる」

「胸の中なら勝手にしろ」

小銭が鳴る。

ちゃり。

一定の音が戻ると、人は勝手に呼吸する。

呼吸すると、走り手ネットワークの熱が少し冷める。冷めたって言うな。胸の中で冷める。

走り手の子がタケルのところへ戻ってきた。

「言えた」

短い報告。短い報告は増えない。

「何を」

タケルが真顔で聞く。

「“見る”」

走り手の子が言って、口を押さえた。止まれるのが偉い。

ミナギが感動した顔で言いかけた。

「かっこいい!」

「かっこよくするな」

ユリネが刺す。

「……助かる」

ミナギが言い直して、なぜか自分で頷いた。言い直せるなら勝ち。

朝市は、そのまま普通の朝市になった。

匂いが先。声が後。小銭が最後。

走り手が走っても、太らない。

太らないのは、言葉を一語にしたからだ。

結び家は買い物を終えて帰る。

粉。豆。葉物。

袋の口は二回結ぶ。増やすんじゃない。転がさないため。

帰り道、レンカが小さく言いかけて、止めた。

止めて、言い直す。

「……走るのは、最後」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で最後」

「胸の中なら勝手にしろ」

家に戻ると、鍋が鳴っていた。

ごっちゃ煮スープの湯気が上がる。

湯気は増えていい。増える湯気は生活の勝利だ。

ミナギが椀を取ろうとして、

「順番」

ユリネが一言。

「……はい」

ミナギが言い直す。言い直せるなら勝ち。

タケルが真顔で言った。

「今日、走り手網が太りかけた」

「言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で太る」

「胸の中なら勝手にしろ」

ハルが小さく頷く。

「……一語だと、太らない」

シノがぼそり。

「……指だと、増えない」

コトが笑う。

「走るのをやめるんじゃなくて、太らせないんだね」

「言うな」

「……胸の中で、太らせない」

「胸の中なら勝手にしろ」

レンカが小さく宣言して、すぐ自分で口を押さえた。

「今日、叫ばなかった!」

「叫びかけた」

ミナギが真顔で言いかけて、

「未遂って言うな」

ユリネが刺す。

「……胸の中で未遂」

「胸の中でも言うな」

刺さらない笑いが湯気に混ざって、台所が軽くなる。

小暴走はあった。

でも生活で戻した。

戻したなら、明日も回る。

ユリネが短く言う。

「飯! 湯!」

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