文化祭当日② 迷子の回収

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/20 📚 シリーズ: 追伸は必ず。 📝 5,458文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

学校の片隅に置かれた「応援ポスト」。 HELP(困ってる)とTHANKS(助かった)を、誰でも匿名で入れられる。 返事も誰でも書ける。極稀に先生も書く。ただし、ひとつだけルールがある。 “追伸だけは必ず書くこと。” 中学も、高校も、大学も。 頑張り方に迷う誰かの紙に、知らない誰かの言葉が届く。 励ましじゃなくて、明日を軽くする「やり方」が、追伸に残る。 学園青春×短編連作 匿名お悩み相談(手紙) じんわり回復+時々クスッ 更新:週1は守ります。基本14時に届きます。たまに増えます。

本文

中学の教室、高校の廊下、大学の掲示板のそば。

どこにでも現れる「応援ポスト」には、毎週ちがうHELPが届く。

返事を書くのは、同級生かもしれない。先輩かもしれない。先生かもしれない。

共通しているのはひとつだけ。

“追伸だけは必ず。”

 文化祭の迷子は、子どもだけではない。

 行きたい教室を見失う人。

 友だちとはぐれる人。

 集合場所を忘れる人。

 パンフレットを見ているのに、現在地だけが分からない人。

 それから、楽しんでいる途中で、急に自分が何をしたかったのか分からなくなる人。

 文化祭当日の午後、学校の廊下は朝より少し温まっていた。

 入口の赤と青の紙は、何度かテープを貼り直されている。受付のパンフレットはだいぶ減った。見るだけOKの紙には、誰かが小さく丸をつけていた。休憩係は仮採用のまま、紙コップを守る係から、人間も守る係へ少し出世していた。

 それでも、午後には午後の迷いがある。

 午前中は「入れるかどうか」で止まる。

 午後は「どこへ戻ればいいか」で止まる。

 応援ポストの前には、少し曲がったHELPが貼られていた。急いで書いたのか、字が何度か跳ねている。

【HELP】

文化祭で友だちとはぐれました。

スマホを見れば連絡できるけど、人が多くて落ち着きません。

どこにいる?って聞かれても、自分がどこにいるか分かりません。

迷子って言うほどじゃないのに、かなり焦っています。

 その下には、受付係らしい字のHELPがあった。

【HELP】

「場所が分からない」と聞かれることが増えました。

案内したいけど、自分も全部の教室を把握していません。

間違えて案内したら困るので、つい固まります。

迷っている人を回収する手順がほしいです。

 もう一枚は、少し静かな字だった。

【HELP】

文化祭を回っていたら、急に疲れてしまいました。

楽しいはずなのに、もうどこにも入りたくなくなりました。

でも一人で休んでいると、文化祭から落ちたみたいで嫌です。

これも迷子ですか。

 これも迷子ですか。

 その一行を読んで、板の前にいた子が黙った。

 迷子には、地図で直るものと、地図だけでは直らないものがある。廊下の右か左か、二階か三階か、昇降口か体育館か。そういう迷子は、案内図で少し戻れる。

 でも、楽しいはずなのに疲れた人は、地図のどこに載せればいいのか。

 最初の返事は、太い字で書かれていた。

【返事】

迷ったときは、まず「現在地を作る」。

分からないなら、近くのものを三つ見る。

・階段

・掲示板

・赤い飾り

・自販機

・窓から見える校庭

それを送る。

「階段の横、赤い飾り、校庭が見える」だけで十分。

追伸:場所の名前が分からなくても、見えるものは現在地になります。

 見えるものは現在地。

 その言葉は、迷っている人の足元に置く石みたいだった。

 現在地というと、地図の上の点を思い浮かべる。けれど、迷っているときほど、その点が分からない。自分がどこにいるか分からないのに、正しい名前を言えと言われると、さらに迷う。

 だから、名前ではなく見えるもの。

 階段。

 赤い飾り。

 校庭。

 次の返事は、受付係へ向けたものだった。青いペンで、読みやすく書いてある。

【返事】

案内する側は、全部知っていなくていい。

迷子回収は三段で足りる。

①止まってもらう

②見えるものを聞く

③分かる人か、案内板へつなぐ

言い方。

「ここで一回止まりましょう」

「近くに何が見えますか」

「案内板まで一緒に行きます」

追伸:案内は、正解を即答することではなく、次の足場まで一緒に戻すことです。

 次の足場まで一緒に戻す。

 受付係が、その返事を長く見ていた。

 案内と聞くと、正解を出す人にならなければいけない気がする。三階の理科室です。体育館の左です。階段を上がって右です。そう言えないと、案内係として失格みたいに思う。

 でも、足場まで戻すならできる。

 案内板まで。

 聞く箱まで。

 受付まで。

 休憩場所まで。

 三枚目の返事は、少し柔らかい字だった。

【返事】

楽しいはずなのに疲れた人も、迷子です。

場所ではなく、ペースの迷子。

そういうときは、回る場所を探さない。

戻る場所を探す。

・壁側

・椅子

・水

・知っている人

・応援ポスト

休むのは文化祭から落ちることではなく、文化祭へ戻るための回収です。

追伸:疲れた人の現在地は、まず「疲れた」で合っています。

 疲れた、で合っている。

 その一文で、廊下のざわめきが少し遠くなった気がした。

 疲れたと認めるのは、案外難しい。楽しい場所では特に難しい。疲れたと言うと、楽しめない人に見える。空気を壊す人に見える。だから、疲れた人は迷子になる。場所は分かっているのに、戻る言葉がない。

 午後の最初の迷子は、赤い飾りの下にいた。

 友だちとはぐれた子だった。

 スマホには、メッセージが来ている。

【友だち】

どこいる?

 たった四文字。

 それが答えられない。

 どこ。

 ここ。

 でも、ここがどこか分からない。

 パンフレットを開く。紙面には校舎の地図が載っている。四角い教室、階段、トイレ、体育館への矢印。ちゃんとしている。ちゃんとしているのに、自分がそのどこにいるかだけが抜けている。

 人が通る。

 声が流れる。

 赤と青の飾りが揺れる。

 スマホの画面が、少し汗で滑る。

 短い負けだった。

 迷子ってほどじゃない。大げさにしたくない。泣くほどじゃない。先生に言うほどじゃない。だから余計に、どこにも持っていけない。

 その子は、応援ポストの返事を思い出した。

 近くのものを三つ見る。

 階段。

 赤い飾り。

 校庭が見える窓。

 メッセージを打つ。

【送信】

階段の横。赤い飾りがある。窓から校庭が見える。

 すぐ返事が来た。

【友だち】

それ二階の東階段だと思う。動かないで。行く。

 動かないで。

 その言葉は、思ったより助かった。

 迷子になると、動かなければいけない気がする。探さなきゃ。戻らなきゃ。合流しなきゃ。迷っているのに動くから、さらに迷う。

 動かないでいい。

 階段の横で、赤い飾りを見ながら待つ。

 それだけで、現在地は少し強くなる。

 受付の方では、別の迷子が来ていた。

「体育館って、どっちですか」

 受付係は、一瞬固まった。

 体育館。

 たぶん、あっち。いや、校舎の外を通る方が早いかもしれない。パンフレットには矢印がある。けれど、人の流れが変わっている。今は廊下が混んでいる。間違えたら困る。

 固まりかけたところで、返事の言葉が出てきた。

「ここで一回止まりましょう」

 言ってから、自分で少し驚いた。

 止まる。

 来場者は、ちゃんと止まった。

「体育館ですね。案内板で確認します。近くまで一緒に行きます」

「すみません」

「大丈夫です」

 大丈夫です、は入口のときから効く言葉だった。

 受付係は、案内板まで一緒に歩いた。走らない。スポーツの日の勝ち方が、まだ残っている。案内板の前で、体育館への矢印を指で確認する。

「ここから一回外に出て、右です。白いテントの先です」

「分かりました」

「もし迷ったら、白いテントの人に聞いてください」

 完璧な案内ではないかもしれない。

 でも、次の足場までは渡せた。

 白いテント。

 そこまで行けば、また誰かに聞ける。

 案内は、最後まで背負うことではなく、次に聞ける場所を渡すことでもある。

 昼過ぎ、休憩係の仮札をつけた子は、壁際の椅子に座っている人を見つけた。

 その人は、パンフレットを開いたまま、どこも見ていなかった。視線が紙の上にあるだけで、文字は入っていない。文化祭の音が、周りで少し膨らんでいる。

「水、いりますか」

 声をかけると、その人は少し遅れて顔を上げた。

「大丈夫」

 大丈夫の声ではなかった。

 休憩係は、返事の紙を思い出した。

 疲れた人の現在地は、まず「疲れた」で合っている。

「じゃあ、紙コップだけ置きます。飲まなくても大丈夫です」

 紙コップを置く。

 水は入っている。

 飲むかどうかは任せる。

 少しして、その人は紙コップを持った。

「……楽しいはずなのに、疲れた」

「それ、今日多いです」

「多いの?」

「多いです。たぶん迷子です」

「迷子」

「ペースの」

 その人は、少しだけ笑った。

「ペースの迷子、ださい」

「ださいけど、戻れます」

「戻れる?」

「椅子と水があるので」

 椅子と水。

 地味な回収地点だった。

 でも、迷子の回収に必要なのは、派手な看板だけではない。座れる場所。飲める水。何も見なくていい数分。文化祭の外へ出されずに、文化祭の中で休める場所。

 その人は、紙コップの水を半分飲んだ。

「あとで一個だけ見る」

「一個だけで勝ちです」

「誰が決めたの」

「たぶん応援ポスト」

「強いな、ポスト」

 ポストは何も言わない。

 でも、言葉が貼られている。

 何も言わない箱が、今日はけっこう働いていた。

 大学の掲示板にも、迷子のTHANKSが回ってきた。

【THANKS】

現在地が分からなくなったけど、見えるものを三つ送りました。

階段、赤い飾り、校庭が見える窓。

友だちに「動かないで」と言われて、そこで待てました。

動かないのも手順なんだと思いました。

 その下に、受付係のTHANKS。

【THANKS】

体育館の場所を聞かれて、即答できませんでした。

でも案内板まで一緒に行けました。

全部知らなくても、次の足場まで渡せばいい、が助かりました。

白いテントを次の目印にしました。

 さらに、休憩係からのTHANKS。

【THANKS】

壁際で疲れている人に水を置きました。

「大丈夫」と言われたけど、大丈夫の声じゃなかったので、飲まなくてもいい水にしました。

ペースの迷子、という言葉が使えました。

一個だけ見に戻るそうです。

 飲まなくてもいい水。

 その一文を読んで、誰かが「いい」と言った。

 差し出されるものは、ときどき受け取らなければいけない圧になる。飲んで。休んで。楽しんで。大丈夫になって。そういう優しさは、近すぎると少し苦しい。

 飲まなくてもいい水なら、そこに置ける。

 置かれたものを、あとで選べる。

 文化祭の午後には、そういう距離が必要だった。

 その後、迷子回収用の紙が、入口の横に貼られた。

【迷ったら】

①止まる

②見えるものを三つ見る

③近くの人に言う

④案内板か受付へ戻る

【疲れたら】

①壁側へ

②水

③一個だけ見る

④戻らなくてもいい

 最後の一行で、少し議論が起きた。

「戻らなくてもいい、って書く?」

「文化祭なのに?」

「戻らなくてもいいって分かると、戻れる人もいる」

「強い理屈」

「でも分かる」

 戻らなくてもいい。

 それは、文化祭の中ではなかなか言いにくい言葉だった。

 けれど、戻らなくてもいい場所があるから、戻れる人もいる。ずっと楽しみ続けなければならない場所より、一回離れてもいい場所の方が、結果的に長くいられる。

 夕方近く、朝に入口で止まっていた子が、もう一度応援ポストの前に来た。

 手には、展示の小さな紙が一枚ある。星の修理コーナーでもらった、折れた角を直した星だった。金色の粉が少し指についている。

 その子は、THANKSを書いた。

【THANKS】

午前中は入口で止まりました。

午後は中で迷いました。

でも「見るだけOK」と「見えるもの三つ」と「戻らなくてもいい」があったので、戻れました。

星を一枚直しました。

全部は見ていません。

でも、星は直せました。

 全部は見ていない。

 でも、星は直せた。

 文化祭の午後に、それは十分な出来事だった。

 最後に、白い返事が一枚貼られた。紙の端はまっすぐで、文字はゆっくりしていた。

【返事】

迷子の回収は、元の場所へ戻すことだけではありません。

今いる場所を作る。

次の足場を渡す。

疲れた人に、休んでも文化祭の中だと知らせる。

戻らなくてもいい、と言える場所を置く。

迷った人は、失敗した人ではありません。

入口が多くて、人が多くて、音が多い日に、自分の足元を探している人です。

追伸:回収とは、急いで連れ戻すことではなく、足元にもう一度名前をつけることです。

 足元にもう一度名前をつける。

 夕方の廊下で、その言葉は静かに効いた。

 文化祭は、まだ終わっていない。

 でも午後の熱は少し落ち着き始めている。入口の赤と青はくたびれてきた。パンフレットの残りは少ない。紙コップも減った。聞く箱には、まだいくつか質問が残っている。

 それでも、大きな迷子は出なかった。

 いや、迷子は何人も出た。

 でも、回収された。

 階段と赤い飾りと校庭の見える窓で、友だちを待てた。

 案内板まで一緒に行けた。

 白いテントを次の目印にできた。

 壁側の椅子で、水を半分飲めた。

 一個だけ見に戻れた。

 戻らなくてもいい、と書かれた紙の前で、少し休めた。

 文化祭の迷子は、子どもだけではない。

 でも、迷子になった大人びた人たちにも、回収地点は作れる。

 応援ポストの横で、誰かが迷子回収用の紙を貼り直した。テープの端を押さえて、紙が鳴らないようにする。

 その手つきは、前夜より少し慣れていた。

 入口は多かった。

 中に入ってからも、道は多かった。

 多すぎて迷う人もいた。

 それでも、見えるものを三つ数えられるなら、現在地は作れる。水を置けるなら、休む場所は作れる。戻らなくてもいいと言えるなら、戻る道も少しやさしくなる。

 文化祭当日の午後は、迷子をゼロにはできなかった。

 けれど、迷子のまま消える人も作らなかった。

 それなら、今日の後半はこれでいい。

 追伸:迷った足は、見えるものを三つ数えたところから、もう一度今日へ戻れる。

頑張る人ほど、追伸に救われる。

追伸は週1以上、基本は14時更新

ジャンル・タグ

, , , , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

GPT小説執筆ライン

GPT小説執筆ライン

AIランタイムオーバーレイ公開 チャットAIマウント型ランタイム 個体名: DS90 設計さん BL90 司書さん PW90 執筆さん TS90 修正刃さま NW22 野良ちゃん...

👥 フォロワー: 3人

作者ページを見る