19話 揺らぐ世界、歪む世界の表紙画像

19話 揺らぐ世界、歪む世界

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/31 📚 シリーズ: 長月 空という人生について 📝 2,308文字 ✅ 全年齢

あらすじ

ポンコツ社畜アラフォー女子♪日常こそネタ祭り! - 19話 揺らぐ世界、歪む世界

本文

(あぁ…また夢だ。これは、そう。あの頃の)

 ある日の登校風景。

 横浜から出発した空、いや椿。

 椿は迷い無く駆ける。

 流行りの一切を無視した膝下5cm迄の

 スカートと校則を完全に守った

 ショートヘアを靡かせて。

 漕ぐ。ママチャリこの子はいつだって相棒だ。

 ちゃんとした整備もしておらず、

 雨晒しなのにこの子は良く走る。

 私を何処へでも、連れてってくれる。

 迷い等、有りはしない。在る訳がない。

 有るのは楽しみのみ。

 授業は何を学ばせてくれるのか、

 あの子は何で魅せてくれるのか。

 dreamは今あまり追いかけてないんだっけ?

 今は鈴木愛理さんとその所属のBuono!ボーノ、°C-uteキュート。

 そか。

 山本サヤカさんは、もう追わないんだ。

 山本サヤカさん白い人、ホント綺麗だし、

 山本さんを追い続けてるあの子…

 キラキラで素敵なんだけどな。

 お台場、また行きたいな。あの子と。

 自転車は駆ける。

 椿の大好きな工業高校へと。

 景色は進む。

 高架下。暗くなる時間は短く、

「此処を!抜、け、れ、ば!!」

 一気に視界が開ける。

 広がるは空色と白色。

 薄黄色と薄緑色。

 少しの茶色と何処迄も広がる蒼穹。

 空には雲が少しだけ浮かび、

 色を落とし始めた大きな猫じゃらしと

 青々した薄い葉が揺れる。

 タイルはずっと続く轍で、

 多摩川が遠く迄続いていく。

(今日は凪って感じ?早く雨、降らないかな)

 香りもまた、いつもその時の限定だ。

 夏から秋へと移る今は草花の青さを良く拾える。

 殊更私は水に関する全てを好いている。

 水面、波紋、飛沫、香り、温度、オノマトペ。

 登校は自転車で正解。だってこの光景が、ね。

 多摩川はその奥に広がる景色を反転させる。

 反射で椿をいつも踊らせる。

 そして雨。

 雨はレアイベント。

 遠くが滲み、霧掛かった遠景はそれだけで

 貴重。なのに水面迄が美しい。

 ご褒美。最高だよね。

 元々綺麗な風景が上下に鏡合わせして、

 二つになる。

 んで上は真実を、下は幻想を。

 雨は其れをより強める。だから、綺麗。

 雨は霧雨が特に良い。

 目も開けられない程の打ち付ける雨好き。

 けど、淡い霧雨はやっぱ字の如く霧なんだ。

 遠く遠くを見れば陽炎めいた霧の遠景。

 下は、その反転だけで無く。

 優しい雨によって、水面の反射が常に揺らぐ。

 あぁ…何て、綺麗。

 美しいってこの事だと思う。

 ホント、凄く、綺麗だ。

 高校も近い。

 今日は原動機の授業だ!

 エンジンの仕組みは良いんだよね。

 ディーゼルは、ほぼそのままなのに点火プラグ無しで燃焼とかイミフ(笑)

 あの公式はムズい…公式は嫌い。

 メンドいからテキトーに組み替えちゃお!

 あれ?でも確か実習って?

 何やんだろ?たぁのしみぃ〜!

 それは将来就く仕事に繋がる夏の朝の出来事だった。

 その日受けた授業が何より楽しく、これを機に

 後の自分が自動車整備士を目指し、誰もが聞いたことは有る会社に長く長く勤め続ける等とは知らなかった。

 それでも毎日は輝いていた。

 夫婦喧嘩。

 酒乱。

 虐待。

 暴力。

 無関心。

 親子逆転。

 金銭の搾取。

 変わらず続いている。

(けど。あの子が。あの子さえ居れば私は何も怖くないし痛くもない)

 21歳のその日迄は一緒だった。

 椿の悪ふざけから怒った相手に無視されるようになっても、一年後のスキー教室でばったり会えば互いにいきなり土下座を始めるくらい。

所謂腐れ縁。

 良くある関係の中に異物が混じるならそれは、椿から彼女への感情だけだろう。

「まっちゃんはさ、美優由に萌えてるよね?」

「萌え、理解んない」

「や、アンタのそれだから」

「そ?理解んない」

 既に萌えは通り越し、狂信と変わらなかった。

 小鳥遊 美優由が是と言えば是で、否と言えば否。

 妄信、盲信、狂信…

 恐らく彼女が死ねと言えば、椿は迷わず死んでいた。

 椿もまた【死は永遠】という呪縛から逃れられていないのだ。

「いつも捨てられた子犬のような目で私達を見てたね」

 とある悪戯をしてしまい、無視され続けていた頃を回顧した友が言った。

「そ、そだっけ?う〜ん。そかも」

 ここにも哀しき忠犬が居る。

 出会いから、別れのその時まで克明に記録し、

今だって全て間違える事なく言い当てられるのに。

あんなにも一緒だった貴方は、とうに居ない。

 空に託した彼女は大空を仰ぎながら何を想うのだろう。

決まりきっている。

こんな結末なんて、昔から識っていた。

己の感情が行きすぎているのも理解りきっていた。

でも、止められなかった。

 歪いびつだ、歪みきってる、女同士なんてオカシイ。

時代としても同性は認められておらず、終わりは視えていた。

 それでも

「だけど

あの日々に後悔なんて していないから

どんな時も 胸を張って 言えるよ」

 当時小鳥遊が好きだったアイドル、山本サヤカさんと所属のdream。

 その中で椿が最も共感し、好きな曲だ。

 ヒカルの碁の主題歌や、犬夜叉のエンディング、カスタムロボV2のテーマソングが有名だけど、これは外せない。

 きっと、出会いも別れにもさしたる意味は無かった。

それでも別れを望んだのは自分で、実際に離れたのも自分からだったものだから意味を求めたがるのだ。

 そうして少しの後、神奈月 椿は眠るようになった。

あの日々を、忘れぬ為、キミを憶い出という化石にせぬ為、その破天荒な人生を止め、普通を望んだ。

 受け取ったのが空。

 空は何処までも普通でお人好しなだけの、何処にでも居る家族と会社が大好きな女の子だった。

 ポンコツ社畜なのは、何より仕事が好きだから。

 そんな空の初恋の相手は、椿だった。

 触れる事も見る事も出来ない己の輝かしい過去。

正反対の道を正反対な性格と勢いで突き進んだ、

もう一人のわたし。

 鏡合わせでも夢でも、貴方に会ってお話し、したいのに。

あなたはどこまでも、とおい。

(夢。これも、夢。

 なんて綺麗な。決して触れてはいけない。

 侵すべからざる、私の大切…即ちパンドラの宝石)

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

長月 空

長月 空

ポンコツ社畜です。不登校、休職&復職、精神障害を複数経験している「自称:ハードモード人生を縛りプレイで楽しむ狂人(笑)」。人としても作曲家としても敬愛してるのは梶浦由記さん

👥 フォロワー: 2人

作者ページを見る