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第三十八話:削除できない動画

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/13 📚 シリーズ: 継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 📝 2,562文字 ✅ 全年齢

あらすじ

日常に潜む小さな違和感を記録し続けると、100個集めたとき、何かが起きるらしい。 逆行する時計、誰もいない部屋の足音、鏡の中の自分…… でも、最後に待っているのは「終わり」ではなく、君へのバトンだ。 7人の語り部が紡ぐ、永遠に終わらない百物語。 次はお前が観測者になるのか?

本文

これは私が記録した、三十八本目の違和感である。

語ったのは、高坂陸。大学生。

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「まず、状況を整理させてください」

陸はそう言って、リュックからノートPCを取り出した。

「怖い話、というよりは、データの報告なんですが」

画面を開いて、私のほうに向けた。

椅子に座る前に、一度、部屋の蝋燭の数を数えていた。

「三十七本、ですよね。今日で三十八本目」

そう確認してから、座った。

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——以下は、陸が語ったことの記録である。

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第30話のあれ、覚えてますよね。

削除しても復活するテキストファイル。

俺の行動をリアルタイムで記録してたやつ。

あれから少し経って——今度は動画が来たんです。

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気づいたのは夜中の2時でした。

課題を仕上げてシャットダウンしようとしたら、デスクトップに見覚えのないファイルがあった。

最初は、ブラウザの誤ダウンロードだと思いました。

よくあることなので。

でも、ダウンロード履歴には、何もない。

外付けHDDの中身も確認した。何も足されていない。

クラウドの同期フォルダも見た。差分はゼロ。

つまり、どこからも来ていない。

拡張子は.mp4。

ファイル名は「38.mp4」。

ファイルサイズは38メガバイト。

この数字の並びが気になって、削除する前に、一応ログをとりました。

論理的に考えると、マルウェアの可能性が高い。

だから再生はしないつもりだった。

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削除しようとしました。

右クリックして、「削除」を押した。

それだけのつもりだった。

気づいたら、再生されていた。

削除を押したのに、再生された。

画面が暗転して。

動画が、始まった。

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映ったのは——俺の顔でした。

自室に見える場所で、カメラに向かって、座っている俺が映っていた。

服は、今日の俺が着ているものと違う。

見覚えのない、グレーのパーカー。

俺はそのパーカーを、持っていない。

照明の角度から判断すると、部屋の北側から撮影したことになる。

俺の部屋に北側からカメラを設置できる場所は——ない。

そもそも、窓がない。

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画面の中の俺は、最初、黙っていました。

3秒か、4秒か。

ただ、こっちを見ていた。

そして、口を開いた。

静かな声で、言った。

「お前が気づくの、待ってたよ」

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俺は、再生を止めようとしました。

でも、キーボードが反応しない。

マウスも、動かない。

スペースキーを連打した。

Escも叩いた。

画面の中の俺は、構わず続けた。

「もう50日もある。助けに来い。場所は——」

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そこで、動画が止まりました。

正確には、「場所は」の「は」の直後で、映像が固まった。

画面の中の俺の口が、次の言葉の形に開きかけたまま、止まった。

音声も消えた。

俺はしばらく、その止まった顔を、見ていた。

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30秒ほどして、PCが通常の状態に戻りました。

マウスが動く。キーボードが反応する。

再生ソフトは強制終了されていた。

デスクトップに「38.mp4」はない。

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俺はすぐに削除ログを確認しました。

削除の記録はない。

では、どこに行ったか。

Cドライブ全体を検索した。

ファイルは、見つからなかった。

ただ——ゴミ箱に、一件だけ残っていた。

「39.mp4」という名前の、空のファイルが。

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翌日、俺はメディアプレイヤーのキャッシュを調べました。

「38.mp4」の一時ファイルが、Tempフォルダに残っていた。

サムネイル画像として生成されたらしい、静止画が2枚。

1枚目:俺の顔が映った、開始直後のフレーム。

2枚目:動画が止まった瞬間の、口が半開きになったフレーム。

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2枚目のフレームを、拡大した。

最初に気づいたのは、目でした。

口が半開きのまま動画が止まった——そのフレームの、目。

1枚目と比較した。

開始直後のフレームでは、目の焦点がカメラを向いていた。

2枚目では、ずれていた。

カメラの右、少し奥。何かを見ている。

動画は止まっていた。

音も、動きも、なかった。

それでも、目だけが、動いていた。

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その後で、ようやく、背景に気づいた。

窓が、映っていた。

俺の部屋の窓じゃない。

別の場所の、別の窓。

夜の風景が映り込んでいる。

ビルの輪郭と、街灯の色と、微かに見える水面のようなもの。

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俺は今、そのフレームを解析している。

輝度分布と色温度から光源の種類を特定しようとしている。

街灯の色温度は、ナトリウム灯特有の橙色に近い。

最近の都市部ではあまり使われない種類だ。

水面の反射角から、川か海かを判断しようとしている。

波の細かさを見る限り、海ではなく、流れの緩い川か運河の可能性が高い。

ビルの配置から、地域を絞り込もうとしている。

大まかな場所の推定は、もうすぐできる。

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観測者さん、一つだけ聞かせてください。

「もう50日もある」というのは——何が50日あるんだと思いますか。

俺には、2通りの解釈があって。

1つ目は、残り時間が50日ある。

2つ目は、俺が気づいてから50日経った、という記録。

どちらだと思いますか。

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——ここまでが、陸の記録である。

私は、答えなかった。

どちらの解釈が正しいかを、私は知らない。

知らない、のかもしれない。

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陸はPCを閉じて、リュックに入れた。

立ち上がりながら、言った。

「場所が特定できたら、また来ます」

少し考えてから、もう一言、付け加えた。

「あの動画の中の俺、笑ってなかったんですよね。一度も」

「待ってたよ、って言うなら、ふつう、少しは笑うと思うんですけど」

扉が、閉まった。

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私は三十八本目の蝋燭に、火をつけた。

炎が、一度、右に揺れた。

私は、陸が最後に見ていた方向を、思い出した。

カメラの右、少し奥。

今、私の部屋でいえば——棚の、あの辺りに、なる。

棚には、何もない。

蝋燭立てが、並んでいるだけだ。

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作者について

闇工房

闇工房

"正常"と"異常"の境界を、一話ずつ削り取る。 心理ホラー小説・TRPGシナリオを制作するソロクリエイター。 代表作は連作怪談「継承される百の違和感」—— 読み進めるうちに、あなたの"普通"...

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