『可変戦闘機という名の欺瞞』
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あらすじ
世界の危機に立ち向かう、数々のスーパーロボット。 νガンダム、マジンガーZ、ゲッターロボ、エヴァンゲリオン、バルキリー、勇者ロボ、そして各世界から集められた名機たち。 だが、彼らが戦場から帰ってくる場所には、英雄とは別の戦いが待っていた。 「フィン・ファンネルを投げ槍にするな!」 「ゲッターの部品が、また勝手に形を変えたぞ!」 「格納庫内で歌うな! 計測器が共鳴している!」 「他作品の武装を、面白そうという理由で取り付けるな!」 異なる技術、異なる規格、異なる常識。 機械、生命体、金属生命体、人格搭載ロボット、自己修復機、気合いで出力が上がる機体。 各作品の整備士、技術者、博士たちは、世界の垣根を越えて協力しながら、次々と持ち込まれる無理難題へ立ち向かう。 これは、世界を救う英雄たちの物語――ではない。 英雄が壊して帰ってきた機体を、夜通し直す者たちの物語である。 クロスオーバー作品ならではの技術格差や設定の違いを、整備現場から描く会話中心のコメディ二次創作。 第三格納庫では今日も、敵襲より先に整備班の怒声が響く。
本文
統合整備基準策定会議が崩壊する、三時間前。
第三格納庫の管制室に、未確認艦から入電があった。
『こちら、新統合軍所属試験部隊。着艦許可を求む』
管制官が識別情報を確認する。
モニターに映ったのは、航空機だった。
少なくとも、その時点では。
白と赤に塗られた前進翼機。
青い二本角を持つ可変戦闘機。
大型のスーパーパックを背負った機体。
そして、派手な赤色に塗られ、機体各部へスピーカーを搭載した正体不明の航空機。
榊清太郎は映像を見上げた。
「飛行機か」
その声には、久しく失われていた安堵があった。
翼がある。
吸気口がある。
ノズルがある。
人型でもなければ、生物でもなく、気合いで巨大化している様子もない。
整備という言葉が通用しそうな形をしていた。
シバシゲオも頷く。
「ようやく、まともな乗り物が来ましたねえ」
アストナージ・メドッソが端末を確認する。
「可変戦闘機、バルキリーか。航空機なら専門外だが、少なくとも部品が脈打つことはないだろう」
格納庫へ警告音が響いた。
先頭を飛んでいた白と赤の機体が減速し、主翼とエンジンブロックを折り曲げた。
機首が持ち上がる。
脚が生えた。
腕が出た。
航空機は着陸直前、人型へ変形した。
榊の顔から安堵が消えた。
「帰れ」
シゲが慌てて止める。
「まだ降りてもいませんよ!」
「飛行機が空中で人型になるような部隊を入れるな!」
続く機体は、完全な人型にはならなかった。
脚部だけを展開し、両腕を機体下部へ伸ばした中間形態で滑るように着地する。
榊は頭を抱えた。
「途中で諦めた形まであるのか」
通信機から若い女の声が届いた。
『ガウォーク形態です! 低速時の機動性と作業性を両立した、合理的な形態なんですよ!』
桃色の整備服を着たマキナ・中島が、VF-31ジークフリードのコックピット横から身を乗り出していた。
機体が停止すると、マキナは昇降ワイヤーも待たず、脚部から軽やかに飛び降りる。
「うわあっ! ここが混成部隊の格納庫!?」
目を輝かせ、周囲を見回す。
νガンダム。
エヴァンゲリオン初号機。
マジンガーZ。
ゲッターロボ。
イングラム一号機。
マキナは両手を胸元で握った。
「メカメカ天国!」
榊が即座に言った。
「地獄だ」
「この子がイングラムちゃん? 装甲の角張り方が硬派で可愛い!」
「ちゃん付けするな」
「こっちはマジンガー君! 胸の放熱板が大胆!」
「放熱板ではない! ブレストファイヤーじゃ!」
せわし博士が抗議する。
マキナは初号機を見上げた。
「この紫の子、ちょっと生っぽいですね」
初号機の露出した皮膚が、かすかに動いた。
マキナは笑顔のまま二歩下がった。
「この子だけ、後で紹介してください」
「賢明な判断だ」
アストナージが言った。
白と赤のYF-19から、二人の男が降りてきた。
先に降りたパイロット、イサム・ダイソンは格納庫内を見渡し、愉快そうに口笛を鳴らす。
その後ろから降りたヤン・ノイマンは、端末を見たまま怒鳴った。
「イサム!」
「着いた早々、何だよ」
「主翼の基部に亀裂が入っている!」
「着艦できただろ」
「着艦できたことと、壊れていないことは別です!」
ヤンは翼の下へ走り、亀裂を指さした。
「なぜ機体制限を解除した!」
「追いつけなかったから」
「誰に!」
イサムは顎で、後方の青いVF-31を示した。
「青い奴」
VF-31からハヤテ・インメルマンが降りてくる。
「俺は普通に飛んでただけだ」
「踊るように飛びやがって。面白そうだったから追った」
「空は競技場じゃないぞ!」
ヤンが叫ぶ。
榊はアストナージへ顔を向けた。
「飛行機の方がまともだと言ったのは誰だ」
「俺ではない」
「お前も同意した顔をしていた」
「顔まで責任を負わせるな」
その横で、イアン・ヴァスティがYF-19を観察していた。
「熱核反応エンジンで大気圏内外を飛び、人型へ変形するのか」
ヤンは少し誇らしげに頷いた。
「機体制御には高度なAI補助を使用しています。空力特性、推力偏向、変形時の姿勢制御をリアルタイムで――」
「リミッターを外せるのか?」
ロイド・アスプルンドが、いつの間にか隣へ立っていた。
ヤンの表情が固まる。
「なぜ最初にそこを聞くんです」
「外せるんだね」
「外しません」
イサムが親指を立てた。
「外せるぜ」
「あなたは黙っていてください!」
少し離れた場所では、ルカ・アンジェローニがVF-25メサイアの電子装備を展開していた。
無数の小型無人機が周囲を飛び、格納庫内の設備を測定している。
アストナージが眉をひそめた。
「その小さいのは何だ」
「ゴーストです。索敵、電子戦、情報収集に使います」
「自律兵器か?」
「制御下にあります」
「暴走したことは」
ルカは一瞬だけ黙った。
「……安全策は講じています」
「暴走したことがある奴の答えだな」
マキナはすでにランスロットの脚部へ潜り込んでいた。
「この車輪、面白い! 飛ばずに地面を高速移動するんだ!」
セシル・クルーミーが隣で説明する。
「ランドスピナーです。市街地での機動性を確保するための装備で――」
「バルキリーの脚に付けてみません?」
セシルは少し考えた。
「ガウォーク形態なら、有効かもしれません」
榊が二人の間へ割って入った。
「止めろ」
「まだ相談しているだけです」
「技術者が面白いと言って始めた相談は、必ず実物を作るところまで行く!」
ロイドが遠くから声を上げる。
「そのとおり!」
「お前は賛同するな!」
最後に、赤いVF-19改が着陸した。
着陸と同時に、格納庫内へ大音量のギターが響いた。
『俺の歌を聴けぇっ!』
整備員たちが一斉に耳を塞ぐ。
VF-19改はガウォーク形態へ変形し、翼下のスピーカーポッドを展開した。
榊が叫ぶ。
「格納庫内で武装を開くな!」
機体から降りてきた熱気バサラは、ギターを背負ったまま答える。
「武装じゃねえ。歌を届けるための物だ」
「兵器の翼に付いている物は、ひとまず武装として扱う!」
「歌は兵器じゃねえ!」
その後ろから、Dr.千葉が大量の測定器を抱えて現れた。
「いえ、歌エネルギーは対象の精神状態と生体反応に作用します。条件によっては、兵器以上の効果を――」
「では危険物だ!」
榊が即断した。
Dr.千葉は初号機を見上げる。
「素晴らしい。あの人造人間へ歌エネルギーを照射すれば、シンクロ率に変化が起きる可能性がある」
赤木リツコの声が背後から飛んだ。
「無許可の実験は認めません」
「科学の発展には検証が必要です!」
「検証対象が暴走した場合、あなたが止めるの?」
「歌で!」
「却下します」
バサラは初号機の前まで歩き、見上げた。
「こいつ、歌を聴いてねえな」
榊が眉を寄せる。
「寝ているのではないか」
「起きてるとか寝てるとかじゃねえ。心を閉じてやがる」
初号機の指先が、ほんのわずかに動いた。
整備員たちは全員、後ずさった。
バサラだけがギターを構える。
「よし。まずは一曲――」
リツコがバサラの襟首を掴んだ。
「外でやりなさい」
「歌に場所なんか関係ねえ!」
「ここには音圧で誤作動する試験機器が四百点あるの」
「だったらそいつらにも聴かせてやる!」
「機械は観客ではありません」
マキナが元気よく手を挙げた。
「機械にも心はあります!」
アストナージ、榊、イアンが同時にマキナを見る。
マキナは笑顔で続けた。
「比喩的な意味で!」
三人は少しだけ安心した。
「でも、たまに本当にあります!」
安心は即座に失われた。
ヤンは格納庫の整備設備を確認しながら尋ねた。
「可変戦闘機用の整備区画はどこですか」
榊が答える。
「ない」
「変形機構用の支持架台は?」
「ない」
「航空機用のエンジン整備設備は?」
「ない」
「では、どうやって整備を」
榊はνガンダム用の大型架台、イングラム用の移動足場、ランスロット用の小型クレーンを指さした。
「組み合わせて使え」
ヤンは絶句した。
マキナは喜んだ。
「わあ、現場合わせ!」
「喜ぶところではない!」
ルカが端末で寸法を計算する。
「VF-25をファイター形態で固定するなら、νガンダムの脚部架台を横倒しにして、イングラム用の支持具を四基追加すれば可能です」
アストナージが首を振る。
「νガンダムが出撃したらどうする」
「バトロイド形態で立たせます」
「整備中の機体を自立させるな」
マキナが提案する。
「ガウォークなら三点で支えられますよ」
榊が机を叩く。
「だから途中の形で妥協するな!」
マクロス勢の到着から、一時間後。
第三格納庫の整備分類表に、新たな項目が追加された。
人型機動兵器。
生体兵器。
自律変形兵器。
気合い駆動兵器。
航空機。
航空機兼人型機動兵器。
航空機兼人型機動兵器兼音響装置。
榊は最後の項目を見つめた。
「分類したことで、余計に分からなくなった」
ヤンが隣で頷く。
「バルキリーとは、そういう機体です」
「誇らしげに言うな」
格納庫の奥で、マキナとセシルがランドスピナーをVF-31の脚へ当てて寸法を測っていた。
ロイドはYF-19の制御プログラムを覗き込んでいる。
Dr.千葉はエヴァンゲリオン用スピーカーの設計図を描いていた。
バサラはマジンガーZの頭上に座り、ギターを鳴らしていた。
せわし博士は「光子力と歌エネルギーの共鳴」という題名の資料を読み始めている。
榊は深く息を吸った。
「全員、手を止めろ!」
誰も止めなかった。
マクロス勢は格納庫へ到着した。
そして、整備班が守ろうとしていた最後の常識は、三段変形しながら飛び去った。
『非承認兵装交換会』
統合整備基準策定会議が崩壊した直後。
整備責任者たちは第三格納庫へ走っていた。
先頭を走るイアン・ヴァスティが、格納庫の大型扉を蹴り開ける。
「刹那ぁっ! それは剣じゃない!」
中央作業区画では、ガンダムエクシアがウイングガンダムゼロのツインバスターライフルを両手で構えていた。
刹那・F・セイエイは、コックピット内で真剣に照準を調整している。
隣にはヒイロ・ユイが立っていた。
アストナージが叫ぶ。
「ヒイロ! なぜ渡した!」
「使用できる可能性があった」
「可能性で他人の機体に主砲を持たせるな!」
刹那の声が通信機から返る。
『この武器なら、より迅速に紛争を根絶できる』
イアンは頭を抱えた。
「エクシアは近接戦闘用だ! 機体の電力系統も照準システムも合っていない!」
『俺が合わせる』
「お前は機械規格ではない!」
その隣では、ガンダムデスサイズヘルのビームシザースを、ゲッター1が握っていた。
流竜馬が笑う。
『いいじゃねえか! ゲッタートマホークより長い!』
神隼人は冷静に観察していた。
『重量配分も悪くない』
アストナージが隼人を睨む。
「お前は止める側だろう!」
『使える物を試しているだけだ』
「それを止めるのが整備会議の参加者だ!」
格納庫の反対側では、マジンガーZがガンダムヘビーアームズのビームガトリングを装備していた。
兜甲児が上機嫌で銃身を回転させる。
『すげえ! 弾切れを気にしなくていい機関銃だ!』
トロワ・バートンが地上から見上げる。
「エネルギー供給が続けばな」
せわし博士が配線を確認した。
「光子力エネルギーを変換すれば撃てるかもしれん」
榊が博士を睨んだ。
「なぜ協力している!」
「科学者として、可能性を確かめたくてのう」
「さっきの会議で何を学んだ!」
「変換アダプターを作ることになった」
「決定事項を最悪の速度で実行するな!」
さらに奥。
ランスロットはVF-25用のスーパーパックを背負っていた。
枢木スザクが推進器を試験稼働させる。
ランドスピナーが床を滑り、背部ブースターが白煙を噴いた。
機体は前方へ高速移動し、そのまま整備資材の山へ突っ込んだ。
セシルが悲鳴を上げる。
「スザク君!」
資材の中から、スザクの声が返る。
『推力配分に問題があります』
ロイドは拍手した。
「分かったことが一つ増えたね」
榊はロイドへ詰め寄った。
「お前が付けたのか!」
「僕だけではないよ」
マキナがランスロットの足元から顔を出した。
「取り付けは私です!」
「嬉しそうに名乗るな!」
マキナは端末を見せる。
「ナイトメアフレームは軽いので、バルキリー用ブースターとの相性は良いと思ったんです。でも、姿勢制御用スラスターが足りませんね」
ラクシャータが煙管を揺らす。
「フロートユニットと併用すればいいんじゃないのぉ?」
セシルが考え込む。
「制御系を統合できれば……」
榊が叫ぶ。
「反省しろ! 考察を始めるな!」
νガンダムの背中には、VF-31用のフォールドクォーツ搭載コンテナが仮固定されていた。
アムロがコックピット内から通信する。
『サイコフレームとフォールドクォーツには、似た反応がある』
アストナージの顔色が変わった。
「外せ」
『まだ測定中だ』
「外せ!」
『人の意思を増幅する素材同士なら、干渉を確認する必要がある』
「お前まで技術者みたいなことを言うな! 自分で実験機に乗る技術者が一番危険なんだ!」
その横では、ルカが大量のゴーストを展開していた。
ゴーストの一機が、νガンダムのフィン・ファンネルへ接近する。
ルカが興奮気味に説明した。
「自律制御とサイコミュ誘導を統合すれば、操縦者の負荷を減らせます!」
アムロが答える。
『自律判断が介入すると、意図した動きから遅れる』
「予測アルゴリズムを調整します!」
アストナージが二人の間へ割り込んだ。
「失くしたファンネルの代わりを、勝手に無人機で埋めるな!」
ルカは小さく言った。
「同じような物かと……」
「大きさ以外、ほとんど違う!」
その時、大音量のギターが響いた。
全員が音の方向を見る。
熱気バサラのVF-19改が、エヴァンゲリオン初号機の肩へ巨大なスピーカーポッドを取り付けていた。
赤木リツコの眼鏡が、照明を反射した。
「誰の許可を得たの」
バサラはギターを鳴らしながら答える。
「許可を待ってたら、歌いたい時に歌えねえ」
「エヴァにスピーカーは必要ありません」
Dr.千葉が資料を掲げる。
「しかし、エヴァンゲリオンとパイロット間の同期に、歌エネルギーが作用する可能性は高い!」
伊吹マヤが端末を確認する。
「先ほどの試験音で、初号機の脳波パターンに変化が出ています!」
リツコが振り返る。
「試験したの?」
マヤは青ざめた。
「私ではありません!」
初号機のエントリープラグ内部から、碇シンジの声が聞こえた。
『僕が……少し聴いてみたいと言いました』
リツコは目を閉じた。
榊が同情するように肩へ手を置く。
「部下だけではなく、パイロットまで乗り気になると止められん」
「慰めになっていないわ」
バサラが叫ぶ。
「シンジ! 機械に歌わせるんじゃねえ! お前が歌え!」
『えっ』
「エヴァに乗ってる時だけが、お前の全部じゃねえだろ!」
初号機の肩に取り付けられたスピーカーから、ギター音が流れ始めた。
シンジは困惑したまま、小さく声を出した。
『残酷な――』
リツコが即座に通信を切った。
「その選曲は駄目」
榊が尋ねる。
「なぜだ」
「説明すると長くなるわ」
格納庫の端では、イングラム一号機がVF-1用のガンポッドを構えていた。
泉野明が楽しそうに照準を動かす。
『これ、リボルバーカノンより弾が多いです!』
シゲが足元で叫ぶ。
「野明さん、引き金には触らないでくださいよ!」
『安全装置は?』
「規格が違うので分かりません!」
『じゃあ、どれが引き金ですか?』
「触らないでと言ってるでしょう!」
榊が一号機の前へ走る。
「泉! 今すぐ置け!」
『でも、持ちやすいですよ』
「レイバーの手は、物を持てば壊れる可能性がある!」
『手って、持つためにあるんじゃないですか?』
榊は一瞬、言葉に詰まった。
「今は哲学をしている場合ではない!」
その上空を、VF-31がガウォーク形態で通過した。
両腕には、ランスロットのヴァリスと、ガンダムエクシアのGNソードを持っている。
ハヤテが通信する。
『この剣、ガウォークでも振れるぞ』
刹那が即座に反応した。
『返せ』
『今、お前はバスターライフルを持ってるだろ』
『GNソードはガンダムだ』
『会話になってないぞ』
マキナが地上から歓声を上げる。
「異作品装備の空中試験! データ取れました!」
ヤンが頭を抱える。
「なぜ試験飛行を許可した!」
「ハヤテが、ちょっと浮かせるだけって」
「パイロットの『ちょっと』を信用するな!」
その言葉に、格納庫内の整備責任者たちが一斉に頷いた。
イサムがYF-19のコックピットから顔を出す。
「何だよ。ちょっとくらいいいだろ」
ヤンは振り返った。
YF-19の翼下には、ウイングガンダムゼロの予備シールドが二枚取り付けられていた。
「あなたは何を付けているんです!」
「空力が変わって面白そうだから」
「今すぐ外してください!」
「一回飛んでから」
「飛ばせません!」
「じゃあ、滑走だけ」
「同じです!」
混乱の中心で、ノーマン・バーグだけが静かに紅茶を注いでいた。
その背後には、ビッグ・オー。
交換用の右腕として、マクロスクォーターの艦載砲が無理やり固定されている。
榊がカップを受け取りながら尋ねた。
「おい」
「はい」
「あれは何だ」
ノーマンはビッグ・オーを見上げた。
「ミスター・スミスが、交渉力の強化を希望されまして」
「お前まで参加したのか!」
「腕の修復には時間が必要です。使用可能な代替品を探すのは、整備士として自然な判断かと」
「戦艦の砲を腕にするな!」
ビッグ・オーの通信機から、ロジャー・スミスの声が響く。
『兵器の威力は、交渉開始前の説得力に影響する』
榊は紅茶を一気に飲んだ。
「お前の交渉は、最初から最後まで暴力だ!」
警報が鳴った。
敵部隊の接近。
出撃まで、十分。
整備責任者たちは動きを止めた。
格納庫には、本来の装備を失った機体と、他作品の兵装を抱えた機体が並んでいる。
イアンがエクシアを見上げる。
「十分で元に戻せるか?」
整備員が首を振った。
「変換アダプターを溶接しています。取り外しには二十分以上かかります!」
アストナージがνガンダムを見る。
「フォールドコンテナは」
「固定解除に十五分!」
榊がイングラムを指さす。
「ガンポッドは置くだけだろう!」
シゲが叫ぶ。
「指が食い込んで外れません!」
リツコが初号機を見る。
「スピーカーは」
マヤが答える。
「装甲の再生組織が固定具を取り込んでいます!」
リツコの顔が引きつった。
バサラが親指を立てる。
「気に入ったみたいだな!」
「あなたは黙って!」
出撃指令が繰り返される。
整備責任者たちは互いの顔を見た。
元へ戻す時間はない。
このまま出すしかない。
アストナージが低い声で言った。
「帰ってきたら、全員説教だ」
イアンが頷く。
「パイロットだけではない。手伝った技術者もだ」
榊が腕を組む。
「帰ってきた機体は、一機ずつ完全に元へ戻す」
リツコが初号機のスピーカーを見上げる。
「戻せればね」
出撃ゲートが開く。
最初に飛び出したのは、ツインバスターライフルを抱えたガンダムエクシア。
続いて、スーパーパックを背負ったランスロット。
ビームシザースを振り回すゲッター1。
ビームガトリングを装備したマジンガーZ。
フォールドクォーツを背負ったνガンダム。
VF-1用ガンポッドを両手で抱えるイングラム一号機。
巨大スピーカーを肩に載せたエヴァンゲリオン初号機。
艦載砲を腕にしたビッグ・オー。
最後に、熱気バサラのVF-19改が飛び立つ。
『武器なんか交換して喜んでんじゃねえ!』
バサラの歌声が戦場へ響いた。
『お前ら全員、俺の歌を聴けぇっ!』
榊は出撃していく機体を見送り、静かに呟いた。
「最もまともなことを言っている奴が、最もうるさい」
ヤンが隣で頷く。
「マクロスでは、よくあることです」
「慣れたくない文化だ」
十分後。
戦場から最初の報告が届いた。
ツインバスターライフルを撃ったエクシアが、反動で後方へ吹き飛んだ。
スーパーパック付きランスロットが、制御不能のまま敵陣を一周した。
ゲッター1のビームシザースが、なぜか巨大化した。
マジンガーZのビームガトリングは、光子力エネルギーを流した瞬間、光子力ガトリングへ変質した。
νガンダムのサイコフレームとフォールドクォーツが共鳴し、周囲の敵味方へ歌声が直接届き始めた。
初号機は肩のスピーカーを自ら増殖させた。
アストナージは報告書を閉じた。
「整備基準に、新しい禁止事項を追加する」
榊が端末を開く。
「何と書く」
アストナージは戦場の映像を見た。
武装も技術も世界観も混ざり合い、誰にも説明できない光を放っている。
「他作品の装備を、面白そうという理由で取り付けてはならない」
ヤンが付け加える。
「空力を試したい、も入れてください」
イアンが言う。
「紛争を根絶できそう、もだ」
リツコが眼鏡を直す。
「歌を聴かせたい、も追加して」
榊は入力を終えた。
禁止事項、全四項目。
その直後、戦場からマキナの通信が入る。
『ランドスピナーとガウォーク形態の相性、すっごく良かったです! 次は正式に試作しましょう!』
榊は端末を机へ伏せた。
「禁止事項は、読まれないためにあるのか」
第三格納庫に、答える者はいなかった。
全員、心当たりがあったからだ。
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