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昔々、酒の肴の話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/15 📚 シリーズ: 彼方のラブレター 📝 2,202文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

それは、彼方から届いた、ちょっと不思議な物語。ショートショート

本文

昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。

夏になると、おじいさんには何より楽しみにしている時間がありました。

夕暮れ時、縁側へ腰を下ろし、庭を渡る風を感じながら、よく冷えた瓶からグラスへ、黄金色の飲み物をゆっくりと注ぐのです。

しゅわしゅわと細かな泡が立ち上り、夕日に照らされてきらきらと輝きます。

「いやぁ、この一杯のために今日一日働いたようなもんじゃ」

おじいさんは満足そうに笑いました。

縁側には、小皿が一枚。

その上には、ほんの少しだけ塩辛がのっています。

たったそれだけなのに、おじいさんは塩辛をほんの少し箸でつまみ、それからビールをひと口。

「うまい」

また塩辛を少し。

またビールをひと口。

それを何度も繰り返していました。

そんなある日、一人の旅人が家の前を通りかかりました。

「こんばんは」

「おや、旅の人か」

おじいさんは手を振ります。

「夕涼みにはちょうどいい風じゃ。よかったら一杯付き合わんか」

旅人は恐縮しながら縁側へ腰を下ろしました。

おじいさんは新しいグラスを取り出し、冷えたビールを注ぎます。

旅人はそっと飲んでみました。

「おいしい……」

「じゃろう」

旅人は小皿を見つめます。

「それは何ですか」

「酒の肴じゃ」

「肴?」

「酒と一緒につまむもんじゃよ」

旅人は塩辛をほんの少し口へ入れました。

「しょっぱい!」

思わず顔をしかめます。

おじいさんは大笑いしました。

「それでええんじゃ」

「え?」

「しょっぱいから、また飲みとうなる」

旅人はビールをひと口。

「あ、本当だ」

「じゃろう」

旅人は不思議そうに尋ねます。

「でも、どうしてそんな少ししか食べないんです?」

「一気に食べたら、なくなるじゃろ」

「なくなりますね」

「だから少しずつ食べる」

「ずいぶん我慢強い食べ物なんですね」

おじいさんは吹き出しました。

「そういう見方もあるのう」

旅人は感心したように頷きます。

「僕たちの時代のお酒は、考えるだけで好きな味になります」

「ほう」

「体にも一番いい状態になります」

「便利じゃのう」

「だから酒の肴というものがありません」

「そうか」

「お酒だけで完成しているんです」

おじいさんは少し考えて言いました。

「それもええが……」

「なんです?」

「酒の肴は、味だけじゃないんじゃ」

旅人は首をかしげました。

「話の種になる」

「話の種?」

「『この塩辛はうまい』とか」

「『ちょっとしょっぱい』とか」

「『もう少し食べるか』とか」

「そんな話をしながら飲むんじゃ。」

旅人は少し笑いました。

「食べ物が会話を作るんですね」

その時でした。

台所から、おばあさんの元気な声が聞こえてきます。

「茹で上がったよー!」

おじいさんは、ぱっと顔を輝かせました。

「おっ、来た来た!」

おばあさんは大きなざるを抱えて縁側へやってきました。

ざるには、茹でたての枝豆が山のように盛られています。

湯気と一緒に、青々とした香りがふわりと広がりました。

「今日は出来がいいよ」

「待っとった」

おじいさんは嬉しそうに枝豆を取りました。

おばあさんも縁側へ腰を下ろします。

「お客さんもいるんだね」

「そうじゃ」

「それなら、私もご相伴にあずかろうかね」

おばあさんはグラスを受け取り、三人で乾杯しました。

旅人は枝豆を手に取ります。

「これはどうやって食べるんですか」

「こうじゃ」

おじいさんは器用にさやを押して、豆を口へ放り込みました。

旅人も真似します。

ぽん。

「あっ!」

豆が勢いよく飛び出して、おじいさんの膝へ転がります。

三人は思わず笑いました。

「最初はみんなそうなる」

旅人はもう一度挑戦します。

今度は成功です。

「おいしい!」

「じゃろう」

「でも、一つずつ取り出すんですね」

「そうじゃ」

「面倒じゃありませんか」

おばあさんが笑いました。

「その面倒がいいんだよ」

「え?」

「一粒食べて、一口飲んで、また話して」

「気がつくと、枝豆がなくなってる」

旅人は山盛りだったざるを見ます。

本当に、いつの間にか半分になっていました。

「歴史の授業で習いました」

旅人は急に思い出したように言いました。

「昔の人は、枝豆を食べ始めると止まらなくなったそうですね」

「その通り」

「しかも、食べ終わると、豆よりさやの方が山になっていたとか」

「その通り」

「さらに、お酒を飲んでいる人は、自分が何本目なのか分からなくなっていたとか」

おじいさんは咳払いをしました。

「……それは歴史が少し盛っとる」

おばあさんは声を立てて笑います。

「昨日も『今のが一本目じゃ』と言いながら、実際は三本目だったじゃない」

「ありゃ数え直したんじゃ」

「何を?」

「人生を」

旅人は笑いすぎてビールを吹き出しそうになりました。

夕風が縁側を吹き抜けます。

風鈴が、ちりん、と涼しげな音を鳴らしました。

旅人は空になったざると、山になった枝豆のさやを見比べます。

「僕たちの時代には、お酒はあります」

「でも」

「酒の肴をつまみながら、どうでもいい話で笑う夜はありません」

「枝豆のさやを山ほど積み上げることも」

「塩辛いと言いながら、また一口飲むことも」

「きっと、便利になる途中で置いてきてしまったんでしょうね」

おじいさんは静かにグラスを掲げました。

「それなら、今日は置いて帰らんようにしなさい」

旅人も笑ってグラスを掲げます。

おばあさんも一緒に乾杯しました。

三つのグラスが、小さく心地よい音を立てました。

その夏の夕暮れも、縁側には風鈴の音と笑い声が流れ、足元には、山のような枝豆のさやが積み重なっていたのでした。

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JJ

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