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昔々、銭湯の話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/4 📚 シリーズ: 彼方のラブレター 📝 3,381文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

それは、彼方から届いた、ちょっと不思議な物語。ショートショート

本文

昔々、あるところに、一番風呂を楽しみにしているおじいさんがいました

その日の夕方、おじいさんは手ぬぐいと石鹸を持って、いつものように町の銭湯へ出かけていきました

暖簾をくぐると、番台に座ったおかみさんが声をかけます

「おや、今日も一番風呂かい」

「そうじゃ、早くさっぱりしたくてのう」

おじいさんは番台に小銭を置き、脱衣所へ入っていきました

ちょうどそこへ、一人の旅人が暖簾をくぐってきました

「あの、ここは何をする場所ですか」

「銭湯じゃよ あんた、知らんのかい」

「すみません、この辺りには詳しくなくて」

「まあ、たまには入っていきんさい ええ湯じゃぞ」

旅人はおずおずと料金を払い、脱衣所に入りました

おじいさんはさっさと服を脱ぎ始めましたが、旅人はその場に立ったまま、動きませんでした

「どうしたんじゃ」

「あの……ここで、服を脱ぐんですか」

「そうじゃ、当たり前じゃろう」

「他の人にも、見られるということですよね」

「そりゃそうじゃ、銭湯じゃからな」

旅人は落ち着かない様子で、周りをきょろきょろと見回しました

「僕たちの時代は、体を人前にさらすということが、あまりないもので」

「ほう、そうなんか」

おじいさんはシャツを脱ぎながら笑いました

「ここじゃ、みんな一緒じゃよ 裸になれば、誰も彼も似たようなもんじゃ」

旅人はしばらく考え込んでいましたが、やがて意を決したように、服のボタンに手をかけました

「その……勇気が、いりますね」

「最初はみんなそう言う」

旅人はゆっくりと服を脱ぎ、手ぬぐいで前を隠しながら、恐る恐る脱衣所を出ました

ガラス戸を開けると、湯気の立ち込める浴場が広がっています

「うわあ……」

思わず声を上げた旅人の目に、壁一面に描かれた富士山の絵が飛び込んできました

「なんですか、あの絵は」

「富士山じゃよ 銭湯には、たいていこの絵があるもんじゃ」

「どうして富士山なんですか」

「さあ、昔からの決まりじゃな 理由なんぞ、誰も考えたことないわい」

おじいさんは洗い場の椅子に腰を下ろし、目の前の蛇口をひねりました

「まず、蛇口をひねるんですね」

「そうじゃ 赤が湯で、青が水じゃ」

じゃあっと勢いよくお湯が桶に注がれていきます

「両方ひねって、ちょうどええ湯加減にするんじゃよ」

旅人も隣の椅子に座り、見よう見まねで蛇口に手をかけました

「これは、右ですか、左ですか」

「そっちが赤じゃ そっちをひねると熱うなる」

旅人がひねると、勢いよくお湯が飛び出し、桶からあふれそうになりました

「わっ、多い!」

「加減が難しいじゃろ、最初は」

おじいさんは慣れた手つきで桶いっぱいにお湯を溜めると、まず頭からかぶりました

「ざぶん、と勢いよくやるのがコツじゃ」

旅人もおそるおそる桶を持ち上げ、体にかけてみます

「熱っ!」

「そりゃ、さっき赤ばっかりひねっとったからじゃ」

「あ……青も、混ぜないといけないんですね」

「そうじゃ ちょうどええ加減を探るのも、ここの醍醐味じゃよ」

おじいさんは石鹸を手のひらでよく泡立て、腕から丁寧に洗い始めました

「石鹸は、まず泡立ててから、体に乗せるんじゃ」

「泡立ててから、ですか」

「そうじゃ じかにこすると、肌が痛むでな」

旅人も石鹸を手に取り、見よう見まねでこすり合わせます なかなか泡立たず、四苦八苦していました

「うまく泡立ちません」

「もっとお湯を足してみい」

言われた通りにすると、ようやくふわふわとした泡ができ、旅人は少しほっとした顔をしました

肩、腕、背中と、おじいさんは慣れた手つきで順番に洗っていきます 旅人も見よう見まねで、体の隅々まで丁寧に泡を乗せていきました

「背中は、自分では洗いにくいものじゃがな」

「たしかに、届きにくいですね」

「まあ、今日のところは、自分でどうにかしんさい」

旅人は手を後ろに回し、なんとか背中に泡を届かせようと、体をひねりながら奮闘していました

その様子を見ていたおじいさんが、くすりと笑いました

「貸してみい」

旅人は少し戸惑いながら背中を向けます

おじいさんは桶でさっとお湯をかけ、泡立てた石鹸でごしごしと背中を洗ってやりました

「わっ、そこ、気持ちいいです」

「自分じゃ届かんところは、人に頼るもんじゃ」

旅人は照れくさそうに笑いました

「では、お返しします」

今度は旅人が、おじいさんの背中へおそるおそる泡をのせます

「もっと遠慮なくこすってええぞ」

「こうですか」

「うん、それそれ なかなか筋がええ」

浴場には、ごしごしという音と、小さな笑い声が響きました

洗い終わると、二人は最後に、桶のお湯で泡を丁寧に流しました

「ああ、さっぱりした」

旅人も体を見下ろし、少し誇らしげな顔をしています

「なんだか、ちゃんとした人間になった気がします」

「大げさじゃのう」

おじいさんは笑いながら、手ぬぐいを絞ります

しばらくして、二人は湯船へと向かいました

「失礼します」

おじいさんが先に足を入れ、ゆっくりと体を沈めます

「はぁ……極楽、極楽」

旅人も恐る恐る足を入れました

「あつっ!あつっ!」

「最初はみんなそう言う」

旅人は顔をしかめながら、少しずつ体を沈めていきました 肩まで浸かると、詰めていた息を、ほうっと吐き出します

「なんで、こんなに熱いお湯に、わざわざ入るんですか」

「熱いから、ええんじゃ」

「痛いのに、ですか」

「入ってしまえば、そのうち慣れる それに、湯上がりの体は、しゃっきりするぞ」

湯船につかったまま、二人はしばらく黙っていました

窓の外から、夕方の風が入ってきます

「静かですね」

「そうじゃな こういう時間も、悪くないじゃろ」

そこへ、ざぶんと大きな音を立てて、隣に別の常連客が入ってきました

「おう、今日も来とったか」

「おう、そっちもか」

おじいさんと常連客は、湯船の中で世間話を始めました

「今日は暑かったのう」

「暑かった暑かった 仕事がこたえるわい」

「わしなんぞ、腰が悲鳴を上げとる」

「お互い年じゃのう」

旅人はその様子を、不思議そうに眺めていました

「知り合いなんですか」

「いや、ここで会うだけの仲じゃ」

「名前も知らないのですか」

「知らんな じゃが、顔は見飽きるほど見とる」

「名前を知らないのに、話すんですか」

「ここではな、それでええんじゃ」

旅人は湯船の中で、ふと自分の体を見下ろしました さっきまでのためらいが、いつの間にか少し薄れていることに気づきます

「不思議です さっきまで、あんなに恥ずかしかったのに」 「みんな同じ格好しとったら、そのうち気にならんくなるもんじゃ」

しばらくすると、おじいさんは湯船を出て、体を拭き、脱衣所へ戻っていきました

旅人も慌ててついていきます 今度は、手ぬぐいで隠すこともせず、堂々と歩いていました

脱衣所では、おじいさんが冷蔵庫の前に立っていました

「あんた、コーヒー牛乳は飲んだことあるかね」 「いえ、何ですかそれは」 「なら、奢ってやろう」

おじいさんは瓶を二本取り出し、栓を抜きました

「誰に教わったわけでもないのに、みんな腰に手を当てて飲むんじゃ」 「決まりなんですか」 「いや、知らん」

旅人は見よう見まねで腰に手を当て、一気に飲み干しました

「あ、おいしい……!」 「じゃろう」

おじいさんも満足そうに飲み干し、大きく息をつきました

「ぷはぁ これが、たまらんのじゃ」

旅人はしばらく、空になった瓶を見つめていました

「僕たちの時代は、お風呂というもの自体、入りません」 「ほう、体はどうするんじゃ」 「装置に一瞬立つだけで、瞬時に服まで清潔になります」 「便利じゃのう」 「便利なのう じゃが、人に背中を流してもらう気持ちよさまでは、機械には真似できんじゃろ」 「……そうですね」

「だから、こうして知らない人と裸で並んで、世間話をすることも」 「自分で桶に湯加減を合わせることも」 「うまく泡立てられずに苦労することも」

「僕たちの時代には、もう、ありません」

おじいさんは笑いながら、旅人の肩を軽く叩きました

「それなら、また今度、一緒に来るかね」

旅人は少し驚いた顔をして、それから頷きました

「はい、また来ます」

暖簾をくぐって外に出ると、夕暮れの空はすっかり赤く染まっていました

風呂上がりの火照った体に、夕風が心地よく吹き抜けていきます

「ああ、極楽、極楽」

おじいさんはそう呟きながら、家路についたのでした。

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JJ

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