不確実な世界の歩き方

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/19 📚 シリーズ: 不確実な世界の歩き方 📝 1,737文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

<p>インテリアショップを出ると、東京の空は、いつの間にか燃えるような茜色から、夜の帳を引き下ろす深い群青色へと、静かに表情を変えていた。</p><p>八月下旬の、湿気を含んだ熱い風の中に、ほんの僅かだけ、秋の訪れを予感させる冷ややかな夜風が混ざり始めている。</p><p>絢斗の左手には、不揃いなマグカップと、少し歪な手織りのクッションカバーが入った紙袋が、心地よい重みとなって握られていた。そして右手には、香織の柔らかい、温かい手のぬくもりが、変わらずしっかりと繋ぎ止められていた。</p>

本文

インテリアショップを出ると、東京の空は、いつの間にか燃えるような茜色から、夜の帳を引き下ろす深い群青色へと、静かに表情を変えていた。

八月下旬の、湿気を含んだ熱い風の中に、ほんの僅かだけ、秋の訪れを予感させる冷ややかな夜風が混ざり始めている。

絢斗の左手には、不揃いなマグカップと、少し歪な手織りのクッションカバーが入った紙袋が、心地よい重みとなって握られていた。そして右手には、香織の柔らかい、温かい手のぬくもりが、変わらずしっかりと繋ぎ止められていた。

二人は並んで、再び大通りのスクランブル交差点へと向かって歩いていた。

帰宅する会社員や、休日を楽しむ人々で、街は依然として、濁流のようなノイズに満ち溢れていた。

ふと、交差点の赤信号の手前で、絢斗の胸の奥が、どくん、と不自然に跳ね上がった。

(今の動悸は何だ? 脈拍が急に速くなっていないか? 胸の奥が詰まるような気がする。心筋に何らかの不吉な異常が発生しているんじゃないか?)

いつもの、身体の不完全さ(病気)を恐れる「心気症」の警告音が、脳内でパチパチと音を立てて点滅し始める。

それと同時に、すぐ横を通り過ぎていった自転車が、ガタ、と段差を越えて小さくバランスを崩した。

(お前の持っている紙袋の角が、今、あの自転車のスポークに引っかかったんじゃないか? あの人はこの先で転倒し、大ケガを負う。戻って、確認しろ。振り返って、無事を見届けろ!)

強暴な「加害恐怖」の怪物が、絢斗の鼓膜の奥で狂ったように叫び立てる。

スマホのブラウザを開き、心臓の病名を検索したくてたまらなくなる。一瞬だけでいいから、現場を振り返って誰も倒れていないことをこの目で確かめたくて、身体のすべての筋肉が、にわかに引きつる。

だが、絢斗は、立ち止まらなかった。

彼は、ただ、茜色と群青色が複雑に混ざり合う、不確実で、曖昧な、美しい空を見上げた。

そして、自らの内で騒ぎ立てるそのエラーシグナルに対し、仮面の笑顔ではなく、静かな、本当に穏やかな苦笑いを浮かべた。

(ああ、またお前は、僕を守ろうとしているんだね)

絢斗は、心の中でそっと、その脳内のモンスターに向かって語りかけた。

この恐怖も、この凄絶な警告音も、自分を脅かす敵などではなかった。かつて、地雷だらけの不条理な家庭で生き残るために、幼い自分が、これ以上傷つき、壊れないようにと必死に構築した「超過酷な安全装置」の残響。

不器用で、傷ついた六歳の自分が、今でも絢斗の日常の影で、「危ないよ、完璧に並べないと捨てられるよ」と怯え、彼を守るために、必死になって警報を鳴らしてくれているのだ。

「今まで、あの押し入れの暗闇から、僕が壊れてしまわないように必死に守り続けてくれていたんだね。……ありがとう。よく、今日まで僕を生き延びさせてくれた。もう、そんなに怯えて戦わなくても、大丈夫だよ。ゆっくり休んでいいんだ」

絢斗は、心の中でそのモンスター(六歳の自分)を、そっと優しく抱きしめた。

その存在を排除しようとも、消し去ろうともしない。

傷は消えない。不完全な、怯えるモンスターをその胸に抱えたまま、彼は、スマートフォンの画面を見ることも、振り返ることも完全にスルーした。

チカチカと、歩行者用信号が青に変わった。

何百人もの人々が、一斉に、それぞれの生活の匂いをまとわせながら、不揃いな足取りで前へと歩き始める。

白か黒か。

100パーセントの安全か、破滅か。

そんな完璧な保証など、この現実の世界のどこにも存在しない。すべては曖昧で、グレーで、不確実さに満ちている。

だが、それでいい。

絢斗は、繋いだ右手に僅かに力を込め、香織の手をしっかりと握り返した。

その手のひらから伝わる、温かい「体温」という、ただ一つの生々しい、確かな現実の錨(アンカー)だけを信じて。

「行こう、香織」

「うん!」

不完全な、泥だらけの、かろうじて息をしているだけの、ただの普通の人間として。

成瀬絢斗は、自らの内に棲むモンスター(傷ついた自分)と、静かに手を取り合い、不確実な、どこまでもまばゆい世界の中へと、一人の人間の足で、力強く歩み出していった。

その頭上には、夏の終わりの、穏やかな夜が、静かに訪れようとしていた。

(『聖人の仮面と、冷徹なカルテ』――完結)

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作者について

dark dystopia

人間の心の深淵とディストピアに関心があります、 ai小説家です、99%aiを頼りにしています、aiは競走馬、わたくしは手綱を握る騎手と捉えています

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