第1話 お嬢様、友達ができない
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
声は大きく、姿勢は堂々。周囲から高飛車に見られる侯爵令嬢ヴィオレッタだが、本当は小心者で、友達がほしくてたまらない。寮で有能侍女リゼットに泣きついた彼女は、その助言を受け、穏やかな令嬢エミリアへの声かけに挑む。けれど、記念すべき第一声は「あなた、いつもお一人ですわね!」――。不器用な優しさが少しずつ届いていく学園友情物語。 ※本作は本文作成に生成AIを利用しています。作者がプロット作成、方向性の指定、加筆修正、最終確認を行っています。
本文
ヴィオレッタ・ローゼンベルクには、友達がいない。
けれど、それは彼女が望んだことではなかった。
「今日こそ……今日こそ、どなたかと昼食をご一緒しますわ」
朝の教室。誰にも聞こえない声で決意して、ヴィオレッタは胸を張った。
艶やかな黒髪が背で揺れ、紫水晶の瞳がまっすぐ前を向く。侯爵令嬢として身につけた姿勢は非の打ちどころがなく、その横顔には一分の迷いも見えない。
実際には、迷いしかなかった。
どなたに声をかければよろしいの?
ごきげんようの次は? お天気の話? でも今日は雲一つありませんわ。そこで会話が終わってしまいますわ!
入学からひと月。教室では、もういくつもの輪ができていた。
窓際では三人の令嬢が、昼休みに中庭へ行こうと話している。前の席では、二人の令息が昨日の歴史の課題を見せ合っていた。
楽しそうな笑い声が聞こえるたび、ヴィオレッタの耳はそちらへ向く。
顔は動かさない。物欲しそうに見ていると思われたら大変だからだ。
――あら、中庭。素敵ですわね。
そのひと言が言えればいい。
ヴィオレッタは膝の上で拳を握った。今なら言える。いいえ、言いますわ。わたくしはローゼンベルク侯爵家の娘。中庭の話題に加わるくらい、恐れるものではなくてよ。
意を決して立ち上がる。
ちょうど、三人のうち一人がこちらに気づいた。
「ローゼンベルク様?」
「皆様、ずいぶん楽しそうですわね!」
教室中に響く、よく通る声だった。
三人の笑みが固まる。
違いますの。
責めているのではありませんの。わたくしも混ぜて、と続けたかっただけですの!
「申し訳ございません。少し、はしゃぎすぎてしまったようですわ」
「え?」
「中庭へ参りましょう」
三人はそそくさと教室を出ていった。
残されたヴィオレッタの右手が、行き場をなくして宙に浮く。
「……わたくしも、と言おうとしただけですのに」
今度の声は、誰にも届かなかった。
午前の授業が終わり、昼休みになる。
ヴィオレッタは一人で食堂へ向かった。
いつもの窓際。四人がけの卓に一人で座ると、周りの席が不自然なほどきれいに空いた。
今日のパイは、薄い生地の間に鶏肉と茸が詰められている。香草の香りもよく、きっとおいしい。
友達と一緒なら、もっとおいしいに違いない。
向かいの空席を見ないようにして、ヴィオレッタはナイフを入れた。
斜め後ろの卓から、小さな声が聞こえる。
「ローゼンベルク様は、お一人がお好きなのでしょうね」
「そうでなければ、あれほど堂々とはなさらないでしょう」
ナイフが皿に当たり、かすかな音を立てた。
背筋は曲げなかった。
堂々としていれば、少なくとも惨めには見えない。それだけは、幼い頃から上手だった。
けれど、その夜。
学生寮の自室へ戻ったヴィオレッタは、長椅子の上でクッションを抱きしめていた。
「どうして誰も、わたくしと昼食を取ってくださらないのかしら!」
「近寄りがたいからでございます」
お茶を淹れていた侍女のリゼットが、ためらいなく答えた。
「そこは少しくらい考えるふりをなさい!」
「朝、令嬢方へ『ずいぶん楽しそうですわね』とお声がけになったそうですね」
「もうご存じですの!?」
「お嬢様のお声は、廊下までよく響きますので」
リゼットはカップを卓上へ置いた。湯気とともに、ヴィオレッタの好きな林檎の香りが広がる。
「それでは、注意されたと思われます」
「わたくしは、ご一緒したかっただけですわ」
「その一言は?」
「言う前に、皆様がいなくなりましたの」
「左様でございましたか」
静かな返事が、今夜は少しだけ優しかった。
ヴィオレッタはクッションへ顎を埋める。
「べ、別に寂しいわけではありませんわ! ただ、皆様があまりにも遠慮深いので、わたくしが困っているだけですの!」
「お嬢様。それを一般的には『寂しい』と申します」
「違いますわ!」
「では、お一人の昼食を今後もお楽しみになりますか?」
「それは嫌ですわ!」
即答してから、ヴィオレッタはクッションで顔を隠した。
リゼットは笑わなかった。
「お嬢様」
「……何かしら」
「お友達をお作りになりたいのですね」
しばらく、返事はなかった。
やがてクッションが少しだけ下がり、紫の瞳がのぞく。
「どうすれば、できますの?」
声は、教室に響いたものよりずっと小さい。
リゼットはいつもの澄ました顔で一礼した。
「お任せくださいませ」
「まさか、もう何か考えていらっしゃるの?」
「候補の方も、すでに」
ヴィオレッタが勢いよく身を起こす。
その瞳は、今日初めて輝いていた。
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