第2話 侍女、友達候補を見つける
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
高飛車お嬢様に見えますが、本当は友達がほしいだけですわ! 〜有能侍女に背中を押されて、初めての友達作り〜 - 第2話 侍女、友達候補を見つける
本文
翌日の放課後。
ヴィオレッタの部屋では、第一回友達作り作戦会議が開かれていた。
「友達とは、作戦を立てて作るものなのかしら」
「少なくとも、お嬢様には必要かと」
「否定できないのが悔しいですわ」
卓上には、三枚の紙が並んでいる。それぞれに令嬢の名前と、普段よくいる場所が簡潔に記されていた。
リゼットはそのうち二枚を端へよける。
「こちらのお二人には、すでに親しいご友人がいらっしゃいます。お声がけになること自体は構いませんが、最初のお相手としては輪へ入る難しさがございます」
「では、残るお一人が本命ですのね」
ヴィオレッタは最後の紙を手に取った。
「エミリア・クラウゼン」
名前には覚えがある。同じ学年の伯爵令嬢だ。
亜麻色の髪を肩の辺りで揃え、若草色の瞳をした少女。礼法の授業ではいつも穏やかに微笑んでいる。
「どなたとでもお話しになりますが、いつも同じ方とご一緒しているわけではございません。昼休みは図書室か、中庭の東屋にお一人でいらっしゃることが多いようです」
「あら……お一人で寂しくありませんの?」
「それは、私には分かりかねます」
「調べていませんの?」
「心の中まで調べましたら、情報収集ではなく読心術でございます」
「それもそうですわね」
紙に書かれた名を見つめていると、一つの場面を思い出した。
刺繍の授業で、近くの生徒が何色もの糸を床へ落とした時のことだ。皆が次の課題へ移るなか、エミリアは黙って腰を屈め、最後の一本まで拾っていた。
その後、自分の作業が遅れても何も言わなかった。
「優しい方ですわ」
「ご存じでしたか」
「見ていただけですけれど」
ヴィオレッタは紙を丁寧に卓へ戻した。
「決めましたわ。わたくし、エミリアとお友達になります!」
「まだ先方のお気持ちを伺っておりません」
「では、伺えばよろしいのね!」
「その勢いを、まず半分ほどにいたしましょう」
リゼットが空いた椅子へ腰を下ろした。
「私をエミリア様と思って、お声がけくださいませ」
「分かりましたわ」
ヴィオレッタは一度咳払いをし、優雅に微笑んだ。
「ごきげんよう、エミリア。あなた、いつも暇そうですわね!」
「やり直しでございます」
「まだ最後まで言っていませんわ!」
「最後まで伺う必要を感じませんでした」
ヴィオレッタは唇を尖らせ、もう一度姿勢を正す。
「ごきげんよう、エミリア。わたくしとお話しできる機会を差し上げますわ!」
「お休みなさいませ、ローゼンベルク様」
「帰らないでくださいまし!」
「私がエミリア様でしたら、今ので帰っております」
厳しい。
昨日の惨敗を思えば、リゼットの判断はおそらく正しい。
「もっと自然になさってくださいませ。お嬢様が、私へ話しかける時のように」
「リゼット。お茶のお代わりをいただける?」
「はい。その調子です」
「ですが、これは友達を作る会話ではありませんわ」
「お茶を口実になさってもよろしいかと」
「エミリア。お茶のお代わりをいただける?」
「給仕を頼んでおります」
「難しすぎませんこと!?」
リゼットは涼しい顔で、ヴィオレッタのカップを満たした。
「まずは、ご挨拶を。それから、相手の方が答えやすいお話をなさってください」
「たとえば?」
「お持ちの本や、授業のことなど」
「なるほど。最後に、わたくしと友達になる意思を確認しますのね」
「最初の日に契約を結ぼうとなさらないでくださいませ」
友達とは、ずいぶん曖昧な手続きを要するらしい。
それでもヴィオレッタは、リゼットを相手に何度も練習した。
翌日の昼休み。
エミリアは図書室の窓辺にいた。
膝の上には、青い装丁の本が一冊。頁はしばらくめくられていない。
開け放たれた窓から、中庭の笑い声が届いている。エミリアは一度だけそちらを見て、また本へ目を落とした。
少し離れた書架の陰で、ヴィオレッタは息を整える。
「ごきげんよう。それから、本のお話。華麗さは半分」
「最後のものは口になさらなくて結構です」
背後から聞こえたリゼットの声に、ヴィオレッタは振り向いた。
「分かっていますわ。では、行ってまいります」
「はい」
リゼットが一礼する。
次に瞬きをした時には、もういなかった。
「相変わらず、いなくなるのが早すぎませんこと?」
小声で抗議しても返事はない。
頼れる軍師は、戦場までついてくる気はないらしい。
ヴィオレッタは青い本を見つめた。表紙から題名が見えない。
足が止まりそうになる。
それでも、窓辺へ向かった。
エミリアが顔を上げる。
若草色の瞳と目が合った。
「ローゼンベルク様……?」
さあ、ごきげんようですわ。
昨夜、十七回も練習したでしょう。
ヴィオレッタは笑みを浮かべ、口を開いた。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。