新たなはじまり
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
大学2年生の橘ひなたは、ごく普通の女子大生。ある日、学校一のイケメンと噂される林武蓮と同じゼミになったことで、自然と彼を意識するようになる。 しかし蓮は恋愛に全く興味がなく、女の子から告白されても断り続けるクールな男。ひなたが話しかけても素っ気ない態度ばかり。 それでも一緒にいる時間が増えるうちに、ひなたは彼の不器用な優しさに少しずつ惹かれていく。 恋愛に無関心なイケメンが、初めて「恋の病」にかかるまでのドキドキラブコメ!
本文
四月になった。
ひなたは大学三年生になった。新しい学期が始まって、キャンパスに新入生の姿が増えた。去年の自分もああだったのかな、とひなたはぼんやり思いながら、講義棟への道を歩いた。
三年生になると、講義の内容が少し変わった。就職を意識したキャリア系の講義が増えて、ゼミの活動も本格化してくる。鬼嶋教授から言われた「三月までに方向性を」という言葉が、頭の片隅に残っていた。
でも今日のところは、まず新学期の時間割を確認するところから始めようと思っていた。
講義棟に入ると、さくらが駆け寄ってきた。
「ひなた、おはよう!三年生だね」
「おはよう。早いね、もう三年生か」
「ほんとに。去年より講義多い気がするんだけど」
「私も。なんか急に忙しくなった感じ」
二人で時間割を見比べながら歩いていると、さくらがふと聞いてきた。
「林くんと同じ講義、あった?」
ひなたは時間割を確認した。三年生になると、選択科目が増えるから、去年と同じとは限らない。
「……一個だけあった」
「一個か。去年より減ったね」
「まあ、仕方ない」
さらっと答えたつもりだったが、内心では少し寂しかった。去年は同じ講義が複数あって、自然と会う機会があった。それが一つになるということは、講義以外で会う理由を自分で作らないといけない。
でも、今はメッセージのやり取りもあるし、以前ほど会えないことへの不安はなかった。それだけ、距離が縮まったということなのかもしれない。
昼前になって、ひなたは共用スペースのベンチに座ってスマートフォンを見ていた。林武からのメッセージが来ていた。
『今日から三年か』
『そうだよ。なんか急に実感した。林武くんも?』
『……ああ。講義が変わった』
『同じ講義、一個しかなかった』
少し間があった。
『……一個あるならいい』
ひなたはその返信を見て、口元が緩んだ。一個あるならいい、か。林武なりの言い方だけど、同じ講義があることを、悪くないと思ってくれているのだろう。
『そうだね。一個あるならいい』
そう返信してから、ひなたはスマートフォんをポケットにしまった。
午後の講義が終わった頃、ひなたはキャリア支援センターに立ち寄った。三年生になったら早めに動いた方がいいと、鬼嶋教授に言われていたのを思い出したからだった。
センターの中には、就職情報のパンフレットや先輩の体験談が並んでいた。ひなたはパンフレットをいくつか手に取りながら、改めて考えた。
マーケティングか、広告か。なんとなく興味があるとは思っていたけれど、具体的に何がしたいのかは、まだはっきりしていなかった。
三年生か。ちゃんと考えないとな。
パンフレットを数枚もらって、外に出ると、ちょうど林武が前を歩いているのが見えた。
「林武くん」
林武が振り返った。
「……どこ行ってた」
「キャリア支援センター。就職のこと、そろそろ考えないとと思って」
「……そうか。俺も今日、ゼミの教授に言われた」
「同じだね」林武の隣に並んで歩き始めた。「林武くんは、どんな仕事したいの?」
「……まだ決まっていない。ただ、数字を扱う仕事が向いてると言われた」
「金融系とか?」
「……かもしれない。お前は」
「マーケティングとか広告とか、なんとなく気になってるけど、まだぼんやりしてる」
「……お前らしい」
「どういう意味」
「……悪い意味じゃない」
林武がそう言って、前を向いた。ひなたはその横顔を見ながら、なんとなく微笑んだ。
三年生になった。就職のことも、将来のことも、考えないといけないことが増えてきた。でも、こうして林武と並んで歩いていると、それがそこまで重くは感じなかった。
「林武くん、今年もよろしくね」
林武が少し間を置いてから、答えた。
「……ああ、よろしく」
その短い言葉が、ひなたには十分だった。
新学期の空気は少し緊張感があったけれど、悪くなかった。