誤送信
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
大学2年生の橘ひなたは、ごく普通の女子大生。ある日、学校一のイケメンと噂される林武蓮と同じゼミになったことで、自然と彼を意識するようになる。 しかし蓮は恋愛に全く興味がなく、女の子から告白されても断り続けるクールな男。ひなたが話しかけても素っ気ない態度ばかり。 それでも一緒にいる時間が増えるうちに、ひなたは彼の不器用な優しさに少しずつ惹かれていく。 恋愛に無関心なイケメンが、初めて「恋の病」にかかるまでのドキドキラブコメ!
本文
ゴールデンウィークに入った。
ひなたはバイトのシフトが少なかったこともあり、久しぶりに時間ができた。さくらとは二日目に予定を入れていたが、それ以外の日は特に何もなかった。
ぼんやりとスマートフォンを眺めていると、林武のことが頭に浮かんだ。
GW、暇なのかな。
旅館から帰ってきてから、メッセージのやり取りは続いていた。でも、直接会う機会は、同じ講義の時くらいになっていた。せっかく時間があるなら、どこか誘ってみようかと思った。
カラオケとか、どうだろう。林武がカラオケに行くイメージはあまりなかったけれど、誘ってみるだけ誘ってみよう。
ひなたはさくらとのトーク画面を開いて、文章を打ち込んだ。
『GW、林武くんカラオケ誘おうと思うんだけど、どう思う?やっぱり変かな』
さくらに相談するつもりだった。でも、送信ボタンを押した後、ひなたは画面を見て固まった。
送り先が、林武だった。
「…………え」
ひなたはスマートフォんを両手で持ったまま、動けなかった。画面には、林武とのトーク画面に、今打ち込んだ文章がしっかりと表示されていた。しかも、すでに既読がついていた。
「なんで、なんで、なんで」
ひなたは頭を抱えた。さくらと林武、どちらも最近よくやり取りしていたから、トーク画面を間違えた。それだけのことなのに、よりによってこの内容を送ってしまった。
しかも問題はそれだけではなかった。
慌てたひなたは、すぐに取り消そうとして、スマートフォンを操作した。でもその瞬間、指が滑った。
画面を見ると、新しいメッセージが送信されていた。
『デート』
「……は?」
ひなたは自分の目を疑った。取り消そうとして誤操作した結果、下書きに残っていた単語が送信されてしまっていた。いつかさくらとの会話で使おうとして、途中まで打ち込んでいたものだった。
林武のトーク画面に、二つのメッセージが並んでいた。
『GW、林武くんカラオケ誘おうと思うんだけど、どう思う?やっぱり変かな』
『デート』
既読が、両方についていた。
「終わった」
ひなたはベッドに倒れ込んだ。顔が熱い。穴があったら入りたい。いや、入りたいどころか、埋まりたい。
スマートフォんが震えた。林武からのメッセージだった。
『……デート?』
見なかったことにしたかった。でも、既読がついてしまっている。ひなたは震える指で、必死に返信を打ち込んだ。
『ごめん!誤送信!さくらに送るつもりだったやつで、デートは全然関係ない単語で、カラオケ誘おうとしてただけで、本当に誤送信で!!』
送信してから、説明が長すぎたかもしれないと思った。でも今更だった。
しばらく既読のまま、返信が来なかった。ひなたはその時間が、永遠のように感じた。
やっと返信が来た。
『……カラオケ、行ったことない』
「そっちなの」
ひなたは思わず声に出した。デートのことには触れず、カラオケに行ったことがないという返信。林武らしいといえば林武らしかったが、ひなたの心臓はまだばくばくしていた。
『行ったことないの?じゃあ行ってみる?GWに』
『……デートとして?』
ひなたは固まった。
わざわざ聞いてくる。いつもなら流しそうなことを、わざわざ。
『違うよ!普通に遊びに行くだけ!』
『……そうか』
『そうだよ』
少しの間があった。
『……わかった。行く』
ひなたはスマートフォんを置いて、大きく息を吐いた。
心臓がまだ落ち着いていなかった。誤送信のせいで、変な空気になるかと思ったけれど、林武は特に気にした様子もなかった。それがよかったのか、それとも少し残念なのか、ひなた自身もよくわからなかった。
スマートフォんを開いて、今度こそさくらに正しく送った。
『さっき林武くんに誤送信した。カラオケ誘う相談を林武くんに送って、しかもデートって誤送信した』
すぐに返信が来た。
『は!?!?大丈夫だった?』
『なんとかなった。カラオケ行くことになった』
『それって結果オーライじゃん笑』
『笑えない』
『笑えるよ笑 で、デートって送ったのはどうなったの』
『流された』
『流された!?林くんらしいww』
さくらが笑っているのが、文字越しでもわかった。ひなたはため息をついた。
でも、よかった。変な空気にならなくて。カラオケに行けることになって。
それだけで、今日のところは十分だった。
枕に顔を埋めながら、ひなたはさっきの林武の返信を思い返した。
『……デートとして?』
わざわざ聞いてきた理由が、なんとなく気になった。でも、それについて深く考えるのは、今夜はやめることにした。考え始めたら、また眠れなくなりそうだから。