第8話 話をしよう

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/3 📚 シリーズ: 見て、見ないで 📝 726文字 ✅ 全年齢

あらすじ

「有紗さん、言ってたんですよ。私を見て欲しい、見ないで欲しいって。あれ、どういう意味ったんですか?」だるだるのジャージに着替え、甘ったるい煙をくゆらせた早苗が、静かに言葉を紡いだ。「煙草……吸うんですね」

本文

「有紗さん、言ってたんですよ。私を見て欲しい、見ないで欲しいって。あれ、どういう意味ったんですか?」

だるだるのジャージに着替え、甘ったるい煙をくゆらせた早苗が、静かに言葉を紡いだ。

「煙草……吸うんですね」

肌着の上にブラウスを羽織った有紗は、感情のこもらない声で返す。

「ダメです?」

「ちゃんと健康に気を使ってください。若いんだから」

テーブルの上に置きっぱなしの箱から、勝手に一本取り出して火をつける。

「自分だって」

「私はいいんです」

「自己中」

体に残るシトラスの香りに上書きするように、紫煙を吐き捨てる。

「あ、そうだ」

乱れた髪を直した早苗が、四つん這いになって棚に手を伸ばす。

ずり下がったズボンのウエストから下着が見えてしまっているが、気にしている様子はない。

一応、気遣いとして目をそらす。

「これ、また渡しておきます。この間返されちゃったから」

彼女が取り出したのは、この間の小さな紙袋だった。

「私、やっぱり有紗さんのことが好きです。脅しとか抜きに、受け取ってくれますか?」

銀メッキの猫チャームが、蛍光灯の光を跳ね返して、揺れた。

有紗は、箱に書かれていたチョコレート専門店のロゴを思い出す。

「オランジェットには……赤ワインを合わせるのが好きです。安いので構わないので、買ってきてください。コンビニ、近くにありましたよね?」

有紗は、財布から取り出した五千円を、早苗の手に握らせる。

「お酒が飲みたい気分なんです。買ってきてくれないと、虫壁さんに脅されて無理やりされたって言いふらします」

「何ですかそれ!」

「事実でしょ」

「……そうですけど」

頬を膨らませる早苗の姿が腹立たしく、少しだけおかしかった。

「まずは、話すことから始めたいです。それくらい、待てるでしょう?」

ジャンル・タグ

タグなし

作品統計

👁️ 閲覧数: 5 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

彩華 じゅん

👥 フォロワー: 4人

作者ページを見る