第8話 話をしよう
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「有紗さん、言ってたんですよ。私を見て欲しい、見ないで欲しいって。あれ、どういう意味ったんですか?」だるだるのジャージに着替え、甘ったるい煙をくゆらせた早苗が、静かに言葉を紡いだ。「煙草……吸うんですね」
本文
「有紗さん、言ってたんですよ。私を見て欲しい、見ないで欲しいって。あれ、どういう意味ったんですか?」
だるだるのジャージに着替え、甘ったるい煙をくゆらせた早苗が、静かに言葉を紡いだ。
「煙草……吸うんですね」
肌着の上にブラウスを羽織った有紗は、感情のこもらない声で返す。
「ダメです?」
「ちゃんと健康に気を使ってください。若いんだから」
テーブルの上に置きっぱなしの箱から、勝手に一本取り出して火をつける。
「自分だって」
「私はいいんです」
「自己中」
体に残るシトラスの香りに上書きするように、紫煙を吐き捨てる。
「あ、そうだ」
乱れた髪を直した早苗が、四つん這いになって棚に手を伸ばす。
ずり下がったズボンのウエストから下着が見えてしまっているが、気にしている様子はない。
一応、気遣いとして目をそらす。
「これ、また渡しておきます。この間返されちゃったから」
彼女が取り出したのは、この間の小さな紙袋だった。
「私、やっぱり有紗さんのことが好きです。脅しとか抜きに、受け取ってくれますか?」
銀メッキの猫チャームが、蛍光灯の光を跳ね返して、揺れた。
有紗は、箱に書かれていたチョコレート専門店のロゴを思い出す。
「オランジェットには……赤ワインを合わせるのが好きです。安いので構わないので、買ってきてください。コンビニ、近くにありましたよね?」
有紗は、財布から取り出した五千円を、早苗の手に握らせる。
「お酒が飲みたい気分なんです。買ってきてくれないと、虫壁さんに脅されて無理やりされたって言いふらします」
「何ですかそれ!」
「事実でしょ」
「……そうですけど」
頬を膨らませる早苗の姿が腹立たしく、少しだけおかしかった。
「まずは、話すことから始めたいです。それくらい、待てるでしょう?」