第12話 星を観る者、神に祈る者

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/30 📚 シリーズ: Pirates of Wasteland〜ギルド非認可の裏シェリフ、荒野で赤毛の少女を拾う〜 📝 5,006文字 ✅ 全年齢

あらすじ

Pirates of Wasteland〜ギルド非認可の裏シェリフ、荒野で赤毛の少女を拾う〜 - 第12話 星を観る者、神に祈る者

本文

「もう、発たれるんですね……」

 マリアンヌに乗車したカリビア達を見送るように、ワットはカリビアの乗る助手席の窓際に立ってそう言った。

「盗賊共も掃除し終わったし、もうここにいる意味も無いわ」

「……そうですか。では改めて、本当にありがとうございました。

皆さんが居なければどうなっていたか……」

 感謝を伝え頭を下げたワットを見て、カリビアはあはは、と笑った。

「大袈裟よ。結局、貴方達がこの国を取り戻すために立ち上がり、見事盗賊から国を取り返した。その勇気が一番大事だったんだから。

不幸の嵐に見舞われようと、苦難に耐え、前へと進み、明るい朝日に辿り着いた。

その勇気と行動力があれば、この国もきっとすぐ復興するわね」

 ワットは照れたように後ろ頭を掻き、にへら、と笑った。

「……また、いらして下さい。王無き今やる事は山積みですが、今度はきっと、前より美しいこの国をお見せすると約束します」

「もう十分綺麗じゃない。

……あはは、話し込んじゃうわね。出発しましょうか、ポール?」

「了解です。船長キャプテン」

 ポールがアクセルを踏み、カリビア達を乗せたマリアンヌがにわかに進み始める。

 手を振って彼らを見送るワットに、ゆっくりとオスカーが近付いた。

「彼らは、もう行ってしまったか。いつまでも歓迎していたかったが」

「きっとカリビアさん達にも、進むべき道があるんだと思います。

僕たちの前にも、道がずっと続いているように」

 ワットは振り向き、瓦礫の片付き始めた大通りを真っ直ぐに見つめた。これから全力で、この国を再生していくと、そう決意を固めるように。

 オスカーはその隣に立ち、大きく頷いた。

「そうだな、我々もできることをしていこうじゃないか。

……ところで、彼らは結局何者だったんだ?」

「……さぁ? 旅の人って言ってましたけど」

 ワットとオスカーは顔を見合わせ、首を傾げた。そして同時に笑いだした。目の前の事に夢中になって、そんな事すら気にしていなかった自分達が奇妙で、滑稽で。

 それでも直ぐに、彼らは目の前の事に再び向きあい、全力で歩き続けることだろう。目の前に明るく広がるその道を、ただ真っ直ぐに。

 ◆

 カリビア達を乗せたマリアンヌは、デフォイ王国の通りを進み、やがてその外壁まで辿り着いた。昨日、彼らがデフォイ王国にやってきた所と同じ、大きく穴の空いたその外壁。

「……? 何か来ますね」

 穴の空いた外壁の向こうから、数台の大きなトラックが走ってくる。盗賊達のトラックとは別の物だ。

 黒いトラックの正面、そして後ろのコンテナの側面には全く同じロゴが大きく描かれている。林檎を持った右手と剣を持った左手が交差しているような奇妙なロゴ、それを見たカリビアが小さく呟いた。

「……|《教会》。もう来たのね」

 |《教会》から来たらしいそのトラック達はマリアンヌを囲うように立ち塞がった。そしてそのコンテナの扉が開き、その中から降りてきた者達がマリアンヌの周りを取り囲んだ。

 白と黒の生地が折り重る、ゆったりとした服。汚れ一つないその服を揃って着込み、清廉に見える男女の集団は、しかしそれとは似つかわしくないほど物騒な散弾銃や短機関銃、狙撃銃などを手にしていた。

「あ、あの、教会って神様に祈るところですよね……? この人たち、引き金に祈ってるように見えるんですけど?」

 後部座席に座っていたケティが、不安そうに窓の外を見てそう言った。

「『テミシア教会』。その中でも彼らは『剣つるぎ』でしょう。神に仇なす者の浄化を行う連中ですね」

 特に焦ることも無く、ポールがそう解説する。そしてそれに反応したのはカリビア達を取り囲む剣つるぎの1人だった。

「我々のことはご存知ですか。まぁ、西部に暮らしていれば知らない方が不自然でしょう。

主の教えの下、デフォイ王国を占拠する盗賊を浄化し王国復興の支援を行う為に参りました。

貴方達の身元を明かしなさい。盗賊に与するものであるのならば、今すぐ浄化を実行します」

 そう言ったのは、マリアンヌの真正面に立っていた剣つるぎ。小柄ながらも、一際ひときわ物騒なガトリング銃をマリアンヌに向けるその銀髪の女性は、整った顔で、それでいて鉄のように冷たい表情でカリビア達にそう告げた。

「……旅の行商人。これからこの国を発つところなの。

貴女達には悪いけど、盗賊はもう居ないわよ? 強い兵隊さん達がみんなやっつけちゃったから」

「何……?」

 カリビアがそう答え、剣つるぎ達には動揺が走った。ある者は信じられないと武器を構え続け、またある者は困ったようにリーダーと思しきその女の方を向いた。

「シスター……。どうしましょう。

この者達の話は信じても良いのでしょうか?」

「ふむ……」

 銀髪の女は考え込むように沈黙し、周りには静寂が流れた。しかし、やがてその静寂の氷を溶かすかのように聞こえてきたのは、国のどこかで楽しそうにわいわいと話す国民の声、トンテンカンと壊された建物を修復する音。

 この国の脅威が消え去り、その回復に努める国民達の活気、蘇りつつあるこの国の鼓動を、この場にいる誰もがしかと耳にした。

「ふふ、ねっ? 聞こえるでしょ?

もうこの国は、自らの傷を癒そうと活発に動き出している。シスターさん達もせっかく来たんだし、彼らを手伝ってあげたら?」

 笑顔のカリビアがそう告げると、その銀髪の女性も小さく息を吐き、武器を下ろした。

「――どうやら早とちりしてしまったようですね。非礼をお許しください。

貴女の言う通り、私達はこれより国民の皆様の支援に向かいたいと思います。

困っている者に救いの手を差し伸べる事も、『テミシア教会』の使命ですから」

 そう言った彼女が手で合図を出すと、カリビア達を取り囲んでいた他の剣つるぎ達も武器をしまい、再びトラックへと乗り込んだ。

「……貴女方の旅路にも、神の御加護があらんことを」

 最後に残ったそのシスターも、最後まで変わりない鉄の表情のままそう言い残し、トラックに乗り込む。そして、マリアンヌの前を塞いでいたトラックは国の方へと進み、マリアンヌもまた国の外の荒野へと進み始めるのだった。

「はあぁ……。なんだか、怖い表情のシスターさんでした」

 緊張の紐が溶けたのか、ケティは大きく息を吐いてそう言った。

「テミシア教会ね。どうにも胡散臭い組織だけど、やってる事は慈善団体みたいなものだから。滅多なことがなければ敵になることは無いわ」

「そ、そうなんですか」

「右手に持った林檎は迷える者へ、左手に持った剣は悪しき者へ、|《教会》のロゴにはそう言った意味があると聞きました。

弱者を救済し、それを虐げる者を粛清する。デフォイ王国に彼らが来たのもそう言った活動の一環でしょう。

まぁ、この国に害をなすような事はありませんよ」

 運転席のポールが車を走らせつつそんな解説を挟んだ。

「怖いと思ってたけど……、良い人達なんですね?」

「ん〜、西部を回す機関の1つ……、『富の再分配』を担う組織とでも言った方が良いでしょうか?

彼らの活動は、資金を集めるアピールという側面もありますからね。

実際、西部でも指折りの資産を保有する個人、団体の多くは|《教会》に金銭の寄付をしています。

支援者にとってみれば、自分が『正義』側の人間であると効率的にアピールできますからね」

「はっ、『善性』を金で売ってるワケだ」

 いつもの様に本を読みながら、リンランは笑い飛ばすようにそう言った。

 そんなリンランをケティは見下ろし、呟いた。

「あの、リンランさん。ところで、その、そろそろ膝が重いなー、……なんて」

 リンランは後部座席に横になり、同じく後部座席で座っていたケティの膝を枕がわりにするような姿勢で本を読んでいた。

 リンランは一瞬本を避け、彼女の顔を覗き込むケティの顔を見あげる。

「……腑抜け面」

「えっ……? えぇ〜……」

 それだけ呟くとリンランは視線を本に戻し、ただ耳と尻尾だけを揺らした。そして、どんな顔をすればいいかわからないといった表情のケティだけが残った。

「あはは。ケティ、だいぶ気に入られたみたいね?」

「あぁ、これ、気に入られてるんですか? わかんない……」

 ルームミラー越しに、後部座席の様子を見ていたカリビアはクスクスと笑った。

 窓の空いたドアに肘を乗せ、頬杖をつく。そして、ラジオの電源を入れた。アナログな、ラジオの機能しか持たない古型の小さな箱。時代遅れで、欠点だらけの、彼女のお気に入りの箱。

 ノイズ混じりのギターの音が、駱駝色の車に広がっていった。

 ◆

 どこまでも広がる荒野のどこか。草の転がるその場所で、1台のワゴン車が煙を上げ、横転していた。

 そのワゴン車には六芒星のロゴが記されていた。中心には開いた瞳、そしてその瞳孔に『▽ナブラ』の印字されたロゴ。

 そのワゴン車に乗っていたであろう男達は、荒野に投げ出され、血を流し倒れていた。

 ワゴン車のロゴと同じ物が記されたローブに身を包む男達。辛うじて息はあるようで、朧気な目でワゴン車の方を見る。

 横転した車の上で胡座をかき、MOVAのスクリーンを弄る男。彼らとは対照的に傷1つ負っていないその男は、顔に慟哭する龍のような面を付けていた。

 MOVAのスクリーン越しに女性の声が聞こえてくる。

『成程……、やはり魔人と化したのはあの男のみ、か。

身体を機械に置き換えた者達の反応例は無し、魂の有無に拠るものか……。引き金が薄かった可能性も有り得るな……』

 ブツブツと考察を続ける電話越しの女性を、龍面の男は面倒くさそうに急かした。

「あー、もう良いだろ?

渡すもんは渡したはずだぜ。無意味に仕事を引き伸ばす依頼主は嫌いなんだよ」

『まぁ、そう生き急ぐな。折角拾った命が勿体ないと思わないのか?』

「現在進行形で思ってるよ。こうしてる間にも俺が酒を呑む時間が減っていってる」

『その小さな焦燥の集積が、やがて大きな瓦解を生むのさ。

――ふむ、暗号配列も一致する。これは偽りない正式な観測データだな。問題ない』

「はっ、|《天文台》の機密保持技術は凄ぇと聞いていたが、こんなチンケなワゴン車でアナログ輸送してるだけとはな」

『神秘技術のことか? まぁ、程度の低い情報に使用できる程の技術では無いのだろう。

実際、紙媒体の情報通信だって古臭くとも有用な手段と言えるさ。通信傍受のリスクも無く、武装した組織員を配備すれば滅多な相手じゃない限り漏洩する心配もない。

だからこそ、君に依頼したのだけどもね』

 やがて、倒れていたローブの男達がよろよろと立ち上がった。手に星を模したペンデュラムを手にし、龍面の男を睨みつける。

「お前達、誰に手を出したかわかってるのか?

『席持ち組織エルピス・チェア』だぞ……! 西部を支配する組織という意味だ。いずれ報復する、天秤アストロラーベがお前達の下に向かうだろう」

 そう吐き捨てる男に、龍面の男はワゴン車から降りて近付いた。

 その男に顔を近付け、不敵に笑う。

「――あはぁ、やってみろよ。どうせ、俺の拳のが強いんだ」

「……っ! くそっ!」

 脅されたローブの男は悔しそうに顔を歪める。そして手に持ったペンデュラムを胸に当てた。

 ペンデュラムが強く輝き、光がローブの男を包む。その光が消え去ると、ローブの男は忽然とその姿をくらませていた。

「なんだ……瞬間移動?」

 他のローブの男達も、次々とペンデュラムを光らせ姿を消す。やがて彼らは日の昇った後の星々の様に消え失せ、龍面の男と煙を上げたワゴン車だけが残った。

「……ありゃ、居なくなっちまった。どうする?」

『構いやしないさ、どうせこれも観測されているのだろう。

では、私はこのデータの解析をしようじゃないか。君の仕事もこれで終了だ。しばらく好きにしていいが、明日には拠点に戻ってきてくれたまえ』

「わーかったって……」

 MOVAの立体ウィンドウが消え、龍面の男は面倒くさそうに後ろ頭を掻いた。

「はーぁ、だりぃ事になったな。まぁ、一旦呑んで忘れるか」

 そう言った男は片脚で、地面を軽く踏みつけた。美しい鈴のような音、そして男の姿に霞がかかる。

 その余韻に溶け込むように霞が散り、静寂の中にその男も姿を消すのだった。

〈序章 完〉

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灯色セラミ

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