第11話 一樹之陰、一河之流
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あらすじ
Pirates of Wasteland〜ギルド非認可の裏シェリフ、荒野で赤毛の少女を拾う〜 - 第11話 一樹之陰、一河之流
本文
「うぅ〜……。あったま痛い……」
すっかり朝日が上り、小鳥の鳴き声が澄み渡る頃、ガンガンと鳴る頭をおさえたカリビアがよろよろと起き上がった。
街道に倒れ寝ていた事ですっかり砂だらけになった髪を掻きむしり、眩しそうに細目を開けてあたりを見回す。
やがて片手に持った空の酒瓶を見る事で、漸く彼女は思考を再起動した。
「ん……。そっか、昨日国中でお祭り騒ぎになってたから、私も気絶するまで飲み騒いでたのよね……」
「あぁ船長キャプテン。目が覚めましたか」
街道に胡座を組んで座るカリビアに、工具箱を持ってやってきたポールが話しかけた。
彼はもう片方の手に水の入ったペットボトルを握っており、目覚めたカリビアにそれを投げ渡すと、近くに駐車してあったマリアンヌに向かった。
「んく……、ぷは。……リンランとケティはどうしたの?」
ペットボトルを受け取り、その水を飲んだカリビアはポールにそう尋ねた。
「マリアンヌの座席を倒して寝かせてあります。降りてこないということはまだ寝てると思いますよ」
「は? 私、路肩にぶっ倒れてたんだけど?」
「いやいや、船長キャプテン夜もすがら馬鹿騒ぎしてたじゃないですか。記憶飛んでるかもしれないですけど、2人は先に寝かせてたんです。僕もその後直ぐに寝ちゃいましたし」
「嘘。私ずっとポールと喋ってなかった?
……あ、アンタまたアレ使ってたでしょ! 顔面の液晶だけ動かしながら人の話聞いてるふりして爆睡キメるヤツ」
「名付けて『自動応対モード』です。
僕だって疲れてましたもの。船長キャプテンの武勇伝シリーズももう50周は聞いてますし。
それに、船長キャプテンべろんべろんだからどうせ気付かないじゃないですか」
ポールは工具箱を開き、日課のマリアンヌの点検を始めた。カリビアは胡座のまま水を飲みつつ、その様子をながめていた。
少しすると、後部座席のドアが開きリンランが降りてきた。尻尾を大きく揺らしながら伸びをするとまだ眠そうに目を細め、ドアを開けたままの後部座席に足を外に出して横向きに腰掛けた。
「おはよう、リンラン」
カリビアがリンランにそう言うと、リンランは眠そうに目線を落としたまま返事をした。
「――腹減った」
「昨日は国中で立食パーティーみたいになってましたからね。人通りのある所に行けば余り物を頂けるかもしれませんよ」
余程お腹が空いているのか、リンランは不機嫌そうに眉を顰め、カリビアの方を見た。
「……カリビア」
「はいはい……。アンタの人見知りも治んないわね。皆で行きましょうか。ケティも起こしてあげて」
「了解です。直ぐ点検を終わらせますのでもう少々お待ちを」
こうして一同はケティを起こし、人の集まる大通りへと向かった。
早朝から、大通りは人々の活気に満ちていた。建物のほとんどは倒壊し、それでも陰鬱な地下シェルターよりは何倍もマシだと言うかのように、路肩にはビニールシートの上に枕と毛布を乗せた簡易的な寝床が並んでいた。
とりあえずは簡易小屋を用意しようと、王国軍の兵士と国の建築家が話し合う様子が一同の目に写る。そして、それを手伝おうと押しかける力自慢の国民達。
それ以外の国民も、王の不在にも関わらず自分達の今できることを全力でしようと協力して動いている。その様子が、一度は滅んだはずの王国を美しく光り輝かせていた。
「あ、こんな所に! おはようございます、皆さん!」
一同を見つけ、駆け寄ってきたのはワット。失った片腕に包帯を巻いた彼は、昨日の今日だと言うのに既に元気に動き回っている。
「ワット! 元気そうね」
「はい、皆復興の為に頑張ってるのに僕だけ休んでられませんから!
……まぁ力仕事は今は出来ないので、皆さんから困り事や伝達事項を聞いて回ってるんです。
その傍らで、実はこんな物も作ってて……」
そう言ってワットは左手に着けたMOVAを起動させる。カリビア達に見せたのは3Dホログラムで作られた義手の設計図だった。
「1回作って見たかったんですよね。自分の身体を改造して武器を仕込む。なんか浪漫がありませんか? 手からレーザービームを撃っちゃったりして……」
「……逞しいわね」
呆れたように笑うカリビアとは裏腹に、目を、いや液晶をキラキラと輝かせるのはポール。彼は、その立体設計図を舐め回すかのようにじっくりと観察し呟いた。
「一晩でここまで……、いや、これは大発明になりそうですよ。
――これ、ここのバッテリーは53型より55型の方が安定しそうですが」
「――確かに、そうですね! するとエーテル伝導線のタイプも変わるから……」
「オススメは超伝導性CNTケーブルですね。強度も高く安価ですから――」
「ポール、また長話するつもり? 私達朝ごはん食べに来たんだってば」
やはり白熱しそうになる2人の会話をカリビアが塞き止めるようにそう言った。
「あぁ失敬。まぁでも長話って言うなら昨日の泥酔した船長キャプテンのが……」
「それはそれ、これはこれよ!」
「理不尽な……」
「なるほど、朝食ですね! それなら、向こうのテントで昨日の余り物が食べれるはずです。城のキッチンから持ってきた『時間独立保存槽』に保管してあるので、出来たてのように食べられますよ。僕が案内しますね!」
そうしてワットに案内され、一同は大通りを歩き出した。
◆
食料配膳のテントまで到着し、一同は朝食を満喫した。路肩に配置された適当な丸テーブルを囲み、座る。
ワットとポールは義手の設計の話で大いに盛り上がっており、その横では1人静かにリンランが本に集中しているようだ。
(……うぅ、気まずいなぁ)
ケティは、一同の輪に馴染みきれない様子で不安げに座っていた。
ポール達の話している言葉は同じ言語ではないかのような内容でケティにはさっぱりわからない。リンランの方を見ても、彼女は気付きもしないのか本から目線を動かすことはなかった。口数の少ない彼女をケティは全く掴みきれず、集中している所を邪魔するのも気が引けるので自ら話しかけることもできない。ケティはただ、空になった皿をじっと見下ろしていた。
(あれ、そういえば……カリビアさんはどうしたんだろう)
先程から離席しているカリビアを探して、ケティは椅子に座ったままきょろきょろとあたりを見回す。やがて彼女は、路地の隅の暗がりで口髭の生えた長身の男と立ち話をするカリビアを見つけた。
(カリビアさん、誰と話してるんだろう? 気さくそうな人だったし、話に入れてくれるかな……?)
そうしてケティは席を立ち、カリビアの方へと近付いて行った。
「昨日の話、調べてくれたのね。助かるわ、オスカー」
路地裏へと続く大通りの脇道、人集りとは少し離れたその場所で、カリビアとオスカーが話し合っていた。
「いえ、カリビア殿への恩義に比べれば大したことではありません。それに、……残念ですが期待に添える結果では無かったので」
「じゃあ、やっぱり……」
「はい、国民の戸籍を調べましたが『ケティ・モーリス』という名前はありませんでした。彼女はこの国の出身では無く、どこか別の場所から連れてこられたのかと」
(あれ、もしかしてカリビアさん達……私の話をしてる?)
カリビアに合流しようとしたケティは、2人の会話を聞いて足を止める。そして、不安そうな表情で物陰に隠れ、聞き耳を立てた。
「……そう、わかったわ」
「彼女が望むなら、移民としてこの国に受け入れることは可能です。しかし……」
そこまで言ってオスカーは口を詰まらせた。しかし、遮った言葉の先はカリビアが、全てを見通しているかのような表情で紡いだ。
「うん、知ってる。国としては、身元のわからないような存在を易々と受け入れる訳にはいかないでしょう。実際、ジョンが守ってたあの部屋にいた人物が、ただの一般人なんて事はないはずだものね。放っておけばどんな危険があるかわからない」
(……っ!)
隠れてそれを聞いていたケティは不安の表情をどんどんと濃くしていった。そして遂に、いてもたっても居られなくなったケティは、その不安に駆り立てられるようにカリビア達の話に割ってはいった。
「っ! あの、カリビアさん!」
「――え、……ケティ!」
「まさか、話を聞いて……?」
驚愕した表情でケティを見るカリビアとオスカー。ケティは今にも泣き出しそうな顔で、それでも精一杯取り繕ったような不器用な笑顔で、カリビアを見た。
「ごめんなさい。今の話、ちょっと耳に入っちゃって……」
「ケティ、ポール達と居たはずじゃ……。いや、そういうこと?
アイツら……。1人で心細い女の子を放って好き勝手しやがって。全く、ちょっとは気使えっての……」
あちゃー、と額に手を当てたカリビア。そして真面目な男、オスカーはケティに向かって深々と頭を下げていた。
「非礼をお詫びします。私の浅はかな言動で、貴女を深く傷付けてしまった」
「き、気にしないでください。こ、こんなヤツ誰だって怪しいですし……。
ただ……」
「ただ……?」
言葉を濁して俯くケティに、カリビアが優しい声で問いかける。考え込むように目を伏せていたケティはやがて再び顔を上げ、オスカーを見た。
「あの、坊主の人って……どうされたんですか?」
「ジョンは……牢に。|《帝国》から懸賞金をかけられている人物ですので、数日で引き渡すことになると思います。
その後は……、国家規模の盗賊行為を行った人物ですので良い待遇はされないかと」
「そうですか……。
……あの坊主頭の人、名前も知らなかったですけど、なんの記憶も無い私が初めて会った人だったんです。
何か思惑があったとは思うんですけど……、カリビアさんが来るまでの数日は面倒を見てくれて。
良い人では無いのはわかってるんです。ただ、私が頼れる唯一の人だったから。
私、今。……っ。何を信じれば良いんでしょう……」
ポツリ、ポツリと話すケティの顔から、やがて大粒の涙がポロポロと溢れ出す。真っ赤な顔で話すケティを、カリビアは強く抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫よ。私達に出会ったんですもの。ケティ、私は貴女を捨てたりしない。私の仲間達だってそう言うわ。
私達と一緒に行きましょう? 少なくとも、記憶を取り戻すまでは。その後は、貴女の好きにしたらいい。どんな境遇でも、私達が貴女を拒むことは無い。
それに、そんなヤツばっかなのよ? ウチって。
ポールも、リンランも、行く宛てが無くて転がり込んできた。それで、皆で寄り添うように生きてる。私だって、そんな褒められる生い立ちじゃないしね?」
優しくも芯のあるその声で、カリビアはケティにそう言った。彼女をぎゅっと抱きしめながら、彼女の耳元で、はっきりと。
「私達と来てくれる……?」
「っ! はい……! っ、ぐす、うえぇ……」
カリビアに優しく後頭部を撫でられ、とめどなく溢れる涙が頬を伝う。
ケティもまた、カリビアを両手で強く抱きしめた。胸の奥から込み上げていた不安が、空っぽになるまで、ずっと。
◆
「おや、船長キャプテン。それにケティさんも、何処に行かれてたんです?
あれ、ケティさん目が腫れてますね……ッ痛!?」
ポール達の座っているテーブルまで戻ってきたカリビア。彼女は真っ直ぐにポールへと向かい、その箱頭を躊躇なくグーで殴った。
「ポール! アンタねぇ……、ケティを1人にしてどう言うつもり!?
どうせ、ワットとオタク話してて気付かなかったんでしょ! ケティずっと寂しそうにしてたんだからね!」
「あぁ、それは大変、申し訳ない事をしましたケティさん。ふむ、少々熱くなりすぎていた。悪い癖ですね」
「い、いえ、もう大丈夫なので……」
箱頭の後ろを手で掻きながら、頭を下げるポールにケティはブンブンと首を振った。
「リンラン、貴女もよ?」
「知らん」
「はぁ……。
あぁそれと。ケティ、ウチで面倒見る事にしたから」
「へー」
「あ、了解です」
「あら、気付いてたの?」
昨日出会ったばかりのケティが仲間に加わる事に2人のリアクションが思ったよりも薄く、カリビアは不思議そうにそう尋ねた。
「まぁ、そんな気はしてました。リンランの時だって急でしたし」
「一樹之陰いちじゅのかげ、一河之流いちがのながれ。巡り合わせってのはそういうモンだろ」
「そ、2人がそう言うならいいわ。仲良くしてね?」
「よ、よろしくお願いします! 皆さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「……ふん」
ケティの挨拶にポールは頷き、リンランは鼻を鳴らした。こうして、カリビアの海賊団に今日、1人の団員が加わるのだった。
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