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思念航路――副操縦士(十二)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/29 📚 シリーズ: 明日のラブレター 📝 1,958文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

長編 連作

本文

第12話 思念というもの

あの事件から数週間が過ぎた頃、純はふと、これまで積み重ねてきた経験を、一つの形にまとめてみたいという衝動に駆られた。

きっかけは、若手パイロットの研修だった。純は講師として招かれ、思念操作の基礎について語る機会を得ていた。

「思念って、結局何なんですか」

研修の最後、一人の若手がそう尋ねてきた。純はその質問に、すぐには答えられなかった。十五年もこの力と向き合ってきたはずなのに、その本質を、言葉で説明したことがなかったからだ。

「……少し、考えさせてください」

その日の夜、純は宿舎の窓辺で、改めてその問いと向き合った。

思念とは、単なるエネルギーではない。それは分かっている。だが、それが一体何なのか、純はまだ、明確な答えを持てずにいた。

「こうしたい」

「こうなってほしい」

「ここへ行きたい」

純はこれまでの飛行を、一つ一つ思い出していく。離陸の瞬間の緊張。乱気流を突き抜けるときの集中。そして、あの事件の日、機内の人々と分かち合った、あの力の奔流。

そのすべてに共通していたのは――

「意思、か」

純は、思わず声に出して呟いた。

思念とは、人間の意思そのものだ。何かを望み、何かを願い、何かに向かって進もうとする、その根源的な力。強い人間ほど、その意思を明確に、大きな対象へと向けられる。だからこそ、大型船や旅客機のような、巨大なものを動かせる。

だが、事件の日に見た光景は、それだけでは説明がつかなかった。

一人一人の力は小さくても、同じ方向を向いた瞬間、それは信じられないほどの力になった。純一人では支えきれなかった機体を、百人を超える人々の意思が、確かに支えたのだ。

「本当に強いのは……」

純はゆっくりと、その考えを言葉にしていく。

一人で巨大なものを動かせる人間ではない。同じ方向を思える人間を、どれだけ増やせるか――それこそが、この世界における、本当の意味での「強さ」なのだ。

その気づきは、純の中で、これまでのすべての経験と、静かに繋がっていった。競技会での勝利。都市の思念障害での対応。そして、あの事件での経験。すべてが、一つの答えへと収束していく。

「……そういうことか」

純は、深く息をついた。

十五年かけて、ようやく辿り着いた答えだった。だが同時に、その答えに辿り着いたことで、純の中には、新たな疑問も生まれていた。

――自分は、いつからこんな人間になったのだろう。

この世界に来たばかりの頃、純はただ戸惑うばかりの、一人の異世界人に過ぎなかった。それが今では、多くの人々の中心となって物事を動かせる立場になっている。

その変化がいつ始まったのか、純自身にも、はっきりとは分からなかった。ただ確かなのは、この十五年という歳月が、純という人間を、確実に作り変えていったということだった。

---

翌日、純は再び若手パイロットたちの前に立った。

「昨日の質問、答えが出ました」

「思念について、ですか」

「はい」

純は、これまで整理してきた考えを、ゆっくりと言葉にしていく。

「思念は、人間の意思そのものです。だから、強い人間ほど、大きなものを動かせる。でも、本当に大事なのは、それだけじゃありません」

若手たちが、真剣な眼差しで純を見つめている。

「一人の強い人間より、同じ方向を向ける仲間を増やせる人間の方が、この世界では、遥かに大きな力を持てます」

その言葉に、若手の一人が、少し不思議そうな表情を浮かべた。

「それは……純さんご自身の、実感ですか」

「そうです。何年もかけて、ようやく分かったことです」

純は、静かに微笑んだ。この世界に来たばかりの頃には、決して口にできなかった言葉だった。

研修が終わったあと、純は一人、空港の展望デッキへと足を運んだ。夕暮れの空を、旅客機が一機、静かに横切っていく。エンジン音のない、この世界特有の飛行だった。

純はその機影を目で追いながら、ふと、自分自身の変化を思う。

十五年前、純はここに、ただの副操縦士として迷い込んだ。それが今では、この世界の航空業界に、確かな足跡を残す存在になっている。

――俺は、いつの間にか、そういう人間になっていたんだな。

その実感は、誇らしさと同時に、どこか寂しさのようなものも伴っていた。

この世界での生活が、純の中で、あまりにも当たり前のものになりすぎていた。向こうの世界での記憶が、少しずつ、遠いものになっていくような感覚。

その夜、純は久しぶりに、あの高度一万メートルでの瞬間を、鮮明に思い出していた。機長との、いつもの何気ない会話。シートベルト着用サインが消える、あの一瞬。

――もう一度、あの空に戻ることは、あるのだろうか。

その問いへの答えは、純自身にも、まだ分からなかった。

だが、その答えは、純が思っていたよりもずっと早く、そしてずっと唐突な形で、訪れることになる。

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JJ

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