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思念航路――副操縦士(十三)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/5 📚 シリーズ: 明日のラブレター 📝 1,968文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

長編 連作

本文

第13話 帰還

その日は、何の変哲もない一日だった。

純は定期便の副操縦士として、いつも通り搭乗準備を進めていた。整備士との打ち合わせ、機体チェック、天候の確認――十五年という歳月の中で、身体に染み付いた手順を、淡々とこなしていく。

離陸を終え、巡航高度に達した頃、純は窓の外の雲海を眺めながら、ふと物思いに耽っていた。

この世界で過ごした十五年。競技会、都市の思念障害、あの事故――数えきれないほどの出来事が、走馬灯のように頭をよぎる。

「どうした、ぼうっとして」

隣に座るグレイ――もはや、純にとって誰よりも長い付き合いの相棒だった――が、怪訝そうな顔で純を見た。

「いえ、なんとなく、昔のことを思い出してました」

「昔って、向こうの話か」

「はい」

グレイは何も言わず、ただ小さく頷いただけだった。長年の付き合いの中で、この話題には深入りしないという、ある種の暗黙の了解が二人の間には存在していた。

その瞬間だった。

純の身体が、突然、眩い光に包まれた。

「な――」

声を上げる間もなかった。視界が白く染まり、感覚のすべてが、一瞬にして消え去っていく。あの日、高度一万メートルで経験したのと、まったく同じ感覚だった。

そして、光が収まった瞬間。

純は、見慣れたコックピットの中にいた。

---

計器盤の配置。座席の感触。窓の外に広がる、朝の光を浴びた雲海。

すべてが、十五年前のあの瞬間と、寸分違わず同じだった。

「……え」

純は呆然と、周囲を見渡す。隣に座っているのは、あの機長――純が異世界へ旅立つ直前、最後に会話を交わした、元の世界の機長だった。

時計を見る。

自分が身につけている腕時計の秒針が、まだかすかに動いている。純は震える手でそれを確認した。

十秒。

たったの十秒しか、経っていなかった。

十五年という歳月を、あの世界で過ごしてきたはずだった。競技会で勝利を収め、都市の危機を救い、無数の人々と出会い、そして「思念とは何か」という答えにまで辿り着いた、あの長い年月が。

それなのに、こちらの世界では、たった十秒しか流れていない。

純は、自分の手を見つめた。あの世界で何度も思念を送り込んだ、この手を。何も変わっていないように見えて、それでも、確かに何かが変わっている感覚があった。

「戻ってきたか」

不意にかけられた声に、純は弾かれたように顔を上げる。

隣に座る機長が、いつもと変わらぬ様子で、まっすぐ前を見つめていた。

「……機長?」

純の声は、かすかに震えていた。

機長がゆっくりと、こちらを向く。その口元に浮かんでいたのは、これまで純が一度も見たことのない、意味深な笑みだった。

「向こう、何年いた?」

その一言で、純の中のすべてが凍りついた。

「……今、何て」

「向こうの世界だ。何年、過ごしてきた」

聞き間違いではなかった。機長は、確かに「向こうの世界」と口にしていた。まるで、純が経験したことを、最初から知っていたかのように。

純は、しばらく言葉を発せられなかった。頭の中で、様々な疑問が渦を巻いている。だが、その渦の中から、まず口をついて出たのは、単純な事実だった。

「……十五年です」

「そうか」

機長は、それだけを口にすると、静かに頷いた。まるで、その答えを予想していたかのような反応だった。

「機長は?」

純が思わず尋ね返すと、機長は前を向いたまま、こともなげに答えた。

「四年」

一瞬、純は自分の耳を疑った。

「……四年」

「そうだ」

「機長も、あっちに?」

その問いに、機長は答えなかった。代わりに、口元の笑みを、わずかに深くしただけだった。

純の頭の中で、これまでの十五年間の記憶が、急速に色を変えていく。もしかしたら、この機長もまた、自分と同じように、あの思念で動く世界を経験してきたのではないか。

「……知ってたんですか」

純の声は、自分でも驚くほど掠れていた。

「何を」

「俺が、向こうにいたこと」

機長は、前方の雲海を見つめたまま、フッと息を吐いた。

「当たり前だ。俺が知らないとでも思ったか?」

その言葉には、これまでの十五年間、純が積み重ねてきたすべての驚きと戸惑いを、静かに包み込んでしまうような、不思議な重みがあった。

窓の外には、変わらず雲海が広がっている。だが純の中で、これまで自分が生きてきた「現実」の輪郭が、音を立てて揺らぎ始めていた。

十五年という歳月を、あちらの世界で確かに生きてきた。その記憶は、決して幻ではない。それなのに、こちらの世界では、たった十秒しか経っていない。

そして、隣に座るこの機長もまた、あの世界で自分と同じような経験をしてきたのかもしれない。

その事実が意味することを、純はまだ、正確には理解できずにいた。

だが一つだけ、確かなことがあった。

――この世界は、純が思っていたよりも、ずっと奥が深い。

雲の切れ間から差し込む朝の光が、コックピットの中を静かに照らしていた。

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JJ

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