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宇宙の運び屋(四)~宇宙の狭間、2000年前の真実

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/20 📚 シリーズ: 明日のラブレター 📝 6,454文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

長編 連作

本文

宇宙の運び屋(四)~宇宙の狭間、2000年前の真実

その日の放課後、純は自販機で缶コーヒーを買った。

ボタンを押して、缶が落ちてくる音を聞いて、取り出し口に手を伸ばした——その瞬間、吸い込まれた。

缶が宙に浮いていた。

「今取り出そうとしてたんだが」純が眉をひそめる。

「回収します」と、オービット9号の淡々とした声が返ってきた。

「缶コーヒーはホットだ、気をつけろよ」

「依頼の説明が先です」

「熱いうちに飲みたいんだが」

「依頼が先です」

乃亜がシートベルトを締めながら苦笑した。

「諦めなよ。どうせ依頼終わったら冷めてる」

「それがわかってて吸い込むのか、こいつは」

「規則ですので」

---

操縦桿を握ると、オービット9号がさっそく切り出した。

「依頼リスト第四件目です。依頼主は『夢見る石の民』——惑星ルーパの住人です」

「夢見る石の民?」乃亜が手元の端末を確認しながら首を傾げる。

「岩でできた体を持つ種族です。彼らは眠るとき、自分の夢を石の中に記録する習慣があります。今回の依頼は——族長の夢が、何かの拍子に石から抜け出して宇宙空間を漂っています。それを回収して、族長の元へ届けてほしいとのことです」

「夢が、漂ってる」純が呟く。

「宇宙は広いな」

「広いわね」乃亜も同意するように頷いた。

「広いです」とオービット9号。

「出発します」

---

【惑星ルーパ周辺宙域】

ルーパは茶色い星だった。

岩と砂でできた、でこぼこした表面が広がっている。空は薄いオレンジ色で、二つの月が昼間から見えていた。近づくにつれ、センサーが微弱な反応を拾い始める。

「夢の反応ですね」とオービット9号が告げた。「生体エネルギーに近い波形です。ルーパの周辺軌道を漂っています」

「捕まえ方は?」純が尋ねる。

「網を出します」

「網?」

「宇宙用の捕獲網です。標準装備されています」

「そんな装備があったのか」

「第22項に——」

「もういい」

純は苦笑しながら、ゆっくりと船を進めた。

センサーの反応を追いながら、ルーパの周辺軌道を旋回する。

「あそこです」乃亜が窓の外を指差した。

宇宙空間に、かすかに光るものがあった。淡い青白い光。ふわふわと漂いながら、ゆっくりと移動している。

「……綺麗ね」

「族長の夢か」純の口元が少し緩む。

「どんな夢を見てたんだろうな」

捕獲は、あっさり終わった。夢はおとなしく網に収まり、専用の容器に格納された。容器の中で、青白い光がゆっくりと揺れていた。

---

【惑星ルーパ・族長の元へ】

着陸すると、石の民がずらりと出迎えた。

全員が岩でできた体。でこぼこした灰色や茶色の肌。でも目だけは宝石のように輝いていた。緑や青や金色に。

族長は一番大きかった。高さ3メートルはある岩のような体。でもその目が、乃亜が容器を差し出した瞬間、子供みたいにきらきらと輝いた。

「……戻ってきた」

族長が容器をそっと受け取り、胸に当てた。青白い光が石の体に吸い込まれていく。族長の体が、一瞬だけ淡く輝いた。

「ありがとう、運び屋。この夢は——わしが若い頃に見た夢でな。この星には雨が降らん。でも遠い昔、一度だけ雨を見たことがある。その記憶が夢になって、ずっと石の中に眠っていた」

「雨を、ずっと夢で見てたんですか」乃亜が尋ねると、族長は深く頷いた。

「そうじゃ。水が空から落ちてくるんじゃぞ。信じられるか?」

純は少し口元を緩めた。

「信じます」

「あなたたちの星にも、雨が降るのか」

「たくさん降ります」

族長の目が細くなった。

「……羨ましい」

族長が深く頭を下げた。石の体がずしんと揺れた。

「また夢が逃げたときは、頼んでもいいか」

「いつでも」と純は即答した。

「俺たちの仕事ですから」

---

ルーパを離陸して、純は操縦桿を地球方向へ向けた。

「よし、帰るか」

「帰りましょう」と乃亜がシートに背を預けた。

「今日は早く終わったね」

「たまにはいい」

「夕ご飯、何にする?」

「——」

純が答えようとした、その瞬間。

レーダーが、鳴った。

ビ、ビ、ビ、ビ——

鋭い、連続した警告音。オービット9号のレンズが一瞬で深紅に染まった。

「マスター」

声のトーンが変わっていた。

「……反応が、あります」

---

【フラッシュバック——2000年前の真実】

モニターに、船が映し出された。

漆黒の船体。横に細長く、翼のように広がった形。表面に、無数の傷跡が走っている。エンジンの噴射炎が、暗い宇宙を青白く染めている。

純はその船を見た瞬間、何かが体の奥から突き上げてくるのを感じた。記憶ではない。もっと深いところにある何か——皮膚が覚えているような、感覚としての記憶。

隣を見ると、乃亜も同じ顔をしていた。

「……知ってる」乃亜が静かに呟いた。

「俺もだ」

「マスター」オービット9号のレンズが明滅する。

「あの船は——2000年前に、マスターたちが最後に遭遇した船です」

純の手が、操縦桿の上でピタリと止まった。

「……全部、思い出せるか?」

「今なら——はい」

オービット9号のレンズが静かに光を放ち始めた。モニターの映像が切り替わる。古い映像が流れ始める。

2000年前の記録だった。

---

映像の中の宇宙は、今と同じだった。同じ星、同じ暗闇、同じ無数の光。

船体は今より少し古い。見慣れたコックピット、二脚の座席。映像の中の純と乃亜が、今と同じように並んで座っている。

あの頃、二人はある依頼を終えて帰路についていた。

死にかけた星に、最後の水を届けた。その仕事を終えて、二人は船の外に出た。宇宙服を着て、達成感を、宇宙空間の真ん中で味わっていた。

「——なぁに考えてるの?」映像の中の乃亜が、宇宙服のヘルメット越しに覗き込んでくる。

「ん?」純の声がノイズ混じりに響いた。

「次の依頼、どこだろう」

「オービットに聞けよ」

「聞いたら絶対面倒くさいやつだから、まだ聞きたくない」

「そういうやつだな、確かに」

二人が笑った。宇宙服の中で、笑っていた。

その瞬間——閃光が走った。

どこからともなく現れた漆黒の船が、エネルギー砲を放った。狙いは純たちの船ではなく——二人の、すぐそばだった。

爆発が起きた。

宇宙空間に、衝撃波が広がった。船外にいた純と乃亜が、爆発の余波で吹き飛ばされる。純が乃亜の手を掴もうとした。指先が触れた。けれど、その凄まじい濁流に抗うことはできなかった。

二人は——宇宙の狭間へと、吸い込まれていった。

---

映像が、そこで止まった。

「……オービット」と純は静かに問いかけた。

「あのあと、お前はどうした」

「マスターたちが消えた瞬間、緊急プログラムが作動しました」オービット9号の声は、いつもより低かった。

「魂の緊急転送プログラムです。宇宙の狭間に消えたマスターたちの魂を、最も近い有人惑星——地球へと送りました。転生という形で」

「それがお前の仕事だったのか」

「マスターたちを失わないための、最後の手段でした。僕にできる、唯一のことでした」

純は何も言わなかった。

隣を見ると、乃亜が膝の上で手を握り締めていた。

「……吹き飛ばされたあの場所が」と乃亜が静かに呟く。

「今ここに来た」

「来ました」オービット9号のレンズが静かに明滅する。

「あの船はずっと、マスターたちの転生先を探し続けていたようです。今日、座標を割り出した」

「目的は?」

「不明です。ただ——武装しています。エネルギー砲、六基。以前より、大幅に強化されています」

純は一度だけ深く息を吸った。

そして——操縦桿を、強く握り直した。

「乃亜」純は前を見つめたまま、隣の席に声をかけた。

「何?」

「あのとき、手が届かなかった」

「……届かなかったね」

「今度は、届く場所にいる」

乃亜が顔を上げた。純は相変わらず前を睨み据えたままで、けれどその口の端はわずかに吊り上がっていた。

「だから——もう一回、あいつに吹き飛ばされるわけにはいかない。行くぞ!」

乃亜はうなずき、手元にある副操縦席の操縦桿を両手で握った。目が、静かに、でも確かに輝いていた。

「行くわよ!」

---

【因縁の決戦】

漆黒の船が動き始めた。

エンジン炎が青白く輝き、船体がゆっくりとこちらへ向いた。あのときと同じ船。でも傷の数が、まるで違った。その傷の数だけ、この船も何かと戦い続けてきた。

交信が入った。

声はなかった。

ただ、低い電子音だけが流れた。言葉を持たない存在なのか——どちらにしても、意思だけは明確に伝わってきた。

お前たちを、もう一度、狭間へ落とす。

「オービット、あいつの弱点は?」

「2000年前のデータと照合中——メインエンジンの装甲が薄い。ただし真後方180度以内からしか狙えません。正面と側面は強化装甲で覆われています」

「後方に回るには?」

「正面から突っ込んで、砲撃をかわしながら直前で機体を反転させる。他に方法はありません」

「つまり砲口の真正面を突っ切る」

「おっしゃる通りです」

純の目が細くなった。

「何発耐えられる?」

「直撃一発で船体崩壊します」

「じゃあ当たらなければいい」

「理論上はそうです」

「行くぞ」

「根拠は?」と乃亜が即座に聞いた。

「俺の腕と、お前のナビ」

「……許容範囲内ね。行きます」

---

スロットルを全開にした。

漆黒の船との距離が縮まる。向こうもエンジン出力を上げてきた。正面衝突コースで、二つの船が宇宙空間を突き進む。

「砲撃準備、全六基」と乃亜が告げた。「充電完了まで——五秒」

「わかってる」

「四秒」

純は操縦桿を微調整しながら、相手の動きを読んだ。あのときも同じ船だった。あのときは不意打ちだった。でも今は正面から来る。動きの癖がわかる。

「三秒」

漆黒の船が、わずかに右に傾いた。照準を合わせる動作だ。

「二秒——」

「今だ!」

純は操縦桿を左に倒し、同時に機首を下に向けた。船体が宙返りするように回転した。

六本の光の柱が、真横を通過した。

熱気が船体を包んだ。コックピットの温度計が跳ね上がった。警告音が鳴り響いた。でも直撃はなかった。

「かわした!」と乃亜。

「まだだ!」

漆黒の船が即座に旋回してきた。素早い。あのときより反応速度が上がっている。新たな砲撃が充電を始めた。

「再充電、三秒!」

「距離は?」

「500!」

「近すぎる、一回離れる!」

純はスロットルを絞り、急制動をかけた。船体が震えた。慣性に逆らう力が全身にかかる。歯を食いしばった。

漆黒の船が追ってくる。側面から回り込もうとしてくる。包囲しようとする動きだ。

「右から来る!」と乃亜が叫ぶ。

「見えてる!」

「上にも反応! デコイだ、本体は——」

「下だ!」

純は真上に操縦桿を引いた。直下から放たれたエネルギー砲が、船体の真下をかすめた。金属の焦げる匂いがコックピットまで漂った。装甲の一部が溶けた音がした。

「装甲損傷!」とオービット9号。「第三区画、軽微ですが穴があきました!」

「塞げるか!」

「応急処置なら!」

「頼む!」

オービット9号が素早く動いた。純は構わず操縦を続けた。

漆黒の船が再び正面に来た。今度は距離を詰めながら、連続砲撃の体勢を取っている。

「連続砲撃来ます! 回避不可能な角度で——」と乃亜の声が一瞬だけ固くなった。

純は一瞬だけ目を閉じた。

脳の奥で、何かが弾けた。

戦いの記憶。この船との戦いの記憶ではない——もっと古い、もっと多くの死線をくぐり抜けてきた記憶。宇宙の様々な場所で、様々な危機を、この操縦桿一本でくぐり抜けてきた記憶。さっき脳裏をよぎった光景が、今、完全に身体の感覚として呼び覚まされた。

目を開けた。

純はスロットルを再び全開にした。

漆黒の船へ、真正面から突き進む。向こうの砲口がすべて、純の船に向く。充電の光が六つ、一斉に灯った。

距離300。

距離200。

——放たれる、砲撃。

六本の光の柱が、一斉に放たれた。

純は操縦桿を引き、押し、捻り、機体をコマのように回転させながら、その光の網の隙間を縫う。一本がすぐ右を通過し、次の一本が真上をかすめ、最後の一本が左翼の先端を焼いた。

「翼端損傷!」とオービット9号。

「問題ない!」

問題はあったが、致命傷ではない。純は構わず突き進んだ。

漆黒の船が再充電を始めた——その一瞬を、純は逃さなかった。

操縦桿を限界まで引き絞り、機体を急反転させた。Gが全身を押しつぶした。視界が白くなりかけた。

漆黒の船の、真後方に出た。

「今だ!」

「撃つ!」

乃亜がトリガーを引いた。

一瞬の静寂の後、凄まじい爆発が巻き起こった。

漆黒の船のメインエンジンに、直撃した。爆発が連鎖した。第二エンジン、第三エンジンが次々と火を噴いた。漆黒の船が、激しく震えた。傾いた。速度が一気に落ちた。

砲口から光が消えた。

宇宙空間に、静寂が戻った。

---

純はゆっくりと操縦桿を戻した。

荒い息が、コックピットに響いていた。手のひらが汗で濡れていた。左翼端から微かな煙が出ていた。第三区画の応急処置ランプが点滅していた。

でも——船は飛んでいた。

「……やったか」純が肩の力を抜く。

「敵、メインエンジン全損」オービット9号の淡々とした確認が入った。「副砲、全基沈黙。戦闘続行は不可能です。ただし——」

「また、ただしか」

「船体は辛うじて無事です。相手は生きています」

純はモニターを見た。漆黒の船が、ゆっくりと漂っている。動けない。でも沈んでいない。

交信ボタンを押した。

「聞こえるか」

長い沈黙の後、低い電子音が一回返ってきた。

「お前が俺たちに何をしたかったのか、俺にはわからない。でも——今日はここで終わりだ。ずっと俺たちを追い続けたその時間を、もっと別のことに使えばよかった。宇宙は広い。俺たちを追いかける以外にも、面白いことが山ほどある」

沈黙が続いた。

やがて——短い電子音が、二度鳴った。

オービット9号が静かに告げる。

「……返答不能、しかし通信は切っていません。まだ聞いています」

純は少し考えてから、もう一度交信機に向かった。

「次に会うときは——戦いじゃない形で来い。それだけだ」

電子音が、一度だけ、応じるように鳴った。

漆黒の船がゆっくりと向きを変える。そして、引き留めるものなど何もない、暗い宇宙の彼方へと漂い始めた。

純はそれを最後まで見送った。

二度と来ないかもしれない。でも——それでいいと、純は思った。

---

「……終わった」乃亜が、ふぅと小さく息を吐いた。

「終わったな」純も深く頷き、肺の空気をすべて吐き出した。

しばらく、二人とも何も言わなかった。

窓の外に、星が広がっていた。あのときと同じ星。同じ暗闇。同じ光。

「……思い出したんだけど」乃亜がぽつりと言った。

「ん?」

「さっき、手が届かなかったって話してたじゃない」

「ああ、してたな」

「あのとき——私も、手を伸ばしてたよ」

純は思わず乃亜を見た。けれど乃亜は前を向いたまま、星の光を見つめて続ける。

「届かなかったけど。でも伸ばしてた。覚えてる」

純はしばらく黙った。

「……覚えてる」純も静かに応じた。

「……帰りますか」

オービット9号がぷかぷかと二人の間に浮いてくる。レンズを金色に柔らかく光らせながら、そっと問いかけた。

「帰る」純がシートを立つ。

「帰りましょう」乃亜が微笑んだ。

---

【帰還・菩提樹の下】

10秒後に戻っていた。

夕焼けの中、菩提樹の葉が風に揺れていた。どこかでまだ部活の声が聞こえる。自販機の缶コーヒーが、取り出し口にそのまま残っていた。

純が缶を拾い上げた。ホットのままだった。

「……まだ温かい」

「10秒しか経ってないから」と乃亜。

「そうだな」

純が缶を一口飲んだ。乃亜が隣を歩きながら、夕焼けに染まった空を見上げた。

「純」

「ん?」

「夕ご飯、何にする?」

「……カレー」

「珍しい」

「たまには違うやつがいい」

乃亜が少し笑った。

「じゃあ、美味しいお店探しましょうか」

軽口を叩き合いながら、二人は並んで歩き出した。夕焼けの中、どこまでも続く通学路を。宇宙空間で焼けていた翼端のことも、届かなかった手のことも、今日の戦いのことも——全部、胸の中にしまったまま。

ふと、純が乃亜の横顔を見る。

あのときと違うことが、一つだけあった。

今日は、隣に、ちゃんといる。

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JJ

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