宇宙の運び屋(三)~宇宙一困った依頼人
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あらすじ
長編 連作
本文
宇宙の運び屋(三)~宇宙一困った依頼人
次の日の朝、登校途中だった。
二人が菩提樹の前を通りかかった瞬間——純が、まだパンを口に咥えた乃亜ごと、吸い込まれた。
「朝から?!」と乃亜。パンが宙に浮いた。
「緊急依頼です」とオービット9号が待ち構えていた。
「朝でも夜でも関係ありません。規則ですので」
「そのパン、拾えよ」と純。
「宇宙空間に落ちたら拾えないでしょ」
「船内だから大丈夫です」とオービット9号。
「ただし依頼の説明を先にします」
「パンが先」と乃亜。
「依頼が先です」
「パンが」
「依頼が」
「……二人とも落ち着け」
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純が操縦桿を握り、乃亜がパンを回収してシートベルトを締めたところで、オービット9号が説明を始めた。
「今回は依頼人が直接、船まで来ています」
「直接来た? どこに」
「現在、船のすぐ外にまで接近しています」
純と乃亜は同時に窓を見た。
外壁に、何かがいた。
大きかった。非常に大きかった。船の全長とほぼ同じくらいの大きさの、うねうねとした触手を持つ存在が、宇宙空間で船のすぐ目の前にゆったりと漂い、丸い目をガラスにくっつけてこちらを覗いていた。
目が合った。
触手がぶんぶんと振られた。挨拶らしかった。
「……でかい」と純。
「でかいわね」と乃亜。
「ご依頼人のお名前は『グラン』様とのことです」とオービット9号。
「宇宙生命体で、年齢は——4億歳」
「よんおく」
「歳」
「4億歳の方が直接来たのか」
「よほど切羽詰まっているようです」
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エアロックを開けて交信すると、グランの声は惑星が地響きを立てるような低さだったが、言葉は驚くほど丁寧だった。
「すまない。突然で申し訳ない。でもあなたたちしか頼める者がいないんだ」
「何を届けたいんですか?」と乃亜。
「届けるんじゃなくて——探して届けてほしい」
グランの触手がゆっくりと動き、宇宙空間の一点を示した。
「私の記憶を、なくしてしまった」
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【記憶が結晶になる】
記憶をなくした、とはどういうことか。
グランの話を整理するとこうだった。
4億歳という気が遠くなる年月を生きる中で、グランはある日、とても大事な記憶が一つだけ欠けていることに気づいた。何の記憶かはわからない。でも、ぽっかりと穴が開いているのはわかる。そしてその記憶は、何らかの形で「物質化」して宇宙のどこかを漂っているらしい。
「記憶が物質化する?」と純。
「4億年生きると、記憶が凝縮されて結晶になることがあります」とオービット9号が補足した。
「宇宙生命体に稀に起きる現象です。人類にはまだ観測されていません」
「その結晶がどこにあるかわかるのか?」
「最後に見たのは——」グランが座標を送ってきた。オービット9号がそれを解析する。
「銀河の外縁部です。ただ——」
「また......ただ、か」
「この座標は現在、別の宇宙生命体の縄張りと重なっています。名前は『ヴォーグ』。グランと同じ種族で、年齢6億歳。縄張り意識が非常に強く——」
「グランより大きいのか」
「体の大きさはグランの3倍です」
純は一瞬だけ黙った。
「……行くけどな」
「わかってた」と乃亜。
「わかってましたとも」とオービット9号。
グランの触手が、おずおずと窓を叩いた。
「……頼めるか」
純は窓の外の巨大な目を見た。4億歳の存在が、この小さな船の窓を覗いて、おずおずと頼んでいる。なんとなく、断れる気がしなかった。
「行ってきます」と純。
グランの目が、ぱあっと輝いた。触手が嬉しそうにぶんぶんと揺れた。それだけで船体が少し揺れた。
「……気をつけて」
「でかい図体で心配そうにするな、余計怖い」
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【銀河外縁部・ヴォーグの縄張り】
ヴォーグはいた。
いるどころか、縄張りの入り口で仁王立ちしていた。正確には宇宙空間で触手を広げて漂っていたのだが、それだけで視界のかなりの部分が埋まった。グランの3倍というのは、つまりそういうことだった。
「通行料を払え」
その声は、グランより更に低かった。惑星三つ分くらいの地響きがした。
「通行料?」と純は交信機に向かって。
「この宙域を通るには、私を笑わせろ。笑えたら通してやる。笑えなければ——」ヴォーグの触手がゆっくりと広がった。
「引き返せ」
「笑わせろ?」
「6億年生きて、笑ったことが一度もない。誰も私を笑わせられなかった。もし笑わせられるなら、それは本当に面白いということだ。そういう者だけを通してやる」
純は操縦桿から手を離し、椅子にもたれかかった。
「オービット、6億歳のやつを笑わせた前例は?」
「ございません」
「だろうな」
乃亜が腕を組んだ。
「笑わせるって——何が面白いのかな、6億年生きてると」
「そこが問題ですね」とオービット9号。
「人間的なユーモアは通じない可能性が——」
「待って」と乃亜が突然立ち上がった。目がきらりと光った。純はこの顔を知っている。何かひらめいたときの顔だ。
「ねえオービット、グランについてもっと詳しく教えて。4億歳で何をしてきたの?」
「グランの行動記録は非常に長大ですが——かいつまむと。星を三つ作った。銀河を一周した。宇宙規模の嵐を止めた。それから——」
オービット9号のレンズが一瞬、奇妙な点滅を繰り返す。
「ある時期だけ、理由不明のまま急に小さな辺境の惑星に何十年も住み着いて、そこに生息する奇妙な虫の生態をただひたすらに観察し続けたという、不可解な記録が残されています」
「虫を?」
「はい。4億歳の宇宙生命体が、独自の関節の曲がり方をする虫を、瞬きもせずに何十年も凝視していた模様です。目的は一切不明です」
乃亜の唇が、綺麗な弧を描いた。
「わかった」
純が怪訝そうに眉を上げる。
「何がわかった」
「あの巨大な存在の、崩し方」
乃亜は通信機のスイッチを入れ、ヴォーグの巨大な影に向けて語りかけを始めた。
「ヴォーグさん、一つだけ教えてください。昔の知り合いであるグランのこと、よく知っていますよね」
「……知っている。かつて行動を共にしたこともある」
「あの方、昔、ある星で虫の観察に何十年も没頭していたでしょう。あれ、今でもたまに発作的にやっているみたいですよ。四つの億を重ねた偉大な宇宙生命体が、岩の隙間を這い回るだけの小さな生き物を、ただじっと見つめているんです」
ヴォーグの無数の触手が、宇宙空間でピタリと硬直した。
「……あの馬鹿は、未だにあの不条理な営みを続けているというのか」
「データの通りです。星を作る能力を持ちながら、頭部を消しゴムの角にぶつけ続ける虫の儀式のような動きを、何十年も飽きずに観察しています。6億年の時を過ごしてきたあなたから見て、この行動はどう映りますか」
真空の宇宙に、重苦しい沈黙が横たわる。
次の瞬間、ヴォーグの巨体が、ゆっくりと波打ち始めた。
全身の細胞が不規則に振動し、やがて銀河が三つほど激しく衝突したかのような、凄まじい重低音が通信回線を破裂させんばかりに響き渡る。
それは、紛れもない大爆笑の波動であった。
「ぐははははははは——あの唐変木が——! 星を三つも創造したほどの奴が——虫! よりによって虫の挙動に心を奪われている——! 4億年が経過しても、何も変わっていない——! ぐははははははははは——!!」
船体がその凄まじい笑い声の振動に巻き込まれ、激しく左右に揺さぶられる。計器類が一斉に赤い警告ランプを明滅させ、純は操縦桿を両手で必死に抑え込んだ。棚の上の備品が床へ激しく散らばり、オービット9号にいたっては壁面に激突してはね返る始末。
「笑わせた!」
オービット9号のレンズが、興奮のあまり赤から金色へと発光を遂げる。
「マスター、6億年の歴史上、初めてヴォーグの顔を歪ませることに成功しました!」
「俺じゃない、乃亜の作戦だ」
純の言葉に、乃亜は誇らしげに胸を張る。
「第一級のレア記録として保存いたします」
ヴォーグはひとしきり笑い転げたのち、ようやく触手の震えを収め、ゆらりとこちらへ向けた。
「……通るが良い。それから——グランに遭遇したら、伝言を頼む。あの風変わりな奴に、また会いたいと」
「了解しました、必ず」
「虫の独自のルールについて、もう少し詳しく聞いておけば良かった」
ヴォーグの巨体が、再び細かく震え始める。今度は必死に笑いを噛み殺している様子が、ありありと伝わってきた。
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【記憶の結晶】
ヴォーグの縄張りの奥深く、その場所はあった。
宇宙空間に、ぽつんと漂う、小さな光の欠片。
結晶だった。透明で、八面体で、内側に何かが閉じ込められているように揺らいでいる。大きさはりんご一個ほど。4億年分の記憶の一欠けらにしては、随分と小さかった。
「あれですね」とオービット9号。
「グランの記憶結晶です。生体認証が必要なため、僕には回収できません。マスターが直接取りに行く必要があります」
「宇宙服で?」
「換装済みです」
気づくと純も乃亜も宇宙服姿だった。もう驚かなくなっていた。
「俺が行く」と純。
「私も行く」と乃亜。
「二人で行く必要は——」
「行く」と二人同時に。
オービット9号のレンズが細くなった。
「……規則上、止める手段が僕にはありません」
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宇宙空間に出ると、静寂が全身を包んだ。
エンジン音もない。風もない。ただ、無数の星が全方位に広がっている。
純はこの感覚が、2000年前も好きだったことを思い出した。宇宙服一枚で宇宙の真ん中に立つような、この感覚。
結晶はすぐそこにあった。漂いながら、かすかに光っていた。
純が手を伸ばして触れた瞬間——弾けた。
音ではなく、映像だった。
一瞬だけ、純の頭の中に流れ込んできた。グランの記憶の断片。4億年前、グランがまだ若かった頃——宇宙生命体にとっての「若い」が何歳なのかはわからないが——小さな惑星に降り立って、初めて「虫」というものを見た瞬間の映像だった。
驚いている。あの巨大な存在が、ちいさな虫一匹を前にして、触手を縮めて、目をまんまるにして、驚いている。
それから——笑っている。
嬉しそうに、子供みたいに、触手をぶんぶんと振り回しながら。
純は思わず笑った。ヘルメットの中で、誰にも見えないところで。
隣の乃亜も同じものが見えたのか、肩が少し揺れていた。
「……可愛いな、4億歳」と純はつぶやいた。
「可愛い」と乃亜も。
結晶を持って船に戻り、グランに届けに行った。
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【グランへの返却】
グランは、まだ宇宙空間にゆったりと身体を漂わせながら待っていた。
船が近づくと、触手がぶんぶんと振られた。純は宇宙服の手袋で包んだ結晶を差し出した。グランの触手が、そっと——本当にそっと——それを受け取った。
しばらく、何も起きなかった。
グランがじっと結晶を見つめている。4億歳の目が、少しずつ変わっていく。
やがてグランが、低い声で言った。
「……思い出した」
「何の記憶だったんですか?」と乃亜が交信機越しに。
「初めて笑った日の記憶だ」グランの声が、少し柔らかくなった。
「小さな星で、小さな虫を見て、初めて笑った。私が生まれてすぐの頃だ。なぜあの記憶だけが欠けていたのか——おそらく、長く生きるうちに、笑い方を忘れかけていたんだと思う。だから記憶が体の外に出てしまった」
純は黙って聞いた。
「あなたたちのおかげで、思い出せた。笑い方を、もう一度」
「ヴォーグがよろしくと言っていましたよ」と乃亜。
「虫の話、もっと聞きたいって」
グランの触手が、ゆっくりと広がった。
笑っている、と純は気づいた。4億歳の笑い方は、人間とは全然違うけれど、それでも確かに笑っていた。
「……あいつも、まだ生きていたか」
「6億歳ですから」
「あいつは、私より長生きするな」グランの目が少し光っていた。
「よし。報酬は弾む。それから——また困ったことがあれば、頼んでいいか」
「いつでも」と純は即答した。
「俺たちの仕事ですから」
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【そして本拠地へ】
グランと別れた後、オービット9号が言った。
「マスター。せっかくですので、本拠地に寄っていきませんか」
「本拠地?」と乃亜が顔を上げた。
「二人の記憶が戻ったとはいえ、まだ確認していない場所があります」
純は操縦桿を握り直した。
「……そういえば、まだ行ってないな」
「座標を入力します。ただ——」
「また、ただか!」と二人同時に。
「いえ、今回は大したことではありません。着陸方法が少し特殊なだけです」
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惑星ガルダは、一見なんの変哲もない惑星だった。
岩だらけの表面。大気は薄い。火山がいくつかある。観光地でも資源地でもない、記録上はただの無人惑星。
「あの火山です」とオービット9号が一点を示した。
「火山に着陸するのか?」
「着陸ではなく——中に入ります」
乃亜が端末から顔を上げた。
「中って、噴火口?」
「はい」
「噴火してたら?」
「してません。今は」
「今は、ってところが引っかかる」
「大丈夫です。マスターの腕なら」
「俺の腕に丸投げするな」
しかし純はすでにスロットルを調整し始めていた。体が覚えていた。この感覚も、前から何度もやってきたことだった。
噴火口へ向けて降下する。岩の壁が左右を囲む。熱気が船体を揺らす。どんどん深く、どんどん暗くなっていく。
「まだ行くの」と乃亜が窓の外を見ながら。
「まだ行く」
「どこまで——」
光が見えた。
暗闇の底に、光が。
噴火口の遥か下に、巨大な空洞があった。そしてその空洞の中心に——それはあった。
ダイヤ型の巨大な宇宙船が、縦に刺さっていた。
全長、おそらく数百メートル。表面は岩と同じ色に偽装されていて、上から見ればただの岩盤にしか見えない。しかし下から見ると、その幾何学的な美しさが、空洞の薄明かりの中でかすかに輝いていた。
乃亜が息を呑んだ。
「……これが」
「ここが本拠地です」とオービット9号。レンズが、珍しく誇らしそうな光を帯びていた。
「2000年間、マスターたちを待っていました。僕と一緒に」
純は降下を続けながら、その巨大な船をじっと見た。
見覚えがあった。もちろんある。3000年分の記憶の中に、この船がある。この空洞に降りてきた回数も、あの格納庫の匂いも、エンジンを起動したときの振動も、全部覚えている。
「ただいま」と純は、小さくつぶやいた。
隣で乃亜も、同じことをつぶやいていた。
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格納庫に着陸すると、広大な空間が広がっていた。
整備ドック。資材の棚。過去の依頼の記録が壁一面に並んでいる。純はその記録を一つ一つ眺めながら歩いた。
3000年前にこの本拠地が作られて以来、二人が積み上げてきた歴史がそこにあった。様々な星の名前、様々な依頼主の名前、様々な『運んだもの』の記録が、壁一面を埋め尽くしている。
「すごい量だ」と純。
「全部、二人でやってきた仕事です」とオービット9号。
「僕が記録していました」
乃亜が壁の一点で立ち止まった。「純、これ——」
近づいてみると、それは一枚の小さな写真のようなもの。正確には立体映像の記録だが、映っているのは——純と乃亜。
今より少し大人びた顔。宇宙服ではなく、くたびれた革ジャンのような服を着ている。どこかの星の夕焼けを背景に、二人並んで立っている。
笑っている。
「いつの記録だ?」
「3000年前、この本拠地が完成して、最初の依頼の時に撮影されたものです」とオービット9号。
「マスターたちが初めて二人でこの船に乗った、翌日の記録です」
純はしばらくその映像を見た。
乃亜も黙って見ていた。
「……私たち、ずっとこれをやってたんだね」と乃亜がぽつりと。
「ああ」
「それから1000年働き続けて……2000年前に離れて、高校生に転生して、また続きをやってる」
「なんか、おかしいな」と純は言った。
「おかしい」と乃亜も笑った。
「でも——悪くない」
「悪くない」
オービット9号が、二人の間でぷかぷかと浮いていた。レンズが、金色に柔らかく光っていた。
「依頼リストは、まだ残っています」
「知ってる」と純。
「いつでも言って」と乃亜。
「では——次の依頼の説明を——」
「今日はここまでだ」と純が笑いながら遮った。
「学校があるから」
オービット9号のレンズが、ぷしゅっと暗くなった。
「……2000年待って、また学校に負けるんですね」
「学校も大事なんだよ」
「理解できません」
「そのうちわかる」
「2000年経ってもわかりません」
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【帰還・菩提樹の下】
また、行った時の10秒後に戻っていた。
朝の光。通学路。遠くで電車の音がする。乃亜の手にはまだパンがあった。宇宙空間に落ちたはずのパンが、何事もなかったように戻っていた。
「パンが戻ってる」と乃亜が不思議そうに見た。
「オービットがこっそり回収してたんだろ」
「律儀ね」
二人は並んで歩き出した。どこかの星で4億歳の存在が笑い方を思い出している。6億歳の存在が虫の話を聞きたがっている。28光年先で、透明な草が虹色に揺れている。惑星の時間を止めてしまった小さな恋人が、今頃照れくさそうにしている。
そういうことを、胸の中にしまったまま。
「純」と乃亜が朝の空を見上げた。
「ん?」
「次はどんな依頼が来るんだろうね」
「さあな。でも——」
「でも?」
「どんな依頼でも、俺たちなら届けられる気がする」
乃亜がパンを一口かじった。
「……採点しといてあげる」
「さっきの発言で点数上がったか?」
「まあまあ」
「まあまあか」
「上出来、にはまだ遠い」
純は笑った。朝の通学路を、二人は肩を並べて歩き続けた。空は青く、遠く、どこまでも続いている。
その空の向こうに、まだ見ぬ星々が待っている。まだ届けていないものが、山ほど待っている。
でも今は、学校へ行く。
それが、運び屋ふたりの、日常だった。