第十七話「二回戦開始...!!」
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あらすじ
『魔王るこ討伐記』あらすじ 剣士、魔法使い、弓使い、薬師―― 誰もがひとつの「スキル」を持って生きる世界。 冒険者たちは仲間とパーティを組み、ダンジョンを攻略し、魔物を討ち、日々さまざまな依頼をこなしていた。 そんな世界に君臨する、絶対的な敵。 魔王――るこ。 そして魔王に仕える、四人の強者――「四天」。 世界各地では、まだ互いの存在すら知らない者たちの物語が始まっていた。 一人で依頼をこなす剣士。 冒険者を夢見る弓使いの少女。 小さな薬草店で働く少女。 記憶を失った、異常なほど剣の強い謎の男。 そして――羊一匹にすら苦戦する、新米冒険者たち。 英雄だけが、この物語の主人公ではない。 冒険者も、商人も、ギルドの受付も、街で暮らす普通の人々も。 それぞれが出会い、別れ、時に敵となり、時に仲間となり―― やがて無関係だったはずの物語は、一つへと繋がっていく。 しかし彼らはまだ知らない。 なぜ魔王るこは世界を滅ぼそうとしているのか。 「魔王」とは、本当に世界の敵なのか。 そして―― この世界そのものに、誰も知らない秘密が眠っていることを。 これは、魔王を倒す英雄一人の物語ではない。 この世界に生きる、たくさんの人々の物語。 『魔王るこ討伐記』 ――魔王を倒したその先に、本当の答えがある。
本文
楽しい宴から
二日後。
グラディア大闘技場。
「うおおおおおおおおお!!」
朝から巨大な歓声が、闘技都市いっぱいに響き渡っていた。
カズキ「…………」
選手専用観覧席へ足を踏み入れたカズキは、闘技場を見下ろしたまま動きを止める。
ジェノス「どうした?」
カズキ「いや……」
ひっかるん「?」
カズキ「あれ」
指を差す。
一回戦では巨大な闘技場を十字に分け、A、B、C、D。
四つの区画で同時に試合が行われていた。
だが、今は違う。
区画を隔てていた魔導障壁は全て消え、地面に刻まれていた境界の光もない。
あるのは、巨大な――一つの舞台。
カズキ「でっか……」
ひっかるん「元々この広さだったんだけどね」
カズキ「分かってるけど! 四つに分かれてるの見た後だと全然違う!」
ジェノス「二回戦からは一試合ずつらしい」
カズキ「一試合ずつ!?」
ひっかるん「全部見られるね」
カズキ「…………」
ジェノス「何だよ」
カズキ「最高じゃん!!」
ジェノス「そんなに嬉しいか?」
カズキ「一回戦なんて、気づいたら試合終わってたんだぞ!?」
ひっかるん「僕の試合も途中からしか見てなかったしね」
カズキ「…………」
ジェノス「…………」
ひっかるん「…………」
カズキ「ごめん」
ひっかるん「いいよ」
ジェノス「許すの早いな」
少し離れた席では、サイタマタマが大きく欠伸をしながら座っていた。
サイタマタマ「おー、おはよ!」
ジェノス「兄ちゃん、遅い」
サイタマタマ「間に合ったんだからいいだろ!」
カズキ「今日も元気だなぁ」
サイタマタマ「大会だぞ? 元気じゃない方がおかしい!」
ジェノス「その理屈は分からん」
その時。
maro『さあああああああ!!』
待ちわびていたかのように実況が響く。
maro『二日間!! 待たせたなァァァァ!!』
「うおおおおおおおお!!」
maro『六十四人で始まったグラディア大闘技祭!! 一回戦を勝ち残ったのは――三十二人!!』
巨大な魔導掲示板に名前が並んでいく。
ハイドラグーン。
耀平。
ルーシー。
かつとし。
たたたつ。
ユウナギ。
カゲツ。
yuki。
けい。
せきりゅう。
サイタマタマ。
ゆかマキ。
まきお。
マリン。
Am。
むっちゃん。
ゆうや。
にょろん。
はに。
カズキ。
ねこ。
ディーナ。
ゴツタ。
ジェノス。
さくらもち。
あぶらメンタル。
レックウザ。
ひっかるん。
まくらZ。
メイビス。
ざるそば。
そして。
深いフードを被った、一人の男。
カズキ「…………」
昨夜の宴会でも、一人離れて座っていた男。
名前も素性も分からない。
背中には、大きな剣を背負っている。
カズキ「やっぱり出るんだ……」
ひっかるん「昨日の人だね」
ジェノス「ああ」
サイタマタマ「知り合い?」
カズキ「知らないから気になってるんだよ!」
サイタマタマ「聞けばいいじゃん」
ジェノス「兄ちゃん、それ昨日も言ってただろ」
サイタマタマ「そうだっけ?」
ジェノス「忘れんなよ!」
maro『そしてここから先!! 四試合同時なんてことはしねぇ!!』
歓声がさらに大きくなる。
maro『この巨大な舞台!! 端から端まで!! たった二人のために使ってもらうぞォォォォ!!』
カズキ「おお……!」
maro『二回戦!! 全十六試合!!』
maro『最後まで立っている十六人を――決めるぞォォォォ!!』
「うおおおおおおおおおお!!」
カズキは思わず拳を握った。
三十二人。
ここにいる全員が、一度は本戦で勝った者。
一回戦とは違う。
もう、偶然ここに立っている者はいない。
カズキ「…………」
ひっかるん「緊張してきた?」
カズキ「ちょっと」
ジェノス「まだお前の試合じゃないぞ」
カズキ「分かってるって!」
サイタマタマ「腹減ったな」
ジェノス「兄ちゃんは少し緊張しろ!!」
その時。
巨大掲示板が切り替わった。
二つの名前が浮かび上がる。
――むっちゃん。
――ハイドラグーン。
カズキ「あ」
選手観覧席の別の場所。
むっちゃん「…………」
名前を見上げていたむっちゃんが、ゆっくり立ち上がった。
ぴりからし「…………」
ねこ「…………」
ざるそば「…………」
《銀の羊》の仲間たちも、掲示板を見ている。
ぴりからし「よりによって最初からそれ!?」
むっちゃん「俺に言うなよ!」
ねこ「ハイドラグーンかぁ……」
ざるそば「頑張れ」
むっちゃん「軽いな!?」
ざるそば「じゃあめちゃくちゃ頑張れ」
むっちゃん「そういう問題じゃない!」
ぴりからし「勝てる勝てる!」
むっちゃん「根拠は!?」
ぴりからし「仲間だから!」
むっちゃん「根拠になってねぇ!」
ねこ「でも」
むっちゃん「ん?」
ねこ「むっちゃんのスキル、相手によってはかなり嫌だと思うよ」
むっちゃん「…………」
ざるそば「それはそう」
ぴりからし「だから勝てる!」
むっちゃん「最後だけ雑なんだよなぁ……」
そう言いながらも、むっちゃんは小さく笑った。
むっちゃん「行ってくる」
ねこ「うん」
ざるそば「頑張れ」
ぴりからし「勝ってこーい!!」
反対側。
ハイドラグーンも立ち上がる。
その瞬間。
「きゃああああああ!!」
「ハイドラグーン様ぁぁぁぁ!!」
「二回戦も勝ってええええ!!」
カズキ「まだ出てないのにすごいな……」
ひっかるん「相変わらずだね」
サイタマタマ「人気者は大変だな!」
ジェノス「本人は慣れてるだろ」
ハイドラグーンは観客席へ軽く手を上げると、そのまま選手通路へ向かった。
少しして。
巨大な舞台の両端から、二人が姿を現す。
maro『二回戦第一試合ィィィ!!』
maro『《銀の羊》――むっちゃん!!』
maro『対するは!!』
maro『冒険者ランク、ダイヤモンド!! 戦島グラガスが誇る人気冒険者!!』
maro『ハイドラグゥゥゥゥン!!』
大歓声。
ハイドラグーンは長い槍を片手に、静かに中央へ歩いていく。
むっちゃん「…………」
その槍を見る。
長い。
普通に戦えば、間合いでは完全に不利。
だが。
むっちゃん「…………」
自分には、自分の戦い方がある。
ハイドラグーン「よろしく」
むっちゃん「ああ」
ハイドラグーン「そんな怖い顔すんなって」
むっちゃん「誰のせいだと思ってんだ」
ハイドラグーン「俺?」
むっちゃん「お前以外に誰がいる!」
ハイドラグーン「ハハッ」
槍を構える。
それだけで、空気が変わった。
むっちゃん「…………っ」
審判「両者、準備はいいな?」
二人が頷く。
審判「――始め!!」
ドンッ!!
むっちゃん「!?」
一瞬。
本当に一瞬だった。
ハイドラグーンが地面を蹴った瞬間、二人の距離が消える。
むっちゃん(速――)
鋭い突き。
一直線に槍先が胸元へ迫る。
むっちゃん「【誘導】!!」
グッ――。
槍先が僅かに横へ引かれる。
むっちゃん(よし――!)
そのまま逸らす。
はずだった。
ハイドラグーン「…………!」
突きの最中。
槍先へかかった僅かな違和感を捉えた瞬間、ハイドラグーンの手が動いた。
むっちゃん「――え?」
前へ突き出されていた槍。
その勢いを殺さない。
握る位置だけが滑るように変わり、腰が沈む。
身体が回る。
そして。
突きだったはずの一撃が、流れるように横へ変わった。
むっちゃん「っ!?」
ハイドラグーン「――ふっ!」
ブォンッ!!!
薙ぎ払い。
むっちゃん「【誘導】!!」
もう一度、槍を逸らそうとする。
だが。
重い。
先ほどの突きとは、まるで違う。
むっちゃん「くっ――!」
間に合わない。
ドガァァン!!
槍の柄が、むっちゃんの身体を捉えた。
むっちゃん「――っ!!」
身体が宙を舞う。
そして。
ドサッ!!
地面へ落ちた。
ぴりからし「むっちゃん!!」
ねこ「……!」
ざるそば「…………」
むっちゃん「…………」
動かない。
審判がすぐに駆け寄る。
審判「戦闘不能!!」
腕が上がった。
審判「勝者――ハイドラグーン!!」
「うおおおおおおおおお!!」
maro『一撃ィィィィィ!!』
maro『いや!! 一度は軌道を変えた!!』
maro『だがその瞬間!! 突きから薙ぎ払いへ切り替えたァァァァ!!』
maro『ハイドラグーン!! 二回戦突破ァァァァ!!』
カズキ「…………」
ひっかるん「今の……」
ジェノス「ああ」
カズキ「途中で変えたよな?」
ジェノス「突きを出してからだ」
カズキ「…………」
ひっかるん「むっちゃんのスキルに気づいてから……?」
ジェノス「多分な」
一度見て、考えて、次の攻撃で対策した。
――のではない。
攻撃している、その最中。
異変を察知し、その一撃そのものを変えた。
カズキ「……やっぱ強いな」
ジェノス「ああ」
サイタマタマ「俺も戦ってみたいな!」
ジェノス「兄ちゃんは黙って見てろ!」
舞台。
ハイドラグーンは槍を肩へ担ぎ、歓声へ軽く手を上げる。
それだけ。
まるで何事もなかったかのように。
係員たちがむっちゃんの状態を確認しながら運んでいく。
ぴりからし「むっちゃあああああん!!」
ねこ「死んでないから!」
ざるそば「多分すぐ起きる」
ぴりからし「ほんと!?」
ざるそば「多分」
ぴりからし「多分なの!?」
一試合目。
勝者――ハイドラグーン。
そして、巨大掲示板はすぐに次の対戦へ切り替わった。
――耀平。
――けい。
五月雨「…………」
観覧席で、五月雨がその名前をじっと見つめる。
マリン「けいだね」
五月雨「うん」
ゆかマキ「一回戦で五月雨に勝った人だっけ」
五月雨「そう」
耀平「…………」
その隣。
耀平が立ち上がる。
マリン「頑張って」
はに「耀平ー! 勝ってこーい!」
耀平「行く前から声でけぇよ」
たたたつ「諦めた方がいいよ」
はに「何を!?」
耀平「ハハッ」
剣を腰へ差す。
五月雨「耀平」
耀平「ん?」
五月雨「強いよ」
耀平「知ってる」
五月雨「…………」
耀平「お前に勝った奴だろ?」
五月雨「うん」
耀平「だったら」
剣の柄へ手を置く。
耀平「俺がどこまでいけるか、試してくる」
五月雨「……頑張って」
耀平が通路へ向かう。
そして少し離れたところから、長い金髪の女性も静かに立ち上がった。
けい「…………」
腰には、一回戦と同じ細身の剣。
カズキ「あ、けいだ」
ジェノス「五月雨と戦ってた奴だな」
ひっかるん「雷を使ってた人」
カズキ「結局、剣士なのかな」
ジェノス「知らん」
カズキ「ジェノスでも分かんない?」
ジェノス「分かるわけねぇだろ」
二人が中央へ進む。
maro『二回戦第二試合!!』
maro『耀平!!』
maro『対するは、東シロガネ代表!! 冒険者登録なし!!』
maro『未だ謎多き――けい!!』
「うおおおおおおお!!」
耀平「よろしく」
けい「よろしく」
耀平が剣を抜く。
けいも、細身の剣を静かに抜いた。
耀平「…………」
けい「?」
耀平「一個だけ聞いていいか?」
けい「なに?」
耀平「お前、剣士?」
けい「…………」
少し考える。
けい「どう見える?」
耀平「聞き返すなよ」
けい「ふふっ」
耀平「五月雨が気にしてた理由分かったわ……」
審判「始め!!」
先に動いたのは耀平だった。
ドンッ!!
一気に踏み込む。
けい「……!」
キィン!!
剣と剣が激突する。
耀平「はっ!!」
そのまま切り返す。
右。
左。
さらに踏み込む。
キンッ!!
キィン!!
けい「…………」
全て受ける。
耀平「くっ……!」
だが、押している感覚がない。
耀平(上手い……)
剣を合わせた瞬間、僅かな角度で力を逃がされる。
真正面から止めているわけではない。
最小限。
必要なだけ。
耀平「…………」
一回戦の五月雨が感じたものを、耀平も少しずつ理解し始めていた。
耀平「はあっ!!」
さらに攻める。
けい「…………」
キィン!!
バチッ――。
耀平「っ!」
剣を伝って、小さな雷が腕へ走る。
ほんの一瞬だけ、指の力が抜けた。
けい「そこ」
鋭い突き。
耀平「くっ!」
身体を捻る。
頬を剣先が掠める。
耀平「…………」
距離を取る。
カズキ「雷!」
ジェノス「一回戦と同じだ」
ひっかるん「でも……」
カズキ「?」
ひっかるん「耀平、結構ついていってない?」
ジェノス「ああ」
耀平は強い。
派手なスキルを見せるわけでもない。
ただ、踏み込み、剣筋、受け、切り返し。
その全てが高い水準でまとまっている。
けい「…………」
耀平「まだまだ!!」
踏み込む。
キィン!!
バチッ!!
キンッ!!
何度雷を流されても、少しずつそのタイミングへ慣れていく。
耀平(剣が触れた時)
キィン!!
バチッ――。
耀平「っ……!」
耀平(踏み込む瞬間)
けい「…………」
バチッ。
耀平「そこ!!」
雷が走る直前に、足を止める。
けい「……!」
耀平「やっぱりな!」
横へ。
剣を振る。
キィン!!
けいが受ける。
観覧席。
五月雨「…………」
マリン「耀平、押してる?」
五月雨「違う」
マリン「え?」
五月雨「食らいついてる」
それだけでも、十分すごい。
一回戦。
五月雨も雷のタイミングを読もうとした。
だが、最後まで崩し切れなかった。
耀平「はぁ……はぁ……」
額から汗が落ちる。
けい「…………」
耀平「余裕そうだな」
けい「そう見える?」
耀平「見える」
けい「そっか」
耀平「……腹立つなぁ」
けい「ごめん」
耀平「謝られるともっと腹立つ!」
けいが小さく笑う。
そして初めて。
けいから踏み込んだ。
耀平「!」
速い。
細身の剣が迫る。
キィン!!
耀平「くっ!」
受ける。
次。
キィン!!
その次。
キィン!!
耀平「ぐっ……!」
一撃。
二撃。
三撃。
防げている。
だが。
耀平「…………」
違う。
耀平(俺が防いでるんじゃない)
けい「…………」
また剣が来る。
耀平「っ!」
ギリギリ。
受ける。
耀平(こいつが……)
キィン!!
耀平の身体が後方へ押される。
耀平(俺に防がせてる……!)
速度を合わせられている。
自分が反応できる、その僅か上。
耀平「…………」
口元が上がった。
けい「?」
耀平「舐められたもんだな」
けい「そんなつもりないけど」
耀平「嘘つけ」
剣を構え直す。
耀平「まだ速くできるだろ」
けい「…………」
耀平「だったら来いよ」
けい「ついてこれないよ?」
耀平「やってみなきゃ分かんねぇだろ」
一瞬。
けいの表情が変わった。
ほんの少しだけ楽しそうに。
けい「……いいね」
次の瞬間。
耀平「――っ!?」
速い。
先ほどまでとは違う。
剣が来る。
耀平「くっ!!」
ガァン!!
辛うじて受ける。
身体が大きく後ろへ下がる。
耀平「はぁ……!」
けい「…………」
耀平「今の……」
けい「?」
耀平「ちゃんと防いだぞ」
けい「うん」
耀平「…………よし」
けい「何が?」
耀平「ちょっと嬉しい」
けい「ふふっ」
だが、そこで終わらない。
耀平は剣を握り直す。
耀平(速さで勝てない)
耀平(魔法の使い方も、向こうが上)
耀平(だったら――)
けいが踏み込む。
耀平「…………!」
一撃目。
受ける。
雷。
指が痺れる。
二撃目。
かわす。
三撃目。
耀平「今だ!!」
けい「!」
耀平は受けなかった。
一歩、さらに内側へ。
けいの剣が耀平の肩を僅かに掠める。
それでも止まらない。
耀平「はあああああ!!」
けい「……!」
初めて。
完全にけいの懐へ入った。
けいの細身の剣は外側。
戻すには間に合わない。
耀平(もらった!!)
剣を振り抜く。
その瞬間。
ピチャ。
耀平「…………え?」
ほんの僅かな音。
けいの足元から水が跳ねた。
一滴。
二滴。
僅かな水が耀平の剣へ触れる。
スッ――。
耀平「!?」
剣筋が、ほんの少しだけ逸れた。
数センチ。
たった、それだけ。
だが、それで十分だった。
耀平の剣が、けいの頬の横を通り過ぎる。
けい「……危なかった」
耀平「…………」
首元。
けいの細身の剣が止まっている。
審判「そこまで!!」
耀平「…………」
数秒。
剣を見る。
そして、けいを見る。
耀平「今の……水だよな」
けい「うん」
耀平「…………雷だけじゃねぇのかよ」
けい「雷だけって言ったっけ?」
耀平「言ってねぇけどさ!!」
観覧席。
カズキ「水!?」
ひっかるん「今、水使ったよね?」
ジェノス「……ああ」
カズキ「じゃあ二つのスキル!?」
ジェノス「分からん」
カズキ「え?」
ジェノス「魔法とスキルは同じじゃねぇ。あいつが何者なのかは、まだ分からん」
耀平「…………」
小さく息を吐く。
耀平「でも」
けい「?」
耀平「使わせた」
けい「…………」
耀平「最後のあれ」
けい「…………」
耀平「剣だけじゃ、防げなかったんだろ?」
少しの沈黙。
けいは耀平を見る。
そして、小さく笑った。
けい「そうだね」
耀平「…………」
ニッ。
耀平「っしゃ」
けい「負けたのに?」
耀平「うるせぇ」
審判「勝者――けい!!」
「うおおおおおおおお!!」
maro『二回戦突破ァァァ!! けい!!』
maro『そしてまた一つ謎が増えたァァァ!! 雷だけじゃねぇ!! 水まで使ったぞォォォ!!』
耀平「ほんと何なんだよ、お前」
けい「さあ?」
耀平「またそれかよ……」
剣を鞘へ戻しながら、耀平は苦笑した。
二回戦。
二人目の勝者――けい。
そして第三試合。
――Am。
――たたたつ。
はに「来た!!」
たたたつ「近い近い近い!」
はに「頑張れ!!」
たたたつ「まだ座ってるから!」
マリン「ふふっ」
ゆかマキ「相変わらずだね」
たたたつ「誰かこいつ止めて!」
はに「なんで!?」
たたたつ「声がでかい!」
そう言いながら、たたたつは二本の短剣を確認して立ち上がる。
マリン「相手、炎を使うみたいだよ」
たたたつ「遠距離?」
ゆかマキ「一回戦を見る限りはね」
たたたつ「なるほど」
はに「大丈夫?」
たたたつ「まあ」
短剣を腰へ差す。
たたたつ「近づけばいいんでしょ」
はに「おおー!」
ゆかマキ「簡単に言うなぁ……」
舞台。
Am「…………」
その手の周囲に小さな炎が灯る。
対するたたたつは、二本の短剣を抜いた。
maro『第三試合!!』
maro『炎を操るAm!!』
maro『対するは!! 一回戦で高速戦闘を見せつけた――たたたつ!!』
審判「始め!!」
ボッ!!
開始と同時。
炎が飛んだ。
たたたつ「っと!」
横へ。
炎が地面へ落ちる。
ドンッ!!
さらに二発、三発。
Am「…………!」
次々と火球が放たれる。
たたたつ「おおっと!」
右。
左。
風が舞う。
カズキ「速い!」
ジェノス「一回戦と同じだ。【疾風】で加速してる」
ひっかるん「でも近づけてないね」
Amは距離を保つ。
一歩近づけば炎。
横へ回れば、また炎。
たたたつ「……なるほど」
正面から走れば狙われる。
なら。
たたたつ「――行くよ」
ブワッ!!
Am「!」
風が弾ける。
右。
Amが炎を放つ。
だが、たたたつはもういない。
左。
Am「っ!」
炎。
また避ける。
一歩ずつ。
確実に。
距離が縮まる。
Am「来るな!!」
ボオオオオオッ!!
今までより大きな炎。
たたたつ「…………!」
正面。
逃げ道を塞ぐように広がる。
カズキ「危ない!!」
たたたつ「――ふっ!」
地面を蹴る。
身体を包む風が、一気に強くなる。
炎が迫る。
それでも、たたたつは止まらない。
ブワッ!!
炎の端。
僅かな隙間。
そこを風に乗るように抜ける。
Am「なっ!?」
たたたつ「近づいた」
Am「――!」
もう、炎を撃つ距離ではない。
たたたつ「ごめんね」
二本の短剣。
キンッ!!
Amの腕を挟むように止まる。
Am「…………」
たたたつ「ここ、俺の距離なんだ」
Am「……参った」
審判「そこまで!!」
maro『勝者――たたたつ!!』
「うおおおおおおお!!」
はに「たたたつうううううう!!」
たたたつ「聞こえてる!!」
はに「おめでとおおおお!!」
たたたつ「だから声でかいって!!」
マリン「相性も良かったね」
ゆかマキ「うん。Amみたいな遠距離型からしたら、あの速度で近づいてくる相手はかなり嫌だと思う」
耀平「でも最後の炎、普通なら抜けられねぇぞ」
五月雨「たたたつも強いね」
三回戦進出。
三人目――たたたつ。
そして第四試合。
巨大掲示板へ名前が表示された瞬間。
カズキ「……!」
そこに、あの男がいた。
深いフード。
背中の大剣。
対する名前は――かつとし。
カズキ「来た」
ひっかるん「フードの人」
ジェノス「…………」
サイタマタマ「お、昨日の?」
カズキ「そう!」
サイタマタマ「じゃあやっと見れるな!」
カズキ「何が?」
サイタマタマ「強いかどうか」
ジェノス「大会二回戦にいる時点で弱くはないだろ」
サイタマタマ「それもそうだな!」
ジェノス「考えて喋れ!」
フードの男が立ち上がる。
誰とも話さない。
背中の大剣へ手を触れることもなく、そのまま通路へ消えていく。
カズキ「…………」
一方。
かつとしも舞台へ。
二人が中央で向かい合う。
かつとし「…………」
フードの男「…………」
maro『さあ第四試合!!』
maro『一回戦を突破したかつとし!!』
maro『対するは――未だその素性をほとんど見せない、フードの男!!』
観客からざわめきが広がる。
「でかい剣だな」
「あれ使うのか?」
「顔見えねぇぞ」
「何者だ?」
かつとしも背中の大剣を見る。
かつとし「抜かないのか?」
フードの男「…………」
かつとし「まあいい」
構える。
かつとし「必要になったら抜け」
審判「始め!!」
かつとしが踏み込む。
鋭い攻撃。
だが。
フードの男「…………」
スッ。
かつとし「!」
僅かに身体を傾ける。
それだけ。
攻撃が外れた。
かつとし「まだだ!!」
二撃目。
かわす。
三撃目。
かわす。
かつとし「くっ……!」
次。
さらに次。
フードの男は、大きく跳ぶこともない。
武器で受けることもない。
ただ、必要な分だけ身体を動かしている。
カズキ「…………」
ひっかるん「全然当たらない」
ジェノス「それどころか」
カズキ「?」
ジェノス「ほとんど動いてねぇ」
サイタマタマ「上手いなぁ」
ジェノス「兄ちゃん分かるの?」
サイタマタマ「なんとなく!」
ジェノス「なんとなくかよ!!」
かつとし「はあっ!!」
さらに踏み込む。
フードの男「…………」
また、すかされる。
かつとし「……なんでだ」
攻撃は遅くない。
むしろ、本戦二回戦まで勝ち残るだけの速度はある。
それなのに、一度も届かない。
かつとし「だったら!!」
大きく踏み込む。
今までで最も鋭い攻撃。
カズキ「来る!」
フードの男「…………」
初めて。
男が前へ出た。
かつとし「!?」
一瞬で懐。
かつとし「な――」
フードの男が拳を握る。
大剣ではない。
ただの拳。
ドンッ!!
かつとし「がっ――!?」
腹部。
一発。
その瞬間、かつとしの身体が浮いた。
カズキ「え」
飛ぶ。
かつとし「――っ!!」
まだ飛ぶ。
観客「うおっ!?」
かつとし「うわあああああああ!!」
ドサァァッ!!
舞台の外。
かつとしの身体が地面へ落ちる。
「…………」
一瞬。
会場から音が消えた。
審判「…………」
場外を確認する。
審判「場外!!」
腕が上がった。
審判「勝者――フードの男!!」
「うおおおおおおおおお!!」
maro『一撃ィィィィィ!!』
maro『背負った大剣には一度も触れず!!』
maro『拳一発でかつとしを場外まで吹き飛ばしたァァァァ!!』
カズキ「…………」
ひっかるん「…………」
ジェノス「…………」
カズキ「あの大剣……」
ジェノス「ああ」
カズキ「何のために持ってるんだ?」
ジェノス「俺に聞くな」
サイタマタマ「ハハハハハ!!」
ジェノス「何笑ってんだよ」
サイタマタマ「いや、面白いな!」
カズキ「どこが!?」
サイタマタマ「だってあんなでっかい剣背負って、殴った方が強いんだぞ?」
ジェノス「……確かに意味分からんな」
フードの男「…………」
歓声にも反応しない。
場外のかつとしを一度だけ見ると、男は静かに背を向けた。
背中には、結局一度も抜かれなかった大剣。
カズキ「…………何者なんだろ」
四人目。
フードの男。
そのまま二回戦は続く。
そして第五試合。
巨大掲示板へ表示された名前を見て。
さくらもち「…………」
弓を握った。
――ユウナギ。
――さくらもち。
カズキ「あ、さくらもち!」
ひっかるん「一回戦も勝ってたね」
ジェノス「ああ」
サイタマタマ「知り合い?」
カズキ「ちょっとね」
ジェノス「兄ちゃん何でも聞くな」
サイタマタマ「いいじゃん! 知りたいんだから!」
さくらもちは静かに立ち上がる。
一回戦。
勝った。
だが、自分の中では納得できる戦いではなかった。
二つのスキル。
世界でも極めて珍しい力。
それを持っている。
なのに。
さくらもち「…………」
未だに、上手く使えていない。
さくらもち「……よし」
弓を背負い直し、舞台へ向かった。
対するユウナギも、一回戦ではルカとの激戦を制している。
簡単な相手ではない。
maro『第五試合!!』
maro『一回戦ではルカとの激闘を制した――ユウナギ!!』
maro『対するは!!』
maro『十五歳の弓使い――さくらもち!!』
歓声。
さくらもち「よろしく」
ユウナギ「よろしく」
さくらもちが弓を構える。
矢を一本、番える。
審判「始め!!」
ヒュンッ!!
先に飛んだのは一本の矢。
ユウナギ「!」
かわす。
さくらもち「…………」
すぐに次。
ヒュンッ!!
また避けられる。
ユウナギ「…………」
距離を詰める。
さくらもち「っ!」
矢。
さらに矢。
ユウナギは止まらない。
カズキ「速い!」
ジェノス「弓使いにとって近づかれるのはまずいな」
ひっかるん「でも、さくらもち……」
カズキ「?」
ひっかるん「どこ見てるんだろ」
さくらもちの視線は、ユウナギ全体を見ていない。
足。
肩。
腕。
そして装備。
細かな場所を一つずつ見ている。
さくらもち(…………)
スキル。
【遠視】。
遠くを見るためだけの力ではない。
離れた場所からでも、細かな動き、小さな傷、ほんの僅かな隙。
それらを鮮明に捉えられる。
さくらもち「…………見つけた」
ユウナギ「?」
矢を番える。
狙う。
放つ。
ヒュンッ!!
ユウナギが横へ。
避けた。
ユウナギ「…………」
だが。
矢が曲がった。
ユウナギ「!?」
空中で不自然に軌道を変える。
もう一度。
ユウナギへ。
いや。
ユウナギの――ある一点へ。
ユウナギ「追ってくる……!?」
さくらもち「…………っ」
目を見開く。
集中。
矢。
相手。
そして弱点。
全てを見失わない。
さくらもち「…………」
額に汗が浮かぶ。
ユウナギがさらに動く。
矢が曲がる。
さらに追う。
カズキ「何あれ!?」
ひっかるん「矢が……」
ジェノス「追尾してる」
サイタマタマ「すげぇ!」
ジェノス「兄ちゃん、静かに見ろ!」
サイタマタマ「なんで!?」
ジェノス「集中してるだろ、あいつ!」
サイタマタマ「ここまで聞こえないだろ!」
ジェノス「そういう問題じゃねぇ!」
ユウナギ「…………!」
さらに方向を変える。
その瞬間。
観客席から。
「うおおおおお!!」
大きな歓声。
さくらもち「――っ」
ほんの一瞬。
意識が逸れた。
矢の追尾が止まる。
ユウナギ「……!」
矢がそのまま地面へ突き刺さった。
さくらもち「くっ……」
ユウナギ「…………なるほど」
距離を詰める。
さくらもち「!」
ユウナギ「ずっと集中してないと駄目なんだ」
さくらもち「…………」
気づかれた。
ユウナギ「なら――」
さらに速く。
右。
左。
細かく方向を変える。
さくらもち「っ……!」
矢を放つ。
追尾。
だが、ユウナギがまた方向を変える。
さくらもち「くっ……!」
見続ける。
追い続ける。
二つの力を同時に。
さくらもち(難しい……!)
【遠視】で捉える。
弱点を見つける。
【弱点追尾】で指定する。
矢を放つ。
その矢が飛んでいる間、相手も、弱点も、矢も、全部意識し続けなければならない。
さくらもち「……っ」
頭が痛い。
視界が僅かに揺れる。
ユウナギ「そこ!」
一気に距離を詰める。
さくらもち「!」
間に合わない。
咄嗟に後ろへ跳ぶ。
攻撃が服を掠める。
さくらもち「くっ……!」
転がる。
カズキ「さくらもち!」
ジェノス「まずいな」
ひっかるん「うん……」
距離を取る。
だが、ユウナギはもう能力の弱点に気づいている。
動き続ける。
集中を乱す。
一つの場所に留まらない。
さくらもち「はぁ……はぁ……」
矢を握る。
一回戦でも同じだった。
二つの力を同時に使おうとする。
失敗する。
片方を意識すれば、もう片方が疎かになる。
さくらもち(また……)
弓を握る手に力が入る。
さくらもち(また上手くできない)
ユウナギ「…………」
近づいてくる。
さくらもち「…………」
その時。
思い出す。
一回戦を終えた後。
自分で言った。
――まだまだだ。
さくらもち「…………」
そう。
まだまだ。
なら。
さくらもち(今、できればいい)
完璧じゃなくていい。
ずっと続けられなくてもいい。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
二つが重なれば。
さくらもち「…………」
息を吸う。
ユウナギ「!」
何かが変わった。
さくらもちが止まった。
逃げない。
弓を構える。
ユウナギ「正面から……?」
さくらもち「…………」
【遠視】。
見る。
足。
重心。
肩。
そして。
さくらもち(そこ)
弱点。
小さな隙。
矢を番える。
ユウナギ「…………!」
放つ。
ヒュンッ!!
ユウナギが右へ動く。
矢が曲がる。
ユウナギ「!」
さらに左へ。
矢も曲がる。
さくらもち「…………っ!!」
集中。
余計な音を聞かない。
観客も、歓声も、何も見ない。
ただ。
矢。
相手。
弱点。
それだけ。
ユウナギ「くっ……!」
さらに動く。
だが、矢が追う。
一度。
二度。
三度。
ユウナギ「まだ――!」
かわす。
その瞬間。
さくらもち「……そこ」
一本目の矢を避けるため、ユウナギの体勢がほんの少しだけ崩れた。
そこへ二本目。
ユウナギ「!?」
さくらもちは、すでに次の矢を放っていた。
一つの矢を追尾させながら、次を撃つ。
今までできなかったこと。
ほんの一瞬だけ。
二つの力が噛み合った。
ユウナギ「――っ!」
二本目の矢が足元へ。
逃げ道を塞ぐ。
ユウナギが止まる。
そして。
最初の矢が戻ってくる。
ユウナギ「…………」
首元の僅か手前。
矢が止まった。
さくらもち「はぁ……はぁ……」
限界。
もう集中は続かない。
矢が地面へ落ちる。
カラン。
だが、ユウナギは動かなかった。
しばらくして。
ユウナギ「……参った」
さくらもち「…………」
審判の腕が上がる。
審判「そこまで!!」
審判「勝者――さくらもち!!」
「うおおおおおおおお!!」
maro『決まったァァァァ!!』
maro『二つの力!! その片鱗を見せつけ――さくらもち、三回戦進出ゥゥゥ!!』
さくらもち「…………」
弓を下ろす。
一回戦とは違う。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
自分の中で二つの力が重なった。
さくらもち「…………できた」
小さく。
本当に小さく笑う。
ユウナギ「強いね」
さくらもち「……まだまだ」
ユウナギ「そう?」
さくらもち「うん」
それでも。
今度の「まだまだ」は、一回戦の時とは少しだけ意味が違っていた。
観覧席。
カズキ「すげぇ……」
ひっかるん「二つ使ってたね」
カズキ「二つ……」
ジェノス「ああ」
カズキ「二つのスキルって、本当にいるんだな」
ジェノス「かなり珍しいけどな」
サイタマタマ「俺も二個欲しかった!」
ジェノス「そんなノリで増えねぇよ!!」
カズキは笑いながら、巨大な魔導掲示板を見る。
そこには、二回戦を突破した五人の名前が並び始めていた。
ハイドラグーン。
けい。
たたたつ。
フードの男。
さくらもち。
三十二人から十六人へ。
まだ二回戦は始まったばかり。
そして、巨大掲示板が次の対戦カードへ切り替わる。
カズキ「…………」
新たな二つの名前。
その片方を見た瞬間、カズキの表情が少し変わった。
ジェノス「どうした?」
カズキ「いや……」
闘技場へ視線を向ける。
カズキ「次も、すごそうだなって」
maro『さあああああ!! まだまだ行くぞォォォォ!!』
会場が再び揺れる。
二回戦。
残る十一試合。
戦いは――まだ終わらない。
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