第十八話「それぞれの強さ」
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あらすじ
『魔王るこ討伐記』あらすじ 剣士、魔法使い、弓使い、薬師―― 誰もがひとつの「スキル」を持って生きる世界。 冒険者たちは仲間とパーティを組み、ダンジョンを攻略し、魔物を討ち、日々さまざまな依頼をこなしていた。 そんな世界に君臨する、絶対的な敵。 魔王――るこ。 そして魔王に仕える、四人の強者――「四天」。 世界各地では、まだ互いの存在すら知らない者たちの物語が始まっていた。 一人で依頼をこなす剣士。 冒険者を夢見る弓使いの少女。 小さな薬草店で働く少女。 記憶を失った、異常なほど剣の強い謎の男。 そして――羊一匹にすら苦戦する、新米冒険者たち。 英雄だけが、この物語の主人公ではない。 冒険者も、商人も、ギルドの受付も、街で暮らす普通の人々も。 それぞれが出会い、別れ、時に敵となり、時に仲間となり―― やがて無関係だったはずの物語は、一つへと繋がっていく。 しかし彼らはまだ知らない。 なぜ魔王るこは世界を滅ぼそうとしているのか。 「魔王」とは、本当に世界の敵なのか。 そして―― この世界そのものに、誰も知らない秘密が眠っていることを。 これは、魔王を倒す英雄一人の物語ではない。 この世界に生きる、たくさんの人々の物語。 『魔王るこ討伐記』 ――魔王を倒したその先に、本当の答えがある。
本文
グラディア大闘技祭、本戦二回戦。
一回戦では四つに分かれていた舞台も、二回戦からは中央の巨大な舞台一つだけとなり、一試合ずつ行われている。
複数の戦いが同時に進んでいた一回戦とは違い、今は何万人もの視線がたった二人の選手へ集まる。
その熱気は観客席だけではなく、選手たちが集まる観覧席も同じだった。
これから戦う者、すでに二回戦を突破した者、そして敗退した者。
一度この舞台に立った者たちの多くが会場に残り、次の戦いを見守っている。
一回戦で敗れたるいひろもその一人で、腕を組みながら中央の舞台をじっと見つめていた。
少し離れたところには耀平といれの姿もある。
耀平「まだ見てたんだな」
いれ「そっちもな」
耀平「俺は二回戦まで行ったからな」
いれ「はいはい」
耀平「何だよその反応」
いれ「一回勝ったくらいで偉そうにするなって」
耀平「お前、その一回で俺に負けたんだけど?」
いれ「それとこれは別」
耀平「こいつ……」
その近くではAmとたたたつも舞台を眺めていた。
Am「暇だなぁ」
たたたつ「帰れば?」
Am「お前のせいで暇になったんだけど?」
たたたつ「まだ根に持ってる!?」
Am「別に?」
たたたつ「絶対持ってるじゃん」
Am「一対一が苦手なんだよ!」
たたたつ「開き直った!?」
Am「そもそも近づかれた時点で相性悪いんだって」
たたたつ「近づくまで何発撃たれたと思ってんだよ!」
Am「もっと燃えてくれてもよかったのに」
たたたつ「嫌だよ!!」
そんな声が飛び交う中、巨大な魔導掲示板が切り替わった。
次なる二人の名前が浮かび上がる。
――yuki。
――マリン。
カズキ「あっ、マリン!」
立ち上がろうとしていたマリンが声に気づいて振り返る。
カズキ「マリーン!! 頑張れー!!」
マリン「!」
大きく手を振るカズキを見て、マリンは一瞬驚いた後、小さく笑って手を振り返した。
五月雨「頑張って」
ゆかマキ「いってらっしゃーい!」
耀平「負けんなよー」
いれ「頑張れ」
はに「マリーーーン!! 勝ってこおおおおおお!!」
マリン「うるさっ!?」
たたたつ「だから声がでかいって!」
はに「応援だよ!?」
たたたつ「限度がある!」
マリン「ふふっ……行ってくるね」
仲間たちの声に少し肩の力が抜けたのか、マリンは笑いながら舞台へ向かった。
反対側からはyukiが静かに姿を現す。
maro『さああああ!! 二回戦はまだまだ続くぞォォォォ!! 次なる戦いは――yuki対マリン!!』
大歓声の中、二人が中央で向かい合った。
審判「両者、準備はいいな?」
マリン「はい」
yukiは小さく頷く。
審判「――始め!!」
先に動いたのはマリンだった。
開始と同時に横へ駆け、yukiの正面から外れながら距離を取る。
カズキ「速い!」
ジェノス「相手が何してくるか分からねぇからな。まず見るつもりだろ」
真正面から飛び込む必要はない。
まずは相手の攻撃を見る。それから近づく方法を考えればいい。
マリンはそう考えていた。
しかし、yukiが片手を上げた瞬間、その考えは大きく狂った。
周囲の空気が急激に冷え、舞台の広範囲へ白い魔力の光が走る。
マリン「……え?」
自分の足元だけではない。
右も左も、そのさらに向こうまで光っている。
るいひろ「……広いな」
耀平「分かるのか?」
るいひろ「魔力が流れてる範囲が広すぎる。ほとんど舞台全部じゃないか」
いれ「一人相手に使う範囲じゃないな……」
Am「いやいや、広すぎだろ」
たたたつ「魔法使いが引いてるじゃん」
Am「俺と一緒にするなよ。あんなの普通じゃないって」
yuki「……凍れ」
バキバキバキバキバキッ!!
地面から無数の氷柱が突き出した。
マリン「うそでしょ!?」
右へ走れば氷、左へ逃げても氷。
前方にも次々と白い柱が伸び、舞台そのものが凍りついていく。
それでもマリンは止まらず、僅かに残された隙間へ身体を滑り込ませた。
その直後、背後から巨大な氷柱が伸びる。
マリン「っ!」
咄嗟に身体を捻る。
氷の先端が服を僅かに掠めたものの、そのまま転がるように抜け出した。
マリン「――あっぶな……!」
カズキ「避けた!!」
五月雨「よかった……」
耀平「今の避けんのか」
いれ「やるな」
Am「おお」
たたたつ「すご」
カズキ「マリンいけ――」
ジェノス「まだだ」
カズキ「え?」
ジェノスの声とほぼ同時に、マリンの周囲が僅かに暗くなった。
マリン「……?」
何かの影が落ちている。
足元ではない。
マリンがゆっくり顔を上げると、その表情が固まった。
空中には、いつの間に作られたのか分からないほど大量の氷塊が浮かんでいた。
鋭く尖った無数の氷が、その全ての先端をマリンへ向けている。
マリン「……ちょっと待って」
yukiの指先が静かに下がった。
ヒュンッ!!
マリン「っ!!」
一本目を避け、二本目を身体を捻ってかわす。
三本目から逃れるため前へ踏み出せば、その先へ四本目が落ちた。
ドガァン!!
マリン「多すぎっ……!」
方向を変える。
五本目。
さらに六本目。
右へ走れば氷が落ち、左へ逃げればそこにも突き刺さる。
後ろへ下がろうとした瞬間には、地面から新しい氷柱が伸びた。
るいひろ「……上手い」
耀平「何が?」
るいひろ「マリンだけを狙ってない。次に逃げそうな場所まで攻撃してる」
いれ「避ければ避けるほど、動ける場所が減ってるのか」
ジェノス「ああ。避けさせてるんだ」
カズキ「避けさせてる?」
ジェノス「マリンが逃げる方向を、yukiが決めてやがる」
カズキ「……!」
マリン「はぁ……はぁ……!」
右は氷。
左も氷。
後ろも塞がれた。
残された方向へ踏み出し、そこでようやくマリンも気づいた。
その先には、最初からほとんど動いていないyukiが立っている。
yuki「…………」
マリン「……やられた」
バキッ!!
最後の氷柱が伸び、マリンの首元から僅か数センチの位置で止まった。
審判「そこまで!! 勝者――yuki!!」
「うおおおおおおおお!!」
maro『決着ゥゥゥゥ!! 避けた! 避けた! 避け続けた!! だが逃げた先まで氷の領域!! 勝者――yukiィィィィ!!』
カズキ「強っ……」
Am「あの範囲はずるいだろ」
たたたつ「魔法使いが言う?」
Am「だから俺と一緒にするなって!」
るいひろ「あの範囲だけじゃない。あれだけの数を同時に動かしてる方がすごい」
いれ「なるほどな……」
舞台では、首元の氷が消えたマリンが大きく息を吐いていた。
マリン「最初のやつ避けた時、ちょっとだけいけると思ったんだけどなぁ」
yuki「……よく避けた」
マリン「え?」
yuki「最初のは」
少し意外そうな顔をしたマリンだったが、すぐに笑った。
マリン「……ありがとう」
yukiは小さく頷いて舞台を去る。
その背中を見送りながら、マリンは悔しそうに、それでもどこか楽しそうに笑った。
マリン「次はあれも避けないとな」
次に掲示板へ浮かび上がったのは、まきおとゆかマキ。
maro『続いて行くぞォォォ!! まきお対ゆかマキ!!』
まきおは一本の剣を携えて舞台へ上がる。
対するゆかマキが肩に担いでいるのは――バットだった。
カズキ「……やっぱバットなんだ」
まきおも同じことを思ったらしく、自分の剣とゆかマキのバットを交互に見る。
ゆかマキ「何?」
まきお「いや、本当にそれで戦うんだなと思って」
ゆかマキ「失礼な。これは私の相棒だから」
まきお「馬鹿にしてるわけじゃないんだけどな」
ゆかマキ「しかも私のスキルと相性抜群」
カズキ「スキル?」
サイタマタマ「バットが百本に増えるとか?」
ジェノス「邪魔だろ」
審判「始め!!」
まきおが一気に間合いを詰める。
キィン!!
剣とバットが真正面から激突した。
まきお「まだ!」
上段から斬り、すぐに横薙ぎへ繋げ、そのまま鋭い突きを放つ。
ゆかマキはバット一本で受け、流し、時には僅かに身体をずらしながら全てを捌いていく。
耀平「上手いな」
五月雨「バットなのに?」
耀平「バットだからとかじゃねぇよ。使ってる奴が上手い」
マリン「確かに」
るいひろ「間合いをかなり正確に分かってる」
いれ「剣相手にあれだけ近い距離で振れるのは普通じゃないな」
Am「いつの間にかバット評論会始まってない?」
たたたつ「ちゃんと見ろって」
まきお「はあっ!」
鋭い斬撃が迫り、ゆかマキが初めて大きく後ろへ下がった。
観客席から歓声が上がる。
ゆかマキ「やるね」
まきお「そっちこそ。本当にゴールドか?」
ゆかマキ「そうだよ?」
まきお「嘘だろ」
ゆかマキ「本当だって。まあ、私も強すぎると思うけど」
まきお「自分で言うのか!?」
観客席から笑いが起こる。
ゆかマキは気にする様子もなく、バットを両手で握った。
ゆかマキ「じゃ、そろそろ使おうかな」
カズキ「来る!」
バットが淡く光り、その形が変化していく。
そして――少しだけ大きくなった。
カズキ「……ちょっと大きくなった?」
ゆかマキ「うん!」
カズキ「それだけ!?」
ゆかマキ「それだけとは何だ!!」
まきお「いや、俺もちょっと思った」
Am「俺も」
ゆかマキ「大当たりだから!!」
Am「聞こえてんの!?」
たたたつ「声でかいからじゃない?」
ゆかマキ「バットが大きくなるんだよ!? 大当たりでしょ!」
まきお「見れば分かる!!」
サイタマタマ「ハハハハハハ!!」
はに「ゆかマキーーー!! ホームランいけえええええ!!」
耀平「お前も十分うるせぇよ」
ゆかマキ「任せろー!!」
まきお「任せるな!!」
笑いが起きる中、まきおは剣を構え直した。
まきお「まあいい。少し大きくなっただけなら、当たらなければ同じだ!」
ゆかマキ「そうだね。当たらなければね」
ブォン!!
まきお「っ!?」
先ほどまでなら届かなかったはずの距離からバットが飛んでくる。
ガァン!!
剣で受け止めた瞬間、まきおの身体が大きく揺れた。
ゆかマキ「もう一回!」
ガァン!!
まきお「ぐっ!」
ゆかマキ「もう一回!!」
ガァァン!!
さらに一歩後ろへ押される。
カズキ「押してる!」
ジェノス「能力だけじゃねぇ。ほんの少し伸びた間合いと重さを、本人の技量で何倍にも活かしてる」
るいひろ「単純だからこそ使いやすいのかもな」
Am「……あれ、意外と大当たり?」
たたたつ「本人に言ってきたら?」
Am「それは嫌」
まきお「まだ……!」
踏ん張ったまきおがバットを剣で弾き、初めてゆかマキの懐へ飛び込んだ。
まきお「もらった!!」
ゆかマキ「甘い!」
バットを短く持ち替え、柄に近い部分で剣を受ける。
ガンッ!!
まきお「なっ!?」
ゆかマキ「バットは――こうやって振るんだよ!!」
腰を大きく回す。
まきおは咄嗟に剣を両手で構えた。
ゆかマキ「いっけええええええ!!」
ドガァァァァン!!
まきお「うおおおおおお!?」
防いだ。
間違いなく剣で防いだはずなのに、まきおの身体がそのまま宙へ浮いた。
カズキ「え」
ひっかるん「飛んだ」
Am「え?」
まきお「ちょっ――」
一直線に舞台の外へ飛んでいく。
ドサァッ!!
一瞬の静寂。
ゆかマキはバットを担いだまま、飛んでいった方向へ手をかざした。
ゆかマキ「……入った?」
審判「場外!! 勝者――ゆかマキ!!」
はに「ホームラァァァァァン!!」
maro『ホォォォォォムラァァァァァン!! 飛んだァァァァ!! 綺麗に飛んだァァァァ!! 勝者――ゆかマキィィィィ!!』
会場が爆笑と歓声に包まれる。
Am「……本当に飛んだ」
いれ「すげぇな、あれ」
るいひろ「……大当たりかも」
五月雨「評価変わった」
場外で身体を起こしたまきおも、しばらく呆然とゆかマキを見ていた。
まきお「……大当たりだな」
ゆかマキ「でしょ!?」
まきお「そこまで嬉しそうにされると何も言えねぇよ……」
ゆかマキは満面の笑みでバットを肩へ担いだ。
続いて掲示板に表示されたのは――カゲツ、せきりゅう。
maro『まだまだ行くぞォォォ!! カゲツ対せきりゅう!!』
せきりゅうが舞台へ現れる。
左手には厚みのある特殊な盾。その表面には幾重もの溝と紋様が刻まれ、右手にはメイスが握られている。
カズキ「変わった盾だな」
サイタマタマ「なんか叩いたらいい音しそうだな!」
ジェノス「兄ちゃん何言って――」
せきりゅうがメイスを盾の中央へ振り下ろした。
ドン!!
カズキ「……鳴った」
サイタマタマ「ほら!!」
ジェノス「本当に鳴るのかよ!?」
続けて盾の縁を叩く。
カッ!!
中央とは明らかに違う高い音が響いた。
Am「何あれ」
たたたつ「盾……だよね?」
いれ「楽器じゃないのか?」
耀平「盾だろ、多分」
maro『出たァァァァ!! せきりゅうの愛用装備――《共鳴盾》!! 叩く場所によって異なる音を響かせる特殊な盾だァァァァ!!』
せきりゅうはドン、カッ、ドン、ドン、カッと軽く音を確かめる。
対するカゲツは一本の剣を手に、その様子を静かに眺めていた。
カゲツ「面白い盾だな」
せきりゅう「そうだろう」
カゲツ「褒めたつもりはない」
せきりゅう「そうか」
カゲツ「……やりづらそうだな、お前」
審判「始め!!」
カゲツが一気に踏み込んだ。
剣を共鳴盾が受ける。
ドン!!
続く二撃目は盾の縁。
カッ!!
カゲツはすぐに距離を取り、共鳴盾へ目を向けた。
カゲツ「攻撃を受けても鳴るのか」
せきりゅう「当然だ」
カゲツ「なら――これはどうだ?」
カゲツの足元で影が揺れた。
黒い影が地面から盛り上がり、ゆっくりと人の形へ変わっていく。
手にはカゲツと同じ剣。
構えもほぼ同じ。
カズキ「影が立った!?」
ジェノス「分身か」
Am「一人増えるの普通に強くない?」
耀平「ああ。一対一なら厄介だ」
るいひろ「でも完全に同じじゃないな」
いれ「分かるのか?」
るいひろ「影の方が少し動きが単純に見える」
たたたつ「判断は本体がやってるのかも」
カゲツ「行くぞ」
影が動く。
右からカゲツ、左から影。
ガンッ!!
カッ!!
せきりゅうが盾とメイスで二人の攻撃を受ける。
影の剣を防いだ直後には本体が斬り込み、本体を止めれば今度は影が反対側から襲う。
ガンッ!!
カッ!!
ガンッ!!
カッ!!
せきりゅうが少しずつ後退する。
カズキ「押してる!」
耀平「片方を防いだ瞬間にもう片方が来る。面倒だな」
Am「これ、盾叩いてる暇なくない?」
その言葉とほぼ同時に、カゲツもせきりゅうの能力へ辿り着いた。
カゲツ「分かった。その盾を鳴らすことで何かしてるな?」
せきりゅう「…………」
カゲツ「なら鳴らす暇を与えなければいい」
影と共に一気に攻め込む。
ガンッ!!
カッ!!
ガンッ!!
カッ!!
せきりゅう自身がメイスで盾を叩く暇さえ与えず、二方向からひたすら剣を叩き込んでいく。
カズキ「なるほど!」
ひっかるん「能力を使わせないんだ」
いれ「いい作戦だな」
耀平「ああ……普通ならな」
いれ「?」
耀平はせきりゅうの顔を見ていた。
押されているはずなのに、せきりゅうの表情から焦りが消えていく。
影の剣が盾の縁へ当たる。
カッ!!
直後に本体の剣を中央で受ける。
ドン!!
せきりゅう「……いい」
カゲツ「何?」
再び影。
カッ!!
本体。
ドン!!
影。
カッ!!
カゲツの表情が変わった。
カゲツ「まさか……」
せきりゅう「やっと気づいたか」
カゲツ「俺たちの攻撃を……」
せきりゅう「いい音だ」
カゲツ「……俺たち、叩かされてたのか?」
せきりゅう「そうとも言う」
カゲツ「最悪だ」
せきりゅう「俺には最高だ」
攻撃を止めたカゲツが後方へ跳ぶ。
だが、すでに十分だった。
せきりゅうはメイスを上げる。
ドン!!
カッ!!
ドン、ドン――カッ!!
響いた音色に呼応するように、せきりゅうの身体を淡い光が包み込んだ。
カズキ「光った!」
Am「なるほど。音色が良いほど強くなるってことか」
たたたつ「しかも相手の攻撃でも鳴らせる」
いれ「厄介だな……」
せきりゅう「いいリズムだった」
カゲツ「俺たちが作ったんだけどな」
せきりゅう「感謝している」
カゲツ「余計腹立つな」
次の瞬間、せきりゅうが地面を蹴った。
カゲツ「――!」
速い。
影が前へ出て剣を振るう。
せきりゅうは共鳴盾を横薙ぎに振り抜いた。
ドガァン!!
影が大きく吹き飛び、地面を滑った黒い身体に亀裂が走る。
バシュッ!!
そのまま消滅した。
カズキ「一撃!?」
るいひろ「強化の幅が大きい……」
いれ「二対一が一瞬で終わったぞ」
カゲツ「参ったな」
せきりゅう「降参するか?」
カゲツ「まさか。ここからだろ」
せきりゅう「……いいな」
再び二人が激突する。
キィィン!!
強化されたせきりゅうの一撃は重く、カゲツの腕が剣ごと弾かれる。
それでもカゲツは切り返し、横から斬りつけた。
ドン!!
盾の中央で受けられる。
さらに逆方向から斬る。
カッ!!
せきりゅう「いい音だ」
カゲツ「俺は全然よくない!」
Am「ちょっと面白いな、あいつ」
たたたつ「真面目に戦ってるから!」
カゲツ「厄介すぎるだろ、その盾!」
せきりゅう「最高だろう?」
観覧席では、ゆかマキが大きく頷いていた。
ゆかマキ「分かる」
耀平「分かるんだ……」
五月雨「武器好きなんだね」
ゆかマキ「あれも大当たりだよ」
戦えば戦うほど共鳴盾が鳴り、音が繋がるほどせきりゅうは強くなる。
カゲツの呼吸は次第に荒くなっていった。
長引かせるほど不利。
ならば一撃で決めるしかない。
カゲツ「これで終わらせる」
剣を両手で握る。
せきりゅう「来い」
カゲツが残る力を振り絞って走った。
カゲツ「はああああああ!!」
全力の一撃。
せきりゅうは避けず、共鳴盾の中央で真正面から受け止めた。
ドォォォォン!!!
低く深い音が、巨大な闘技場全体へ響き渡る。
カゲツ「……!」
共鳴盾が震え、せきりゅうを包む光が一気に強くなった。
カゲツ「嘘だろ……」
せきりゅう「いい音だ」
カゲツ「最悪だ……」
せきりゅう「これで完成だ」
メイスを振り抜く。
カゲツは咄嗟に剣を構えた。
ドガァァァァァン!!!
カゲツ「――っ!!」
身体が数メートル吹き飛び、剣が手から離れて地面を転がった。
立ち上がろうとしたカゲツだったが、力が入らない。
カゲツ「……参った」
審判「そこまで!! 勝者――せきりゅう!!」
「うおおおおおおおお!!」
maro『決まったァァァァ!! 二対一で演奏を封じたはずだった!! しかし、その攻撃すら己の音へ変えたァァァァ!! 《共鳴盾》が鳴り響く!! 勝者――せきりゅうゥゥゥゥ!!』
カズキ「すっげぇ……」
ひっかるん「カゲツの作戦、間違ってなかったよね」
ジェノス「ああ。せきりゅうが一枚上だっただけだ」
舞台では、せきりゅうが倒れているカゲツへ手を差し出していた。
カゲツ「俺の攻撃、そんなにいい音だったか?」
せきりゅう「ああ」
カゲツ「……次はもっと変な音出してやる」
せきりゅう「楽しみにしている」
カゲツ「褒めてないからな」
せきりゅう「そうか」
カゲツ「やっぱりやりづらいな、お前」
せきりゅう「よく言われる」
カゲツとせきりゅうが舞台を降りると、次の対戦カードが表示された。
――ルーシー。
――メイビス。
カズキ「あ、一回戦で見た二人だ」
ひっかるん「どっちも召喚する人だよね」
ジェノス「召喚獣同士の戦いになるか」
二人が舞台へ上がる。
メイビスの足元には、小さなたぬき――たぬビスがちょこんと座っていた。
たぬビス「キュッ!」
カズキ「かわいい」
ひっかるん「かわいいね」
サイタマタマ「かわいいな!」
ジェノス「兄ちゃんまで……」
少し離れた場所では、むっちゃんも観覧席へ戻ってきていた。
ぴりからし「むっちゃん!」
むっちゃん「何?」
ぴりからし「生きてる?」
むっちゃん「生きてるわ!!」
ざるそば「ハイドラグーンの一撃すごかったから」
ねこ「綺麗に飛んでたね」
むっちゃん「もうちょっと心配してくれてもよくない!?」
いれ「元気そうだな」
むっちゃん「お前まで!?」
耀平「元気ならいいじゃねぇか」
むっちゃん「俺の扱い軽くない!?」
舞台では、ルーシーがメイビスの足元にいるたぬビスへ目を向けていた。
ルーシー「あなたも召喚獣を使うのね」
メイビス「うん」
ルーシー「なら話が早いわ」
片手を前へ出すと、大きな魔法陣が浮かび上がる。
ルーシー「来なさい――ぎゅうたん!!」
ドンッ!!
光の中から現れたのは、太い角と巨大な身体を持つ牛。
ただし、その身体は牛という言葉から想像するものとは大きく違った。
異常なほど筋肉質だった。
ぎゅうたん「モォォォォォ!!」
カズキ「牛ってあんな腕してる!?」
ジェノス「俺に聞くな」
Am「なんでムキムキなんだよ」
たたたつ「召喚獣だからじゃない?」
Am「召喚獣ならムキムキなの!?」
ルーシー「この子がぎゅうたん」
カズキ「名前かわいいな!!」
メイビスは巨大なぎゅうたんを見上げた後、足元の小さなたぬビスへ視線を落とした。
メイビス「たぬビス」
たぬビス「キュ?」
メイビス「お願い」
たぬビス「キュッ!」
光が弾ける。
一メートル、二メートル、三メートル。
たぬビスの身体が一気に巨大化し、腕、肩、胸と全身の筋肉が隆起していく。
やがて約三・五メートル。
そこに立っていたのは、巨大な筋肉質のたぬきだった。
たぬビス「キュッ!」
むっちゃん「声だけ可愛いままなの何なんだよ!!」
ぴりからし「たぬビスいけえええええ!!」
ざるそば「お前どっち応援してんの」
ぴりからし「でかい方!」
ねこ「両方でかいよ」
ぴりからし「たぬきの方!」
ざるそば「最初からそう言え」
いれ「何だこれ……」
耀平「俺に聞くな」
ぎゅうたんとたぬビスが向かい合う。
巨大な牛。
巨大なたぬき。
そして、どちらも異様なほどの筋肉。
ぎゅうたん「モォ……」
たぬビス「キュ……」
二体の視線がぶつかる。
審判「…………」
ルーシー「…………」
メイビス「…………」
審判「……始め!!」
その瞬間。
ドンッ!!
二体が同時に地面を蹴った。
ぎゅうたん「モォォォォォ!!」
たぬビス「キュウウウウウ!!」
ぎゅうたんの右拳。
たぬビスの右拳。
互いに一切避けない。
ドゴォォォォン!!!
拳と拳が真正面から激突した。
カズキ「殴り合い!?」
サイタマタマ「いいぞおおおお!!」
ジェノス「兄ちゃん急に元気になったな!?」
ぎゅうたん「モォ!!」
次は左。
ドゴン!!
たぬビス「キュウ!!」
返す。
ドゴン!!
ぎゅうたんの頬へ、たぬビスの拳が入る。
ぎゅうたん「モォッ!」
しかし倒れない。
すぐにぎゅうたんの拳がたぬビスの腹へ突き刺さる。
ドン!!
たぬビス「キュッ!?」
一歩下がる。
ルーシー「そのままいって、ぎゅうたん!」
メイビス「たぬビス、負けないで!」
たぬビス「キュウウウ!!」
ぎゅうたん「モォォォ!!」
ドン!!
ドガン!!
バキッ!!
二体は防御すらほとんどしない。
殴られれば殴り返す。
右。
左。
腹。
頬。
肩。
また右。
巨大な拳がぶつかるたびに重い音が闘技場へ響き、観客席から歓声が上がる。
カズキ「すごいけど……」
ひっかるん「うん」
カズキ「何の大会だっけ?」
ジェノス「考えるな」
むっちゃん「いけえええ!! 殴れえええ!!」
耀平「お前めちゃくちゃ楽しんでんじゃねぇか」
むっちゃん「こういう分かりやすいの好きなんだよ!」
Am「ちょっと分かる」
たたたつ「分かるんだ……」
ぎゅうたん「モォォォ!!」
渾身の右拳。
ドガァン!!
たぬビスの顔が大きく横を向いた。
メイビス「たぬビス!」
ルーシー「よし!」
ぎゅうたん「モォ!!」
追撃。
だが。
たぬビス「…………キュ」
ぎゅうたん「モ?」
ゆっくり。
顔が戻る。
たぬビス「キュウウウウウ!!」
ドゴォォン!!
今度はたぬビスの拳がぎゅうたんの顔面へ入った。
ぎゅうたん「モォォッ!?」
巨体が大きく後ろへよろめく。
カズキ「効いた!」
ルーシー「ぎゅうたん!!」
ぎゅうたん「モォォォォ!!」
踏ん張る。
まだ倒れない。
むしろ怒ったように再び突っ込み、たぬビスと真正面から殴り合う。
ドン!!
ドン!!
ドガン!!
たぬビス「キュウ!!」
ぎゅうたん「モォォ!!」
ドガァン!!
両者の拳が同時に互いの頬へ入る。
一瞬、二体の動きが止まった。
カズキ「…………」
ジェノス「…………」
Am「…………」
いれ「…………」
ぎゅうたん「モォ……」
たぬビス「キュ……」
ぐらり。
先に身体が傾いたのは、ぎゅうたんだった。
ルーシー「ぎゅうたん!」
しかし片膝が地面につく寸前、ぎゅうたんは踏みとどまる。
ぎゅうたん「モォォォォォ!!」
カズキ「まだ立つの!?」
メイビス「たぬビス、気をつけて」
たぬビス「キュ!」
ぎゅうたんが最後の力を振り絞るように突進する。
ルーシー「いけええええ!!」
メイビス「たぬビス!」
たぬビスも走る。
二体が再び中央でぶつかる直前、ぎゅうたんが大きく拳を振りかぶった。
ぎゅうたん「モォォォォ!!」
たぬビスはその拳を両腕で受け止めた。
ドガァァン!!
たぬビス「キュウウウ……!!」
足元の石畳が割れる。
ぎゅうたん「モォォォォ!!」
押す。
たぬビス「キュウウウ!!」
押し返す。
そして。
たぬビス「キュッ!!」
ぎゅうたん「モ!?」
そのままぎゅうたんの腕を掴み、腰を落とした。
カズキ「え?」
ジェノス「まさか……」
たぬビス「キュウウウウウウ!!」
巨大な牛の身体が浮き上がる。
ルーシー「えっ」
ぎゅうたん「モォォォォォ!?」
カズキ「持ち上げたあああああ!!」
Am「嘘だろ!?」
むっちゃん「牛が飛ぶぞおおおお!!」
たぬビスはぎゅうたんの巨体を完全に持ち上げ、そのまま勢いよく一回転する。
ルーシー「ぎゅうたん!?」
たぬビス「キュッ!!」
投げた。
ぎゅうたん「モォォォォォォ!!」
ルーシー「ぎゅうたぁぁぁぁん!!」
巨大な身体が舞台の外へ飛んでいく。
ドガァァァン!!
ぎゅうたん「……モォ」
審判「場外!! 勝者――メイビス!!」
「うおおおおおおおお!!」
maro『決まったァァァァ!! 殴って殴って殴り合った末、最後は投げたァァァァ!!』
maro『筋肉対筋肉!! 牛対たぬき!! 何の大会だこれはァァァァァ!!』
カズキ「maroも分かんなくなってる!!」
maro『勝者――メイビス&たぬビスゥゥゥゥ!!』
メイビス「やったね、たぬビス」
たぬビス「キュ!」
光に包まれた身体がみるみる小さくなり、いつもの姿へ戻る。
メイビスは小さなたぬビスを抱き上げた。
たぬビス「キュッ」
カズキ「……やっぱりかわいい」
ジェノス「さっきまで牛と殴り合ってたけどな」
場外ではルーシーがぎゅうたんへ駆け寄っていた。
ルーシー「大丈夫!?」
ぎゅうたん「モォ……」
ルーシー「よかった……」
ぎゅうたんはゆっくり身体を起こすと、遠くにいるたぬビスを見る。
たぬビス「キュ?」
ぎゅうたん「…………」
親指を立てた。
たぬビス「キュッ!」
むっちゃん「なんかいい試合だったな……」
ざるそば「うん」
ぴりからし「筋肉っていいな!」
ねこ「何を学んだの?」
笑いの残る会場で、魔導掲示板が再び切り替わる。
――ゴツタ。
――あぶらメンタル。
その名前が表示された瞬間、七つ影の面々が一気に騒がしくなった。
すけジュニ「来たあああああ!!」
かずくん「あぶらああああ!!」
シードル「だから声が大きい」
にょろん「頑張ってくださいねぇ」
ディーナ「負けたら帰ってくる時気まずいね」
あぶらメンタル「お前ら応援する気あんのか!?」
すけジュニ「あるある!」
かずくん「勝てよー!!」
あぶらメンタル「言われなくても勝つわ!!」
あぶらメンタルが舞台へ向かう。
反対側から現れたゴツタを見て、カズキが思わず身を乗り出した。
カズキ「あ、パン屋!」
ジェノス「その覚え方やめろ」
ひっかるん「どう見てもパン屋には見えないね」
サイタマタマ「いい身体してんなぁ!」
ジェノス「兄ちゃんが言うとなんか変だな」
サイタマタマ「何でだよ!?」
舞台へ上がったあぶらメンタルも、ゴツタの巨大な身体を見上げていた。
あぶらメンタル「でっか」
ゴツタ「お前が相手か」
あぶらメンタル「あぶらメンタルです。よろしくお願いしまーす」
ゴツタ「ゴツタだ」
あぶらメンタル「知ってる。パン屋なんだろ?」
ゴツタ「ああ」
あぶらメンタルはゴツタの腕、肩、胸板を順番に見ていく。
あぶらメンタル「パンってそんな筋肉つく?」
ゴツタ「毎日生地を捏ねている」
あぶらメンタル「絶対それだけじゃないだろ」
観客席から笑いが起こる。
ゴツタ「嘘ではない」
あぶらメンタル「いや、生地以外も捏ねてるだろその腕」
審判「……そろそろいいか?」
あぶらメンタル「あ、はい」
ゴツタ「いつでもいい」
審判「始め!!」
ドンッ!!
開始と同時にゴツタが踏み込んだ。
あぶらメンタル「うおっ」
巨大な拳が迫る。
ブォン!!
あぶらメンタル「危な」
首を僅かに傾ける。
拳が顔の横を通過した。
ゴツタ「!」
二発目。
あぶらメンタル「おっと」
身体を少し捻る。
三発目。
半歩下がる。
四発目。
腰を引く。
全て避ける。
カズキ「…………」
耀平「…………」
カゲツ「…………」
まきお「…………」
るいひろ「…………」
いれ「…………」
いつの間にか、先ほどまで戦っていた者たちまでゴツタとあぶらメンタルの戦いへ目を向けていた。
ゴツタ「はあっ!!」
ドンッ!!
拳が地面を砕く。
しかし、そこにあぶらメンタルはいない。
僅か半歩横へ移動しているだけだった。
あぶらメンタル「今の危なかった」
ゴツタ「……そうは見えないが」
あぶらメンタル「そんなことないって」
ゴツタ「なら次は当てる」
あぶらメンタル「怖っ」
再び猛攻。
右拳。
左。
蹴り。
拳。
肘。
あぶらメンタル「おっ」
僅かに避ける。
「おおっ!?」
あぶらメンタル「よっ」
また避ける。
ゴツタ「はあっ!」
あぶらメンタル「危な」
また。
一発も当たらない。
カズキ「何で?」
ひっかるん「速い……のかな?」
カゲツ「いや」
カズキ「?」
カゲツ「速くない」
耀平「ああ」
まきお「なのに当たらない」
るいひろ「必要な距離しか動いてないんだ」
いれ「必要な距離?」
ジェノス「普通なら大きく避けるところを、拳が当たらない最低限だけ動いてる」
ゴツタの拳が顔へ迫れば、首を傾ける。
腹を狙われれば、腰を僅かに引く。
蹴りが来れば半歩。
それだけ。
Am「何であいつあんな余裕なの?」
にょろん「そういう人なんですよぉ」
ディーナ「普段からあんな感じ」
すけジュニ「調子乗ってるだけだぞー!!」
あぶらメンタル「聞こえてんぞ!!」
ゴツタ「はぁ……はぁ……!」
対するあぶらメンタルの呼吸は、ほとんど乱れていない。
ゴツタ「まだだ!!」
あぶらメンタル「元気だなぁ」
ゴツタ「はあああああ!!」
全力の拳。
あぶらメンタルは迫る拳をぎりぎりまで見ていた。
そして、するりと横へ抜ける。
ゴツタ「――!」
あぶらメンタル「じゃ、こっちの番」
懐へ入る。
軽く握った拳がゴツタの腹部へ入った。
ドンッ!!
ゴツタ「ぐっ!!」
巨体が揺れる。
カズキ「!?」
耀平「今の……」
カゲツ「軽く打ったように見えたぞ」
ゴツタ「……効いた」
あぶらメンタル「倒れないのかよ。パン屋怖っ」
ゴツタ「まだだ」
あぶらメンタル「いやぁ、本当にタフだな」
ゴツタ「お前も強いな」
あぶらメンタル「……ありがと」
ほんの一瞬だけ真面目な表情を見せた後、いつもの調子へ戻る。
あぶらメンタル「じゃあ、そろそろ終わらせよっか」
ゴツタ「来い」
ゴツタが再び突進する。
拳を振るう。
しかし、また僅かに外れる。
その瞬間には、あぶらメンタルが懐へ潜り込んでいた。
あぶらメンタル「よいしょ」
ドンッ!!
ゴツタ「ぐっ!!」
腹部への二撃目。
巨体が大きくよろめく。
それでも倒れない。
ゴツタ「まだ……!」
あぶらメンタル「マジか」
ゴツタ「まだだ!!」
振り返りながら拳を放つ。
だが。
そこにはもう誰もいない。
ゴツタ「!」
あぶらメンタル「こっち」
背後。
ゴツタ「な――」
今度は腰を落とし、先ほどよりも深く踏み込む。
あぶらメンタル「これならどうよ!」
ドンッ!!
ゴツタ「ぐおっ!!」
一撃。
巨体が前へ大きくよろめいた。
一歩。
二歩。
それでもゴツタは踏ん張ろうとする。
ゴツタ「まだ……」
膝が落ちた。
審判「!」
ゴツタは立とうとするものの、身体に力が入らない。
数秒の後、大きく息を吐いた。
ゴツタ「……参った」
審判「そこまで!! 勝者――あぶらメンタル!!」
すけジュニ「よっしゃああああああ!!」
かずくん「あぶらあああああ!!」
にょろん「お見事ですぅ」
ディーナ「ちゃんと勝った」
あぶらメンタル「ちゃんとって何だよ!!」
「うおおおおおおおお!!」
maro『決着ゥゥゥゥ!! ゴツタの怒涛の猛攻!! しかし最後まで、その身体を捉えることはできなかったァァァ!! 勝者――あぶらメンタルゥゥゥゥ!!』
あぶらメンタルが倒れているゴツタへ手を差し出す。
ゴツタ「強かった」
あぶらメンタル「そっちもね」
ゴツタ「パンを食いに来い」
あぶらメンタル「急だな!?」
ゴツタ「サービスする」
あぶらメンタル「行く」
カズキ「行くんだ」
マリン「即答だったね」
Am「俺も行こうかな」
たたたつ「お前関係ないだろ」
Am「パンだぞ?」
たたたつ「知らないよ!」
サイタマタマ「ハハハハハ!」
周囲が笑う中、ジェノスだけは舞台から戻ってくるあぶらメンタルをじっと見ていた。
カズキ「ジェノス?」
ジェノス「……あいつ」
カズキ「あぶらメンタル?」
ジェノス「ああ」
カズキ「強かったな」
ジェノス「多分、まだ余裕あるぞ」
カズキ「え?」
ひっかるんも舞台へ視線を戻す。
耀平「俺もそう思う」
カゲツ「同感だ」
るいひろも黙って頷いた。
当の本人はそんな視線など気にもしていない。
あぶらメンタル「見たかお前らー!!」
すけジュニ「調子乗んなー!!」
かずくん「パンもらってこーい!!」
あぶらメンタル「自分で買え!!」
ディーナ「楽しそう」
にょろん「いつも通りですねぇ」
カズキ「……あの人、何者なんだ?」
ジェノス「知らねぇ」
サイタマタマ「でも強いぞ」
ジェノス「それは見れば分かる」
サイタマタマ「戦ってみてぇなぁ」
ジェノス「兄ちゃんはすぐそれだ」
サイタマタマ「強い奴見たら思うだろ!」
ジェノス「俺は思わねぇよ」
サイタマタマ「えー」
ジェノス「えー、じゃねぇ」
次の試合が始まるまでの僅かな時間。
カズキは何となく周囲を見渡した。
一回戦で敗れたるいひろは、変わらず静かに舞台を見ている。
Amは自分を倒したたたたつとまだ何か言い合っており、耀平の近くではいれが次の対戦を予想していた。
マリンも戻ってきている。
まきおはゆかマキのバットを見ながら何やら考え込み、カゲツはせきりゅうの共鳴盾について本人へ質問している。
ルーシーの隣ではぎゅうたんが座り込み、少し離れたところでメイビスの膝に乗ったたぬビスを見ていた。
ぎゅうたん「モォ」
たぬビス「キュ?」
ぎゅうたん「…………」
また親指を立てる。
たぬビス「キュッ!」
カズキ「まだやってる……」
そして銀の羊の方を見れば、むっちゃんも完全にいつもの調子へ戻っていた。
むっちゃん「いやぁ、本当に死ぬかと思った」
耀平「生きてんじゃねぇか」
むっちゃん「そういう問題じゃねぇ!」
マリン「でも元気そう」
むっちゃん「マリンまで!?」
五月雨「よかった」
むっちゃん「五月雨だけだよ優しいの!」
いれ「俺も元気そうでよかったと思ってるぞ」
むっちゃん「今の流れで言われても信じられねぇよ!」
ぴりからし「むっちゃあああああん!!」
むっちゃん「だから近くで叫ぶな!!」
カズキは思わず笑った。
一回戦で負けた者。
二回戦で負けた者。
これから戦う者。
すでに次へ進むことを決めた者。
立場は全員違う。
それでも試合が始まれば、また同じ舞台を見る。
カズキ「……大会って、なんかいいな」
ジェノス「急にどうした」
カズキ「いや、なんとなく」
ひっかるん「分かるかも」
サイタマタマ「俺も!」
ジェノス「兄ちゃんは絶対違う理由だろ」
サイタマタマ「何で!?」
カズキ「ハハハ!」
その時、巨大な魔導掲示板が再び輝いた。
ここまで二回戦を突破した者たちの名前が並んでいく。
カズキはその光景を見上げながら、無意識に剣の柄へ手を置いた。
まだ自分の名前はない。
そして、二回戦もまだ終わっていない。
ひっかるん「カズキ」
カズキ「ん?」
ひっかるん「緊張してる?」
カズキ「……してる」
ジェノス「素直だな」
カズキ「だって、こんなの見せられたらするだろ!」
ジェノス「まあな」
サイタマタマ「でも勝ちたいんだろ?」
カズキ「…………」
予選を勝ち抜き、一回戦を突破してここまで来た。
そして、この大会で何人もの強者を見た。
見れば見るほど、自分より強い人間がいくらでもいるような気がしてくる。
それでも。
カズキ「……うん」
剣の柄を握る。
カズキ「勝ちたい」
サイタマタマ「なら、それでいいじゃん」
カズキ「…………」
ジェノス「兄ちゃんのくせにまともなこと言った」
サイタマタマ「どういう意味だ!!」
Am「お、次始まるぞ」
たたたつ「誰だ?」
耀平「掲示板見ろ」
むっちゃん「次は俺、ちゃんと座って見るからな」
ざるそば「ずっと座ってて」
むっちゃん「うるせぇ!」
maro『さあああああ!! グラディア大闘技祭、本戦二回戦!!』
騒いでいた選手たちが、一斉に顔を上げる。
巨大な魔導掲示板に、次なる二人の名前がゆっくりと浮かび上がっていく。
maro『まだまだ終わらねぇぞォォォォ!!』
「うおおおおおおおおお!!」
歓声が再び闘技場を揺らす。
勝った者も、負けた者も、これから戦う者も。
全員が同じ舞台を見つめる中、二回戦はさらに熱を増していく。
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