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第十三話 異国の娘

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 2,436文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

幾日か旅を続け――。

桃華と金時は、山陽道沿いの宿場町へとたどり着いた。

街道には荷を積んだ馬や牛が行き交い、旅人たちが思い思いに茶屋で足を休めている。

焼き魚の香ばしい匂い。

醤油を焦がす香り。

宿場町ならではの活気が、旅の疲れを忘れさせてくれた。

「今日はここで一泊じゃな。」

金時は大きく伸びをする。

その姿を見た旅籠の主人が、目を丸くした。

「も、もしや……。」

主人は恐る恐る近寄る。

「もしや、坂田金時様ではございませんか!」

その一声で、周囲の主人たちまで振り返った。

「えっ!」

「頼光四天王の坂田金時様!」

「酒呑童子を討たれた英雄じゃ!」

「ぜひ、うちへ!」

「いやいや、うちの部屋は眺めが自慢ですぞ!」

「夕餉なら負けません!」

たちまち旅籠の主人たちに囲まれてしまう。

金時は頭を掻いた。

「有名人はつらいのう。」

桃華が吹き出す。

「宿には困らなそうですね。」

「それだけは助かる。」

結局、一番最初に声を掛けてきた旅籠へ世話になることにした。

     ◇

久しぶりの畳だった。

大きく足を投げ出した金時は、そのまま仰向けに寝転がる。

「ふぅ……。」

畳の匂いが鼻をくすぐる。

「やっぱり畳は落ち着くのう。」

旅が続けば野宿も珍しくない。

屋根があり、風をしのげるだけでもありがたい。

障子が静かに開いた。

「金時様。」

旅籠の主人が徳利を盆へ載せて入ってくる。

「ささ、どうぞ一献。」

主人は猪口へ酒を注ぎ、恭しく差し出した。

金時は猪口を見つめる。

「……。」

次の瞬間。

猪口ではなく徳利を掴んだ。

そのまま口へ運ぶ。

ごくっ、ごくっ、ごくっ。

主人が目を丸くする。

徳利はあっという間に空になった。

金時は満足そうに息を吐く。

「ぷはぁ!旨い酒じゃ!」

主人は苦笑した。

「さすが金時様……。」

桃華も思わず笑ってしまう。

「飲み方が豪快ですね。」

「細かいことは気にせん。」

金時は豪快に笑う。

「桃華殿。

 わしは少し骨休めをする。

 お主はどうする?」

「私は少し、この辺りを見てきます。」

「遠くへ行くでないぞ。」

「はい。」

桃華は微笑み、旅籠を後にした。

     ◇

宿場町は活気に満ちていた。

商人たちの威勢のいい掛け声。

子どもたちの笑い声。

炭火で焼かれる魚の香ばしい匂い。

町外れまで歩くと、小さな社が建っていた。

桃華は静かに賽銭箱の前へ立ち、手を合わせる。

(コア様……キクニ……どうか、ご無事で。)

静かな祈りを捧げる。

その時だった。

ドォォォン!

地面が揺れた。

社の屋根から鳥たちが一斉に飛び立つ。

「喧嘩だ!」

「見ろよ!」

「女の子が一人で、大男を圧倒してるぞ!」

桃華は思わず振り返る。

「大男……?」

一瞬、金時の顔が頭をよぎる。

(まさか……。)

嫌な予感が胸をよぎる。

桃華は駆け出した。

     ◇

荷置き場。

そこでは一人の男がが地面へ転がされていた。

その胸を、旅装束の少女が踏みつけている。

額には紺色の鉢巻。

肩には一本の棍。

異国風の装いをした、小柄な少女だった。

少女はしゃがみ込み、大男の顔を覗き込んだ。

「ねえ。

 いつまで人間のふりしてるの?」

男は眉をひそめる。

「……何を言ってる。」

「そろそろ正体を現したら?」

男の表情が凍る。

「なぜ……なぜ分かった。」

少女は肩をすくめる。

「あれだけ鬼の気配を振り撒いといて。

 それで隠れてるつもりだったの?」

「チッ!」

男が舌打ちした。

次の瞬間。

人の皮膚が裂けるように赤黒い肌が現れ、額から一本の角が突き出した。

鋭い牙。

燃えるような眼光。

鬼だった。

「うわっ!」

「鬼だ!」

「逃げろー!」

見物していた町人たちは悲鳴を上げ、一斉に逃げ出した。

荷車をひっくり返しながら、蜘蛛の子を散らすように走り去っていく。

その場に残ったのは三人。

鬼を踏みつける少女。

腰の刀へ静かに手を添える桃華。

そして地面へ転がされた一本角の鬼。

桃華はゆっくりと《桃光》の柄へ手を掛けた。

「さあ、もう一人の居場所も吐いてもらおうか。」

鬼は口元を歪める。

「……誰が喋るか。」

ヒュッ!

突然、屋根の上から鉤縄が飛んできた。

鬼の身体へ絡みつく。

「兄貴!」

屋根の上には、もう一体の一本角の鬼。

「逃がすか!」

桃華が剣へ手を掛けた。

しかし少女は動かない。

「いいよ。」

そう言って、自分の笠を軽く持ち上げた。

笠の縁についた一本の髪を指先で摘まむ。

「身外身。」

ふっと息を吹きかける。

次の瞬間、笠の中から、

「キッ!」

「キキッ!」

「キャッ!」

五匹ほどの小猿が勢いよく飛び出した。

まるで笠の中から猿が湧いたようだった。

小猿たちは屋根へ飛び乗ると、逃げた鬼たちの後を追っていく。

桃華は目を丸くした。

「身外身の術。」

少女は笠を被り直した。

「逃げる奴は、仲間の所へ帰る。

 追い掛けるより、その方が早い。」

屋根の上では、小猿たちが器用に瓦を飛び移り、鬼の後を追っていく。

桃華は、その光景に目を奪われていた。

(あれは……猿妖。)

少女はそんな桃華をじっと見つめる。

「……あんた。鬼が怖くないの?」

桃華は静かに首を横へ振った。

「怖いです。」

少し間を置いて続ける。

「でも、それ以上に私には、やるべきことがありますから。」

少女は一瞬だけ目を丸くした。

そして、ふっと笑う。

「ふーん。」

「面白いね、あんた。」

その時だった。

ズシン。

ズシン。

大地を踏み鳴らすような足音が近づいてきた。

「桃華殿。」

聞き慣れた声だった。

「金時さん!」

金時は大斧を肩へ担ぎながら歩いてくる。

「ただならぬ気配がしてのう。

 酒を飲むどころではなくなってしもうた。」

少女は金時を見上げる。

「……でっか。」

金時は豪快に笑った。

「よく言われる。」

少女もつられて笑う。

「面白い人だね。」

     ◇

しばらく三人は無言だった。

やがて少女が口を開く。

「追わせてる猿が戻るまで少しかかる。」

棍を肩へ担ぐ。

「その間。」

桃華たちを見る。

「少し、お話ししませんか?」

金時は笑った。

「立ち話も何じゃ。旅籠でどうじゃ?

 旨い酒と肴もある。」

少女は少しだけ考える。

「……いいね。付き合うよ。」

三人は並んで歩き出した。

その背中を、西へ傾く夕日が静かに照らしていた。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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