第十五話 鬼王の表紙画像

第十五話 鬼王

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 1,615文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

宿を出ると、空には月が高く昇っていた。

宿場町の喧騒はすでに消え、提灯の灯だけが石畳を照らしている。

蜜秋の後を追い、桃華たちは町外れへ向かった。

先を行くのは一匹の小猿だった。

屋根の上を伝い、町外れまで来ると、今度は木々の枝を飛び移りながら山道へ入っていく。

「本当に、こんなところにいるのか?」

金時が辺りを見回した。

人の往来が途絶えてから、すでに半刻ほど歩いている。

道は次第に細くなり、両側から伸びた草木が足元を覆い始めていた。

「いるよ。」

蜜秋は小猿の背を追いながら迷いなく進む。

「昨日逃がした二匹を追わせてたんだ。

 一匹が逃げた鬼の行き先を突き止めて戻ってきた。

 もう一匹は、この寺の外で見張り役さ。」

やがて木々の隙間から、崩れかけた山門が姿を現した。

門柱は傾き、瓦は半ば崩れ落ちている。

額も黒ずみ、寺の名は判読できない。

境内には雑草が生い茂り、本堂の戸は片方が外れたまま風に軋んでいた。

静まり返った境内。

虫の音さえ聞こえない。

金時が鼻を鳴らす。

「臭うのう。」

「酒の匂いですか?」

桃華が尋ねる。

金時は首を横に振った。

「鬼の匂いじゃ。」

蜜秋が足を止めた。

「そこまで。」

先を進んでいた小猿が短く鳴く。

すると境内のあちこちから、小猿たちが姿を現した。

屋根の上。

枯れ木の枝。

崩れた石灯籠の陰。

寺を囲むように配置された子猿たち。

その小さな手には、一枚ずつ黄色い霊符が握られていた。

朱で梵字が記された札は、月明かりの中で淡い金色を帯びている。

桃華は目を細めた。

「妖魔封滅の符……。」

仏の加護によって悪しき妖魔を滅する霊符。

法師たちが好んで用いる退魔の札だ。

低級の妖や怪異なら、一枚で消滅させることもできる。

使い手の力量によっては、大妖すら封じ滅するという。

子猿たちは逃げ道を塞ぐように配置されていた。

もし鬼が逃げようとすれば、容赦なく札を貼るつもりなのだ。

金時が苦笑する。

「えげつないものを持たせておるのう。」

蜜秋は平然と答えた。

「逃げなきゃ使わない。」

「逃げようとした時点で、十分使う気ではないか。」

「そうとも言うね。」

蜜秋は小さく笑った。

そして山門をくぐる。

桃華と金時も後に続く。

境内の中央まで進んだ、その時だった。

本堂の奥から、一匹の鬼が姿を現した。

桃華が目を見開く。

「昨日、逃げた鬼……。」

鬼は口元を歪めて笑う。

「兄者。

 連れてきました。」

その声に応えるように、本堂の闇から重い足音が響く。

一歩。

また一歩。

やがて月明かりの下へ姿を現したのは、額に一本角を持つ大鬼だった。

浅黒い肌。

肩には巨大な大鉈。

弟鬼の隣へ並ぶと、二匹は不敵に笑った。

兄がゆっくりと口を開く。

「我らは兄弟。」

「二人揃って――独角鬼王と呼ばれる。」

兄鬼は大鉈を肩へ担ぐ。

「二人揃った今、猿どもなど相手にもならん。」

蜜秋は棍を肩へ担ぎ、小さく笑った。

「威勢だけは、昔に聞く鬼王のままだね。」

兄鬼の表情が険しくなる。

「昔だと?」

「我らにとっては昨日のことよ。」

鋭い眼光が蜜秋を射抜いた。

「貴様ら猿は変わった。

 仏などという鎖に繋がれ、牙を失った。

 今のあの老猿の眷族どもに、何ができる。」

蜜秋は静かに答える。

「違う。変わったのは、お前たちもだ。

 美猴王様は、もういない。」

兄鬼は鼻で笑った。

「そうだ。

 だから、今さらあの老猿に仕える理由などない。」

「今、我らがお仕えするは、気高く雄々しき御方。」

「あのお方は、我ら鬼に新たな力を授けてくださった。」

弟鬼も口元を吊り上げる。

「兄者。

 こいつらに見せてやりましょう。」

兄鬼はゆっくりとうなずいた。

「よかろう。」

「ならば見せてやろう。

 偉大なる御方より賜りし力を!」

兄弟の身体から、禍々しい鬼気が立ち昇る。

蜜秋はその気配に目を細めた。

「……余計な知恵までつけやがって。」

兄弟は同時に笑う。

「恐れたか、猿。」

蜜秋は棍を静かに構えた。

「いや、ちょっと面倒になっただけさ。」

夜風が止む。

張り詰めた静寂の中――

二人の鬼が同時に地を蹴った。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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