第十六話 鬼神の表紙画像

第十六話 鬼神

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 1,681文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

兄弟の身体から噴き出した鬼気が、境内を覆った。

黒い霧が渦を巻き、兄と弟を包み込む。

「兄者!」

「来い。」

二匹の鬼が互いの腕を掴む。

その瞬間、鬼気が爆ぜた。

轟音とともに地面が揺れる。

桃華は思わず一歩退いた。

「融合……?」

黒煙の中から現れたのは、一体の巨大な鬼だった。

二本の角。

四本の腕。

肩からは筋肉が幾重にも盛り上がり、それぞれの腕には異なる武器が握られている。

右上には大鉈。

左上には金棒。

下の二本の腕は鋭い鉤爪を構えていた。

鬼は四つの拳を握り締め、豪快に笑う。

「これぞ、偉大なる御方より授かりし鬼神の力!」

「我ら兄弟、今こそ真なる独角鬼王!」

金時が舌打ちした。

「面倒な化け方をしおる。」

蜜秋は棍を肩に担ぎ、小さくため息をつく。

「……余計な知恵までつけやがって。」

鬼神が地を蹴る。

一歩で十間。

巨大な身体とは思えぬ速度で蜜秋へ迫る。

四本の腕が同時に襲いかかった。

蜜秋は紙一重で身を翻す。

大鉈が地面を裂く。

金棒が石灯籠を粉砕する。

鉤爪が棍を掠めた。

「ほう。」

蜜秋は口元を緩める。

「力だけじゃない、息も合ってる。」

鬼神は四本の腕を自在に操り、間断なく攻め立てる。

一つを防げば、二つ目。

避ければ三つ目。

逃げ道を塞ぐように四撃目が襲う。

桃華が刀へ手を掛けた。

「蜜秋ミーチェウ!」

「来るな。」

短い一言だった。

「これは僕の獲物だ。」

鬼神は高らかに笑う。

「ほざけ!」

四本の武器が一斉に振り下ろされる。

轟音。

土煙が舞い上がる。

しかし――

煙の向こうには誰もいない。

「遅い。」

鬼神の頭上から声が降る。

蜜秋だった。

木の枝を蹴り、そのまま鬼神の肩へ着地する。

棍が閃いた。

一本。

二本。

三本。

四本。

四つの手首へ寸分違わず叩き込まれる。

鬼神が顔を歪める。

「ぐっ!」

武器が地に落ちた。

蜜秋はそのまま宙返りし、静かに地面へ降り立つ。

「力が増えても。」

棍を静かに構える。

「身体は一つ。

 腕が四本になっただけで、動きは全部読める。」

鬼神が吠えた。

「黙れぇぇぇ!」

鬼気がさらに膨れ上がる。

身体中の筋肉が軋み、四本の腕が一斉に膨張した。

地面がひび割れる。

金時が顔をしかめた。

「まだ強くなるのか。」

鬼神は一直線に突進する。

その瞬間だった。

蜜秋の姿が消える。

次に見えた時には、鬼神の懐だった。

「終わり。」

棍が鬼神の胸を突く。

乾いた音が響く。

一撃。

それだけだった。

鬼神の身体が大きく揺らぐ。

黒い鬼気が音を立てて剥がれ落ちた。

「ば……かな……。」

融合が解ける。

「そんな半端な融合じゃ、術の中点を一突きすればこの通りさ。」

兄と弟の身体が分かれ、それぞれ膝をついた。

兄鬼は苦しげに笑う。

「やはり……貴様は……。」

蜜秋は静かに見下ろした。

「お前らは力の本質をわかっちゃいない。

 美猴王様の側にいた頃のお前たちなら、こんな力に頼らなかった。」

兄鬼は最後に笑った。

「あのお方は……。

 鬼を……導いて……くださる……。」

弟もまた、兄の肩へ静かに倒れ込んだ。

兄鬼は薄れゆく意識の中で、なお口を開く。

「我らの配下が見当たらないのが……気にならんか……猿よ。」

「気にはなってたよ。用心深いお前らが、配下を周りに置いていないわけがないからね。」

「今頃……我らが配下は……あのお方の御前で……新たな力を得ていることだろう……。」

「そして……確信した……。

 新たな力を得た鬼たちの手によって……世界は……手中に収められると……。」

兄鬼は最後の力を振り絞る。

「朱天様……。

 我ら鬼に……安寧を……。」

その言葉を最後に、兄弟は静かに息絶えた。

境内に静寂が戻る。

蜜秋はしばらく兄弟を見つめ、小さく息を吐いた。

「……馬鹿だね。」

棍を肩へ担ぐ。

「蜜秋殿、この兄弟の配下はどれほどおるのか。」

金時の問いに、蜜秋はしばらく頭を抱えた。

「五百はいなかったと思うけど……強敵になることは間違いなさそうだね。」

桃華が歩み寄る。

「朱天を止めねばなりません。

 お力添えをお願いできないでしょうか。」

蜜秋は夜空を見上げた。

「昔の仲間、止めなきゃならないからね。

 向かう所は一緒のようだ。」

差し出された手を、桃華は強く握る。

山の上を、冷たい夜風が吹き抜けていった。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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