・prólogo≠sorto:始まりは宿運ではない
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
主人公・明楽メルは、夫の浮気を問い詰めている最中、自宅で意識だけが別の場所へ移る。そこで幼い身体を与えられ、悪魔を自称するヴィザーゴと出会う。ヴィザーゴは接触によってメルの思考を読み取ることができ、メルは結婚後の姓である「アキラ」を自分を指す呼び名として使う。ヴィザーゴの周囲には、狐頭のルーモと白山羊頭のヴェーロがおり、三者は互いに遠慮の薄い関係にある。 ヴィザーゴのもとで目覚めたメルは、自分の身体が幼くなっていること、肩にあった火傷跡が消えていることなどに気づく。ヴィザーゴは必要なものを用意しながらメルの相手をするが、聞かれたことすべてに必ず答えるわけではない。ルーモとヴェーロは人語を発声しないものの、ヴィザーゴとは自然に意思疎通している。 その後、メルはヴィザーゴたちとメティイーストを訪れる。村ではヴィザーゴは「ビエス」と呼ばれており、領主側のフォルティオ、カヴァリーロ、フィリーノらは彼の姿を見るなり露骨に嫌そうな反応を示す。一方、村の人々はルーモやヴェーロを含め、ヴィザーゴたちに対して比較的自然に接している。メルは靴職人シュベンデオに足を採寸してもらい、靴を作ってもらうことになる。 メティイーストでは、メルはヴィザーゴにピアスをつけられる。このピアスを介して、メルは周囲の言葉を理解できるようになっているらしい。また、厨房で兎が調理される様子を見る中で、自分の身体に排泄器官がなく、食べたものが通常の人間と同じように処理されているわけではなさそうだと気づく。夢だと思っていた状況に対して、メルは次第に違和感を持ち始める。 別の場面では、ルーモとヴェーロの視点から、ヴィザーゴが陣を使って人型の身体を作っている様子が描かれる。ルーモとヴェーロも魔力を加え、完成した身体はやがて動き始める。 その後、メルはヴィザーゴとともに、自分が元々暮らしていたマンションの部屋へ移動する。そこには、メルが以前使っていた大人の身体があり、その身体には別の層で自殺した別のメルの意識が入っている。大人メルは、自分のいた世界で夫の浮気を問い詰めた末、マンションから飛び降りたことを語る。幼い身体のメルは大人メルと会話し、自分の世界の夫と対面したのち、最後にその夫を殴る。殴った反動で幼い身体は大きく損傷するが、痛みは感じない。元の場所へ戻った後、ヴィザーゴは倒れる。
本文
「分かった。異世界に行く」
「はあぁ?……」
日常の、些細な言い争い。
……些細?
些細なんだろうか?
旦那が……
婚姻関係を結んでいる相手が。
あたしでない女と、ラブホに入っていく姿を見た、と言うことは。
「流行りでしょ?異世界」
「おまえ、頭大丈夫か?」
「死んだら行く天国とか地獄とか。実は異世界なんじゃないかって思うのよね」
「……」
「あたしね、あなたのこと好きなのよ。だから、あたしを好きじゃないあなたはもういいかなって。一緒にいなくてもいいのかな、って思うのね」
「……っ!」
「あなたの居ない所……ここじゃない、どこかに行きたいのよ」
旦那の顔をじっと見る。
我ながら、なに言ってんだろ?
旦那の顔は、食っちゃいけないもの――――大嫌いなカキを口にした時みたいな顔してる。
「……ごめ……」
「何に対して?」
また、黙る。
んー……それはそれで困ったな。
言い訳は要らないけど、言い訳があるなら聞いてあげるのに。
て、ぶった切ったのあたしか。
はあ。
「ねえ?楽しかった?あたし以外を抱くの」
「……!」
「ねえ?気持ち良かった?あたし以外を抱くの」
「……」
不思議だな。
あんなに大好きだったあなたの、辛そうな顔。
ちょっと前までは、笑わせてあげなきゃ、って躍起になってたのに。
ちっともそんな気が起きない。
何でそんなに、辛そうなんだろう。
でも、ああ、そうか。
あれか。
思い当たる節は、確かにあるわ。
キレイな肌を、抱きたかったんだね。
はああ。
溜息しか出ないわ。
カワイソウなの、あたしじゃない?
あなた、いい思いしただけだよね?
目も、鼻も真っ赤か。
鼻水垂れてる。
汚いなぁ。
「――――君は……俺が好きだったの?」
途切れ途切れに、ようやっと吐き出された言葉。
この人、あたしの言った事、ちゃんと聞いてたのかな?
それ、言ったよね?
頭がじんじんする。
目頭がぎゅってして、
眼球がちくちくして、
喉がぐっとなって、
お腹がもやもやして、
両手がびりびりして、
足が…………凍りついたみたいだ。
魔法陣でも出てこないかな。
聖女でも、奴隷でもいいや。
違うところに行きたい。
──あたしの目が、水を噴き出してる。
涙か。
霞んだ視界で、朧気な旦那を捉える。
ねえ?あたし、どうすれば良い?
どうして欲しい?
どう…したい?
ぽたぽたと流れ落ちた雫が、足元に溜まっている。
ふと、縛られて足でネズミを描いた小坊主の話が浮かんだ。
足元にネズミがいたら、助けてくれる?
な、わけないか。
二進も三進もいかない沈黙。
ほとほと飽きたあたしは、水溜まりを足の指で伸ばすことに熱中する。
ネズミは……無理か。
あたし、絵心無いなあ。
線と線が重なって、魔法陣みたい。
ホンモノとか知らないけど。
そうしてあたしは、————
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