4話 夢見る若者達 後編
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あらすじ
死んだ冒険者を蘇らせる事を仕事にする蘇生屋トルクは、今日も死体を探しにダンジョンへと潜る。人助け?いいや、ただの飯の種だよ。モンスター退治や宝探しみたいな夢もロマンもありゃしない。そんな冒険者の物語。
本文
(やれやれ…どうしたものかな)
心の中で呟きながらトルクは頭の後ろをボリボリとかく。
ひんやりとした迷宮の中、先頭を歩くサガンの背中は、あからさまに不機嫌な空気を放っていた。
後ろを歩くアリアとジュリドの視線が、痛いほどに突き刺さる。
胃の腑が重くなるような、最悪の空気感だ。
チンピラ同然の同業者など、掃いて捨てるほど見てきた。
今更腹を立てる様な年でもない。
(まぁ、どうせこの依頼が終わればさよならの関係だ。…生き残れればの話、だがな)
背後から、擦るような足音が寄ってくる。
「なぁ、トルク…さん」
ジュリドが声を押し殺し、肩を並べてきた。
「あんまり、あいつを…サガンを嫌わないでやってくれ。あいつとは村にいた時からの付き合いで、乱暴だけど悪い奴じゃないんだ。ただ、最近は依頼が上手くいっていて、ちょっと天狗になってる所はあるけど……」
(こいつはこいつなりに苦労はしてるという事か)
ジュリドの言葉に軽く息を吐く。
同情の余地はあるが、それで生き残れるほど甘い場所ではない。
「それを俺に言ってどうする」
熱を込めない声で切り捨てた。
「お前らがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、仲間をどうにかしたいなら本人に直接言え。それがチームでありリーダーの役目ってもんだろうが」
「おい」
前方から、鋭い威圧感が飛んでくる。
サガンが肩越しにこちらを睨みつけていた。
「ただの世間話だ。気にしないでくれ」
視線をすっと逸らし、平坦な声で受け流す。
行き場を失った言葉が落ち、ジュリドもアリアも再び口を閉ざす。
重苦しい沈黙だけが、再び迷宮の底へと沈んでいった。
◇◇◇
15階層、16階層、そして17階層。
深く潜るほどに、空気は冷たく重く肌にまとわりつく。
先程までの気まずさとは裏腹に、鋭い剣閃や魔法が次々と闇を切り裂いていく。
後方で一定の距離を保ちつつ、三人の無駄のない立ち回りに舌を巻く。
それでもなお、頭の片隅では逃げ時ばかりを探っていた。
しかし冒険者も信用が第一の商売だ。
勝手に逃げたとなれば今後の稼ぎにも響きかねない。
(あと二回。二回死ぬヘマをしたらもう知らん。契約は果たしたしそれで終わりだ)
そう折り合いをつけて、冷たい石畳を蹴り続ける。
やがて18階層へ足を踏み入れた途端、異変が起きた。
「……変だわ。モンスターの気配がない」
肩で荒い息を吐きながら、アリアが探知魔法の淡い光を散らした。
「ヘッ、ビビって向こうも逃げ出したんじゃねぇか?」
虚勢を張るサガンの声。
強がる語尾が、僅かな震えを帯びて通路へ反響していく。
そのまま薄暗い迷宮の奥へ進むが、血に飢えた唸り声も、這い回る嫌な足音も一切響かない。
(静かすぎる…)
べっとりと不快な冷や汗が、背筋を滑り落ちる。
19階層も同様だった。何かがおかしい。
底へ向けて足を繰り出しても、底冷えする静寂は破れない。
呼吸の音すら不気味に響き渡る。
アリアの展開する探知魔法の網。
そこにも、モンスターの反応は一切引っかからない。
(迷宮のモンスターが怯えて隠れる…?バカ言え、あり得ねぇ)
脳内で即座に否定を突きつける。
迷宮産まれのモンスターには、外の獣と違い退却や逃亡の概念はない。
相手がどれほどの手練れだろうと、刃を向けてくる。それが奴らの本能だ。
(何が狙いだ…?)
喉の奥で苦い乾きが広がる。
トルクの思考が泥沼へと沈み込んでいく横。
顔面を紙のように真っ白に染めた少女の姿。
アリアは杖を足代わりに必死に突き、膝を激しくガクつかせていた。
足元が千鳥足のようにふらついている。
「アリア…魔力の使い過ぎだ。ここまでずっと探知魔法の張りっぱなしだったから…」
肩を抱きかかえるようにして、ジュリドが横から寄り添う。
だから少しは魔力量を考えろ、とトルクは口には出さなかった。
呆れと諦めが胸を重く押し潰す。
「……少し、休憩をしよう。どこか、この階でセーフルームがみつかれば…」
絞り出すジュリドの声。
「おい、見ろよ。階段があるぞ!」
アリアを気遣うリーダーの声を押し流すように、サガンの野太い歓喜が鼓膜を刺した。
差し示された指の先。
岩肌の切れ目に、深淵へと落ちる下り階段がぽっかりと口を開けていた。
「…サガン、今はまずアリアを一旦休ませよう。俺達だってぶっ通しで少し疲れているんだ」
流石にこの土壇場ではジュリドも待ったをかける。
弱り切ったアリアの肩を抱き寄せ、険しい顔で階段を見下ろした。
だが、眼前の目標に目が眩んだ男の耳には届かない。
「何言ってやがる、もうすぐそこなんだぜ?ゴールを目の前にして足踏みしろってのかよ。それに、ぶっ通しっつっても18階からは戦闘すら無かったんだ。まだまだ大丈夫だろ、なぁ?」
大股で詰め寄り、サガンが強引に顔を覗き込む。
威圧的な視線を真正面から浴び、アリアの顔色がさらに青ざめた。
「う、うん…私なら、まだ、多分あと一階分ぐらいなら大丈夫だから……」
期待に応えようと、必死に声を絞り出す少女。
「そ、それに…20階越えが出来たら、ギルドでも認められて、受けれる依頼の幅もふえるでしょ?そしたら…お母さんへの、仕送りも増えるし…」
「けど…」
健気に笑って見せるアリアを前に、なおも決断を渋り、眉間にしわを寄せるジュリド。
そのわずかな隙を見逃さず、サガンが畳みかける。
「よし、じゃあこうしようぜ。ちょこっと下まで降りて雰囲気だけ確認して、やばそうなら即こっちに戻る。それならいいだろ?」
折衷に見せかけて自分の意見を通す強引な提案。
さらにニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべ、トルクを指差した。
「万が一に死んじまっても、そこのオッサンがいるから大丈夫だって」
(死ぬことを計画に入れるなバカが)
逃げ出すならば、ここが正真正銘のラストチャンスだ。
頼むから休めと、心の中で念じ続ける。
しかし、膨らんだ欲望が青年の理性をあっさりと押し潰した。
「……わかった。少しだけ、少しだけ下を覗こう。行けそうならその階でセーフルームを探して、もし危険を感じたらすぐにこの階に引き返そう」
重い口を開き、ジュリドが流されるまま合意する。
トルクは心の中で頭を抱えた。
「よし、決まりだ!おら、行くぞオッサン」
サガンが意気揚々と石段へ足をかける。
その後頭部を、苦々しく見つめるトルク。
契約を破棄して踵を返すべきか、思考が高速で交錯する。
だが、腰のポーチで重みを主張する金貨の感触。
結局は前金を優先し、重い脚を渋々踏み出していた。
我ながら救いようのない損な性分だと、深く息を吐きながら。
カツン、カツン。
石段に固い足音が響く。
「もうすぐ20階か。ま、意外とあっさり行けるじゃねぇか」
カンテラの淡い光を揺らしながら、サガンが軽快に降りていく。
「良かったなぁ、オッサン。あんたの出番がない楽な依頼になりそうだぜ」
最後尾のトルクへ、不躾な視線が投げかけられた。
呑気な態度に呆れつつ、無言で靴底を動かし続ける。
やがて階段が途切れ、四人は階層の床を踏みしめた。
だが、差し出されたランプの明かりは壁を捉えない。
遮るもののない静寂。
どこまでも黒い空間が広がっていた。
「……あれ?」
異様な光景を前に、サガンの足が止まる。
その瞬間、トルクの皮膚が激しく跳ねた。
全身の産毛が一斉に逆立つ。
(これは――!!)
パッと、迷宮の天井からまばゆい光が炸裂。
空間の全貌が、残酷なまでに照らし出される。
視界を隙間なく埋め尽くす異形の群れ。
大小様々な怪物どもが、部屋いっぱいに凝縮されていた。
「………」
パリンッ。
サガンの震える手からすり抜け、床で跳ねるカンテラ。
無数の凶眼が、一斉に四人へ集中する。
「――逃げろっ!!」
トルクの怒号が空間を切り裂く。
凍り付いていたジュリドたちの思考が、急速に再起動を起こした。
一目散に反転し、階段へと駆け上がる三人。
直後、怒涛の地鳴りが鼓膜を叩く。
黒い津波となったモンスターの群れが、一気に階段へ殺到し始めた。
「お、おい!!なんだよありゃあ!?確かあれってギルドの報告書にあった30階層越えのレッドオーガまでいたじゃねぇか!!」
響き渡るサガンの悲鳴交じりの叫び。 怒号でそれを一蹴しながら、トルクは石段を猛烈に駆け上がる。
「『魔筵(まじしろ)』も知らねぇのか馬鹿野郎!!浅い階層でとんだ当たりを引きやがって!!」
階層沈下(レイヤー・ドロップ)――通称『魔筵(まじしろ)』。
迷宮の気まぐれな変異が稀に引き起こす、本来なら三十階、四十階より下にしか現れない様な化け物どもが、階層に関係なく出現する迷宮災害だ。
(最悪だ…!!よりにもよって面子がフラフラなこの状態で出くわすなんて…!!)
19階層からの光が視界の端に差す。 その直後、入口の輪郭を塞ぐ数体の影。
(挟まれた!?)
思考が冷たく硬直する。やはり逃げていたのではなかった。
通路の先で袋のネズミになるのを、待ち構えていただけだ。
前を塞がれ、後ろからは凶暴な地鳴りが迫る。 全身を刺す死の圧迫感。
「――サガン!!」
切り裂くような叫び。 ジュリドが急停止し、腰の剣を引き抜く。
殺気立つ下の群れへ向き直った。
「アリアを連れて逃げろ!!俺が時間を稼ぐ!!」
制止の言葉が届く前に、階下の巨躯へ跳躍していた。
標的は、赤く太い腕を誇るレッドオーガ。 勝ち目など万に一つもない。
(それでも……!せめて、二人だけでも守るんだ!俺が、俺がリーダーだから…!!)
決死の覚悟が、青年の身を駆動させる。
「うおおおお!!」
掠り傷だけでも一太刀。 泥臭い執念を込めて振り下ろされた白刃。
グシャアッ!!
鈍く重い衝撃音が石畳に爆発した。
赤く肥大化した腕が、容赦なくジュリドの顔面を粉砕する。
叩きつけられた頭部から、生々しい赤が飛散した。
時間稼ぎの役割すら果たせず、肉の塊が転がる。
「ジュリドォォ!!!」
サガンの喉が激しく裂けた。
「くそったれぇぇ!!」
血走った両目で大剣を頭上へ構える。
前方を塞ぐ怪物へ向けて、渾身の一撃をたたきつけた。
パシッ
あっけない打撃音。
緑色の粘液に塗れた人型の化け物が、巨大な刃を素手で軽々と受け止める。
ジュウウ…!!
ツンと鼻を突く酸の刺激臭。 ドロドロと液化していく大剣が、鉄の滴を落とす。
(アシッドマン…!40階層の奴迄いやがったか!)
「あ・・・あ・・・」
自慢の腕力が一切通じない現実。 サガンの膝がガクガクと震え、思考が完全に停止する。
「馬鹿!止まるな!!」
体液を飛ばすアシッドマン。 放たれた緑の飛沫が、サガンの横に立つアリアへ直撃した。
「ああああ!!!」
肉が激しく焦げる音。 充満する異臭。 ドサリと崩れ落ちるアリア。 胸元には、階層の石畳が透けて見えるほどの巨大な穴。
「あ、ああああああ!!!ああああああ!!!!」
狂乱するサガンの叫び。 迫り来る上下からの死の波。
「……潮時だ」
トルクの手が、サガンの襟元を掴み寄せる。 ポーチの底から引き抜いた巻物。
「『脱出発動(リターンアウト)』!!」
展開するまばゆい光の束。 トルクとサガンの身体が、一瞬で空間から消え去った。
階段に残されたのは、獲物を見失い首を傾げる怪物の群れ。
そして、物言わぬ二つの肉塊だけだった。
◇◇◇
眩い光の粒が地上付近の広場に溢れ出す。
陽光の眩しさが視界を激しく撃ち抜いた。
ざわめく人集りの渦中。
出現した光の束が弾け、トルクとサガンの身体を地上へ吐き出す。
「うおっ!?…脱出魔法か」
見物人の驚きが空気を揺らす。
「ありゃあ、蘇生屋のトルクか…一緒に居るのは……」
「おい、あいつ確かシャープナーの奴だろ?二人いねぇぞ?」
飛び交う噂話。
指を差す周囲の好奇視線。
トルクの掌で、魔法の巻物が光を失っていく。
役目を終えた羊皮紙。
ボロボロと崩れ、風に舞う紙屑となって散った。
隣で呆然と佇む大男。
サガンは周囲を見回し、我に返ったようにトルクへ詰め寄る。
「お、オッサン…それ……脱出魔法の巻物(スクロール)かよ!?持ってたのか!?」
「保険用にな。…言っておくが、こいつは一人か二人用だ。どの道全員で脱出はあの時点で無理だったんだよ」
淡々と事実を告げる。
呼吸を整えつつ、トルクの視線はどこまでも冷たい。
対照的に、サガンは顔を真っ赤に沸騰させる。
「おい、オッサン早く行くぞ!!あいつらの死体回収して蘇生させんだよ!!」
「行きたきゃ行け。俺はここまでだ」
冷淡な拒絶。
その一言が、大男の導火線に火をつけた。
ガシッと力任せに胸倉が掴まれる。
「ふざけんなよ!!てめぇは俺達に雇われた側だって言ってんだろうが!!オラ、ボケッとしてねぇで…」
「調子に乗るのも大概にしろ、ガキ」
チキッ。
鋭い金属音が鼓膜を突く。
胸倉を掴む大男の動きが硬直した。
いつの間にか引き抜かれた刃。
極細のスティレットの切っ先が、サガンの顎下に深く喰い込んでいる。
「…っ!」
脂汗が大きな顔を伝い落ちる。
「三人死んだ時点で即撤退。俺はその条件で契約を結んだ。あの時点で俺はもうお前らに従う契約も終了してるんだよ。お前一人だけ置いて行っても別に俺は良かったんだぞ」
氷の様な平坦な声。
容赦のない言葉の刃が、サガンの自尊心を切り刻む。
みぞおちに冷たい鉛を流し込まれたように、大男の指先が強張る。
「四人で行ってあのザマのお前らがたった二人で、しかも武器も無いのに魔筵(まじしろ)に突っ込んでも死体が二つ増えるだけだ。お前らと心中するつもりはない」
「……あ、あいつらは……っ」
大男の声が、惨めに震える。
体躯を小刻みに揺らし、血走った両目から涙を溢れさせていた。
「あいつらは…良い奴らなんだよっ……!ガキの頃からの、付き合いで……村で、ロクに相手にされなかった俺を冒険者に誘ってくれた奴らで…!」
絞り出す言葉。
激しい情動の吐露が、青空の下へ虚しく響く。
胸の奥が重く冷えていくのを覚えながら、冷淡な一言を叩きつけた。
「関係ないんだよ、そんなもん」
すがりつくような哀願を容赦なく一刀両断する。
「良い奴だったとか、悪い奴だったとか……強かったとか弱かったとか、誰かが死ぬのに理由なんかない。どんな奴だって死ぬときは死ぬ」
シャキリ。
スティレットを静かに鞘へ納め、トルクはサガンに背を向ける。
突っ張りを失った巨躯が、ドサリと勢いよく膝をついた。
「どうしようもなかった……そういう時もある」
背後へ短く告げると、トルクは足を踏み出す。
「うおおおおおおおお……!!!」
背中を撃ち抜く、狂おしい絶叫。
魂を削るような慟哭が、地上の空気を揺さぶる。
だが、周りの冒険者たちはチラリと見ただけで、すぐに興味を失ったように視線を外す。
日常の喧騒へ引き返す人々。
誰かが死んだ程度で、歩みを止める者などここにはいない。
一度も振り返ることなく、トルクは人混みの奥へと消えて行った。
◇◇◇
「『脱出魔法』の巻物(スクロール)、金貨一枚でございます♪」
カビと血の混ざる迷宮の暗がり。
うさんくさい笑みを浮かべ、カンテラの灯りの中でジジがすり寄ってくる。
「……チッ、相変わらずのぼったくりが」
舌打ち混じりに吐き捨て、腰のポーチをまさぐる。
指先に触れる硬い手触り。
なけなしの金貨を、渋々その手へ差し出した。
これで当分、塩パンだけの貧しい食生活が確定する。
「ホ・ホ・ホ。毎度ありがとうございます。四人用の脱出魔法巻物(スクロール)もございますが、そちらも如何ですか?」
「……いらん」
受け取った羊皮紙を慎重に丸め、ポーチの底へ押し込む。
それを見ながら商人が眼光を細めて言った。
「そういえばトルクさん、ご存知ですか?
チーム・シャープナーの生き残りのサガンさん。
彼、先日冒険者ギルドに脱退届を出したそうですよ。
もう冒険者自体やめてしまわれるそうです」
「……そうかい」
短く漏らす吐息。
脳裏をよぎるのは、数日前の一幕だ。
9階層の薄暗い通路で転がっていた、サガンの死体。
仲間を取り戻そうとしていたのか、ボロボロの装備で一人潜り倒れていた。
蘇生した時も、持ち金は殆どなく、傲慢不遜なあの顔も見る影もなく消え失せていた。
あの大柄な体を縮こまらせ、肩を落として去っていった後ろ姿。
それが、あの男を見た最後となった。
すでに一月の時が経過している。
迷宮の奥底で消えた仲間たちを蘇生させる術は、もう存在しない。
「しかし、彼らも運が無いですね。20階でまさか魔筵(まじしろ)を引き当ててしまうなんて。深階層のモンスターがうろついているんですから、私も暫くはあの階層付近には近づけませんよ。補給が命の深階層が商売のチャンスなのについてないですねぇ」
ジジがため息混じりの愚痴を吐く。
冒険者ギルドの掲示板には既に20階近辺に階層沈下(レイヤー・ドロップ)発生の警告文が出たと後で聞いた。
次の迷宮の変化期までは余程の猛者以外は近付かないだろう。
「……仲間が死んだとハッキリわかったんだ。後悔はあっても未練は残らんだろうさ。あいつはまだ若い。充分やり直せる」
「貴方と違って、ですか?」
ぴたりと、トルクの足が止まる。
二人の間を、耳が痛くなる様な静寂が埋め尽くした。
「……失礼、踏み込み過ぎましたね」
軽薄さを削ぎ落とした、殊勝な声。
トルクは何も答えず、重い靴底で迷宮の奥へ歩みを進める。
「……将来がある奴が、やるもんじゃないさ。こんな仕事はな」
ポツリとこぼした一言。
地下の闇が、その声を静かに飲み込んでいった。
『チーム・シャープナー…結成。
ジュリド・ロギンス、アリア・メロイア…死亡
サガン・タークス…脱退。
チーム・シャープナー…解散』
未来を夢見た若者たちの足跡。
それは冒険者ギルドの古い帳簿の中で、たった四行の記録となって終わった。
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