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第五十九話:消えた人々

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/31 📚 シリーズ: 継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 📝 2,606文字 ✅ 全年齢

あらすじ

日常に潜む小さな違和感を記録し続けると、100個集めたとき、何かが起きるらしい。 逆行する時計、誰もいない部屋の足音、鏡の中の自分…… でも、最後に待っているのは「終わり」ではなく、君へのバトンだ。 7人の語り部が紡ぐ、永遠に終わらない百物語。 次はお前が観測者になるのか?

本文

これは私が記録した、五十九本目の違和感である。

今回も、語り部は、いない。

記録したのは、消えていった、人々のことだ。

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五十八本の記録の中に、語り部ではない人々が、何人も、いた。

一本目の、逆行する時計を見た男に、公園で、種明かしを、した老人。

二本目の、誰もいない部屋の、足音を聞いた、少女。

十九本目の、深夜の、常連客を、覚えていた、店主。

四十三本目で、美咲が、取材した、消えた同僚たち。

古いノートを整理していて、その名前の一つに、指が、止まった。

一人ずつの顔を、思い出そうとした。

はっきり浮かぶ、顔もあった。

輪郭しか、残っていない、顔もあった。

礼を、まだ、伝えていなかった。

そのことに、今更、気づいた。

そう、思っただけだった。

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一本目の、老人から、始めた。

名刺は、なかった。

住んでいた、公園の名前だけを、頼りに、探した。

平日の午前、公園には、犬を連れた人が、何人か、いるだけだった。

管理事務所の窓口に、聞いた。

「その名前の、常連さんは、いませんね。ベンチも、去年、撤去しています」

写真は、なかった。記憶を頼りに、似顔絵を、描いて、見せた。

「見覚えが、ないです」

近くの、喫煙所にいた、別の常連にも、聞いた。

首を、横に振られた。

別の手がかりを、探した。

見つからなかった。

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二本目の、少女に、移った。

住所は、記録に、あった。

区役所に、電話で、問い合わせた。

個人情報を理由に、断られた。

正当な理由があれば、住民票の除票は、閲覧できると、言われた。

理由を、聞かれた。

答えられなかった。

代わりに、地図アプリで、その番地を、確かめた。

表示されたのは、更地に、建つ、新しい駐車場だった。

十九本目の、店主。

店は、あった。看板も、看板の文字の、色褪せ方まで、記憶と、同じだった。

だが、店主は、代替わりしていた。

「先代は、五年前に、引退しました。連絡先は……分かりません。年賀状も、去年、返ってきましたし」

一人、確かめる、たびに。

また、一人。

同じことが、続いた。

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部屋に戻り、紙を、出した。

名前を、左に、並べた。

右の欄に、確認できたことを、書く欄を、作った。

書くことが、なかった。

一件確かめるたびに、空欄が、一つ、増えていった。

十人。二十人。

五十八本の記録に、語り部以外で、名前が、一度でも出た人物を、数えた。

三十一人、いた。

うち、二十九人が、住所も、連絡先も、たどれなかった。

リストを作るのに、三日、かかった。

親族に行き着いた数件も、答えは、同じだった。「もう、何年も、連絡を取っていません」

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残る、二人だけは、確かめが、取れた。

一人は、電話で、話せた。

もう一人は、メッセージが、返ってきた。

会って、確認したいと、伝えた。

書きながら、指が、止まった。

三十一人のうち、二十九人は、会う前から、消えていた。

この二人は、まだ、消えていない。

会いに行けば、確かめられる。

会いに行けば——確かめた瞬間、この二人も、同じ、三十一人目に、なるかもしれない。

行かなければ、何も、分からないままだった。

行けば、分かると同時に、失うかもしれなかった。

結局、二人とも、理由も告げずに、断った。

会わずに、済んだ。

代わりに、写真を、探した。

古いスマートフォンを、充電し直してまで、探した。

一緒に写った写真、通話の録音、何でもいい、直接会った証拠が、欲しかった。

会った、という記録は、結局、一件も、なかった。

三十一人、全員、最後に、私に、何かを伝えた手段は、電話か、文字だった。

顔を、見て、話した記録が、一つも、ない。

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紙を、見下ろした。

三十一人分の空欄が、部屋の光の下で、並んでいた。

ふと、思いついた。

語り部の、七人は、どうだろう。

美咲の、記事は、ある。署名記事が、七年分。

陸の、大学の、在籍記録も、ある。休学の届出まで、残っている。

凛の、通う高校も、実在する。

由香の、勤務先の、病院も、電話帳に、載っている。

桐生の、元の、勤め先も、確認できた。

千尋の、コンビニも、今日も、開いている。

存在した、証拠は、ある。七人とも、確かに、ある。

だが、私と、直接、会っている写真は。

映像は。

第三者が、同じ部屋に、いたという証言は。

自分のスマートフォンの、写真フォルダも、遡った。

七人との、集合写真は、一枚も、なかった。

誰かに撮ってもらった、という記憶さえ、なかった。

バックアップの、クラウドも、調べた。同じだった。

一枚も、なかった。

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七人とも、私とは、電話か、対面のはずだった。

対面の、記憶は、確かに、ある。声も、匂いも、覚えている。

だが、その場に、私以外の、第三者が、いたという記録は、どこにも、なかった。

三十一人と、同じ、形をしていた。

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書きながら、気づいたことが、あった。

言わずには、いられなかった。

三十一人の、消えた日付を、一つずつ、記録した日付と、突き合わせた。

十九本目の店主は、話を聞いた三日後に、消息が、途絶えていた。

二本目の少女は、記録した、翌々日には、もう、家ごと、なくなっていた。

他の二十九人も、日数に、差はあれ、同じ順番だった。

全員、私が記録に、書いた日から、数日のうちに、連絡が、取れなくなっていた。

先に、消えたのではない。

書いてから、消えていた。

その順番に、気づかなかったことに、しておきたかった。

気づいてしまった。

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紙を、最初から、もう一度、読み直した。

三十一人の名前と、七人の名前が、同じ紙の上に、並んでいた。

彼らと、私は、本当に、会ったのか。

答えは、出なかった。

出ないまま、五十九本目の蝋燭に、火を、つけた。

炎が、右に、揺れた。

二十二話、連続だった。

三十一人分の、名前を書いた紙を、蝋燭の、隣に、置いた。

光が届くたび、紙の上の名前の一つが、影に、隠れた。

隠れる名前は、決まって、右の欄が、空白のままの、名前だった。

指で、その名前を、なぞった。

指の下だけ、光が、届かなかった。

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残り、四十一本。

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深夜、陸から、メッセージが、届いた。

「全データを、解析しました」

「明日、話します」

「でも——聞く、覚悟が、ありますか」

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作者について

闇工房

闇工房

"正常"と"異常"の境界を、一話ずつ削り取る。 心理ホラー小説・TRPGシナリオを制作するソロクリエイター。 代表作は連作怪談「継承される百の違和感」—— 読み進めるうちに、あなたの"普通"...

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