014、世界が初めて“治された日”
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
とあるマナが存在する世界、ラスティア。そこで繰り広げられる数々の群像劇。 これは、非日常、日常を描いた、ファンタジーと現代、SF、全てをごちゃ混ぜにした群像劇です。
本文
空は、音もなく歪んでいた。
青かったはずの天が、水面のように揺れ、見えない何かに内側から押されている。
里の誰も、この現象を知らない。
ただ、風が逆流し、草が根元から震え、世界樹を巡るマナの流れが乱れていることだけは理解していた。
キミーネが武器を握る。
ただ一人、結界の前へ出る。
彼が見据えているのは敵ではない。
空、そのものだった。
やがて――
光を飲み込むような裂け目が、空に口を開く。
夜より黒く。
影より深く。
世界そのものに刻まれた「穴」。
そこから、底知れぬ冷たさが流れ込んでくる。
草が色を失い、空気は重く、呼吸さえ奪われていく。
キミーネは踏み込んだ。
ウェアルネが鍛えた短剣へマナを流し込み、裂け目へ向けて振り抜く。
青白い軌跡が空間を裂く。
だが――
裂け目は閉じない。
削っても。
削っても。
傷口は、そこに在り続けた。
その時だった。
背後から、静かな光が広がる。
振り返ると、世界樹の根元に膝をついたリディアが、ゆっくりと目を開いた。
彼女はすでに世界樹と意識を繋いでいた。
武器は持たない。
ただ、静かに裂け目を見上げる。
「これは……」
その瞬間。
言葉より先に、理解が流れ込んできた。
これは敵ではない。
魔物でもない。
世界が破れた痕。
そして――
「……ここは、縫える」
彼女は世界樹の根へ、そっと手を添えた。
瞬間。
大地を巡るマナの流れが、一つの巨大な網となって彼女の意識へ広がる。
川のようだった流れは、無数の糸となり、裂け目は、ほどけた結び目のように見えた。
「……繋がっていないだけ」
誰に聞かせるでもない、小さな呟き。
彼女は両手を掲げる。
指先から、細く輝く光の糸が伸びていく。
糸は空へ届き、裂け目の縁へ、静かに触れた。
その時、彼女は初めて知る。
修復とは、力で押さえ込むことではない。
本来あるべき形を、思い出させること。
裂け目の縁へ糸を掛け、断たれた流れを結び、歪んだマナを、本来の向きへ戻していく。
キミーネは剣を下ろした。
もう、自分にできることはない。
ただ、その光景を見守る。
やがて。
空の揺らぎが静まり始める。
重く淀んでいた空気がほどけ、風は元の流れを取り戻していく。
最後に。
リディアは、一本の糸を静かに引いた。
音はしなかった。
世界は、ただ静かに閉じた。
裂け目は消え、空には何一つ傷跡を残さない。
そこには、どこまでも澄んだ青空だけが広がっていた。
リディアは、その場に膝をつく。
荒く乱れた息。
失われたのは体力ではない。
世界の構造へ直接触れた負荷が、小さな身体を震わせていた。
キミーネが駆け寄り、そっと支える。
「治ったのか?」
リディアは小さく頷く。
そして、静かに答えた。
「……縫えた」
この日、二人は知る。
敵を倒したのではない。
世界は、治すことができるのだと。
そして後の世、人々はこの日を語り継ぐ。
リディアは、もはやただのエルフではない。
世界で初めて、世界そのものを修復した者。
――初代修復師、誕生の日である。
後書き
修復師の誕生。これにより世界の構造の一端を知ることができます。
エルフたちは今後、世界を護る大切な集団へと変わっていきます。
エルフたちの話はここでいったん終わり。次回から新章へ突入です!
作品統計
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