回想
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
蘇った夏の記憶はやさしく歪み、真実だけが取り残された ある新聞記事が、私の遠い記憶を呼び覚ました。 小学生時代の夏休みのある日、こっそり忍び込んだ学校の校舎内で体験した恐怖。 はたしてあれは現実だったのだろうか。 それとも夏の強い日差しが見せた幻だったのだろうか。
本文
あれは私が小学五年生の時の、夏休みに入ってすぐの頃だったと思う。
その日の昼過ぎ、私は同じクラスで特に仲の良かった二人の友人たちと、M町に建つ小学校の校庭で他愛もないおしゃべりをしていた。
夏休み中の学校は、登校日以外は基本的に閉鎖されていたが、私たちはいたずら半分でこっそり忍び込んでいた。
現在であれば防犯意識も高まり、いくらそこの生徒であろうと、休日の学校へ自由に出入りすることは難しいだろう。だが当時はのどかなもので、監視カメラのない裏門を乗り越えても、警備員が殺到するようなことはなかった。
「タエ子さんの話、お前らも聞いただろう?」
浅黒く日焼けした運動好きのタカシが、鉄棒の上に座ってバランスを取りながら話題を持ちかけた。彼はいつも生傷が絶えないような、活発でヤンチャな少年だ。
「うん、聞いた。あれって本当の話なのかな」
半分地面に埋め込まれたタイヤに座るマコトが答えた。マコトは反対に色白で、肥満気味の運動オンチなタイプである。
「そういう怪談話ってどこの学校にもあるらしいよ? 七不思議とか花子さんとか」
当時から変に冷静ぶっていた私、シンジは空気を読まずに場を白けさせる。私はこの頃から細身で、目が悪くメガネが手放せなかったため、外見だけはガリ勉の優等生だったが、実のところ成績は可もなく不可もなくといった、ごく平凡な子供だった。
「それはお化けが出るって話だろ? タエ子さんは怪談とは違うんじゃないか?」
タカシが反論する。
話に出た「タエ子さん」というのは、夏休みに入る前の七月半ば頃から急に、学校内で囁かれ始めた噂話だった。
十二、三年ほど前の話だという。この学校で、クラス中からイジメを受けていた女子生徒が早朝、教室内で自殺を図った。その女子生徒の名前が「タエ子」だったそうだ。カッターで手首を切ったのだとか。幸い、その直後に登校したクラスメイトによる発見が早く、教職員がすぐに救急車を呼び病院に搬送されたことから、彼女は一命を取り留めた。
タエ子さんはしばらく入院していたが、家族が引っ越すことになったため、退院後は学校に一度も顔を出すことなく、彼女は転校したとのことだった。
その後、学校は日常を取り戻したかに見えた。
だが、タエ子さんが自殺を図った教室の黒板には、彼女の書いた『このクラス全員呪ってやる』の大きな文字が、いつまでも消えずに残っていた。チョークを強く押しつけて書いたせいか、いくら黒板消しで消しても跡が消えず、クラスメイトたちは、その後もタエ子さんの影に怯えることになったそうだ。
以来、その教室にはタエ子さんの呪いがかけられていると、語り継がれることになったのだという。
作品統計
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