第二十話 ダメおっさん、リリアと出会う
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「俺はもう、終わった人間なんだ」 魔族大戦で呪いを受け、冒険者として戦えなくなったガンク。 彼が選んだ第二の仕事は、冒険者ギルドの酒場で昼間から酒を飲むことだった。 ……ただし、その正体はギルド公認の隠れ教官。 そんなガンクの前に現れたのは、誰も信用しない孤独な少女サラ。 才能は一流。だが、剣も魔力もどこか危うい。 「あんた、あたしに何を教えるつもり?」 「別に。お前が強くなりたいなら、手伝ってやるだけだ」 過去に傷を抱える二人は、師弟として少しずつ距離を縮めていく。 呪われたダメおっさんと、孤独な少女。 二人の出会いが、やがて新たな英雄譚を動かし始める。 第1章ヒロインがツンデレ。 第2章ヒロインがヤンデレとなっています。
本文
「初めまして。ワルツ・ゴーガス・ミリルと申します。ミリルとお呼びください」
「いえいえ、呼び捨てにはできません。ミリル子爵と呼ばせてください」
「フォッフォッフォ。ガンクもミリル子爵の前では敬語を使うのじゃな」
「……」
俺は無言でクソ師匠をにらみつける。クソ師匠はどこ吹く風で俺の目を見ようとしない。初めましての貴族様に馴れ馴れしくしてたら首が飛ぶだろ。ため息をつきたいくらいだが、サラやミリル子爵がこちらを見ているので出来ない。困ったなあ。俺は敬語が苦手なんだよ。ちらちらとクソ師匠を見る。
「ここでは堅く並んでもよい。公式の場ではないしのう」
「そうですわ。楽にしてください」
「それでは……今日の用件はなんだ? クソ師匠」
「ガンク、その言い方はないわよ」
良かった。クソ師匠が空気を読んで、無礼講の場にしてくれた。何故かサラにぺしっと膝を叩かれる。良いだろ、クソ師匠が呼んだんだから。いやミリル子爵が俺に用件があったのか。じっとこちらを無言で見つめているこちらの娘がリリアだな。リリアは母親譲りのサラサラの金髪をショートボブにしたお人形さんのような娘だな。そして、無言ながら俺には波打つ波動のようにリリアの魔力を感じる。
「こちらの方が……」
「そうです。うちの娘は六年前に突然喋れなくなったので私が代わりに喋ります。娘のリリアです」
「……」
リリアは俺の目を見た後、ちょこっと頭を下げる。うん、何だか小動物のような感じがするな。森の中にいるリスと狸みたいな。
サラは何故か俺の膝をバシバシ叩いてる。うん、絶対可愛いって思ったんだろうな。俺もちょっと笑みが出る感じだったからな。ただこの子を俺に紹介したってことは、俺の弟子にしてくれって事だろう。まあ念のために聞いてみるか。
「もしかしてと思いますが……リリアさんを俺の弟子にしてくれという事ですか?」
「はい。流石英雄を育てる隠れ教官。察しがいいですね」
「いやいや。俺は剣は教えられますが、魔法はそんなに知らないんですけども」
「フフフ、ご冗談を」
ミリル子爵は俺の方を見てにっこり笑う。え、何でこんなに買いかぶられてるんだ?
「ガンク様の魔力操作は完璧です。そして先ほど娘の魔力波形を感じ取って顔色を変えていました。これは魔法が不得意な方にはできない芸当です」
「う、それは」
しまったな。このミリル子爵は只の子爵様かと思ってたけどかなり魔法を使える人だ。先ほどまでのほほんとしていた魔力波形が急に俺の魔力波形を辿ろうとしてくる。おいおい、これじゃあ俺の教えることなんてないだろ。
「この娘に教えてほしいのは魔力操作と魔法を出す方法です」
「それはどういうことですか? 詠唱ができなくても、魔力操作だけで魔法は……」
「それが使えないのです。何度も高名な魔法使いの学者の方や、冒険者に教えてもらいましたがダメでした」
「……」
リリアはそれを聞いて暗い顔をする。ふむ、本人にやる気がないわけではないらしい。それならば何で、魔法が発動しないんだ? 俺は何か別の要因があるような気がした。こんな可愛らしいお人形のようなリリアが暗い顔をしている。それだけで心が痛んだ。
「勿論、冒険者の方に頼むことですので報酬は払わせていただきます」
「……」
ミリル子爵は俺に報酬を提示した。一か月の指導で金貨三枚。これはかなり破格の価格だ。だが穴がある。依頼が達成できなかった場合の事が言われていない。
「ミリル子爵。依頼が達成できなかった場合、お金はなしで構いません」
「え? それはガンク様に失礼でしょう」
「そんなことはありません。依頼を達成できなくてお金をもらう資格などありません」
「……そのようなことを言ってくれる方は今まで一度もいませんでした」
「後、リリア様の意思を確認したいです。リリア様は魔法を使えるようになりたいのですか?」
そう聞くと、リリアは一瞬だけ視線を泳がせた。
リリアの方をじっと見る。俺の目を見たリリアはちょっとだけ迷ったが頷いた。
なるほどな、俺は少しだけリリアの気持ちが分かった気がした。
この娘は魔法が使えるようになりたいわけじゃなさそうだ。
他にやりたいことがあるのかもしれない。俺はそれを見抜いた上でリリアを弟子にすることに決めた。
ミリル子爵はリリアの迷いには気づいていなさそうだった。
クソ師匠はしっかりとその瞬間を見ていたがな。隣のサラも気づいていたぞ。
「それではリリアをよろしくお願いします」
「はい」
俺とサラとリリアはラーナに案内されて、クソ師匠の館を出る。
「リリア、俺の家に行くぞ」
「……」
リリアは首を縦に振って、とことこと街の中をついてくる。
「おっ! ガンクさんの新しい弟子ですか?」
「ガンクさん、俺達にも教えてくださいよ~」
「ガンク様、アルト様とゲイルが宿であなたの話をしてうるさいのです」
お、アルトと従者のゲイルとアニーだ。
マルクの街の森の異変で活躍し、新進気鋭のDランク冒険者になっている。
結構、俺の家に来ては稽古をつけてくれと言ってくる。
サラの後ろにリリアが隠れてしまっている。
「あれ? サラの後ろにいるのって」
「え。リリア様ですか?」
「本当ですわ」
確かアルトって貴族の三男坊なんだよな。
そりゃあ面識はあるよな。
どこの貴族かは聞いたことがないがな。
「お前ら、今日は無理だが、明日から教えてやるぞ」
「本当ですか! やった!」
アルトは最初の頃から比べると本当に純粋になったよな。
「ちょっと! 明日はあたしも教えてもらう予定じゃない!」
「合同で教えた方がいいこともある。それにリリアとアニーは魔法使いだから仲良くなれるだろ」
「え、リリア様に教えるなんて恐れ多い」
「良いからいいから」
明日の朝から合同稽古をすることにして、アルトたちと別れる。
俺とサラとリリアは家に着いた。
ちょっと考えてサラを手招きする。
「?」
疑問符を浮かべるリリアは可愛い。
こしょこしょとサラに耳打ちすると嬉しそうにするサラ。
『ガンクの教官室にようこそ!』
リリアは目を輝かせると嬉しそうにうなずいていた。
次話に続く。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。