第二章 リリア編 第十九話 ダメおっさん、マルクの街を満喫する
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あらすじ
「俺はもう、終わった人間なんだ」 魔族大戦で呪いを受け、冒険者として戦えなくなったガンク。 彼が選んだ第二の仕事は、冒険者ギルドの酒場で昼間から酒を飲むことだった。 ……ただし、その正体はギルド公認の隠れ教官。 そんなガンクの前に現れたのは、誰も信用しない孤独な少女サラ。 才能は一流。だが、剣も魔力もどこか危うい。 「あんた、あたしに何を教えるつもり?」 「別に。お前が強くなりたいなら、手伝ってやるだけだ」 過去に傷を抱える二人は、師弟として少しずつ距離を縮めていく。 呪われたダメおっさんと、孤独な少女。 二人の出会いが、やがて新たな英雄譚を動かし始める。 第1章ヒロインがツンデレ。 第2章ヒロインがヤンデレとなっています。
本文
マルクの街は木造建ての建物が中心だ。王都に行けば石畳とレンガ造りの建物が並んだ外壁が何層にも重なった街が見える。だがマルクの街の外壁は王都にも負けていない。ガルランド王国の辺境であるため、魔物からの襲撃に備えて、大きな外壁が作られた。俺は朝焼けに染まる赤と青が混ざりあう、明け方の空を見上げていた。隣には眠そうに目を擦るサラが俺の家から出てきた。
「サラ、おはよう」
「ガンク。眠い……」
「眠いなら寝てていいんだぞ」
「いや。だってガンク一人で走りに行っちゃうでしょ」
「別にいいだろ」
「いや!」
サラは俺の手を握り、離さないとばかりにしがみつく。漆黒の魔獣と戦ってから一週間がたっていた。俺はここの所困惑していた。サラがめちゃくちゃ俺に甘えるようになっていたからだ。こんな三十越えのおっさんに甘えてもなにも良いことはないと思うんだが、何度言っても態度を変えようとしない。俺はため息をつきながらサラの頭を撫でる。こうするとサラの機嫌が良くなるからだ。
俺はサラと一緒に日課のランニングをし始める。俺の家から出て大通りを走っていると、開店準備中の八百屋のおっちゃんが挨拶してくる。
「お、英雄のサラちゃんと師匠のガンクじゃないか」
「もう。おじさんそれ辞めてって言ってるでしょ」
「なんだ、サラ。本当の事じゃないか」
「むう」
サラは頬を膨らませながらも俺の手を取って八百屋のおっちゃんに近づいていく。
心なしかサラは顔が赤い。こんなおっさんの弟子だなんて恥ずかしいよな。
「……ガンクは鈍感」
「ん? 何か言ったか?」
「はあ」
何故か、八百屋のおっちゃんとサラに同時にため息をつかれた。
店には取れたての紫ナスやニンジン、ジャガイモ、トマトが並んでいる。
ここの野菜はいつもとれたてで質がいい。貴族たちに野菜を下ろしている大店だな。
おっちゃんとマルクの街で起きたことを話しながら野菜を買っていく。
話す内容は畑の方でゴブリンが出たとか、どこの貴族がこんな話をしていたとか他愛もない話だ。だがその中で気になる話が出た。
「そう言えば、隣街のゴーガス子爵の娘さんがマルクの街に来るらしいぞ」
「ふーん。ゴーガス子爵の所の娘さんって」
「ああ、とっても美人だな」
いやそっちじゃねえよ。サラがなんかジーっと俺を見てくるのは何なんだ。
「ちげえよ。確か喋れないんだよな?」
「ああ、小さい頃に突然呪いが掛けられたらしい。魔族が呪いをかけたって噂だがな」
「……呪い」
サラは両親の呪いの事を思い出したのだろう。少し険しい声で呟く。
俺はサラの頭を撫でながら内心ため息をつく。俺もマルクの街の教会や錬金術師に当たってみたのだが、サラの両親の呪いは解けそうにない。勿論俺の呪いも。
やるせないなあ。少し無言になった空気を変える。
八百屋のおっちゃんから紫ナスとトマトを買ってからアイテム袋に入れて走り出す。
はあ、異世界の勇者が言っていた聖女? って人が見つかれば呪いが解けるかもって話をサラにもする。
「聖女? ってどんな人?」
「まずこの大陸の人間が信じている宗教は慈愛の女神ミレアニア様と戦女神ハルン様が多いのは知ってるな?」
「うん」
「だが昔は創造神様、マリアンヌ様の旧神教が強かったんだ。そして聖女はマリアンヌ様の宗派から稀に選ばれる」
「なんで、昔なの?」
「うーん。そこは俺もよくわかってないんだよな」
昔と言っても三百年くらい前から聖女は確認されていない。
そのため、強い呪いの解呪がこの大陸ではできていないのだ。
「あたしが聖女になるのは?」
「創造神マリアンヌ様に生まれた時に祝福されていないと聖女になれないんだ」
「……そうなの」
残念そうにするサラをなだめながら、マルクの街を走る。
朝からマルクの街の森に向かう冒険者たちと話したり、美味い焼き串を売っている屋台の店主と話したりする。大体これが俺達の日課だ。
森の異変から俺に対する冒険者や衛兵の態度も変わった。
かなり人当たりが柔らかくなったし、俺とサラを英雄とする奴らも増えてる。
俺はそんな大したもんじゃないというんだが聞いてもらえない。
後は稽古をつけてくれっていうやつも増えたな。
家に帰り、紫ナスの皮をむいて、マルクの街の近くで取れるひまわり畑の油を使って素揚げにする。ナスはナスニン? という中に含まれている成分が揚げると良い感じになって、美味しくなるし健康にも良いって異世界の勇者が言っていたな。俺は異世界の勇者から教わった麻婆茄子を作ってサラと一緒に食べる。
「じゅるり」
何故か、食卓にラーナが座っていた。最近いつもラーナが朝からご飯を食べにくる。
「ラーナ、何で今日も来たのよ!」
「ガンク殿がわたくしを呼んでいたので」
「呼んでないんだが⁉」
「……」
何故かサラには睨まれて、ラーナには物欲しそうに見られる。はあ、一体何なんだよ。
でもこういう目に弱いんだよ。ったくしょうがないな。
「分かったよ。ラーナも食ってけ」
「もう頂いています。もぐもぐ」
「早いよ⁉」
ちゃんと食前の挨拶をしろよ。いつも無表情なラーナが飯を食う時だけ頬が緩みまくってるんだよな。
「あ、これ本当に美味しい。でもちょっと辛い」
「俺の昔の仲間曰く、米?ってやつと一緒に食べると美味いらしいぞ」
「米なら知っています。東方の国で食べられているとか」
「どうにか手に入れられんかなあ」
「クロイ様に言えばどうにかなるかと」
「マジか!」
もっと早く言えばよかった。黒パンと麻婆茄子とトマトと緑野菜のサラダを食べていく。
「そう言えば、クロイ様がガンク殿をお呼びです」
「あたしは?」
「サラ殿は呼んでいません」
「あたしも行く!」
何故か、サラとラーナは少しバチバチと目線で火花を散らしている。
はあ、おとなしく飯食っててくれないかな。それにしてもクソ師匠が呼んでるってことはゴーガスの街から来る子爵の娘さんの事か? また弟子が増えるとかないよな。
俺はため息をつきながら、暫くぼーっと飯を食っていた。
「ラーナにガンクは渡さない」
「……大人の魅力でイチコロです」
「うるさい!」
サラとラーナは小声で喧嘩していた。小さくてよく聞こえなかったけどな。
洗い物をした後、クソ師匠の館に行く。
今日も質実剛健とした館を歩き、応接室に案内される。
暫くすると部屋がノックされて、扉から背の高いクソ師匠と少し身長の低い金髪の女性が入ってきた。後ろから十五歳くらいの若めの女性も入ってくる。
親子っぽいな。わかめの女性を見た瞬間、驚く。
こっちの子がもしや……。魔力操作を使わなくても圧倒的な魔力波形の波動が伝わってくる。
次話に続く。
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