1日1回しか魔法が使えない魔法使い
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
見習い魔法使いのルカには、大きな秘密がある。 それは、1日に「たった1回」しか魔法が使えない【制約の呪い】がかかっていること。 一度使えば、次の日の朝まで魔力はすっからかん。 そんな貴重すぎる魔法なのに、お人好しのルカは木から降りられない子犬を助けたり、くだらないトラブルに巻き込まれたりと、ついつい午前中のうちに「今日の1回」を無駄遣いしてしまう! 喋るお小言使い魔の黒猫に呆れられながら、ルカは今日を無事に乗り切ることができるのか? 魔法の使いどころを巡る、1日1話のほのぼの日常ファンタジーコメディ!
本文
色の本を胸に抱えてまっすぐ前を見た。目に力を込める。
「クロ、ひとつ、やってみたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「この『暁の鳥』の理論が本当かどうか、確かめてみたい。……もちろん、成功するとは限らないしなにを引き起こすかわからない。でも、もし祖父の理論が正しいなら僕の“一日一回”っていう限界は、変えられるかもしれない」
クロはしばらく黙って、ルカの顔を見つめていた。そしてふっと口元をほころばせた。
「まったく、お前は本当に無謀な相棒だな。だが俺が止めたところで聞く気はないんだろう? 好きにやれ。ここで見張っててやるからよ」
ルカはにっこり微笑むと小屋の中央に座り込んだ。杖を膝の上に置き、銀色の本のページを目の前に開く。そこに描かれた魔法陣を頭に焼き付ける。
深呼吸を繰り返す。心を静かにして、体内の魔力の感覚を確かめる。
、今日の一回分の魔力が、まだ体の中で小さな泉のように湛えられている。
「さてと……やりますか」
ルカはそっと目を閉じた。祖父の言葉を思い出す。魔力は量ではない。質と、向き。放つべき方向を間違えなければ一滴の水も大河と同じ力になる。
ルカは自分の乾ききった小さな泉をイメージした。そしてその泉から一滴だけを取り出し、まっすぐに魔法陣の中心へと注ぎ込む。
銀色の本が淡い光を放ち始める。ページのインクが浮かび上がり、周囲の空気がかすかに震え出した。
ルカの指先から、今まで感じたことのないような温かい流れが体中に広がっていく。それは無理に力を絞り出すような感覚ではなく、まるで枯れかけた川に再び水が流れ込んでくるように自然に湧き上がってくる感覚だった。
「……っ」
目を開けると手のひらに小さな光の鳥がとまっていた。羽を震わせ、翡翠色に輝く小さな命。ルカが手を差し出すとそれはすっと飛び立ち、部屋の中をひと回りしてルカの肩にとまった。
「おい……これは……」
クロが目を丸くしている。
「“暁の鳥”……っていうのは、もしかして、魔力を消費せずに使役する使い魔なのか……?」
ルカは肩の光の鳥を見つめた。確かに魔力の消耗があまり感じられない。通常の魔法なら、こんな小さな光の鳥を創るだけで自分の全魔力を吹き飛ばしてしまう。なのに今のルカの体内には昨日の朝と同じくらいの魔力がまだ残っている。
「……これなら、もしかしたら
ルカがそこまで言いかけたとき、小屋の外から声が聞こえた。
「ルカ君、いるかい?」
それはオルドの声だった。ルカとクロは顔を見合わせた。彼にこの光景を見られてはならない。ルカが慌てて光の鳥を消そうとした瞬間、光の鳥はひらりと羽ばたいて本のページの中に吸い込まれるように消えていった。そして本は、先ほどと同じ銀色の静かな装丁に戻っていた。
クロが素早く本を本棚の影に隠し、ルカが平静を装って扉を開けるとそこにはにこやかなオルドが立っていた。
「やあ、朝早くにすまないね。昨日の話の続きなんだがよければノートのことだけでも、少し話させてもらえないだろうか」
オルドは笑顔のままだが、視線は部屋の中をぐるりと見渡している。ルカはぐっと背筋を伸ばした。
「あの……ノートなら、まだ見つかっていません。引き出しの中は確認したんですけどたぶん他の遺品と一緒にどこかへ」
オルドはしばらくルカをじっと見つめていたがやがて小さく息をついて、にこりと微笑んだ。
「そうか。ならばまた見つかり次第で構わない。王都に帰る前に、また寄らせてもらうよ」
そう言って、彼は深い緑のローブを翻してゆっくりと村のほうへ歩いていった。
クロがひょこっと顔を出す。
「危なかったな」
「うん……でも、もしかしたら彼も僕と同じように何かを探しているんだろうな」
ルカはそう答えながらも、胸に湧き上がる不思議な感覚を手放せずにいた。体内の魔力がまだ充分に残っている。それは朝に感じた“一回分”と同じ量だ。
つまり、さっき光の鳥を作ったにもかかわらず魔力が消費されていない。
作品統計
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