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『天津守護』-I'll never lose my mind

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/2 📚 シリーズ: 『天津守護』-I'll never lose my mind 📝 3,301文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

​【あらすじ】 十三年前、紫黒い天蓋と異形の怪異に閉ざされた魔都・東京。時間の流れが狂った結界の中で13年間閉じ込められていた17歳の少年・大神護(おおがみ まもる)と、外界から彼を救うために戦い続けた27歳の特殊部隊元隊長・神崎志乃(かんざき しの)。 ​崩れかけた廃屋で分け合った不味いスープ、指先を傷だらけにして削られた手作りのオルゴール。世界を繋ぎ止める人柱「天津守護」となった護は、「生きろ」という言葉と手作りのオルゴールを志乃に遺し、光となって消え去ってしまう。 ​あの日から、志乃は生涯誰とも婚姻を結ばず、ただ一人「大神護」という少年だけを愛し続けた。甥や姪、その子どもたち(孫世代の葵)を我が子のように愛し、生涯の戦友・風間とともに復興の時代を泥を啜って生き抜いた志乃。 ​そして50年以上の歳月が流れたある夕暮れ。80歳を超え、愛する家族と仲間に囲まれて穏やかに人生を全うした志乃の前に、あの日と変わらぬ17歳の姿で護が手を差し伸べにやってくる――。 ​【こんな人におすすめ!】 ​一途で切ない「純愛・生涯愛」ストーリーで泣きたい方 ​歳の差・時間の歪み・運命に翻弄される重厚なドラマが好きな方 ​悲劇で終わらず、長年の想いが報われる美しいハッピーエンドを読みたい方 ​戦友としての絆や、復興を支える温かな家族愛に触れたい方          0話含め全57話(最終回56話)

本文

第10話:『王』

音が、死んでいた。

東京の深部。境界線を越えたその領域に一歩足を踏み入れた瞬間、護の耳に届いていたあらゆる環境音が、まるで分厚い真綿で塞がれたように消失した。

風のそよぐ音も、崩落したコンクリートの細かな砂が流れる音もない。ただ、自分たちの靴底が荒廃した地面を踏みしめる鈍い振動だけが、骨を伝って脳裏に直接響いてくる。

「……静かすぎるな」

護は漆黒の刃の柄に自然と手をかけ、低く呟いた。

いつもなら、この魔都の空気には怪異たちが発する不快な羽音や、大気を侵食する瘴気の蠢く気配が満ちている。しかし、ここにはそれがない。いや、正確には「何もない」のではなく、あまりにも巨大な何かの気配に気圧され、すべてが息を潜めているのだ。

「ああ。どうやらこのエリアには、ネズミ一匹近づかないらしい。怪異ですら、本能的に自分の命が惜しいってわけだ」

隣を歩く風間颯が、いつもの軽薄な笑みを完全に消し去り、周囲を油断なく見回しながら囁く。その手にあるアサルトライフルの銃身は、わずかに震えていた。この三年間、常に軽口を叩いて護の隣で戦ってきた風間が、これほどまでに明確な緊張を露わにするのを、護は初めて見た。

護の斜め後ろ、半歩遅れた位置には神崎志乃が静かに従っている。

背負った狙撃銃のケースを抱える彼女の手元を見つめ、護は胸の奥で、再びあの「安心感」を、そしてそれ以上に強い「守らなければ」という義務感を滾らせていた。

(この人は、俺が守る。何があっても)

それは、自分でも理屈の通らない衝動だった。けれど、この絶対的な沈寂が支配する空間において、彼女の存在だけが護の「日常」を繋ぎ止める錨のように感じられたのだ。

「護、これ以上は本当に冗談抜きで危険だ。何かあったら、即座に俺の指示に従って退却しろよ」

風間の声には、監視者としての冷徹さではなく、純粋な友人としての、そしてこの深部に潜む何かを知る者としての切迫した響きがあった。

「分かってる。無理はしない」

護は短く答え、さらに霧の濃くなる奥へと進んだ。

時間の感覚すらも、ここでは曖昧になっていく。

どれほど歩いたのだろうか。数分、あるいは数時間。

突如として、目の前の紫黒い霧が、まるで巨大な幕を開けるようにして左右へと割れた。

そこに、それ(・・)はあった。

かつて国会議事堂、あるいは巨大な神殿だったのだろうか。

完全に天井が崩落し、外の不気味な紫黒の空が剥き出しになった、広大な円形の空間。崩れたコンクリートの瓦礫が、まるで中央に向かって段階的に積み上げられた階段のように配され、その頂点には、瓦礫の塊で形成された「玉座」のような場所が鎮座していた。

その光景の異様さに、護は息を呑んだ。

玉座。その頂に、一人の男が座っていた。

鎧とも、現代の衣服ともつかない、闇を編み上げたような漆黒の外套を纏った男。

その肉体から放たれる圧倒的な「存在感」は、これまで護が出会ってきたどの怪異とも、あるいは強大な力を持つどの人間とも違っていた。彼がそこに座っているだけで、周囲の空間そのものが重力に逆らうように微かに歪み、大気が震えている。

平将門。

その名を知る術は、今の護にはない。神話の知識も、歴史の教訓も、記憶を失った彼の脳裏には浮かばなかった。

ただ、直感した。

ここには、自分よりも、そしてこの世界の誰よりも遥かに大きな、絶対的な「王」がいるのだと。

男は、ゆっくりと顔を上げた。

その双眸が、遠くから侵入してきた三人の姿を捉える。

志乃の身体が、一瞬で凍りついた。

ガタガタと、彼女の膝が物理的な恐怖で震え始める。対怪異戦の最高峰として、数多の修羅場をくぐり抜けてきたはずの27歳の神崎志乃が、ただ視線を向けられただけで、呼吸の仕方を忘れたようにその場に立ち尽くしていた。

防護服越しにも伝わる彼女の激しい震えに気付き、護は無意識に、志乃の前に一歩踏み出し、彼女を自分の背中で庇うようにして立ちはだかった。

「……!」

志乃が息を呑む音が、護の背中に届く。

だが、男の視線は、風間にも、恐怖に震える志乃にも向けられてはいなかった。

男の漆黒の双眸は、ただ一人、彼女を庇うようにして前に出た「大神護」という少年だけを、真っ直ぐに見つめていた。

その沈黙は、永遠のようにも感じられた。

距離にして、数十メートル。けれど、その空間に横たわる絶対的な力関係の前に、護は一歩も動くことができない。自分の体内で、何かが激しく警鐘を鳴らしている。胸の奥が、熱い鉄を流し込まれたようにドクドクと不気味に拍動し始めた。

男は、ただじっと護を見つめ続けた。

その瞳に宿るのは、敵意でも、捕食者の飢えでもない。ただ、深淵の底から万物の成り立ちを観察するような、絶対的な静寂。

やがて、男の薄い唇が、静かに開かれた。

「人か」

男の声が、遮るもののない円形神殿に響き渡る。

低く、けれど世界の基盤を揺るがすような、圧倒的な質量を持った響き。

少しの間。

世界が静止したかのような、長い長い空白の後。

「……器か」

男が口にしたのは、それだけだった。

「人」か、「器」か。

その二つの言葉の意味を、護は理解することができなかった。けれど、その言葉が発せられた瞬間、彼の中の「何か」が、あの日怪異を跪かせたあの悍ましい本能が、男の言葉に呼応するように激しく暴れ出そうとした。

護は奥歯を噛み締め、その疼きを必死にねじ伏せる。

男は、それ以上の言葉を紡ぐことはなかった。

ただ、ゆっくりと目を閉じ、再び深い沈黙の中へと沈んでいった。まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように、彼の存在感だけが霧の中に融けていく。

「……引くぞ。すぐにだ!」

風間が、押し殺した、狂気的な焦燥を孕んだ声で護の腕を掴んだ。

志乃は崩れ落ちそうになる身体を、自分の狙撃銃のケースを杖のようにして辛うじて支えていた。彼女の顔からは完全に血の気が失せ、ただ呆然と、護の背中を見つめ続けていた。

護は、言葉を選ばなかった。

選ぶべき言葉など、この圧倒的な存在の前に、そして自分の中で蠢き始めた不気味な違和感の前に、何一つ残されていなかったからだ。

二人の手を引くようにして、護は急ぎ、その「神殿」を後にした。

深部エリアからの撤退ルート。

霧は少しずつ薄くなり、いつの間にか、元の「魔都」の騒がしい、けれどどこか安心する日常の気配が戻りつつあった。

しかし、三人の間に流れる「沈黙」は、先ほどよりも一層重く、冷たいものに変わっていた。

「……護」

風間が、歩きながらぽつりと声をかけた。

「さっきのことは、誰にも言うな。防衛班の上層部にも、配給所のおばちゃんにも、誰にもだ。……分かったな?」

「ああ。分かってる」

護は短く答えた。

風間の横顔には、いつものお調子者の面影は微塵もなく、ただ「何かから護を守ろうとする」ような、張り詰めた決意だけが滲んでいた。

護は、斜め後ろを歩く志乃をそっと振り返った。

彼女はまだ、かすかに肩を震わせている。その瞳は、先ほどの男の言葉――「人か、器か」という意味深なフレーズを、何度も何度も頭の中で反芻しているようだった。

(人か……器か……)

護は、自分の掌を見つめた。

自分はただの、17歳の大神護だ。記憶はないけれど、美味しいスープを喜び、映画のパンフレットを愛し、ハズレのガチャガチャに本気で怒る、ただの人間のはずだ。

なのに、どうしてあの男は、自分を「器」と呼んだのだろう。

(俺は、俺だ。誰の身代わりでも、何かの入れ物でもない)

護は、そう自分に言い聞かせるように、拳を強く握り締めた。

しかし、その強い意志の裏側で、彼と志乃を引き裂き、そして近づける運命の歯車は、さらに速度を上げて回り始めていた。

魔都東京。

この生きている街の日常の裏側で、彼らの預かり知らぬ「世界の真実」が、静かにその全貌を現そうとしている。

そして翌日。

外界からの更なる変化として、志乃にとっては忘れることのできない「もう一人の人物」が、この隔離された世界へと足を踏み入れることになる。

かつて同じ教室で、普通の日常を夢見ていた少女。

彼女との再会が、護と志乃の関係を、さらに複雑な光へと導いていく。

【第10話 『王』 終わり】

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作者について

天霧 セナ

天霧 セナ

広島在住。AI生成を使用し小説とイラストをやってます。 ファンタジー・SF・恋愛など色々書いてますが、 一番大事にしてるのは感情の動き。AIで感情表現は何処までできるかをテーマにしてます。 今年...

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