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『天津守護』-I'll never lose my mind

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/29 📚 シリーズ: 『天津守護』-I'll never lose my mind 📝 4,689文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

​【あらすじ】 十三年前、紫黒い天蓋と異形の怪異に閉ざされた魔都・東京。時間の流れが狂った結界の中で13年間閉じ込められていた17歳の少年・大神護(おおがみ まもる)と、外界から彼を救うために戦い続けた27歳の特殊部隊元隊長・神崎志乃(かんざき しの)。 ​崩れかけた廃屋で分け合った不味いスープ、指先を傷だらけにして削られた手作りのオルゴール。世界を繋ぎ止める人柱「天津守護」となった護は、「生きろ」という言葉と手作りのオルゴールを志乃に遺し、光となって消え去ってしまう。 ​あの日から、志乃は生涯誰とも婚姻を結ばず、ただ一人「大神護」という少年だけを愛し続けた。甥や姪、その子どもたち(孫世代の葵)を我が子のように愛し、生涯の戦友・風間とともに復興の時代を泥を啜って生き抜いた志乃。 ​そして50年以上の歳月が流れたある夕暮れ。80歳を超え、愛する家族と仲間に囲まれて穏やかに人生を全うした志乃の前に、あの日と変わらぬ17歳の姿で護が手を差し伸べにやってくる――。 ​【こんな人におすすめ!】 ​一途で切ない「純愛・生涯愛」ストーリーで泣きたい方 ​歳の差・時間の歪み・運命に翻弄される重厚なドラマが好きな方 ​悲劇で終わらず、長年の想いが報われる美しいハッピーエンドを読みたい方 ​戦友としての絆や、復興を支える温かな家族愛に触れたい方          0話含め全57話(最終回56話)

本文

第37話:『八百万の覚醒』

人間が積み上げてきた文明の重みなど、最初からこの大地の皮膚の上にへばりつく薄皮一枚に過ぎなかったのだと、思い知らされていた。

突風が吹き抜けるたび、視界を塞ぐのは砂塵と、微粒子となったコンクリートの灰だった。 口を開けば、砂利の混ざったざらついた空気が舌を焼き、喉の奥へ焦げついた硝煙の苦みを叩き込んでくる。

「……ひ、っ……ぐ……っ!」

神崎志乃(かんざき しの)は、傾いた高架橋の太い橋脚の影に背中を打ち付け、荒い息を吐き出した。

折れた右腕を固定していた布はすでに千切れ飛び、だらりと垂れ下がった腕は、動かすたびに内部で破砕した骨が肉を抉る猛烈な激痛を叩き返してくる。だが、志乃は左手で固く握りしめたハンドガンのグリップに、さらに強く力を込めた。指先はとうに感覚を失い、滑り止めのチェッカリングが掌の皮を破って血を滲ませている。

そのすぐ隣、吐息が届くほどの至近距離で、大神護(おおがみ まもる)が膝を折っていた。

「志乃……さん……あ、ぐっ……!」

護の呻き声は、地鳴りのような轟音にかき消されそうになっていた。 彼の右肩から先――死んだように硬直していたはずの右腕から、黒紫色の脈動が溢れ出している。それは皮膚の下で蠕動する無数のムカデのように脈打ち、彼の胸元、そして喉元へと侵食を広げていた。

「大丈夫……大丈夫よ、護くん。私がいる……」

志乃は掠れた声で囁き、冷え切った左手で護の左手を強く握りしめた。

二人の距離は、いまや一ミリの隙間もないほどに近い。 けれど、志乃の瞳が捉えているのは、彼という人間の輪郭が、内側から溢れ出す「異質な何か」によってじわじわと侵食されていくという、果てしない距離感だった。

『大丈夫』という言葉の空疎さを、志乃は知っていた。 本当は『怖い』と言いたかった。『私を置いていかないで』と叫びたかった。 けれど、志乃はそのどちらの言葉も選ばなかった。ただ無言で彼の体温を感じ取り、指先を強く噛み合わせることだけが、彼女に残された唯一の抵抗だった。

頭上を、甲高い噴射音が切り裂いていく。

外界(御門側)の最精鋭・第1空挺装甲師団。 東京全域を「完全浄化」するために投下された最新鋭のVTOL重攻撃機と、高出力レーザー兵器を搭載した自走無人脚甲兵団が、高円寺の上空を埋め尽くしていた。

「――全機、目標に照準固定。熱線、および収束分子崩壊弾、同時斉射!」

無線機から漏れるオペレーターの無機質な号令。 直後、夜明けの濁った天空が、目を焼くような白銀の閃光で満たされた。

数百発の誘導弾と、地表を蒸発させる熱線が、高円寺駅前のアスファルトへ集中的に叩きつけられる。 瞬間、衝撃波が志乃たちの隠れる高架橋を震わせ、大気が数千度の熱風となって吹き荒れた。鉄もコンクリートも、一瞬で赤い液状となって溶け落ちていく。

現代兵器の極致。あらゆる生物を、概念すら残さず消し去るはずの「絶対的な暴力」。

だが――。

「……あ……あ……」

志乃の口から、乾いた掠れ声が漏れた。

光幕が収まり、蒸気と熱風が引き潮のように去った後。 そこに広がっていたのは、廃墟すら消滅した黒いクレーター――ではなかった。

ドズン、と。

地の底から、地球の心臓が打つような重酷な振動が響いた。

白煙の向こう側にそびえ立っていたのは、山塊と見紛うほどの巨大な「肉の塊」だった。 溶けたアスファルトを突き破り、地表へ這い出てきたのは、鱗の一枚一枚が大型バスほどの大きさを誇る、古の巨獣の身体。 そして、その背中から、太い幹のような首が一本、二本、三本――。

八つの首を持つ、伝説の具現。『八百万(やおおろち)』の第一頭部だった。

熱線兵器の集中砲火を受けたはずのその鱗には、かすり傷ひとつついていなかった。 それどころか、無人脚甲兵団が放った収束分子崩壊弾は、巨獣の周囲に展開された透明な「神威(かむい)」の力場に触れた瞬間、パチ、と小さな火花を散らして消滅した。

『――ガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』

巨獣の八つの口が一斉に開かれ、狂乱の咆哮が放たれた。

音波ではない。それは大気の分子そのものを激振させる、絶対的な威圧。 上空を飛翔していた数十機のVTOL攻撃機が、まるで目に見えない巨大な掌で叩き潰されたかのように、空中でのたうち回り、次々と爆発・火炎に包まれて地表へ叩きつけられていく。

かつて志乃が所属し、世界の絶対的な秩序だと信じていた外界の軍隊。 その誇る最新兵器の群れが、わずか数秒の間に、虫ケラのように踏み潰され、雲散霧消していった。

「これが……『神威』……? 人間が……束になって挑んでも……届かないというの……?」

志乃の全身の毛砲が逆立った。

怪異(リリス)との戦いとも違う。外界の冷酷な計算とも違う。 それは、数千年の間、この日本列島の地下深くに蓄積され続けた「太古の理」そのものの暴威だった。人間がどれほど科学を極めようと、大自然の火山噴火や地殻変動を止められないように、この巨獣たちの前では、人間の存在そのものが「無」に等しかった。

絶望が、冷たい泥となって志乃の胸を埋めていく。

外界の爆破音も、通信ノイズも、すべてが巨獣の咆哮の中に飲み込まれて消えた。 残されたのは、崩れ落ちる東京の瓦礫の音と、地表を覆いつくす黒い海水のせせらぎだけ。

その時だった。

「ぐっ……あぁぁぁぁぁっ!?」

護が胸を押さえ、血を吐きながら倒れ込んだ。

「護くん!?」

志乃は咄嗟に膝をつき、彼の頭を自分の太腿の上に抱きかかえた。 護の体温は異常なほどに跳ね上がっていた。肌に触れると、まるで灼熱の鉄板に触れたかのような熱気が伝わってくる。

彼の右腕から溢れ出す黒紫色の脈動が、空間へ向けて微かな波動を放っていた。

ズズ……ッ。

志乃は目を見開いた。

外界の集中砲火すら意に介さず、街を蹂躙していた『八百万』の巨首の一つが、ピタリと動きを止めたのだ。 巨獣の血のように赤い眼孔が、ゆっくりと反転し、高架橋の影に隠れている護の方角へと向けられた。

(……え……?)

巨獣が動きを止めたのではない。 巨獣を覆っていた、あの絶対的な「神威」の力場が、護の右腕から放たれる黒紫色の波動と触れ合った瞬間――まるで磁石の同極同士が反発し合うように、一瞬だけ「歪み」、打ち消し合ったのだ。

「あ……あ……」

護は荒い息をつきながら、激痛に歪む顔で己の左手を見つめていた。

「志乃……さん……あいつら……抑え込める……。俺の……身体の中に残ってる……清盛の影と……天津の異能なら……あいつらの……動きを……止められる……っ!」

護の言葉が、志乃の脳髄を直接殴りつけた。

護の体内に残された「歪んだ異能の痕跡」。 それは、三年間東京の核として捧げられ、そして清盛の血脈と共鳴したことで生まれた、世界で唯一の「神威を相殺する力」。

もし、護がその身を犠牲にして異能を全開に放ち続ければ――。 この不可逆の悪夢『八百万』の神威を抑え込み、人間の手で攻撃を叩き込む「唯一の楔(くさび)」となれる。

だが――それは何を意味しているのか。

「ダメよ」

志乃の声は、自分でも驚くほど冷たく、静かだった。

「志乃……さん……? でも、俺が……俺がやらないと……この街も……みんなも……!」

「ダメと言ったら、ダメよ!!」

志乃は護の肩を強く掴んだ。 折れた右腕の激痛で視界が真っ赤に染まったが、彼女は護の胸元に顔をうずめるようにして、狂おしいほどの力で抱きしめた。

「世界を救うために……? 八百万を止めるために……? そんなことのために、あなたがまた犠牲になるの!? そんなの……そんなの、絶対に許さない!!」

志乃の目から、溢れ出た涙が護の濡れた防護服にしみ込んでいく。

御門は護を「絶対平和の管理神」にしようとした。 清盛は護を「怨念の王の器」にしようとした。 そして今度は、この滅びゆく世界が、護を「八百万を抑えつける生贄の楔」にしようとしている。

誰も彼もが、大神護という一人の少年を、何かを成し遂げるための「道具」として扱おうとする。

「私はね……!」

志乃は顔を上げ、涙とすすで汚れた瞳で、護の茶色の瞳をまっすぐに見つめ返した。

「世界なんて、どうなったっていいって言ったでしょ……! あなたが自分を削って、神様や生贄になるくらいなら……私は世界と一緒に滅びたってかまわない!!」

「志乃さん……」

護の瞳に、揺らぎが生まれた。 己の命を投げ打ってでも誰かを守ろうとする彼の「歪んだ優しさ」を、志乃は誰よりも深く理解していた。だからこそ、彼女は彼の逃げ道を塞ぐように、その弱さを全力で拒絶したのだ。

「私たちが欲しいのは、ヒーローの勝利じゃない……! あなたが生きている、泥臭い『日常』なの!!」

昔、シェルターの薄暗い部屋で、風間と三人で分け合って食べた安っぽい缶詰。 雨の日に、壊れた傘を二人でさして歩いた、靴の中に水が染み込む冷たさ。 不味いスープを一口飲んで、護がみせたささやかな不機嫌そうな顔。

それらすべてが、どんな美しい神話よりも、どんな平和な世界よりも愛おしい。

二人の間に、重苦しい沈黙が降り積もった。

頭上では、依然として『八百万』の咆哮が響き、地上は地獄の炎に包まれていた。 外界の兵器は潰え、世界の理は崩壊し、二人を救ってくれる者などどこにもいない。

けれど、志乃と護が握りしめた手の体温だけは、この絶望的な地獄の中で、唯一冷えることがなかった。

「……志乃さん」

護が、掠れた声で囁いた。 彼はゆっくりと動く方の左手を伸ばし、志乃の頬に伝う涙を、不器用に親指で拭った。

「ごめんなさい……。俺、また……自分が消えればいいなんて……考えちゃいました」

「……わかればいいのよ」

「でも……」

護の指先が、志乃の髪に優しく触れる。

「俺、死にたくないです。志乃さんと……もっと一緒にいたい。不味いスープも……また飲みに行きたい」

護の口から出たのは、正義の決意でも、諦めでもなかった。 ひとりの「17歳の男の子」としての、切実で、泥臭い本音だった。

「……ええ。飲みに行きましょう。私が……何度でも作ってあげるわ」

志乃は涙を拭い、小さく微笑んだ。

その時――。

ガコンッ……!!

二人の隠れていた高架橋のすぐ横、瓦礫の山が激しく崩れ落ちた。

「くっ……! 追手か……!?」

志乃は咄嗟に護を背中に庇い、左手でハンドガンを構えた。

煙と砂塵が舞い散る瓦礫の隙間から、足を引きずりながら姿を現したのは――外界の特殊部隊の兵士でも、八百万の怪異でもなかった。

泥と返り血で黒く汚れ、破れかぶれの防護服を纏った一人の青年。 その手には、弾切れを起こした重機関銃が力なく握られていた。

「……ハァ……ハァ……ちくしょう……どこもかしこも……バケモノだらけじゃねえか……」

聞き覚えのある、少し軽薄で、けれど今は枯れ果てた声。

「……風間……? 風間、颯(ふうま あきら)……!?」

志乃の叫び声に、その青年――風間颯が、ゆっくりと顔を上げた。

彼の右頬には、激しい火傷の痕が痛々しく残っていた。 可憐の死、そして護の異能の真実を知り、一度は恐怖から二人を見捨てて逃げ出した男。

風間の目が、瓦礫の影に身を潜める志乃と、そして志乃の背中で血を流して倒れている護の姿を捉えた。

「……志乃……さん……。それに……大神……」

風間の身体が、小さく震えた。

三人の視線が交差する。 崩れゆく東京の廃墟、八百万の咆哮が響く地獄の底で、失われたはずの「日常の破片」が、泥の中から再び顔を覗かせようとしていた。

【第37話 『八百万の覚醒』 終わり】

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作者について

天霧 セナ

天霧 セナ

広島在住。AI生成を使用し小説とイラストをやってます。 ファンタジー・SF・恋愛など色々書いてますが、 一番大事にしてるのは感情の動き。AIで感情表現は何処までできるかをテーマにしてます。 今年...

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