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『天津守護』-I'll never lose my mind

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/2 📚 シリーズ: 『天津守護』-I'll never lose my mind 📝 4,924文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

​【あらすじ】 十三年前、紫黒い天蓋と異形の怪異に閉ざされた魔都・東京。時間の流れが狂った結界の中で13年間閉じ込められていた17歳の少年・大神護(おおがみ まもる)と、外界から彼を救うために戦い続けた27歳の特殊部隊元隊長・神崎志乃(かんざき しの)。 ​崩れかけた廃屋で分け合った不味いスープ、指先を傷だらけにして削られた手作りのオルゴール。世界を繋ぎ止める人柱「天津守護」となった護は、「生きろ」という言葉と手作りのオルゴールを志乃に遺し、光となって消え去ってしまう。 ​あの日から、志乃は生涯誰とも婚姻を結ばず、ただ一人「大神護」という少年だけを愛し続けた。甥や姪、その子どもたち(孫世代の葵)を我が子のように愛し、生涯の戦友・風間とともに復興の時代を泥を啜って生き抜いた志乃。 ​そして50年以上の歳月が流れたある夕暮れ。80歳を超え、愛する家族と仲間に囲まれて穏やかに人生を全うした志乃の前に、あの日と変わらぬ17歳の姿で護が手を差し伸べにやってくる――。 ​【こんな人におすすめ!】 ​一途で切ない「純愛・生涯愛」ストーリーで泣きたい方 ​歳の差・時間の歪み・運命に翻弄される重厚なドラマが好きな方 ​悲劇で終わらず、長年の想いが報われる美しいハッピーエンドを読みたい方 ​戦友としての絆や、復興を支える温かな家族愛に触れたい方          0話含め全57話(最終回56話)

本文

第41話:『滅びゆく都で』

世界が滅びゆく音は、意外なほど繊細な破砕音の重なりだった。

遥か遠くで崩れ落ちる高層ビルの鉄骨が軋む甲高い音。地表を削りながら進む古の巨獣『八百万(やおおろち)』の重酷な足枷が、都市の骨組みを砕く低音。そして、熱線兵器の残り火が雨に濡れてジュッと音を立てて爆ぜる、静かな消滅の気配。

突風が吹き抜けるたび、切り立った断崖のようになった廃ビルの歪んだ窓枠が、キィキィと甲高い悲鳴を上げた。

「……ここなら、少しは身を隠せるわ」

神崎志乃(かんざき しの)は、煤けこげた鉄骨の陰に身を寄せ、息をひそめた。

ここは第一環状線へと続く地下通路の地上部――かつて巨大なオフィスビルだったものの半身。上階は崩落し、剥き出しになった鉄筋が紫黒い空へ向かって凶器のように突き刺さっている。

志乃は折れた右腕を抱え、慎重に背後の闇を伺った。

右肩の付け根から指先にかけて、脈打つような激痛が波となって押し寄せてくる。簡易の三角巾代わりに使っている防護服の破片は血で黒く強ばり、傷口の肉が固まったコンクリートの粉塵で擦れて焼けるように熱い。

だが、彼女はその激痛を顔に出さなかった。

「……風間くん。周囲の警戒を」

「了解。外界の自走偵察機(ドローン)の周波数は拾えてねえが、八百万の足音が近くなったらすぐに知らせる」

風間颯(ふうま あきら)は短く答えると、血と煤で汚れたアサルトライフルを胸に抱き、半壊した壁の隙間へと素早く滑り込んでいった。彼の背中は、恐怖から逃げ出したあの日とは違っていた。泥にまみれ、傷だらけになりながらも、一度決意を固めた男特有の確かな頑なさが宿っている。

志乃はゆっくりと膝を折り、床の濡れた瓦礫の上に腰を下ろした。

そのすぐ隣に、大神護(おおがみ まもる)が身を沈めていた。

「……志乃……さん」

護の声は、湿った空気の中に溶けてしまいそうなほど弱々しかった。

彼の右肩から先は、完全に感覚を失っている。破れた手袋の隙間から覗く皮膚は病的なまでに白く、浮き出た脈動は紫黒い毒液となって胸元まで伸びていた。

御門のホログラムを前に、「人間として生きる」と言い放ったあの瞬間の鋭い光は、いまは静かな疲労の渦に飲み込まれている。護の茶色の瞳は、濁った空を見つめたまま、微かに揺れていた。

志乃は無言で左手を伸ばし、護の冷え切った左手を包み込んだ。

言葉はいらなかった。

護の掌は、凍りついた鉄のように冷たかった。けれど、その指先から微かに伝わってくる鼓動――ドク、ドクと不器用に打つ脈拍だけが、彼が「神話の生贄」でも「人造の統制神」でもなく、いまここに生きている17歳の大神護であるという唯一の真実を語っていた。

二人の間に流れるのは、静かな沈黙だった。

距離は、肩が触れ合うほどの至近距離。 息を吸えば、護の髪から漂う硝煙と血の匂い、そして雨に濡れた少年の匂いが届く。

けれど志乃の心の中には、ふとした瞬間に、彼がこの世から透けて消えてしまうのではないかという、果てしない距離の恐怖がつきまとっていた。

御門の手によって創られた十七年間の「運命」。 14歳の誕生日の惨劇も、二子玉川の雨も、すべてが彼を神にするための残酷な計算だったという真相。

『ごめんなさい』 『私がもっと早く、あなたを救えていれば』

胸の奥で、選ばなかった言葉たちが重く沈んでいく。 そんな謝罪の言葉は、ただ自分を慰めるための勝手な言訳に過ぎない。いま護に必要なのは、過去の惨劇への憐憫ではなく、この泥に塗れた現在(いま)を繋ぎ止める体温だけだった。

「……護くん」

志乃は静かに声をかけた。

「……はい」

「お腹……空いてない?」

護は一瞬、きとんと瞳を丸くし、それから力なく眉を下げて困ったように笑った。

「そういえば……すっかり忘れてました。……すごく、空いてます」

そのささやかなやり取りが、荒廃した廃墟の中で、奇跡のように「日常の匂い」を連れてきた。

志乃は胸のポケットに左手を差し入れ、一缶の金属缶を取り出した。

配給品の、ラベルの剥がれかけたコンソメスープ缶。 外界の兵士が撤退する際に放置していった物資の中から、風間が拾い集めてくれたものだ。

志乃は腰のサバイバルナイフを引き抜き、左手だけで器用に缶のフチへ刃を立てた。ガツン、ガツンと重い金属音が響く。缶の蓋を少しだけ押し開けると、冷えて凝固した油脂の匂いと、合成コンソメの塩辛い香りが漂い出してきた。

「火は……使えないわね。八百万にも、外界のセンサーにも見つかる」

「……冷たいままでも、大丈夫です」

護が不器用に笑う。

志乃はポータブルの超音波加熱器――外界の装備から取り外した小さな金属片を取り出した。それを缶の底に当てると、微かな駆動音とともに、缶からじんわりと白い湯気が立ち上り始めた。

温かい匂い。 合成の塩気と、野菜のクズを煮込んだだけの、お世辞にも美味しいとは言えないスープの匂い。

けれど、その安っぽい湯気が二人の鼻腔をくすぐった瞬間、志乃の胸の奥で、何かが解けていく感覚があった。

かつて、高円寺の狭い避難シェルターのパイプベッドの上で、二人で分け合って飲んだあのスープと同じ匂いだった。

「はい。気をつけて」

志乃は温まった缶を、慎重に護の左手へ持たせた。

護は両手で包み込むように(動かない右腕は膝の上に置いたまま、左手を添えて)缶を持ち、ゆっくりと口元へ運んだ。

ず、と小さな音を立ててスープを啜る。

熱いスープが喉を通った瞬間、護の肩が小さく跳ねた。

「……っ……ゲホッ、ゲホッ……!」

「大丈夫!?」

志乃は思わず身を乗り出した。

「……は、はい……すみません。思ったより……熱くて。それに……」

護は涙目になりながら、口元を左手で拭った。

「やっぱり……すごく、不味いです」

護の口から漏れたその一言に、志乃は固まった。

それから――フッ、と息が漏れた。

「不味い……ですって? 私がせっかく温めてあげたのに?」

「だって……本当に不味いんだもん。塩くどくて、変な化学調味料の味がして……」

護は顔を顰めながらも、どこか愛おしそうに缶を見つめていた。

「でも……すごく……温かいです」

護のその言葉に、志乃の目頭が熱くなった。

不味いスープ。 ただそれだけのことが、外界の最高指導者・御門が提示した「全能の管理社会」や「永遠の平和」などよりも、遥かに尊く、愛おしい「生きていることの証」だった。

「……貸しなさい。私も飲むわ」

志乃は護の手から缶を受け取り、同じフチに口をつけた。

金属の冷たい感触と、塩辛いスープの味。 そして、ほんの少し前に護が口をつけた場所から伝わってくる、微かな体温。

ズ、と口に含んだスープは、護の言った通り、笑ってしまうほど不味かった。

「……本当に、不味いわね」

「でしょう?」

ふたりは顔を見合わせ、小さく笑った。

その笑い声は、崩落する東京の荒野の中で、あまりにも小さく、けれど確かに響いていた。

遠くで『八百万』が咆哮を上げる。 地鳴りが廃ビルを震わせ、天井から砂利がパラパラと落ちてくる。

けれど、二人を包む小さな空気だけは、どんな神威も、どんな狂気も踏みにじることのできない、絶対的な「日常」の空間だった。

スープを飲み干した後の空き缶を、志乃は静かに足元へ置いた。

湯気が消え、再び冷たい風が二人の頬を撫でていく。

時間の経過は残酷だった。 東の空――東京湾の向こう側が、紫黒い雲の隙間から不吉な濁った朱色に染まり始めていた。夜明けだ。けれど、それは希望の光ではなく、東京という都市が完全に崩壊するための「カウントダウンの始まり」を告げる光だった。

「……志乃さん」

護が静かに口を開いた。

「……なに?」

「俺……怖いです」

護は己の左手を見つめていた。その指先が、微かに震えている。

御門のホログラムに向かって威勢のいいことを言い放った護だったが、その本質は、まだ17歳の一人の少年に過ぎない。 己の肉体が死に向かって崩壊していく恐怖。 清盛の血脈の毒が、内側から己の魂を喰い荒らしていく恐ろしさ。

「右腕の感覚が……全然なくて。胸の奥が、冷たい水で満たされていくみたいで……。俺……この戦いが終わったら……消えちゃうんじゃないかって……」

護の瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。

彼は必死に左手で目を擦ったが、涙は止まらなかった。

「志乃さんと……もっと一緒にいたい……。風間さんと……くだらないことで笑っていたい……。俺……死にたくない……っ!」

少年の、泥臭く、切実な本音。

志乃は胸が引き千切られるような想いで、護の体を両腕で強く抱きしめた。

折れた右腕の骨が叫び声を上げるような激痛を吐き出したが、志乃は構わなかった。自分の痛みなどどうでもよかった。この腕の中で震える少年の体温を、魂を、絶対に逃がさないように抱きしめ続けた。

「死なせないわ」

志乃は護の耳元で、強く、誓うように囁いた。

「絶対に死なせない。……御門の思い通りにも、神様の生贄にもさせない。あなたが消えそうになったら……私が何度でも、あなたの手を引っ張り戻すから」

志乃は抱擁を解き、護の両肩をしっかりと掴んだ。

二人の距離は、吐息が擦れ合うほど近い。 志乃の青い瞳が、直視するように護の茶色の瞳を射抜いていた。

「覚えておきなさい、護くん」

志乃の声には、14歳のあの日から今日まで、彼女を突き動かし続けてきた絶対的な意志が宿っていた。

「十三年前……私は二子玉川の雨の中で、あなたの手を離してしまった。……あの瞬間から、私の人生は止まっていたの」

志乃は言葉を一度切り、護の濡れた頬をそっと左手の掌で包み込んだ。

「でもね……あなたが戻ってきてくれた。私に『志乃さん』って呼びかけてくれた。……だから今度は、私が絶対に手を離さない。たとえ世界が滅びても、地獄の底まで落ちたとしても……私はあなたの手を離さないわ」

『愛している』という言葉すら、この二人にとっては軽すぎた。

選ばなかった言葉たちの代わりに、志乃は己の命そのものを賭けた誓いを、護の瞳に叩きつけた。

護は泣き顔のまま、息をのんだ。

志乃の瞳の中に映る自分。 傷つき、怯え、けれど志乃の体温によって確かに「生きている」自分。

護の体内の奥底で、清盛の毒や神格化の負荷とは違う、温かく力強い血の脈動が燃え上がった。

「……はい」

護は涙を拭い、強く頷いた。

「俺も……絶対に、手を離しません」

言葉少なに交わされた誓い。 それは、どんな契約書よりも、どんな神話の祝詞よりも重く、二人の魂を固く結びつけていた。

「おい……二人とも。そろそろ時間だ」

壁の隙間から外を監視していた風間が、重い声で振り返った。

「外界の自走兵団が動いた。『八百万』の第三頭部が……第一環状線の地下構内へとなだれ込んでやがる。深層中枢(コア)の隔壁が破られるのも時間の問題だ」

風間はアサルトライフルのボルトを惹き、チャージングハンドルを叩いた。

「御門の野郎……深層中枢で『プロジェクト・アマツ』の最終段階を起動する気だ。……急がないと、東京だけじゃなく、世界中の人間の心が消されちまう」

志乃は静かに立ち上がった。

折れた右腕を三角巾でしっかりと体に固定し、左手でハンドガンを確かめる。

護もまた、風間の肩を借りながらゆっくりと立ち上がった。動かない右腕を引きずり、左手に紫黒の刀を握りしめる。

三人は廃ビルの影から抜け出し、濁った朱色の朝焼けが照らす崩壊した街へと踏み出した。

ビル群はあちこちで煙を上げ、地表には巨大な裂け目が走り、そこから黒い海水が噴き出している。 外界の兵器の残骸と、巨獣の咆哮。 まさに、神話の終末が具現化したかのような地獄絵図。

けれど、三人の歩みに迷いはなかった。

志乃は護の左手を、護は志乃の手を、骨が軋むほどの力で固く握りしめていた。

「行きましょう」

志乃の冷徹で、けれど温かい声が、風に溶けていく。

「御門の描いた創られた運命を……私たちの手で終わらせるために」

三人の影が、深層中枢へと続く暗い地下通路の呑み口へと消えていく。

その先で待つのは、清盛の怨念との最終死闘。 そして、十三年前に止まったままの「失われた記憶」の真実であった。

【第41話 『滅びゆく都で』 終わり】

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作者について

天霧 セナ

天霧 セナ

広島在住。AI生成を使用し小説とイラストをやってます。 ファンタジー・SF・恋愛など色々書いてますが、 一番大事にしてるのは感情の動き。AIで感情表現は何処までできるかをテーマにしてます。 今年...

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